マンスプレイニングとは?【前編】問題視される理由と対策
マンスプレイニングとは、男性が女性に対して上から目線で説明や解説をすることを指します。相手に説明すること、情報を提供することが問題視されているわけではなく、その根底には「男性である自分は女性よりいろいろと知っている」という無意識の偏見が存在することが指摘されています。
この記事では、「マンスプレイニング」について以下の3点を解説します。
前編
後編
マンスプレイニングの意味とは?
マンスプレイニングとは、「Merriam Webster Dictionary(メリアム・ウェブスター)」によると、「男性が女性にその話題について何も知らないと考え、見下した態度で説明すること(to explain something to a woman in a condescending way that assumes she has no knowledge about the topic)」です。2010年にニューヨークの「ワード・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ、2018年にはオックスフォード英語辞典にも掲載されたことで徐々に社会にも認知されるようになってきました。(※1)
具体的には、男性が女性に対して何かを説明するときに相手の知識や経験などを軽視して一方的に自分の知識をひけらかしたり、過度の自信をもって話すことで相手に居心地の悪さや違和感を感じさせたりすることで表れます。
社会的地位や年齢、人種、文化的背景に関係して引き起こされる現象であることに注意が必要です。より注目すべきはその行為が個人的な会話の中でどう表れるかということよりも、マンスプレイニングを引き起こす背景に無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)や社会的条件付け、構造的権力構造が関係しているという点です。
マンスプレイニングは過去の歴史でも常に存在していたと考えられますが、フェミニズム運動やジェンダー平等が社会的課題として取り上げられるようになる中で、多くの人々に認知されるようになってきました。
出典
※1 マンスプレイニングの定義と意味 – メリアム・ウェブスター
マンスプレイニングの語源と歴史的発展
マンスプレイニングは「man(男性)」と「explaining(説明する)」を組み合わせた造語です。この言葉が社会に広く認知されるようになったきっかけの一つにレベッカ・ソルニットが2008年に書いた「説教したがる男たち(Men Explain Things to Me)」という記事があります。作家であり、アクティビストでもある彼女はこの記事の中で印象深いエピソードに触れています。(※2)
2003年にコロラド州の山小屋で催されたパーティーに参加したソルニットは、まさに「マンスプレイニング」を経験します。主催者の男性は、ソルニット自身が出版した本について熱心に解説しはじめ、「今年出たばかりの重要な本」として自慢げに語り始めたといいます。友人はその男性に何度も著者がソルニットであることを伝えますが、意に介さず講釈を続けたそうです。ソルニットは、2014年に「Men Explaining Things to Me」を含む7つのエッセイを1冊にまとめ、同名の書籍を出版しました(日本版は2018年)。(※3)
ソルニットの書籍をきっかけに、「マンスプレイニング」という言葉が注目されるにようになりましたが、中には「自分が攻撃されている」と感じた男性たちもいたようです。
しかし、ソルニット自身が「マンスプレイニング」という言葉を考案したわけではありませんし、書籍を通して男性たちが内在的に「説教したがる」傾向を持っていると断定しようとしたわけでもありません。それどころか、ソルニットは「マンスプレイニング」を一般的に使用することには違和感を覚えていたようです。
ジェンダー論の観点では、マンスプレイニングという行為そのものを非難するよりも、男女の賃金格差やセクシャルハラスメントなどの他の社会課題とどうつながっているのかを紐解き、分析することが重要なのではないでしょうか。
出典:
※2 Men Explain Things to Me | Guernica
※3 現在の社会を予言?作家レベッカ・ソルニットが再び注目される理由|The New York Times Style Magazine : Japan
なぜ、マンスプレイニングが問題なのか
ここでは、なぜマンスプレイニングが問題視されるのか、またマンスプレイニングを避けるための具体的な対策について解説します。
マンスプレイニングが問題視される理由
- 個人の尊厳と能力の軽視
マンスプレイニングは必ずしも男性から女性に対する行為ではありません。同性同士や、女性から男性に対してすることも考えられます。その根底にあるのは、個人としての尊厳や能力を軽視する態度です。
相手を理解しようとせず、「〇〇だから知らないはず」などと相手のジェンダーや属性に基づいた決め付けや偏見をしてしまうことが問題です。
- コミュニケーションの阻害
マンスプレイニングは相手が知らないことを前提にして、上から目線で情報を一方的に伝達します。そのため、相手の話を傾聴し、それに基づいて会話するインタラクティブなコミュニーションが阻害されます。結果として相互理解や創造的な議論は奪われてしまいます。
- 職場での不平等の助長
マンスプレイニングが横行している職場では待遇面で男女間の不平等が構造化していることが考えられます。そのような職場環境では女性のキャリア形成は困難です。
- 心理的ストレスの増加
上述したようにマンスプレイニングはたとえ悪意がなくても相手を理解しようとせず、尊厳を軽視する行為です。そのため、マンスプレイニングを受ける人は多かれ少なかれ心理的ストレスを受けます。メンタルヘルスへの悪影響も懸念されます。
- 社会の進歩の妨げ
マンスプレイニングが常態化している職場や企業においては、従業員の心理的安全性は脅かされ、萎縮していることが考えられます。その結果、メンバーは自分の考えやアイデアを積極的に発信することを控えてしまいます。イノベーションは生まれづらくなり、従業員の問題解決能力も低下しがちです。
マンスプレイニングを解決するためには個別の行為に注目するだけでなく、何がマンスプレイニングを許容する雰囲気やカルチャーを引き起こしているのかを理解することが重要です。ジェンダー、人種、階級など社会的なカテゴリーがどのように関係しているのか、俯瞰的に分析する視点が不可欠と言えるでしょう。
マンスプレイニングを避けるための具体的な対策
- 自信を持った自己表現
マンスプレイニングを受けた時は自分の知識や経験について自信をもって表現しましょう。相手が聞き入れてくれないとしても自分自身の尊厳を守ることができます。
- 丁寧な意思表示
相手が一方的に説明してきたら、無視をしたり、反論したりするのは逆効果になる場合も。お互いの尊厳を守るためには、「ありがとうございます。その点については理解しています」と丁寧に不要な説明を心がけるようにします。
- 自己啓発と自己価値の再確認
マンスプレイニングに陥ってしまう傾向が強い人は、自己啓発を続ける重要性を理解しましょう。つまり、自分には学ぶべきことが多くあり、人からも学ばなければならないことを認めると、独りよがりに自分の知識や経験を一方的に話すことは避けられるでしょう。
- 相手の意図の確認
相手が望んでいないのに一方的な説明をしないように、意志を確認するようにします。必ずしも毎回相手の同意を得る必要はありませんが、様子を観察しながら、自分が持っている専門知識や情報を相手が必要としているのか知るようにしましょう。
- 同僚や上司のサポート
善意からマンスプレイニングが起こるケースもあります。職場における業務フローが属人的であるため、上司や同僚が「この人はこの業務のやり方を知らないから」と、一方的に情報伝達されることもあり、無意識にマンスプレイニングにつながります。それを避けるためには、職場でのサポート体制を仕組み化、制度化することです。
執筆:河合 良成
立命館大学産業社会学部特任教授・名誉教授。1989年より立命館大学産業社会学部、人間科学研究科・応用人間科学研究科で研究と教育に携わる。専門分野は社会病理学、臨床社会学、男性性研究。『「男らしさ」からの自由』『家族のゆくえ』『家族の暴力をのりこえる』『ドメスティック・バイオレンスと家族の病理』『治療的司法の実践』など著書・共著書・訳書多数。立命館大学副学長など歴任。現在、日本社会病理学会会長、対人援助学会理事長、内閣府女性に対する暴力に関する専門調査会委員など。
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