社会に出たら周りに合わせなきゃ、なんてない。 ― 悩める新社会人に伝えたい、『発信する勇気』の末吉宏臣さんが語る自分らしく生きる秘訣 ―
企業のコンサルティングを行いながら、メディア・プラットフォーム「note」で毎日のように発信し、セミナーを開催し、2024年春には『発信する勇気』(きずな出版)を上梓した末吉宏臣さんは、日頃から自分の気持ちや考えを“書いて発信する”ことを、広く、とりわけ若者たちに勧めている。今回はそんな末吉さんから、今春、大学を卒業して社会へ踏み出していく学生たちに向けて、エールを送っていただいた。

この春にもまた、大勢の学生たちが巣立ちの時を迎える。飛び込んでいく先が、どんな企業や団体であれ、これから毎日、少数の同僚と多数の上司の中で生きていくことを考えれば、不安を抱く人も多いはずだ。かつての末吉さんは、そんな時期に何を考え、どう行動していたのだろう?まずはご本人の学生時代、新社会人時代から、語っていただいた。
生まれた時には持っていなかったはずの「自己不信」や「自己否定」をデトックスできれば、自分のことや、自分のやりたかったことが見えてくると思います。
学生時代に起業。そして自分なりの就活から、就職へ
「僕の話が、新社会人さんや就活生さんの役に立つかどうかは分からないんですけど…」と前置きしてから、末吉さんは語り始めた。「大学1年の時に、先輩と一緒に起業しまして。それから、大学の勉強とは別に、毎日いろんな本を読み漁ってました。松下幸之助さん(パナソニック創業者)やナポレオン・ヒル(自己啓発作家・著書に『思考は現実化する』など)から、宗教書、アリストテレスなどの哲学書に至るまで、来る日も来る日も何かしら読んでました」
大学1年で起業して会社を動かしながら、学業に専念し、それでも飽き足らず読書に没頭した日々。そんな風に彼を駆り立てていた源泉は、なんと「地球を救いたい」という思いだったという。たしかに、一般的な学生とは、考えることもやることも、ちょっと違っている。
「地球を救う」とは、ずいぶん大それたテーマのようにも思えるが、彼によればその背景には、うまくいっていなかった自分の家族関係が影響しているのだろうという。うまくいかない自分を救いたいという気持ちが、自分だけでなくみんなも救われて欲しいという思いへ発展し、「地球を救いたい」という壮大な夢になったというのだ。
そんな思いを胸に、多忙な日々に明け暮れていた末吉さんはしかし、気がつくと就職活動に出遅れ、図らずも新卒採用の機会を逃がすという失態を演じてしまう。
だが彼は、気を取り直してすぐに動いた。「今からでも受けさせていただけませんか?」と、コンサルティング会社10数社に問い合わせた。自分なりの就活を始めたのだ。その結果、複数の会社から内定を得て、その中の1社に、同期よりも1年遅れはしたものの、晴れて就職することになる。
がむしゃらに働き、病んでしまったあの頃
末吉さんが入ったコンサルティング会社は、企業の理念を作り、それを社内に浸透させることや、企業幹部のマネジメント力強化のための研修などが主な仕事だった。しかしなぜ、彼はコンサルティング会社を選んだのか。
「それは、『個人の幸福を最大化させたい』『個人に良い影響を与えたい』という思いを叶えるためでした。どういうことかと言いますと、もともと影響力を持っている人に対して、自分が影響を与えることができれば、その影響力は、より大きくなっていくだろうと考えたんです。自分は、リーダーたちの中の、そのまたリーダーになりたいと考えていましたし、或いはそんなリーダー・オブ・リーダーたちと一緒に仕事をすることが大事だと思っていましたので、大学時代も、そのためのサークルを立ち上げたりしていました。そんな思いもあって、一つの企業を立ち上げるよりも、コンサルタントになれば、いろんな企業のトップの方たちに、何かしら影響を与えることができるだろう。そうすれば、影響の及ぼし方がさらに大きくなるんじゃないかと考えたからなんです」
熱い思いに突き動かされて疾走するだけでなく、実利も視野に入れて冷徹に判断する末吉さんのこんな一面は、多くの新社会人・就活生の方々にも参考になるかもしれない。
コンサルティング会社での仕事は、充実していたが、大変だったという。「今風に言えばブラック企業でした。むちゃくちゃ忙しかったですね。最初は飛び込み営業もやりましたし。でもそれは自分にとって辛いことではなく、一生懸命頑張れていました。ただ、経営者や管理職の方々に対して、23歳の若造がフィードバックしなきゃいけないんですから、プレッシャーはありましたね。毎日が緊張の連続でした。今にして思えば、あの時ご一緒した方々には実に暖かい目で接していただいてたなって、感謝の念すら覚えます」
しかし末吉さんはやがて、大きな疑問を抱きながら仕事をしている自分に気づき、悩み始める。
「忙しさは苦ではなかったですけど、ストレスを感じていたのは、『今やっていることが、本当の自分の気持ち、やりたいことに、実は沿っていないんじゃないか?』って、自分を疑いながら進んでいたことなんですよね」
そして末吉さんは、退社や独立を考えるようになる。「どこかで『あ、これは自分の道ではないな』という気持ちが芽生え始めて、次第にそれが明確になってきていました。とはいえ、独立してやっていけるのか?っていう不安もありましたし、上司の方にも大変お世話になっていましたから、すごく悩みましたね。ただ、ある時点から『このままとどまる、という選択肢は、もうないかな』という思いは持ち始めていました」。そんな葛藤の時間は長く続き、やがて末吉さんは病んだ状態に陥ってしまう。
「“影響力のある人に影響を与える”という目標は、それなりに達成できたと思いますけど、もう一つの“個人の幸福を最大化する”という思いは達成できなかった。コンサルタントとしてその企業をどう良くしていくかを考えることと、個人の幸福を考えることがマッチしなくなってしまったんですよね。それで最終的に、会社を辞めることにしたんです」
結局末吉さんは、そのコンサルティング会社を4年ほどで辞め、フリーランスとしてスタートを切った。そして仕事が軌道に乗り30歳を超えた頃、noteで発信し、セミナーを開催するようになる。
自己否定・自己不信という名の、心の中のゴミ
noteやセミナーを通じて若者たちと接する機会の多い末吉さんは、彼らから「自分に自信が持てない」「自分が本当にやりたいことがわからない」といった声をよく聞くそうだ。そんな若者たちの悩みを、彼は「自己否定や自己不信の産物」だと考えている。
「自己否定や自己不信って、人は生まれた時には持ってないんですよね。どこかのタイミングで、両親とか、先生、上司、メディアとかから、つまり自分以外の何者かの影響で、刷り込まれたものだと思うんです。これらを“デトックス”していくことができれば、人は幸せに生きれるはず。自己否定や自己不信って、心のゴミみたいなものです。それが物としてのゴミなら目に見えますよね。家がゴミ屋敷になったら目に見えるから、ゴミがいっぱいだな、って分かる。でも心の中のゴミって、見えにくいんですよ。心の中にゴミが溢れていても、人はそれに気づかないまま生きてたりする。でもそれらを書き出して、発信することによって、それに自分で気がつくんです。自分の目に見えてくるんです。それらのゴミを、心と頭の中から断捨離するように、一つずつ捨てていくといいんです」
心と頭の中の断捨離。その具体的な方法も教えてくれた。まず自分の心の中にあるネガティブな思考、「自分には価値がない」「やりたいことが見つからない」「発信したのに誰もフォローしてくれない」などを、すべて紙に書き出していく。そしてそれを、ゴミ箱にポイ!っと投げ捨てるのだそうだ。「自分もそれをやってきましたし、人にも勧めてるんですけど、これをやると、自己否定感とか自己不信感とかが、心の中から実際に消えていきますから、ホントに。ぜひやってみてください」
発信することの意義
2024年に『発信する勇気』(きずな出版)を上梓された末吉さんに、「発信する」ことにどんな意味や意義があるのか、お尋ねしてみた。
「数年前、関西のある大学で講演させていただいた時には、こんな話をしました。『自分自身の、日々のプライベートの中での気づきとか学び、そういったものを“自分のために”発信するのが大事だよ』って。そうすることで、世界の見え方が変わってくるというか、解像度が上がってくるんです。誰かを喜ばせたり、役に立つための発信でなくてもいい。最初は自分のために発信するのが良いんじゃないかって、私は思っています」
“解像度が上がる”とは、最近よく耳にする言葉だが、その感覚を分かりやすく、噛み砕いて説明していただいた。
「自分が何を考えているのか?っていうのは、誰でも大体は分かってるわけです。ぼんやりとは見えている。それを、紙に書き出していくという作業をすると、その内容を客観視できるようになってきます。つまり、自分が何を感じて何を考えているのかがハッキリと見えてくる。それが、解像度が上がるっていう感覚です。人って、私もそうですけど、考えているようで実は考えてなかったりすることがあると思うんです。でも書くことによって、自分が何を考えているかが明確になってくる。書かないと、考えてはいるんだけど、何を考えているかが明確にはならないんですよ。さらに“発信”ということをやることによって、自分の気持ちも、考え方も、世界の見え方も、すべてが変わってくるんですよね」
末吉さんのノート。彼は常にこれを携え、その時々の思いを書き連ねている。
この“書いて発信する”という作業は、新社会人にとっても有効なはずだと、末吉さんは考えている。
「社会に出れば、大変なこと、ネガティブなことにもたくさん出合うでしょう。上司とぶつかったりするかもしれません。そんな時、ペンネームでも良いので、書いて発信していくと、俯瞰で自分を見つめることができて、感情に巻き込まれにくくなると思います。自分のことも上司のことも、冷静に見られるようになるんです。
例えば、人に怒られてイラっとすること、ありますよね。そんな時、人はイラッとしたまま生きていることが多いんです。だけど発信することによって、ひと呼吸おくことで、客観的に状況が見れるようになって、『上司はあの時なぜ怒ったのか?』『自分はなぜイラッとしたのか?』が見えてきます。そういう意味で、発信するということは、新社会人の方にとっても、意味があるんじゃないかなと思いますね」
学生時代から新社会人時代を経て今に至るまで、全力で駆け抜けてきた末吉さんは、彼が書く“穏やかで優しい”文章とは違って、実に“熱く激しい”人だった。おそらく、いつも心に熱い思いを抱きながらも、それを冷静に見つめ直し、ひと呼吸おいてから発信しているのだろう。だからあんな、読む人の心が潤されていくような、温かい文章が書けるんだなと、合点がいった。
取材・執筆:宮川貫治
撮影:阿部拓朗

著者、コンサルタント
中小企業から一部上場企業1000人を超える経営者、管理職のコンサルティングや企業研修を経て独立。著名人から一般の方々のコンテンツ制作やプロデュースを手掛ける。現在は書籍の執筆やセミナー事業を通じて、個人・法人を問わず、発信活動のサポートを行なっている。
X @hiroomisueyoshi
note https://note.com/sueyoshihiroomi
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