介護難民とは? 2025年問題が与える影響、高齢社会がもたらす課題・原因・対策を解説

介護難民は、具体的にどのような背景から増えているのでしょうか。

いわゆる「団塊の世代」が75歳を超えることで日本の社会構造が変化し、さまざまな分野に影響を与える「2025年問題」があります。中でも懸念されている問題の一つに、「介護難民」が挙げられます。

介護を必要とする高齢者が今後さらに増加する背景や、介護士など介護の担い手となる若い世代の人手不足といった要因により、医療介護サービスに支障をきたすのではないかという懸念が広がっているのです。

介護業界に大きな影響をもたらすとされる「2025年問題」や介護難民の現状と解決策について、理解しておきましょう。

この記事では、介護難民について下記の5点を解説します。

  • 2025年問題の背景とは
  • 2025年問題が与える影響と介護難民の増加
  • 政府が取り組む対策と介護現場の革新事例
  • 介護難民を防ぐために私たちができること
  • 介護問題で個人が解決できることはない、なんてない

2025年問題の背景とは

「2025年問題」とは、戦後の日本経済を担ってきた団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となり、雇用や医療、福祉などさまざまな分野に大きな影響を与えることを指します。団塊の世代は、1947年1月1日から1949年12月31日までに生まれた人のことです。

全国民に占める後期高齢者の割合が増加するのに対し、高齢者を支える労働人口は減少していくため社会保障費の増大が懸念され、医療分野の整備や少子化対策が急がれます。

2025年を目前に控えた今でも高齢化は進み、介護を必要とする高齢者が十分な介護を受けられない「介護難民」も増加しているのが現状です。

2025年には、総人口1億2,254万人のうち、65歳以上の高齢者は3,677万人、第1次ベビーブームの時期に生まれた75歳以上の高齢者の人口が2,180万人に達するといわれています。

※出典:総務省「統計局ホームページ/平成30年/統計トピックスNo.113 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-/1.高齢者の人口

75歳以上の高齢者の全人口に占める割合はその後も増加していき、2055年には2,401万人となり、25%を超える見込みです。75歳以上人口は、特に首都圏など都市部で急速に増加することが予想されています。例えば、埼玉県では2010年の75歳以上の割合は8.2%でしたが、2025年には16.8%にまで上昇すると予測されています。都市部を中心に、単独世帯や夫婦世帯が増加していき、孤独死の増加も懸念されているのが現状です。

※出典:今後の高齢者人口の見通しについて – 厚生労働省

2025年問題が与える影響と介護難民の増加

2025年問題が与える影響は多方面に及びますが、特に懸念されているのが雇用や医療、福祉などの分野です。特に医療費や介護費の増大と、それを支える若い世代の負担が不安視されています。

結果として、介護が必要であるにもかかわらず、家庭や病院、施設のどこにおいても適切なサービスを受けられない高齢者や障がい者が増えるとされています。これが、「介護難民」の問題です。

では、高齢者の介護難民が増える背景について見ていきましょう。

厚生労働省によると、要介護認定率は年齢が上がるにつれて上昇しています。65歳以上の全体の認定率は18.6%に過ぎませんが、75歳以上になると32.1%、85歳以上では60.6%にまで上がります。

1人当たりの年間介護給付費も65~69歳では3.3万円ですが、75~79歳で14万円、85~89歳で71.3万円、90~94歳では143.6万円です。日本社会が長寿化すればするほど、介護給付費が増大する厳しい現実が見て取れるでしょう。

また、下図に示されているように、要支援または要介護認定を受けている人の数は2019年(平成31年)4月時点で約659万人と、19年で約3倍に増加しています。

令和3年版高齢社会白書によると、高齢化率は28.8%で、高齢化率は年々上昇を続けていくことが予測されます。それに伴って、要介護認定者の割合も必然的に増えていく可能性が高いでしょう。

※出典:介護分野をめぐる状況について – 厚生労働省

介護難民が増える原因は、介護を受ける側である高齢者の増加だけでなく、介護を提供する介護職員の人材不足も関係しています。2025年には、介護職員は245万人が必要と予測されているにもかかわらず、2016年時点では介護職員は約190万人でした。

介護従事者の人材確保が難しいのは、賃金が低いことや労働人口の減少、介護職へのネガティブなイメージなどのさまざまな理由が考えられます。

※出典:介護人材の確保・介護現場の革新 – 厚生労働省

2025年問題の一つとして、65歳以上の独居高齢者の増加も挙げられます。高齢社会白書(2018年)によると、65歳以上で独居している人の数は2015年には男性約192万人、女性約400万人でした。一方で、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」も深刻になっています。

※出典:3 家族と世帯|令和3年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府

政府が取り組む対策と介護現場の革新事例

深刻化する介護難民の増加を防ぐために、政府はどのような対策を講じているのでしょうか。例えば、2019年度予算において、政府は以下の項目からなる介護人材不足への対応をまとめました。

  • 雇用管理改善
  • マッチング支援
  • 人材開発
  • 生産性向上
  • 外国人介護人材の受け入れ

特に「生産性向上」を目的として、介護現場におけるICT化が進められています。単に紙ベースのやりとりをデジタル化するだけでなく、介護ソフトやタブレット端末を導入することでビッグデータを蓄積し、エビデンスに基づく介護サービスの提供促進を目指すことも含んでいます。

※出典:介護現場におけるICTの利用促進

介護現場の革新事例

ここでは、介護サービス利用者と、介護現場の業務改善や負担軽減を目的にした取り組みの事例を2つ紹介します。

事例①北九州市【介護ロボット等を活用した介護イノベーション】

北九州市では、過去の介護ロボット・ICTの導入実証を通じて得られた効果等をまとめて好事例を作成し、介護ロボットやICTを活用できる専門人材の育成を進めています。ICTの活用によってセンサー情報や介護記録を自動集約し、データを分析することで、介護職員の負担軽減だけでなく入居者のQOL向上にもつながります。

事例②横浜市【外国人介護人材への支援】

横浜市では、外国人介護人材を積極的に採用しています。介護現場ではコミュニケーションが大きな障がいになりますが、音声入力でテキスト変換する端末や、ベトナム語に翻訳したeラーニングシステムなどを活用しています。さまざまなツールを活用することで、外国人スタッフの負担を軽減し、コミュニケーションの精度向上を目指しているのです。

※出典:介護人材の確保・介護現場の革新 – 厚生労働省

介護難民を防ぐために私たちができること

介護難民の解決は今後避けられない課題ですが、家族に要介護者がいる人にとっての解決策について見ていきましょう。

すでに介護に関わっている人だけでなく、現時点で介護が必要ではない人も、まずは情報を収集することが大切です。

例えば介護が必要になったら、地域の福祉施設やケアサービス、公的な介護支援サービスなどで実際にどのような支援を受けられるのかについて、あらかじめ把握しておきましょう。

家族に要介護者がいる場合、解決策の一つとして介護施設の利用が挙げられます。しかし、特別養護老人ホームへの入所を望んでいる待機者は2022年4月時点で約27.5万人いるため、要介護者の施設入居が必要になってもすぐに入居できない状況にあるのです。

※出典:特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度) |報道発表資料|厚生労働省

その場合は、家族と介護者にとって最適な施設選びをサポートしてくれる診断サービスなどの活用も検討してみましょう。株式会社LIFULLでは、「LIFULL介護」というサービスを展開しており、全国47都道府県の施設検索や無料の入居相談が可能です。

 介護問題で個人が解決できることはない、なんてない

介護には、「きつい」「大変」などのネガティブなイメージがあるかもしれません。本章では、介護を積極的にとらえながら介護にまつわる問題に取り組んでいる3人の事例を紹介します。

大空幸星さんは、家族の介護やケアなど身の回りの世話を行う18歳未満の子ども「ヤングケアラー」からの相談を24時間体制で受け付ける「あなたのいばしょ」を設立しました。大空さんはヤングケアラーを「かわいそうな存在」というレッテルで片づけることが大きな壁を生むと指摘し、大切なのはヤングケアラーの問題を安易に「解決してあげよう」と考えるのではなく、彼らの話に耳を傾けて併走することだと語ります。

お笑いコンビ「メイプル超合金」の安藤なつさんは、介護歴20年の介護のプロです。安藤さんは介護に対してネガティブなイメージはなく、「相手の特性を生かしてイキイキできるようなサポートをすることが好きなので、介護も楽しめる」と笑顔で話します。介護とお笑いは彼女にとってどちらも「やりたいこと」であり、「トータルでhappy」な人生を実現するために必要だったのです。

泉雅人さんは、株式会社LIFLL senior代表取締役で、老人ホームや介護施設の検索サービスや介護に関するメディアの運営を通じて、介護業界の発展に貢献してきました。泉さんは「介護の既成概念はテクノロジーによって薄れていく」と語ります。介護は多くの場面で人手を必要とするため、一人で抱え込んでしまうとつらい思いをするかもしれません。しかし、泉さんはセンサリングやAIなどのテクノロジーを活用したり介護のプロに任せたり、さまざまな選択肢があることを強調します。そんな泉さんの好きな言葉は「正解は選ぶものじゃなくて作るもの」だそうです。介護に関しても、既存の正解にとらわれずに挑戦してみることが大切なものかもしれません。

まとめ

日本の人口構造が大きく変化し、さまざまな影響を与える「2025年問題」そのものを回避することはできません。だからといって、「介護難民」の増加が不可避というわけではないでしょう。

これまで私たちが介護に対して抱いてきたネガティブなイメージや、「家族だけで介護しなければならない」といった既成概念は覆すことができるかもしれません。介護現場で導入が始まっているICT活用だけでなく、私たち一人ひとりがWebメディアなどを通じて幅広い情報収集をすることが、新たな解決策につながるでしょう。

監修者:小菅秀樹
LIFULL介護 編集長/介護施設入居コンサルタント
老人ホーム、介護施設の入居相談員として1500件以上の入居相談に対応。入居相談コールセンターの管理者を経て現職。「メディアの力で高齢期の常識を変える」をモットーに、介護コンテンツの制作、寄稿、登壇。YouTubeやTwitterでも介護の情報発信を行う。

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