LGBTQ+を支えなきゃ、なんてない。
株式会社Queendomの代表取締役として女性マーケターやSNSコンサルタントとして活躍する傍ら、SNSでは16,000人以上のフォロワーを持つインフルエンサーでもある加藤綾さん。LGBTQ+を意識するきっかけとなった学生時代から、起業に至るまで、そこではどのような思いを抱え、どんな社会課題と向き合ったのか、本人に伺った。
厚生労働省が今年5月8日、国の事業として初めて職場におけるLGBTに関する実態を調査し、調査結果や企業の取組事例をまとめた報告書を公開した。その中で、職場でLGBTをカミングアウトしない理由について「LGB」の32.1%、「T」の32.9%が「職場の人と接しづらくなると思ったから」と答え、差別や偏見が根強いことが示唆されている。また、報告書では、性的マイノリティは雇用の現場で不利益を被りやすいため、就業継続が難しくなり、心身に支障をきたすこともある一方、当事者の困難は周囲に見えにくいため、企業による取り組みはなかなか進んでいないと指摘されている。こういった既成概念や社会課題について加藤さんは、どのように向き合い、そして今、解決するためにどんな取り組みをしているのだろうか。
LGBTQ+は認知されてきたが、新たな既成概念も生まれた
加藤さんが性的マイノリティであることを初めて意識したのは、高校生の時だったという。
「小さい頃から私は“男女問わず人が好き”というタイプの人間で、LGBTQ+について意識することは当時はまったくありませんでしたが、その後、女子校の高校に進学して高校2年生の時に初めて“彼女”ができたんです。それ以前に男性と付き合ったこともありましたが、女の子だから男の子だから付き合えるというよりも、その人と一緒にいたら幸せだな、その人の一番でいられるっていいなという感覚でお付き合いしていました。また、高校がスポーツの強豪校ということもあり、ボーイッシュな女性が比較的多く、女性同士が触り合ったり抱きついたりということが日常的に見られ、その中で生活していたこともあり女性とお付き合いすることは自然と周りから認められていました。今振り返るととても恵まれた環境にいましたね。レズビアンという言葉自体は知ってはいましたが、『私はレズだ』という考えよりも『女性とも全然お付き合いできるな』と心のどこかで思っていたくらいの意識で過ごしていましたね」
しかし、当時はLGBTQ+に対する理解が今ほど深くなかった時代。周囲から心無い発言を受けたこともあったという。
「20年くらい前はLGBTQ+に対する周りからの偏見は今よりもやはり強く、例えば『ゲイの友達は2人でホテルに泊まれない』や『男性同士の旅行はちょっと』なんてよく言われ、男性同士で家を借りるのもすごく大変だった印象があります。私自身も『男性にモテないから女の子を好きになるんでしょ』『男の子と付き合う良さを知らないから女の子と付き合うんでしょ』なんて言われたこともありましたが、先ほどもお話しした通り恵まれた環境下にいたこともあり、差別的な視線を感じたり、辛かった経験をすることは正直そこまでありませんでしたね」
高校卒業後は大学へ進学し、テーマパークのアルバイトなどを経て、23歳の時に地元・名古屋へ戻った加藤さん。その時に起業をすることになるのだが、きっかけとなったのは一冊のフリーペーパーだった。
「ある日、無料求人誌を読んでいた時にネイルサロンを起業することを思い付いたんです。というのも、ネイルサロンの予約を取ろうと誌面の隅から隅まで電話をかけたのですが、30〜40件かけても即日の予約が取れなかったんです。ふと各店の営業時間を確認すると営業時間が『10時~17時』や『10時~18時』のお店が多いことが分かりました。これをヒントに、『朝まで営業しているネイルサロンがあればきっと行きたいと思う人も多いだろう』と考え、飲み屋街である名古屋市内の錦エリアに、朝5時まで営業するネイルサロンを出すことにしました。出店後、しばらくして女性向けの商品開発をしている知り合いの経営者から、利用客のリピート率について聞かれたことをきっかけに『マーケティング』について興味を持ち始め、ブログなどを使って宣伝していきながら徐々に仕事をマーケティングへシフトし、2010年に株式会社Queendomを設立しました。25歳の時でした」
まずはLGBTQ+について知ってもらいたい
現在、マーケターやSNSコンサルタントとして活動するQueendom代表取締役の加藤さん。SNSを用いてさまざまな発信をしているが、LGBTQ+についても言及している。
「より多くの人にLGBTQ+について知ってもらいたい……というよりももっと周りに目を向けてほしいと思って私はSNSと関わっています。LGBTQ+の人たちにとって、“自分らしいLIFE”を送ることを拒む既成概念は“知らないこと”。でも、知ることによって、自分の周りにもLGBTQ+の人がいるかもしれないという配慮や優しさに変えられる可能性が上がる。例えば、女装して街を歩く男性。よく顔を見ると、頑張ってメイクはしているけれどあまりうまくいっておらず、そこだけを見た人は『気持ち悪い』なんて思ってしまう。よく考えてほしいのですが、メイクだってファッションだって、プロの手を借りずに自分の知識だけでやってみて、頑張って女の子になりたいって人がいるわけです。このことを知っているだけで、彼らへの見方はかなり変わるはず。私はSNSを通じて、大きくLGBTQ+を支えなきゃ!ということではなくて、自分の周りにいるかもしれない、いたときにどう反応をすればいいのだろうか、と少しでも考えてもらえるように日々思いや考えを発しています。LGBTQ+の人たちがいるという事実をしっかりと受け入れる目を多くの人に持ってもらいたいです」
加藤さんにとっても欠かせないツール、SNS。時代が進むとともにLGBTQ+そのものや既成概念が変化していくなかで、大きな分岐点となったのはスマートフォンの普及、そしてSNSの台頭だと語る。
今、世の中の人たちが当たり前にSNSを利用していますが、SNSの発展によりLGBTQ+の人たちを見つけやすくなり、つながりやすくなったことは、私にとっても大きな分岐点になったと感じています。一概には言えませんが、LGBTQ+の人たちが彼氏や彼女が欲しい場合、ほとんどの人はどこで探せばいいか分からないんですよ。自分だけで悩んでしまっている人も多い。掲示板やオフ会で出会うケースも見られますが、SNSの登場によって圧倒的に簡単につながれるようになった。私の場合は、『相談できないから聞いてください』『女の子を好きになったんですけどどう告白していいか分からない』といった相談を受ける機会が増えましたが、私のように話を聞いてあげられる存在というのはLGBTQ+の人たちにとってかなり大きいと思います。そこから発展して、企業や学校でLGBTQ+の講習をやってほしい、会社の役員の方々に対して講習してほしい、新入社員研修で講義してほしいといったご依頼を受けます。SNSが一般化したことによって、応援できたりサポートし合える環境ができたことは画期的でしたね」
自己実現にフォーカスした社会を作りたい
LGBTQ+の認知度が上がり、彼ら・彼女らに対する偏見は薄れていったと話す加藤さん。しかし、まったく消えたわけではないため加藤さんの挑戦は続く。
「私は、自分が思ったことが思い通りにいく、思ったように実行していける社会を作りたいと思っています。生きているといろんな人が関わってくれて、そのことはとてもありがたいですが、その一方で、私たちは“右倣えの教育”を受けてきているので、どうしても“同調圧力”により引っ張られてしまう。周りにいる人に流されるのではなくて、自己実現にもっとフォーカスした社会が出来上がっていくといいなと考えています。自分が望んだことや、自分が本当に好きだと思った人と一生添い遂げられる社会を作っていきたいです。そのために、LGBTQ+についてもっと知ってもらいたいし、LGBTQ+に限らず私が良いと思うことを伝えるために、今後も私はさまざまな活動、そして挑戦を続けていきます。その中で、人を変えることは無理だし、既成概念をなくすことはおそらく難しいと感じています。反対に既成概念とどう向き合っていくか。既成概念を『なくす』ことはできないけど『伝える』ことはできるし、知ってもらうことはできる。周りの人もですが、私たち自身も意識を変えていく必要があります。時折、既成概念に負けて心折れてしまう人もいますが、それは自分のことを大切に思えないから。自分を大切に思っていれば『大切な私を傷つけたな』と言い返せる。自分自身のことを大切にしてほしいです」
加藤さんにとって今後の社会課題とは何か。
「LGBTQ+について親しみを持ってくれる企業は、昔と比べて明らかに増えました。とはいえ、就職で悩む人もまだまだ多いし、性同一性障害の人がホルモン剤を『実費』で打っている実情もあります。そういった人たちを救うために、制度自体が変わる必要があるのではないかと感じています。今後、『政治』という分野にLGBTQ+の人たちがどう関われるかがポイントになる。LGBTQ+の社会進出という意味ではまだまだ社会課題は多いです。なかには『私のことは放っておいて』という人も少なからずいますが、自分を隠さなくてもいい社会を作っていきたい。そのための制度作りが今後の鍵を握るのではないかと思います」
LGBTQ+について認知度が上がった一方で、新たな既成概念も生まれたという。
「オネエタレントの活躍もあり、LGBTQ+が知られるようになって『男らしさ』や『女らしさ』のほかに、最近では『LGBTQ+らしさ』という枠ができ、それ自体が既成概念になってしまっている側面があります。どれかに分断するのではなく、きちんとグラデーションになっていくといいなと思います。なので、私の会社ではグラデーションを意識した活動を行っています。性的マイノリティの人が10人いれば、10人それぞれLGBTQ+についての自覚は違い、それぞれの声はもちろん聞こえないし、重要であると捉えている人はほとんどいません。だけど、その人たちも社会の一員です。聞こえない声をきちんと拾い上げて、社会のなかに溶け込ませていくことが今の自分の課題だと思っています」
1985年生まれ、愛知県名古屋市出身。株式会社Queendom代表取締役。
2008年、23歳の時に名古屋市内に朝5時まで営業するネイルサロン「Cherish」を開き、ビジネスの世界へと足を踏み入れる。店舗経営を続けながらマーケティングの分野に徐々にシフトし、半年後に株式会社Queendomを設立。起業家、女性マーケター、SNSコンサルタントとして活動し、Twitterでは、20年6月現在、16,000人以上のフォロワーを抱えている。LGBTQ+についての啓蒙(けいもう)活動も行っている。
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