定年後に夢を叶えるなんて“もう遅い”、なんてない。
定年退職後、かねてからの夢であったキャンピングカー旅や海外ひとり旅を謳歌するCamper-hiroさん。旅の様子や定年後の過ごし方を発信するYouTubeチャンネルは、多くの視聴者から熱烈な支持を受ける、67歳のYouTuber(2022年9月現在)でもある。年齢を重ねても自分のやりたいことを実現するためには、どのような心構えが必要なのだろうか。ご自身の経験を語ってもらった。
※この記事は「もっと自由に年齢をとらえよう」というテーマで、年齢にとらわれずに自分らしく挑戦されている3組の方々へのインタビュー企画です。他にも、YouTubeで人気の柴崎春通さん、近藤サトさんの年齢の捉え方や自分らしく生きるためのヒントになる記事も公開しています。
人生100年時代を迎える日本において、定年後の生き方は大きなテーマになっている。仕事という束縛から解放される一方で、健康および経済的な不安、燃え尽き症候群などの精神的理由により、 自分らしく生きられない人も多い。自由に老後を楽しむことは、必ずしも容易ではないようだ。こうした実情に対し、Camper-hiroさんは「年齢と自分らしさは、本来関係ない」というメッセージを伝えている。
第二の人生で、「不安」は充実の天敵。
今”を楽しむことを大切にしてほしい。
本当にやりたいことを考え抜き、キャンピングカー旅(や、海外ひとり旅)にたどり着く
約3万4000人のチャンネル登録者数(2022年9月現在)を誇る、YouTubeチャンネル「Camper-hiroTV」。第二の人生の生き方、定年後の過ごし方、車中泊旅やキャンピングカー旅の様子といった動画が公開され、着実にファンが増加している。チャンネルを運営するのは、現在67歳のCamper-hiroさん。1週間に1度程度、マイペースで動画を制作しているそうだ。
「大切にしているのは、自分の体験をベースに発信し、第二の人生の楽しみを伝え、楽しんでもらうということ。2年半前から始めたのですが、いつの間にか視聴者数が増えていました。私にとって、一つのライフワークになっています」
Camper-hiroさんが定年後の人生を考え始めたのは、51歳のことだった。きっかけとなったのは、本で出会った「あなたの好きなことはなんですか?」という言葉。お金や時間などの制約を抜きに、本当にやりたいことを自由に考えてみるという問いかけだ。
「定年後は好きなことをしたいという思いはありましたが、いざ真剣に考えてみると、意外と難しかったんです。その答えは幼少時代にありました。海や山で遊ぶのが大好きで時間を忘れて没頭していた記憶が甦り、その体験を同じ様にできるのが『キャンピングカー』だった訳です。やりたいことはたくさんあるものの、たっぷりと時間があるのだから、長い間続けられることにしたい。思いついたのが、キャンピングカーで好きなところに旅する生活でした。それから少しずつ準備を始めてみたんです」
当初、新車のキャンピングカー購入を検討するも、高額であったことから断念。代わりに購入したキャンピングトレーラーは、運転のしづらさや単身赴任により売却した。しかし、どうしても諦めきれず、再び500万円のキャンピングカーを購入。定年となる60歳を手前に、夢を一つ叶えた形だ。
「少しだけ無謀だったかもしれませんが、『お金がなくなれば働けばいい』と考えていました。実際に定年後、61歳から65歳までは市役所の臨時職員や公営施設の契約職員として勤務しています。60歳で定年退職をした年には、さっそく北海道をはじめ、さまざまなところへ出掛けました。妻や愛犬を連れ、時間を忘れて自由な旅を楽しみましたね」
65歳で公営施設を退職したCamper-hiroさんは、タイに一人旅をしている。ツアーを利用せず、全て一人で旅程を考えた。
「娘が人生に悩んでいて、『一人で海外に行ってみたら?』と声を掛けたんです。アメリカに1カ月、ホームスティで行ったのですが、ものすごく自信を持って帰ってきました。『私も若ければ、一人で海外に行っていたな』と、羨ましく思ったのと同時に、『なぜ65歳で行ってはいけないんだ』『そうか、65歳で行ってもいいんだ』という考えも芽生えたんです。一念発起でタイに行ったわけですが、そのワクワク感は今でも忘れられません」
現在はセレナをカスタマイズして旅をすることががメインとなったというCamper-hiroさんだが、車の旅の醍醐味は、「自分の好きな場所に行けること、自分を解放できること」だと熱弁する。
「どこで休み、何を食べ、次にどこへ向かうのか。全て自分で決められる。夜通し走ったって構わないわけです。自由な状況に身を置くことが、私にとっては最大のよろこびなのかもしれません」
YouTubeで出会った、本音で語れる仲間たち
定年後のCamper-hiroさんにとって、もう一つのやりがいとなっているのが、YouTuberとしての活動だ。キャンピングカー旅とともに始めたブログから、YouTubeに軸足を移したのも、65歳の時だった。
「タイ一人旅の道中、喋りながら撮影するところから始めました。次にこれまで行った旅の動画も編集して公開し、少しずつ楽しくなっていったんです。その後、『第二の人生の始め方』をテーマに、定年後の過ごし方にについて考えを発信したところ、ものすごい反響に。老後に不安を感じている人は多いのかもしれないと、現在もシリーズを継続し、80万回再生を超えた動画もありました」
こうして“旅の動画”と“第二の人生”の二軸でYouTubeが運営されているが、それぞれの視聴者層は異なるそうだ。“旅の動画”は若い世代から高齢者に、“第二の人生”は比較的高い年齢の世代がメインとなっている。コメント欄に寄せられる温かいメッセージも、Camper-hiroさんのモチベーションになっている。
「見ず知らずの大人同士が、突然本音で話をすることは、日常世界ではまずありません。しかし、インターネットではそんなコミュニケーションが可能になる。『力をもらいました』『癒されます』『ためになります』と言ってもらえるなら、いくらでも役に立ちたいです。そんな思いでYouTubeを続けてきました」
こうして少しずつファンを増やしていった「Camper-hiroTV」。最近は広告収入を得られるようになり、資金は次の旅に充てられる。
「あくまで趣味として始めたので、最初は1000人を超えただけで感動していました。一度見てくれた方でも、もう一度(もっと)見たいという思いがあるからチャンネル登録をしてくれる。そういう輪が広がっていく感覚が嬉しいですね」
一歩踏み出してみれば、ほとんどのことは実現できる
日々アクティブに活動するCamper-hiroさん。YouTubeを通じ、同世代の本音に触れるうちに、「自身の考えも明確になっていった」と話す。
「今まで仕事一本で生きてきた人が、突然『好きなことをできる』と言われても、『何をしたらわからない』というのがほとんどではないでしょうか。会社や家庭の事情により、本当の自分を封印して生きてきた人もいるでしょう。そんな時には、目標を無理やり立てるのではなく、まずは自分と向き合うことが有効だと思います。そして、『今』を一番大事にし、本当の自分を表現していく。このように行動をすることで、それがかけがえのない『思い出』になり、人生を彩ってくれるはずです」
Camper-hiroさんはこれまでの経験により、不安を持たないことの大切さを感じてきた。
「『病気になったらどうしよう』『老後資金が不足するのではないか』といった不安は生じます。でも、『不安』というのは自分が作り出した幻想。それを考える時間は、やっぱりもったいないんですね。人間ですから、いつかは死ぬわけですし、病気も怪我もします。私も一流企業に勤めていたわけではないので、人並みよりも給料は少なかった。しかしマイナスの側面ばかりを考えていると、人生を充実させられません。そうした意味でも、『今』を優先すべきだと思いました」
自由な生き方を実践するには、家族の理解も欠かせなかった。多くの時間を共に生き、旅にも同伴してきたパートナーに対しては、どのような思いがあるのだろう。
「妻には感謝しかありません。キャンピングカーも家も、共働きしたお金で購入していますし、単身赴任に対しても理解がありました。家族の協力なくしては、自分だって好き勝手できないわけです。『ありがとう』という言葉と気持ち、これだけは大切にしてきたつもりですが、妻を幸せにすることが、自分が幸せになる秘訣だと、私は信じています」
敬老の日を目前にしたインタビュー当日、Camper-hiroさんは「自分が歳をとったとは感じない」と楽しげに語っていた。誰もが平等に与えられる“年齢”に対しては、どのように考えているのだろうか。
取材・執筆:相澤 優太
撮影:大山 真実
1955年1月生まれ 岩手県宮古市出身 陸中海岸「浄土ヶ浜」で泳ぎを覚える。中学の時、親から経済的に大学進学は無理だと言われ地元の商業高校を出て上京。大手印刷会社を1年で辞めアルバイトをしながら國學院大学二部を卒業。大手電機メーカー、住宅販売会社を経験し、販売促進会社を60歳で定年退職。1年間、自由を満喫し、その後約4年間、市役所の臨時職員、公営体育施設等で65歳で2度目の定年退職。タイひとり旅をキッカケにYouTubeを開始。定年後の過ごし方、旅動画を週1回のペースで動画投稿。現在チャンネル登録者34,000人。
Youtube Camper-hiroTV
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