常識はいつも正しい、なんてない。―LIFULLのリーダーたち―LIFULL 取締役 宍戸 潔
2024年4月1日、ソーシャルエンタープライズとして事業を通して社会課題解決に取り組む株式会社LIFULLは、チーム経営の強化を目的に、新たなCxOおよび事業CEO・責任者就任を発表しました。性別や国籍を問わない多様な顔ぶれで、代表取締役社長の伊東祐司が掲げた「チーム経営」を力強く推進していきます。
シリーズ「LIFULLのリーダーたち」。今回は取締役で海外事業担当の宍戸潔に話を聞きます。
連載 LIFULLのリーダーたち
- 第1回代表取締役社長執行役員 伊東 祐司
- 第2回代表取締役会長 井上 高志
- 第3回CLO平島亜里沙
- 第4回執行役員CCO 川嵜 鋼平
- 第5回不動産転職事業CEO國松圭佑
- 第6回LIFULL HOME'S物件情報精度責任者 宮廻 優子
- 第7回LIFULL FaM事業 CEO 秋庭 麻衣
- 第8回LIFULL HOME'S FRIENDLY DOOR責任者 龔 軼群
- 第9回執行役員CPO 羽田 幸広
- 第10回執行役員CTO 長沢 翼
- 第11回LIFULL HOME'S戸建・注文事業CEO、Sufu事業CEO 増尾 圭悟
- 第12回執行役員CFO グループ経営推進本部長 福澤 秀一
- 第13回LIFULL HOME'S CPO、分譲マンション事業 CEO 大久保 慎
- 第14回LIFULL ALT-RHYTHM責任者 宮内 康光
- 第15回LIFULL HOME'S流通・売却事業CEO 古谷 圭一郎
- 第16回LIFULL 地方創生事業CEO 岡林 優太
- 第17回LIFULL Financial代表取締役社長 清水 哲朗
- 第18回LIFULL 取締役 宍戸 潔
- 第19回LIFULL 取締役、グループデータ本部長、CDO 山田 貴士
2023年12月にLIFULLの取締役となり、LIFULL CONNECTを通じた海外事業の業績改善に取り組んでいる宍戸潔。商社時代は長らく鉄鋼業界で働いていたという宍戸ですが、その時の経験が自身の“普遍”の価値観となって、初めてとなる不動産業界でも、新たな事業戦略に挑む力を与えてくれると宍戸は言います。今回は、そんな宍戸にこれまでのキャリアとLIFULL CONNECTが見据える海外事業の今後の展開について話を聞きました。
アグリゲーションサイト、ポータルサイト、トランザクションの3つの事業がシナジーを持って統合された時、LIFULL CONNECTは大きな成長を遂げるはずです。
川上から川下へ「Moving to Direct」
――LIFULLにおける宍戸さんの現在の管掌領域を教えてください。
2023年12月にLIFULLの取締役に就任し、海外事業を統括しています。LIFULLの海外事業にはベトナムやマレーシアに拠点を持つソフトウェア開発会社もありますが、私が見ているのはそれらではなく、LIFULL CONNECTという会社の事業になります。LIFULL CONNECTは世界60カ国以上の国や地域で、不動産情報を中心としたサービスを展開しています。
――LIFULL CONNECTの事業内容について教えてください。
LIFULLは2014年以降に海外事業を本格化させていきました。そこで始めたのが「アグリゲーションサイトの運営」です。アグリゲーションサイトはWeb上の情報を特定のテーマに基づいて集約し、ひとつのサイトで閲覧することができるものです。LIFULLは、不動産・住宅、車、求人などの領域で世界で最大級のアグリゲーションサイトを運営する「Trovit」と「Mitula」というスペインの会社を傘下に収め、北米、ヨーロッパ、アジア、南米など世界60カ国以上に展開するその圧倒的なネットワークを活かした、広告収益ビジネスを行ってきました。
しかしこういったビジネスモデルはGoogleのアルゴリズムなど、我々のアウトオブコントロールの部分で大きく影響を受けるため、時期的には私がLIFULLの監査役に入った2016年頃から、今後の事業の持続可能性を見据えて徐々に異なる戦略を打ち立ててきました。
ーー2016年以降はどのような戦略へと舵を切るようになったのでしょうか。
「アグリゲーションサイト」は実際に商品を購入する顧客との取引からは離れていますが、より直取引に近い領域での事業に舵を切るようになりました。いわば川上から川下の事業にも参入したということです。私たちはこの戦略を「Moving to Direct」と呼んでいます。
「Moving to Direct」のひとつが南米を中心に行っている「ポータルサイト事業」です。これは日本で私たちがLIFULL HOME'Sを運営しているのと同じように、ポータルサイトを通じて現地の不動産事業者への送客や支援を行っています。不動産マーケットは国ごとで規制や文化も違いますが、物件情報をどう伝えれば顧客に魅力的に伝わるかは万国共通です。LIFULL HOME'Sで長年かけて培ってきたサイトの作り方のノウハウがここでは活かされています。
そしてポータルサイトからさらに進んで、顧客との直取引に近い事業が我々が「トランザクション」と呼んでいる不動産代理店業です。実際に海外の不動産を買いたいお客さんに、デジタルを活用して総合的な支援を行っています。これは昨年の2月にタイとUAEに拠点を置くトランザクション事業の会社を買収して、スタートしました。しかし、これらはまだまだ発展途上の事業で、今後この二つの事業にさらに力を入れていこうと考えております。
商社時代に得た“普遍”の価値観
ーー宍戸さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
新卒で三菱商事に入り、主に鉄鋼製品業界に従事していました。当時は営業や事業開発、事業管理といった領域の仕事をしていましたね。鉄鋼というと非常に大きな業界ですから、日本を代表するメーカーとユーザーを相手に私もひとつの歯車として働いていましたが、入社から十数年経ったころ、大きな転機がやってきました。バブル崩壊で経営が立ち行かなくなった企業の再生プロジェクトを任されたんです。
バブル崩壊によって、それ以前の常識が通用しなくなった中、私は各部署のスペシャリストを数人集めた少数精鋭の部隊を組んで、従来の発想に囚われない再建計画を立てました。不眠不休でプロジェクトに取り掛かり、数年かけて再建軌道に乗せました。その時の経験は、以降の私のキャリアの大きな支えとなっています。
ーーLIFULLには2016年に社外監査役として関わるようになりましたが、異なる業界でも商社での経験は活かされるものでしょうか。
その企業再建プロジェクトを経験し学んだことは、自分にとって普遍のものとなりました。だから応用はいくらでも効く。また商社時代には、当時国を挙げて推進されていたナノテク関連の事業の責任者も務めたりしました。鉄鋼からは大きく離れた業界でしたが、事業を任されて半年も経たないうちにその業界の第一人者と呼ばれるまでになりました。だから私は商材や業界が変わることに対しての抵抗はありませんし、結局どれも人間が営む事業なので、上手くいくあるいは失敗するパターンは共通です。LIFULLに入り監査役としてさまざまな難しい問題や決定に直面しましたが、これまでの経験を基にこれまでも適切なアドバイスができたと思います。
昨年からは取締役として海外事業を担当していますが、これも同様です。我々がこれから伸ばしていかなければならないトランザクション事業はデジタルを活用したものですが、実際にやっていることは不動産を「売る・買う・貸す」ということです。そのビジネスの形態なら、誰かが専門的な部分をサポートしてくれれば、私のこれまでの経験が活きます。それに会社のポテンシャル、リスクや課題といった部分の解像度を上げることは私が一番得意としているところ。そこについては自信を持って取り組んでいます。
ーー2023年12月から取締役に就任し、LIFULL CONNECT(海外事業)を統括する立場になられた後、これまでどのようなことに取り組まれてきましたか。
まずコーポレート周りの体制を整備しました。LIFULL CONNECTは60カ国以上で事業展開している会社です。国ごとでルールが異なることから、連携がスムーズではない部分もあったため、これまでの情報報告やリスク管理の体制を徹底的に見直して改善しました。あとは事業についてですが、我々の事業の課題と対策を洗い出し、戦略を練り直しました。そして試験的なリカバリープランをちょうど今走らせているところです。その結果から注力すべきプランを選別して、来期から事業の飛躍を目指したいと思っています。
ーーこれからの5年で取り組んでいきたいことは?
目標としては大きく二つあります。先ほど申し上げたようなアグリゲーションサイト、ポータルサイト、トランザクションの3つのビジネスモデルのアロケーションをトランザクションに大きくシフトしていくことです。このトランザクションが最も顧客との直取引に近く、利益率も高い。トランザクション事業をLIFULL CONNECTのメイン事業とすることで、会社全体として着実な成長を遂げていきたいと考えています。
そしてもうひとつが、現状では独立している3つの事業を、シナジーを持った統合したビジネスにすることです。アグリゲーションサイト、ポータルサイト、トランザクションの間で質のいいデータがやりとりされ、各々の事業に活かすことができれば会社の大きな成長につながると考えています。例えば、ポータルサイトに訪れた購買意欲の高い顧客のデータがトランザクション事業に提供されれば、実際に顧客とやりとりする代理人は商談を進めやすくなるでしょう。そのように3つの事業は垂直的な形でひとつにまとめていければと今考えています。
――宍戸さんの「しなきゃ、なんてない。」を教えてください。
「常識はいつも正しい、なんてない。」普通は先人たちがこれまで培ってきた教えやルールを基に我々は意思決定をしがちじゃないですか。だけど、私が三菱商事時代に担当した再建プロジェクトのように、それではどうにもならない局面というのもあります。そうした時に、適切な対応ができるようになるためには、常日頃から常識に囚われないマインドを養っておかないといけません。これは私自身のスローガンでもあります。
取材・執筆:平木 理平
撮影:阿部 拓朗
1980年に三菱商事株式会社に入社。1998年にMitsubishi International Steel Inc.(米国)の自動車部長、2002年に本社に帰任し、ナノテクノロジーの事業化の責任者に就任。2006年にスタートアップのビタミンC60バイオリサーチ株式会社の代表取締役社長に就任。その後、2007年には東京工業大学の特任教授および三菱商事株式会社の事業開発部長を兼任。2011年にはTRILITY Pty Ltd(豪州)の取締役経営計画担当執行役員、2016年には三菱商事株式会社の地球環境・インフラ事業グループ監査担当部長を務める。2016年にLIFULLの常勤社外監査役に就任し、2023年にはLIFULLの取締役として現職を務めている。
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