整形は何でも叶えてくれる魔法、なんてない。
たった2年で、美容整形の肯定派が25%も増えた――(※)。
少し前まで、「楽して綺麗になろうとするなんて」「健康な体を傷つけるなんて」など、ネガティブなイメージの強かった美容整形。しかし、ここ数年で整形に対する意識は大きく変化してきている。
2019年には65%だった「肯定派」は、2021年には90%にまで上昇。今や、ほとんどの人は整形にネガティブな思いを抱いていない。整形を公表するタレントやアイドルも増えてきた。
その一方で、整形した人や検討している人に心ない言葉を投げかける人が未だいることも事実だ。また、“手術”だからこそ、壮絶なダウンタイムや、副作用といったリスクもある。
「整形の綺麗な面だけじゃなく、汚い面も知った上で選択をしてほしい」
と語るのは、自身が1,350万円(2023年4月時点)かけて美容整形を行った、整形アイドルの轟ちゃんだ。
※出典:東京イセアクリニック(医療法人社団心紲会)プレスリリース
「やらなくていいなら、整形はやらないほうがいい」
轟ちゃんは、取材中何度もそう話した。轟ちゃんは、自身のYouTubeチャンネルでダウンタイムの様子など、“整形のリアル”を発信している。
整形で得られるものと、得られないものがあると言う彼女。ただ、自分が今のように人前で笑えるようになったのは、整形をしたからだとも話す。
容姿を変えることで、彼女にどんな変化があったのか。また、過去の彼女と同じように、容姿に自信がなく悩んでいる人にどんなことを伝えたくて発信しているのか。お話を伺った。
整形で変わるものはある。
でも、人生を変えるほどの魔法ではない。
整形のリアルを見て、一度冷静になってほしい
轟ちゃんは、「整形アイドル」としてYouTubeをメインに整形のリアルを発信している。
「私が整形を始めた頃は、まだ『整形は悪』と考える人が多い時代でした。でも、ここ数年はその認識もかなり変わり、整形をポジティブに捉える人が増えてきたように思います。ただ、それはそれで課題もあって……」
整形は、“悪”ではない。かといって“善”でもない。轟ちゃん自身が、1,350万円(2023年4月時点)以上をかけて何度も整形をしてきたからこそ、それを身にしみて感じていると話してくれた。
「整形のことを、魔法だと思っている人が多いんですよね。でも実際には、顔に“線”が一本増えるだけとか、大きな変化はないんです。それにリスクだってたくさんある。
整形する前って、整形のいい部分しか見えなくなっているというか。『これで私の人生変わるんだ!』って、ハイな状態になっていると思うんですよ。私もそうだったから。でも、実際には少ししか変わらないし、術後はめちゃくちゃ痛いし見た目もグロい。私なんて、下顎骨切り術を行ったあと、しばらく右顔面麻痺が残ってしまいました。ただ、そういったリアルを発信している人って少ないんですよね。
これから整形する人には、整形の良いところだけじゃなく、リアルな部分も知ったうえで選択してほしい。『思っていたのと違った』と絶望する人を少しでも減らしたい。そう思って、発信を続けています」
整形のリアルを発信し続ける轟ちゃんのもとには、日々いろんな声が届く。その中には、ルッキズムへの悲痛な叫びや、「整形は悪」という従来の価値観からくる誹謗中傷も含まれているという。しかし轟ちゃん自身は明るく、「どんなコメントでも学びがあるし、誹謗中傷だってネタになる」と語った。
彼女の明るさ、そして強さはどこからくるのだろうか?少し過去に遡ってお話を伺っていく。
容姿に悩み、自信を喪失した10代。整形して「自分を取り戻した」
「小学生の時、同級生から突然『轟ちゃんって一重なんだね』『◯◯ちゃんは二重でかわいいね』って言われたんですよ」
それまで、自分や周りの目の形を意識したことはなかった。学年が上がっていくごとに、“容姿”に関する話題が増えていくが、この時点では「目の形にもいろいろあるんだな」程度にとらえていたと言う。
しかし、中学2年に容姿を理由にいじめにあったことがきっかけで、「私はブスなんだ」と思うようになったと打ち明けた。「私が可愛くないから、すべてうまくいかないんだ」――。そう思った轟ちゃんがまず試みたのは、メイクだった。
「化粧品のCMに出ている人は、二重の人たちばかり。だから、“二重=かわいい”ってことなんだ、と思っていました。今では一重で魅力的な方がたくさんいることがわかるのですが、当時は『二重にならなくちゃかわいくなれない!』と頭が固くなっていたんですよね。
でも、私が同じ化粧品を使ってみても、CMに出ているモデルやアイドルのようにはならない。当時まだ幼かった私は、『大人になったらこの人たちみたいに綺麗になれるのかも』と期待していました。当たり前なのですが、現実はそうもいかなくて……」
また、いじめをきっかけに自信を失い、自分にも周りにも攻撃的だったと話してくれた。
「暗いし、嫉妬するし、悪口もすごい言うし。自分で言うのもあれだけど、嫌なやつだった。とにかく、『私の顔が悪いから、何もうまくいかないんだ』って思い込んでいたんです。顔さえ変われば人生好転するはず、と考えていました」
必死でお金を貯めて、大学生の夏休みについに二重にする整形をした轟ちゃん。しかし、「整形を過大評価しすぎていた」と話す。
「ドラマとかマンガでは『整形してアイドルになる』みたいな話がよくあるじゃないですか。でも、実際は全然そんなことなかった。もちろん、長年追い求めてきた“線”が入って嬉しかったですよ。メイクが楽になったし、アイシャドウを塗るのも楽しくなりました。
一方で、あくまで“線”が入っただけなんですよね。毎日会っている人なら気づくかもしれないけど、1年越しにあった親戚とかだと気付かないんじゃないかな。そのくらいの変化なんです。
整形で、たしかに変わるものもあります。でも、人生まで変わるような魔法ではない。初めての整形で、そう気付いたんです」
整形して変わったことは何かと伺うと、「今まで押し殺していた自分が表に出てきた」と話す。
「もともとは外交的な面もあったんですよね。演技したり、人前で喋ったりするのも好き。ただ、『私の顔でそんなことしても……』って劣等感の塊だったから、やりたくてもできなかった。
でも、何度か整形を重ねていく中で、内面も“悪くないな”って思えるようになって。今は、私は私に生まれることができて、本当に良かったなって思っています。いい意味で自分のことしか考えていないです(笑)」
“モヤモヤ”は徹底的に言語化して、ファンと共有する
整形をして自信がついたら、周りの目が気にならなくなった。そうは言っても、容姿や整形を避難するような言葉に傷ついたり、腹を立てたりすることもあるのではないか?
「もちろん嫌ですよ。でも、他人は変えられないから。
否定的なコメントがきたら動画のネタにしちゃえばいいや、とポジティブにとらえるようにしていますよ(笑)」
轟ちゃんは“モヤッ”とすることがあったら、なぜその気持ちになったのか納得できるまで深堀りするようにしているのだと言う。
「小さい時から納得できないことがあると、『なんでなんで』ってずっと繰り返している子どもでした。バイトでマニュアルを渡された時は『なんでそのやり方なのか』理由がわからないと覚えられなかったし、街中を歩いていても気になる看板を見つけると、すぐ調べないと気になってソワソワしちゃう性格なんです」
それは、心ない言葉を投げかけられた時も同じだった。なぜその言葉にモヤモヤするのか、自分が納得のいく答えが出るまで紐解いていく。
「自分の気持ちをちゃんと言語化するだけでも、スッキリするもんですよ。そして、自分なりに見つけた答えをYouTubeにあげて、『私の思っていたことそれ!!』って共感してもらうのも嬉しいんです(笑)。私は、嫌なことがあってもそれで消化できているのかな、と思います」
整形を「良い」という意見も、「悪い」という意見も、どちらも間違いじゃない
取材中、轟ちゃんは一度も整形を「良いもの」「お勧め」といった言葉を使わなかった。整形に対して、あくまで「やらなくてもいいなら、やらないほうがいい」という立場を貫く轟ちゃん。そこには、自分の体験の他、整形アイドルの肩書を負った“責任”も関係していると言う。
「今でこそ、整形を公表しているYouTuberは多いですが、私が始めた頃はほとんどいなくて。テレビにもよく出させていただいていたんですね。ありがたいことに、整形をしたい人やしている人から、『轟ちゃんが発信してくれたおかげで、世間の整形に対する認識が少しずつ変わってきた』とお声がけいただくこともあります。
ただ、今は“ライト”になりすぎていることも課題だと思っていて……。最近では、『整形はすごく良いもの』『整形を否定する人がおかしい』と発信をする人も増えてきている印象です。でもこれって、“整形アイドル”の私がメディアに出続けた責任でもあると思うんですよね」
そんな自分にできることは、整形の汚い面もしっかりと伝えていくこと。失敗することだってある。整形のメリットだけでなく、デメリットも知り「それでもやりたいか?」と自分自身に問いかける時間を持ってほしい、と改めて轟ちゃんは話す。
しかし、整形してもしなくても、ルッキズムに悩まされる人たちが大勢いる。その気持ちはどう消化したらいいのだろうか。
「『気にしないで』って言っても、人間だから心のどこかで気にしちゃうから難しい。容姿について心無い言葉をかけられて傷ついている時に、『人は顔じゃないよ』って言われてもモヤモヤしますよね。私たちは『人間顔じゃない』って信じたいから、顔だけで評価してくる人に傷ついているのに。それを分かっていない人に『そんなことで気にするなんて時間のムダ!』って言われても、余計にしんどい。
だから、気にするのはしょうがない。でも、ひとつでも誇れるものがあると、気持ちが軽くなると思うんです。仕事でも趣味でも何でもいい。私はYouTuberとしてそこそこお金をいただいていたので、『こんなこと言ってくるあなたたちより、私の方が稼いでいるけどね!』と心の中でマウントをとっていました(笑).
それでも辛い時は、私にDMしてください。全部に返信はできないかもしれないけど、全部読んでいるし、いいねくらいは押せますから。『轟ちゃんに話しただけで、元気になれました』と言ってくれる人も多くて、それが私の励みにもなっています」
「誹謗中傷する人は嫌」と言いつつ、「でも、整形が“悪”という価値観もあって当たり前」と語った。いろんな価値観があって当たり前だし、どんな価値観にも良し悪しはない。それを誰かに押し付けることは困るだけ。
整形することだけでなく、整形に対する価値観に対しても一貫してフラットな姿勢を見せる。彼女が同じように容姿にコンプレックスを抱く人たちの共感・支持を得る理由は、何事も周りのせいにせず、自分らしさを大切に生きようという姿勢なのではないだろうか。
そのせいか、よく『轟ちゃんって優しいね』と言っていただくのですが、結局全部自分のためにやっていることなんですよね。自分が一番かわいいし、自分が幸せならそれでいい。でも、自分を大切にできるようになったから、周りのことも見れるようになったのだと思います。
取材・執筆:仲 奈々
撮影:大崎えりや
「整形アイドル」の肩書をもつYouTuber。1992年生まれ。大学生の頃に初めて美容整形手術を行い、これまでにかけた費用は1,350万円(2023年4月時点)を超える。現在はYouTubeをメインに各SNSで「整形のリアル」を発信している。
Twitter @todoroki_sk
Instagram @todoroki.sk
YouTube 整形アイドル轟ちゃん
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