男性は育児に「参加」する側、なんてない。
現在子育てインフルエンサーとして活動する木下ゆーきさん。TwitterやYouTubeでの「おむつ替え動画」を皮切りに、笑いを誘う子育てシーンの動画が話題になっている。男性も女性も「仕事をしながらの子育て」が珍しくなくなったこの時代に、木下さんが大事にしているのは「受け止める心」。大変なことも時に笑いに変えながら、等身大の子育てをする木下さんの思いに迫った。
日本における男性の育児休暇取得率は6.16%(出典:厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」)。共働きの家庭が増えているとはいえ、子育てが理由の時短勤務などを取り入れているのは女性の方が多く、いまもなお育児は「母親」に寄りかかり気味だ。子育てインフルエンサーとして、父親による子育て動画を発信する木下さんは、「パーティーも子育ても同じ。『参加』は楽しいけど、『主催』となると大変なことが多い」と語る。誰もが「楽しい」だけではやっていけない育児に対して、男性はどう向き合っていけばいいのだろうか。シングルファザーの経験も持つ木下さんに、SNSに寄せられる世間の声も交えながら、いま思うことを聞いた。
子育てはうまくやろうとしなくていい。大変だから、笑わないとやってられない
「子育てインフルエンサー」という肩書で活動を始めた木下さん。そのきっかけとなったのは、2018年に愛知県豊田市で起きた母親による三つ子の虐待事件だった。
「『母親が生後11カ月の息子を床にたたきつけた』という第一報を目にしたとき、なんてひどい親なんだ、と思いました。しかし、続報で『その子どもは三つ子だった』という情報を見て、『子ども一人でも大変なのに、三つ子なら自分も同じことをしていたかもしれない……』と率直に感じたんですよね。
その方は役所にもアラートを上げていて、何カ月か前から健診では子どもをたたいてしまったこともあると申告していました。ミルクは1日24回。睡眠時間が1時間取れない日が続いていたそうです。同じように悩み苦しんでいる方がちょっとでも楽になる何かを提供できないかなと思い、昔から人を笑わせることが好きだったのもあって、
シングルファザー時代を経て分かった、夫婦のコミュニケーションの大切さ
楽しそうな子育て動画を発信している木下さんだが、かつて離婚を経験し、シングルファザーだった時期もあった。当時の子育ては、楽しさからは程遠いものだったという。
「シングルの時期に、ちょうど長男のイヤイヤ期が重なりました。当時は毎日のように声を荒げて怒っていましたね。強く叱って子どもを泣かせて、夜に寝ている子どもを見ながら『なんてひどいことをしちゃったんだ』と自己嫌悪に陥る。そういう日々の繰り返しでした。
長男が夜泣きで2時間泣き続けて、夜中に真っ暗な部屋の中を抱っこしてずっと歩き続けたこともあります。やっと寝かしつけたと思った時に開いたSNSで、友達が居酒屋で仲間と肩組んでビールのジョッキを掲げている写真を見たときは、強い孤独感にさいなまれました。
それでもなんとかやっていけたのは、両親や姉夫婦の助けがあったからだと思っています。子育ての悩みや不安を相談したり、子どもの面白エピソードを話せる相手が近くにいるというのは、とても大切なことだと強く実感しました」

木下さんはその後再婚し、長女を授かった。木下さんが配信する動画には、パートナーの笑い声が入っていることが多く、読者からはその笑い声に元気をもらえるといった反響もある。子育てを考える上でも肝心の、夫婦のコミュニケーションとは一体どんなものなのだろうか。
「妻とは本当にささいなことでも言葉で伝え合うようにしています。それは自分からの要求もそうですし、感謝の気持ちもそうです。お茶をいれてくれたら『お茶をいれてくれてありがとう』だし、ご飯が炊けたら『ご飯を炊いてくれてありがとう』。不安を感じていることも徹底して伝え合うようにしていますね。
そして、これはパートナーだけではなく子どもに対してもですが、相手の意見を聞いたあとに違和感を覚えたら、即座に『いやいや、こうした方がいいじゃん』と反応するのではなく、『なるほど、そうだね。

長男との様子
子育てのカリスマになりたいわけではない。大変な子育てシーンに笑いを届けたい
木下さんの発信するコンテンツの中で、特に話題を呼んだ「おむつ替え動画(アパレル店員編)」。子どもとの面白いやりとりを繰り広げながら、テキパキとおむつを替える木下さんが、子育てのコツだと感じているのは意外なことだった。
「うまくやろうとしないことです。子どもに言うことを聞かせられない自分は何てダメなんだろうって考えちゃう方も多いと思うんですけど、僕は、『子どもがイヤイヤして言うことを聞かない、じゃあもう仕方ない』と思うようにしています。
子育てって本当に大変なので、楽しくてたまらないと思ってる人なんていないと思いますよ。僕は子育てを楽しんでいるわけじゃなくて、『めちゃくちゃ大変だから楽しまないとやってられない』と思っています。みんなのカリスマ的存在になりたいわけじゃありません。

子育てゲーム実況
なぜ僕の発信がこれだけ広まっているのかというと、みんな大変だからなんだと思います。僕は『子育てって楽しいよね』という内容を発信したいわけじゃなくて、『子育てって大変だよね、でも笑えるといいね』ということを発信していきたいんです。楽しめるように頑張ろうねっていう思いは一切ないですし、そんなことは無理だと思います」
男性の育児は「参加」ではなく「主催」、始めるのは今からでも遅くない
木下さんのSNSには日々視聴者からのお悩みも寄せられている。中には「夫が子育てをしてくれません。どうすればいいでしょうか」といった内容も。そもそも、「男性の育児」がまだ特別視されているという現状がある中で、今後の子育てのあり方を木下さんはどのように見ているのだろうか。
「『男性の育児参加』という言葉が広がっていますが、そもそも『参加』という認識ではダメだと思っています。子育てというのは夫婦が力を合わせて行わなければならないもので、『参加』ではなく『主催』です。パーティーも参加するだけなら楽で楽しいでしょうが、主催するとなると大変です。育児休暇制度が整備されても、それを受け入れて、実行できる社会にならなければ、形だけのものになってしまいますよね。大切なのは、性別を超えるのはもちろん、世代も超えて社会全体で意識改革を行うことだと思っています」

世の中には「自分も子育てしたいけど、いまさら遅いかな、うまくできるか不安」と思っている男性もいるだろう。そのような立場にいる人は何から始めればいいのだろうか。
「子育ての難しさを感じている男性も多くいることと思います。しかし、それは女性も同じです。ママだって子育てに悩み、壁にぶつかりながら必死に子どもを育てています。子育てに関しては、『男だから分からない』『女の方が向いている』というものではありません。まずは、とにかく動く。分からないなら聞く。『分からない』はやらない理由にはならないので、意地やプライドを捨ててパートナーに聞くことが大切だと思います。
また、パートナー側も『自分がやった方が早い』とか『やらせても雑だから』ではなくて、まずやろうと思った行動を受け入れて、聞かれたことにちゃんと答えて、一緒にちょっとずつブラッシュアップしていくのがいいと思いますね」

長男との様子
編集協力:「IDEAS FOR GOOD」
(https://ideasforgood.jp/)IDEAS FOR GOODは、世界がもっと素敵になるソーシャルグッドなアイデアを集めたオンラインマガジンです。海外の最先端のテクノロジーやデザイン、広告、マーケティング、CSRなど幅広い分野のニュースやイノベーション事例をお届けします。
1989年3月9日生まれ。SNS総フォロワー数30万人以上。笑いを交えた発信を行う子育てインフルエンサー。
ユニークなおむつ替え動画やモノマネ動画など、その発想力と表現力は著名人にもファンが多い。テレビなどのメディア出演のみならず、トークショーは過去公演全てにおいてチケットが即完売している。
Twitter: https://twitter.com/kinoshitas0309
Instagram: https://www.instagram.com/kinoshitayuki_official/
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC-2AcmcgfQAAOuJt72vON2w
多様な暮らし・人生を応援する
LIFULLのサービス
みんなが読んでいる記事
-
2024/01/23なぜ、日本で女性管理職の数は増えないのか|女性のキャリア意欲を奪う企業構造とは?ジャーナリスト・浜田敬子が語る、助け合いで築く幸福で働きやすい未来コロナ禍で普及したリモートワークは子育てや介護を担う女性の働きやすさを向上させましたが、さまざまな理由から「原則出社」に戻してしまった企業も少なくありません。これにより、育休後に希望のキャリアを歩めずモチベーションが低下したり、ワンオペ育児で夫への不満を募らせたりと、女性の生き方・働き方・結婚生活に関する課題が再び浮き彫りになっています。ジェンダー平等の達成度が先進国の中で最低レベルの日本(※1)。女性のキャリアを阻む構造上の問題や、令和に求められる管理職像の変化について、ジャーナリストの浜田敬子さんが分析します。
-
2024/04/18
子どもを産んだらキャリアを諦めなきゃ、なんてない。―私が、D&I+委員会やProject Butterflyの活動に励む理由―堺 亜希住宅・不動産情報サイトLIFULL HOME'Sの新築一戸建て領域のグループ長を務める堺亜希は、3児の母でもある。そしてLIFULL社内のダイバーシティ&インクルージョンを推進する「D&I+(D&Iプラス)委員会」の委員長も務めている。幅広い業務を担う中で、堺はこれまでどのように家庭と仕事のバランスをとってきたのか。そして、堺は今どんな思いで働いているのかを聞いた。
-
2024/05/24
“できない”、なんてない。―LIFULLのリーダーたち―LIFULL HOME'S事業本部FRIENDLY DOOR責任者 龔 軼群FRIENDLY DOOR責任者 龔 軼群(キョウ イグン)2024年4月1日、ソーシャルエンタープライズとして事業を通して社会課題解決に取り組む株式会社LIFULLは、チーム経営の強化を目的に、新たなCxOおよび事業CEO・責任者就任を発表しました。性別や国籍を問わない多様な顔ぶれで、代表取締役社長の伊東祐司が掲げた「チーム経営」を力強く推進していきます。 シリーズ「LIFULLのリーダーたち」、今回はFRIENDLY DOOR責任者の龔軼群(キョウ イグン)に話を聞きます。
-
2024/08/14インクルーシブアートとは?【前編】障がい者の文化芸術活動を通じた共生社会の実現と取り組み例「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」をキーワードにして、さまざまな社会的ムーブメントが起きています。その一つに「インクルーシブアート」があります。2018年6月に成立した「障がい者による文化芸術活動」とも呼応し、官民一体で障がい者を含んだ芸術活動が活発化しています。この記事では、インクルーシブアートについて解説します。
-
2022/02/03性別を決めなきゃ、なんてない。聖秋流(せしる)人気ジェンダーレスクリエイター。TwitterやTikTokでジェンダーレスについて発信し、現在SNS総合フォロワー95万人超え。昔から女友達が多く、中学時代に自分の性別へ違和感を持ち始めた。高校時代にはコンプレックス解消のためにメイクを研究しながら、自分や自分と同じ悩みを抱える人たちのためにSNSで発信を開始した。今では誰にでも堂々と自分らしさを表現でき、生きやすくなったと話す聖秋流さん。ジェンダーレスクリエイターになるまでのストーリーと自分らしく生きる秘訣(ひけつ)を伺った。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。
