SNSが助長する子どものルッキズム問題|親が今すぐできること
人の価値を見た目や容姿に基づいて判断しようとするルッキズムの影響は大人だけでなく、子どもたちにも広がっています。例えば、交通広告やSNSにより「一重よりも二重のほうがかわいい」という思い込みが幼い子どもたちにも植え付けられています。そして、美容整形が手軽に受けられる時代になり、単に「憧れ」で終わらず、親子で手術を選択する人も増加しています。
この記事は一重とルッキズムに関して以下の3点について解説します。
一重=「醜い」を助長する電車広告への非難
TikTokやInstagramの普及により、低年齢層も美容整形に関する動画を目にする機会が増えています。日経ビジネスによると、美容整形動画は3日に2本のペースで1万以上の「いいね」を獲得しているといいます。1万以上の「いいね」を獲得した、いわゆる「万バズ」の美容整形動画には、「中学生でも大丈夫」「15歳の女子高生が整形」など、明らかに未成年をターゲットにした美容整形動画もあります。中には、二重まぶたの美容整形を受ける小学生の子どもの様子を親が投稿して炎上したケースもあったようです。
ある美容整形クリニックの電車広告は高校生を対象にしており、「一重よりも二重のほうが『カワイイ』」という価値観を強く打ち出しています。こうした広告に対しては批判が集まっており、拡散している批判ツイートの中には6.5万以上の「いいね」がついているものもあります。
しかし、そうした批判に対して、一重がコンプレックスだったという当事者から「整形で人生が変わるならそれでいい」という意見も見られ、議論はますますエスカレートしています。
出典:小学生も登場するTikTokの美容整形体験談 医療法違反の疑いも
子どもがルッキズムに左右されないためには?
TikTokやInstagramのユーザーは他のSNSに比べて年齢層が低めであり、自分の容姿を他の人と比べてコンプレックスを持ちやすい10代~20代が強い影響を受けていると言えそうです。
例えば、プラン・ユースグループが2022年に全国の15~25歳の男女196名を対象に行った調査によると、「自分の容姿について悩んだことはありますか?」という質問に対して「いつも悩んでいる」「悩んだことがある」と答えた人は男性で74.2%、女性で92.8%を占めました。
「自分の容姿(体に関すること)について気になる部分はどこですか?」という質問に対しては、全体の61.2%が「体型」、56.6%が「顔立ち」と答えました。また、「自分の容姿に関心を持ったきっかけ」については全体の52.0%が「友人との会話」、51.5%が「SNS」、40.3%が「雑誌、テレビなどのメディア」と回答しました。
「SNS」と答えた男女比をみると、男性が32.3%だったのに対し、女性は56.2%に上り、女性のほうがインフルエンサーなども含め、知らない他者から影響を受ける傾向が見られます。
また、「他人を容姿で判断してしまうことがありますか?」という質問に対しては、全体の45.9%が「よくある・まあある」と回答しました。その理由としては、「社会がそうだから」「親がそうだから」「自分の中の固定概念が影響している」「これまでメディアや周囲との会話でインプットされてきた偏見」などの意見が挙げられました。
さらに、「容姿についてSNSやメディア、友人などから影響を受けた具体的な経験を教えてください」というテーマについては「体毛、体重など体に関する投稿があると、その基準を満たしていないと自分の方がおかしいと思ってしまった」「電車の広告を見て、二重まぶたになりたいと思った」などの反応が上がりました。
SNSの影響が強い子どもにどう伝えればよい?
エッセイストの犬山紙子さんは、親が子どもを守るために知っておくべきことの一つに「ルッキズム」があると発信しています。ルッキズムとは、人の価値を外見だけで判断する差別的な言動や考え方を指します。
犬山さんは、子どもにルッキズムを伝えないために「子どもに『可愛い』を伝え続ける」「親の自虐・身内下げはやめる」「美を感じる回路をたくさん作ってあげる」の3点を強調しています。
子どもは親が考える以上に幼少期に親から言われた言葉を覚えています。犬山さんは、「家の中を自分のことをパーフェクトに素敵だと思ってくれる場所」にすることが、ルッキズムを子どもに伝えないための土台になると言います。
出典:
「ユースを対象にした容姿に対する意識調査」報告書(プラン・ユースグループ実施、2023年5月)
今の社会が外見至上主義?ルッキズムの根深い問題について犬山紙子さんと考える
ルッキズムから一重→二重まぶたに整形した体験談
「整形アイドル」の肩書を持つ轟ちゃんは、大学生の頃に初めて美容整形手術を行い、これまでにかけた費用は1,350万円に上るそうです。轟ちゃんは10代の頃から容姿に悩み、自信を喪失していたとそうです。
例えば、小学生のころには「轟ちゃんって一重なんだね、〇〇ちゃんは二重でかわいいね」と言われ、中学2年生のときに容姿を理由にいじめにあったことがきっかけで「私はブスなんだ」「可愛くないから、すべてうまくいかないんだ」と考えるようになりました。
大学生の夏休みに二重にする整形手術を受けて以来、何度か整形を重ねていったそうです。整形手術をする中で「今まで押し殺していた自分が表に出てきた」と語る轟ちゃんは、自身の経験を踏まえてメッセージを伝えています。
「整形で、たしかに変わるものもあります。でも、人生まで変わるような魔法ではない。初めての整形で、そう気づいたんです」
成人が整形するかどうかは個人の選択にゆだねられるところが大きいですが、判断が未熟な未成年者や子どもたちがルッキズムの影響を受けて、美容整形が自信も持つための唯一の選択肢と感じることがないよう親はサポートする必要があるのではないでしょうか。
まとめ
ルッキズムに関してはさまざまな意見があり、これからも議論が続いていくでしょう。大切なのは安易に答えを出すよりも、子どもたちが自分の容姿も含めて自分のことを愛せるように親が助けてあげること、また子どもの成長段階に合わせてこの問題に向き合って考えられるような視座を与えてあげることでしょう。
みんなが読んでいる記事
-
2023/09/12ルッキズムとは?【前編】SNS世代が「やめたい」と悩む外見至上主義と容姿を巡る問題
視覚は知覚全体の83%といわれていることからもわかる通り、私たちの日常生活は視覚情報に大きな影響を受けており、時にルッキズムと呼ばれる、人を外見だけで判断する状況を生み出します。この記事では、ルッキズムについて解説します。
-
2022/02/03性別を決めなきゃ、なんてない。聖秋流(せしる)
人気ジェンダーレスクリエイター。TwitterやTikTokでジェンダーレスについて発信し、現在SNS総合フォロワー95万人超え。昔から女友達が多く、中学時代に自分の性別へ違和感を持ち始めた。高校時代にはコンプレックス解消のためにメイクを研究しながら、自分や自分と同じ悩みを抱える人たちのためにSNSで発信を開始した。今では誰にでも堂々と自分らしさを表現でき、生きやすくなったと話す聖秋流さん。ジェンダーレスクリエイターになるまでのストーリーと自分らしく生きる秘訣(ひけつ)を伺った。
-
2023/02/27アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)とは?【前編】日常にある事例、具体的な対処法について解説!
私たちは何かを見たり、聞いたり、感じたりした時に実際にどうかは別として、「無意識に“こうだ”と思い込むこと」があります。これを「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」と呼びます。アンコンシャスバイアスによるネガティブな影響に対処するための第一歩は、「意識し、理解する」ことです。
-
2023/08/31身体的制約のボーダーは超えられない、なんてない。―一般社団法人WITH ALS代表・武藤将胤さんと木綿子さんが語る闘病と挑戦の軌跡―武藤将胤、木綿子
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行によりさまざまな身体的制約がありながらも、テクノロジーを駆使して音楽やデザイン、介護事業などさまざまな分野でプロジェクトを推進。限界に挑戦し続けるその姿は人々の心を打ち、胸を熱くする。難病に立ち向かうクリエイター、武藤将胤(まさたね)さんとその妻、木綿子(ゆうこ)さんが胸に秘めた原動力とは――。
-
2022/02/22コミュ障は克服しなきゃ、なんてない。吉田 尚記
人と会話をするのが苦手。場の空気が読めない。そんなコミュニケーションに自信がない人たちのことを、世間では“コミュ障”と称する。人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』のパーソナリティを務めたり、人気芸人やアーティストと交流があったり……アナウンサーの吉田尚記さんは、“コミュ障”とは一見無縁の人物に見える。しかし、長年コミュニケーションがうまく取れないことに悩んできたという。「僕は、さまざまな“武器”を使ってコミュニケーションを取りやすくしているだけなんです」――。吉田さんいわく、コミュ障のままでも心地良い人付き合いは可能なのだそうだ。“武器”とはいったい何なのか。コミュ障のままでもいいとは、どういうことなのだろうか。吉田さんにお話を伺った。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
「結婚しなきゃ」「都会に住まなきゃ」などの既成概念にとらわれず、「しなきゃ、なんてない。」の発想で自分らしく生きる人々のストーリー。
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」