ビジネスと社会課題解決はトレードオフ、なんてない。

大学卒業後、東日本大震災のボランティア活動に従事したのちにピースボートに乗船し世界一周。国際機関での人道支援活動をしながら、一般社団法人Social Innovation Japanを設立、同団体の代表理事理事長を務めるルイス ロビン敬さんは、身のまわりにある小さな気づきから社会問題の解決にアプローチし続けている。同社が運営する「mymizu」は使い捨てプラスチックの消費を減らすこと、人々の消費行動を変えることをミッションとする給水プラットフォームだ。今回はそんなサービスを運営するロビンさんに循環型社会への道筋を伺った。

日本では一日あたり約6900万本のペットボトルが消費されている。年間約233億本もの数になる。ペットボトルのリサイクル率(※)は88.5%なので1年間に約30億本のペットボトルが回収されずに捨てられている計算だ。(2020年度時点)昨今、世界的に環境への意識が高まっているが、まだまだ私たちの生活の中には見過ごされている“小さな環境問題”が存在しているのである。私たちが循環型社会を実現するためにはどんなアクションを起こしていくべきなのだろうか?

参考:リサイクル率の算出|統計データ|PETボトルリサイクル推進協議会

私たちが目指しているのは、テクノロジーとコミュニティをつなぎ、循環型社会実現のための新たなムーブメントを起こしていくこと

Social Innovation Japan代表のロビンさんが“社会課題”へ向き合い始めたのは大学卒業後すぐのことだった。今でこそ、ビジネスを通じて社会貢献を行うという価値観が一般化したが、当時は両立するのが困難なものとして受け止められていた。そんな時、出会ったのがグラミン銀行創始者のムハマド・ユヌス氏だ。

「大学では経営学を専攻していましたが、“利潤を最大化すること”を第一義とする価値観に疑問を抱いていました。そんな時、ムハマド・ユヌス氏の講演を聞く機会に恵まれました。ビジネスセクターとソーシャルセクターの間にこそ希望がある。そうした彼のメッセージに、自分の歩むべき道を示していただいたような気がします」

とはいえ、すぐに社会起業家としての道を歩み始めたわけではない。まずは、さまざまな社会経験を積まなければと民間企業に就職。その後、ロビンさんはピースボートに乗船し、地球を一周しながら、世界のさまざまな問題をその目で見てきた。帰国後は国際機関に就職し世界の防災・人道支援事業に携わることに。Social Innovation Japanを友人二人と立ち上げたのは、同機関に在籍中のことだった。

「当時在籍していた機関では、アジアやアフリカを中心に困難な立場に立たされてしまった人々の支援を行っていました。しかし、大きな組織の中では、その一部を担うことしかできない。その仕事にやりがいを感じていたものの、僕の中で社会的にインパクトを与えるビジネスを起こしたいという気持ちが膨らんできたんです。

ピースボートや国際機関で経験を積むことで自分ならやれるという自信もついてきた。今やらなければ後悔する。そんな思いで、Social Innovation Japanを立ち上げました」

サービスを通じて消費文化を変えたい

Social Innovation Japanが運営するmymizuは、“使い捨ての文化を変えるためのサービス”なのだとロビンさんは語る。マイボトルを持ち歩くユーザーが、登録された全国約1万カ所の給水スポットで水を補給する。そんなライフスタイルが定着することで、自然にペットボトルの使用量が削減されていく。“CO2削減”や“循環型社会の構築”といった未来像を見据えながら、一人一人の消費行動の変化を促すことで、社会貢献を行っている。そんな静かな改革を、ロビンさんは推し進めているのだ。

このサービスの生まれた背景には、ロビンさん自身の原体験がある。海岸を散歩していた際に見かけた、大量のプラスチックごみ。中でも一番多かったペットボトルの存在に着目し、まずはこのペットボトルを削減することにアプローチしようと、サービスの構想を練り始めた。大きな社会問題は、小さな個人の行動の積み重ねに過ぎない。そんな思いからmymizuというサービスが生まれたのだ。

「mymizuというサービスは行動を促すためのきっかけに過ぎません。私たちが目指しているのは、テクノロジーとコミュニティをつなぎ、循環型社会の実現のための新たなムーブメントを起こしていくことなんです。多くの人を巻き込み、行動を促していくことで、初めて私たちの描いているビジョンが達成できます。そう考えた時、生活の中で誰もが使っている“水”は社会問題を考える上ではとても良い入り口になると思いました。顔を洗う。歯磨きをする。料理をする。お風呂に入る。身近にあるけれど見過ごされているもの。そこにブレイクスルーがあると考えたんです」

自ら経営に携わる中でロビンさんが感じたのは企業の掲げる“ミッション”の重要性だった。mymizuのミッションに共感してくれるユーザーを増やすことが、循環型社会の実現への第一歩なのだという。

「ソーシャルビジネス(社会的企業の一種)においては強固なミッションがなければ、仲間もユーザーも集まりません。もちろん、サービスが成長することはまずないでしょう。ミッションにどれだけ共感してもらえるかは、ソーシャルビジネスを行う上での要とも言えます。

ハーバード大学のエリカ・チェノウェス教授が提唱した“3.5%の法則”というものをご存じですか? 人口のうち3.5%がアクションを起こせば、その社会運動は一定の成果を上げることができるという研究結果から導き出されたものです。日本の人口の3.5%は約430万人。これだけの人たちがコミュニティとして集まり、積極的にマイボトルを使って給水をしたり、他の人たちに勧めたりしている状態を作ることができれば、mymizuを通してこの使い捨てが当たり前の文化自体を変えることができるのだと考えています。現在何かしらの形でmymizuに参加している人は約90万人ほどですが、2年以内にこの数字を達成することを目標にサービス拡大に注力していきます」

「環境問題」という“当たり前”を見直す

循環型社会を実現するというミッションを達成するために障壁となるのが、今の社会で“当たり前”とされている価値観なのだとロビンさんは続ける。ペットボトルを使い捨てること。プラスチック包装された食材を買うこと。現在当たり前になっているこうした価値観から脱却し、まずは“環境問題”を身近なものとして捉え直す。そうして初めて個人のアクションにつながっていく。

「環境問題のほとんどは自然に発生したものではなく、人間の経済活動から生まれたもの。まずは環境問題ではなく、“人間問題”だと認識することから始めないといけません。そうすることで、初めて社会問題や環境問題を“自分のこと”として考えることができ、地球の裏側で起きている“遠くの問題”ではないことに気づきます。

マイボトルを持ち歩くことの他にも、簡単に行えるアクションはたくさんあります。例えば、自分が食べているものの生産背景を知ること。ヴィーガンにならないまでも、口にするものはごく自然に変わっていくはずです。また、生活に使う電気を再生可能エネルギーに替えることもおすすめしたいですね。インターネットですぐ申し込めるし、実は特別かかる費用もありません。投資を行っている人は石炭・石油エネルギーに投資している企業の割合を減らすなど、“環境”という観点からポートフォリオを見直してみてはいかがでしょうか。簡単に行える“社会貢献”がこんなにあるのだと、まずは多くの人に知ってほしいと思います」

ビジネスと社会課題解決はトレードオフではない

Social innovation Japanでは、mymizuというサービス運営の他、社会起業家の支援を行うことで循環型社会の実現に取り組んでいる。ロビンさんが合言葉のように口にするのが“Think big, start small”(大きく考えて、小さく始める)という言葉。いきなり社会に大きなインパクトを与えることは難しい。そこで、まずは自分の家族や友人といった身近なところから変化を起こしていく。小さな変化が積み重なることで、やがて大きなムーブメントにつながっていくという考え方だ。

「さまざまなツールやサービスが増え、やりたいことを実現する環境は以前よりも整ってきています。スモールチャレンジでもいいので、どんどん行動に移していくべきです」

また、ロビンさんは支援先の社会起業家にセルフケアの重要性を説いている。社会起業家の中には生活を顧みずに働く人が多い。その結果、メンタルヘルスの問題を引き起こすというケースも少なくない。より良い社会を実現するために、自身の生活を犠牲にする必要はない。むしろセルフケアをしながら、楽しみながら活動することこそが、事業の成功につながるのだという。

「仕事に全力を注ぐことと、仕事に生活を捧げることはイコールではありません。できるだけウェルビーイングに社会を変えていくアクションを起こしてほしい。そうでなければ、継続することは難しいと思うんです。継続できなければ社会にインパクトも生み出すことはできないですからね。自分のこともケアしながら、ヘルシーにアクションを起こしていく。そうした考え方が当たり前になっていくはずだと信じています」

仕事か生活か。ビジネスか社会貢献か。そうしたトレードオフの考えに縛られることのない新たな道を、ロビンさんは切り開いていく。

かつて起業家は24時間働き、利潤を追求するものという価値観が一般的でした。しかし、今はそうした古い考え方に縛られる必要はありません。自身の人生や生活を大事にしながら、ビジネスを通じて社会貢献をする。それがスマートだと思いませんか? これからの時代は、そうした考え方が主流になると信じていますし、これからの社会を担う若い世代には二者択一ではない柔軟なマインドを期待しています

取材・執筆:高橋直貴
撮影:阿部健太郎

ルイス ロビン敬
Profile ルイス ロビン敬

プラスチックの消費削減をミッションにした、日本初の無料給水プラットフォーム「mymizu」の共同創設者。また、一般社団法人Social Innovation Japan代表理事理事長。世界銀行(気候変動グループの分野)や国連開発計画(UNDP)のコンサルタントとしての経験を含め、これまでに20カ国以上における国際機関、社会的企業、NGOで活動した経験を持つ。ハイチ、ネパール、バヌアツ、モザンビークなどの国々では人道支援活動を管理し、持続可能な開発に関連する多数の国際事業にも携わった。2017年には東日本大震災からの復興を記録するため東北の海岸沿い600km以上の距離を自身で歩き「Explore Tohoku」プロジェクトを立ち上げた。SHIBUYA QWS Innovation協議会理事。Youth4Nature理事。TEDx スピーカー。MITテクノロジーレビュー主催のアワード「Innovators Under 35 Japan 2020」において、未来を創る35歳未満のイノベーターの一人に選出された。エジンバラ大学国際ビジネス学修士課程卒業。

Twitter @robintlewis

オフィシャルサイト
https://robin-lewis.com/
https://www.mymizu.co/

2022/01/31 ビジネスと社会課題解決はトレードオフ、なんてない。

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