歳をかさねると挑戦できない、なんてない。 ―社是と経営理念以外はアップデートするLIFULLの“第2創業期”―
2023年12月21日、株式会社LIFULLは創業社長の井上高志が社長を退任し会長へ就任、社長の後任に伊東祐司が就任しました。社長就任後に伊東がまず取り組んだのは、これからのLIFULLを『第2創業期』と位置づけ、チーム経営を打ち出すことでした。
今回は「社会人としての土台をつくってくれた」という大阪支店での営業職時代から、最年少の32歳で執行役員に就いた当時までを振り返ります。常にチャレンジを続けてきた姿勢を聞くうちに、チーム経営を目指す理由と、年齢、性別、国籍などを超えた多様性あふれる組織づくりに至る思考の過程が見えてきました。
連載 LIFULLのリーダーたち
- 第1回代表取締役社長執行役員 伊東 祐司
- 第2回代表取締役会長 井上 高志
- 第3回CLO平島亜里沙
- 第4回執行役員CCO 川嵜 鋼平
- 第5回不動産転職事業CEO國松圭佑
- 第6回LIFULL HOME'S物件情報精度責任者 宮廻 優子
- 第7回LIFULL FaM事業 CEO 秋庭 麻衣
- 第8回LIFULL HOME'S FRIENDLY DOOR責任者 龔 軼群
- 第9回執行役員CPO 羽田 幸広
- 第10回執行役員CTO 長沢 翼
- 第11回LIFULL HOME'S戸建・注文事業CEO、Sufu事業CEO 増尾 圭悟
- 第12回執行役員CFO グループ経営推進本部長 福澤 秀一
- 第13回LIFULL HOME'S CPO、分譲マンション事業 CEO 大久保 慎
- 第14回LIFULL ALT-RHYTHM責任者 宮内 康光
- 第15回LIFULL HOME'S流通・売却事業CEO 古谷 圭一郎
- 第16回LIFULL 地方創生事業CEO 岡林 優太
- 第17回LIFULL Financial代表取締役社長 清水 哲朗
- 第18回LIFULL 取締役 宍戸 潔
- 第19回LIFULL 取締役、グループデータ本部長、CDO 山田 貴士
社長になって一番最初にやりたかったのは、様々な分野のスペシャリストがLIFULLの顔として表に出ていく制度づくりです。
大阪で人の温かさ、ビジネスの難しさとおもしろさを学んだ
――伊東さんは2006年に新卒で株式会社ネクスト(現株式会社LIFULL)に入社しました。なぜネクストを選んだのでしょうか。
ネクストの新卒採用トップセミナーに行って、井上(高志)の話に衝撃を受けました。自分がやっていることに自信を持って堂々とビジョンを語り、社会を変えていくと宣言する経営者に初めて出会ったんです。
印象に残っているのは、「ネクストでは早ければ5年でコックピットに座れる」という言葉です。大手企業の魅力は潤沢な資金と大きなリソースだけれど、入社して5〜10年ではジャンボジェット機の歯車かもしれない。一方で、ネクストなら飛行機の規模は少し小さいかもしれないが、5年でコックピットに座れる可能性があると話してくれました。私はコックピットに座る可能性に賭けたくて、ネクストに入社しました。
――そもそも伊東さんは、コックピットでチームを率いたいタイプだったのですか?
コックピットには座りたかったですね。私は、大学4年間で学んだことはゼロと言っていいほど何もしてきませんでした。本当に自己PRすることがなくて、「これから頑張ります」しか言えなかった。就活は、自分の無能さを知る修行のような期間だったし、自分が変わるラストチャンスだと思っていました。
――結果的に伊東さんはネクストに入社して、賃貸流通事業部(当時)の営業職に就きました。それから10年後、32歳で営業部長と執行役員に任命されます。この間にどんな経験をしてきたのでしょうか。
まずは、大阪支店で働いて商売人の人情に触れた経験が大きいです。入社して半年間は東京で働いていたのですが、その後、大阪支店に異動しました。私のビジネスの礎と人間の土台をつくってくれたのは、大阪での3年半の経験です。
東京では、トークスクリプトを丸暗記して営業をしていました。お客様は私に興味があって商品を買うというより、そんなに高くないから買ってみようという感じでした。それが、関西に行ったら丸暗記の営業は通用しなかった。今も覚えているのは、「HOME'S(現LIFULL HOME'S)が良いことはわかった。それで、伊東くんは私に何をしてくれるの?」と言われたことです。その時に、私がその場にいる理由をまったく考えられていなかったことに気づきました。逆に考えれば、私が何かできれば、そのお客様は私から買ってくれるわけです。それから行動が変わりました。
営業先で不動産会社の経営者と話す内容は、集客や採用に困っていること、課題にどう対応しているかなど、どこにも出ていないけど、確かな情報です。この情報が私の中に蓄積し、自分ごとになっていくにつれて、本当の会話が生まれました。そこからは、おもしろいように売上が伸びていきました。大阪でお客様と深く繋がる楽しさと苦しさを知り、深く関わるほど大きな期待をかけてもらえることを学びました。
真っ先に手を挙げて、誰もやっていないことに取り組んできた
――その後、東京に戻って賃貸・流通事業部 流通ユニットの責任者になりました。コックピットに乗るチャンスを掴んだのですね。
はい。入社時の思いは忘れていませんでした。それに、一つの事業部の責任者を経験しただけではコックピットには届かないと思っていたので、良いタイミングでチャンスが巡ってきました。
当時の賃貸・流通事業部 流通ユニットは、料金改定という難しい状況にありました。HOME'Sから離れていくお客様が増えて事業部メンバーの士気も落ちていた時に、当時の上司から抜擢されて流通事業部の責任者になりました。3年で事業部を立て直すと誓い、退会した会社様へのヒアリングを元に新たな料金プランを立案しました。結果として、HOME'Sから離れていたお客様を呼び戻すことができて、事業部はV字回復を遂げたのです。その実績もあって、部長と執行役員の道が見えてきました。
――失敗して、コックピットが遠のくかもしれないとは考えませんでしたか?
入社してからは、誰もやっていないことを最初にやろうと決めていました。ですから、様々に立ち上がるプロジェクトに片っ端から参加していたんです。なにをしても、成功したら自信になるし、失敗したら経験を積んだと考えればいい。どんなことも真っ先に手を挙げることで、「伊東は断らない」と社内に認知されていきました。実際に私は流通事業部の責任者の打診を断らなかったし、おかげで道が開けて、32歳で執行役員になりました。今は、当時の上司が私に声をかけてくれたように、まっすぐに目を見て手を挙げている人にはチャンスを掴んでほしいと思っています。
抜擢されてきた自分だからできる「チーム経営」
――伊東さんは社長就任後に、「チーム経営」を打ち出しました。「手を挙げる人にチャンスを掴んでほしい」という思いを実践しましたね。
LIFULLには、優秀な人がたくさんいます。私が(社長になって)最初にやりたかったのは、様々な分野のスペシャリストがLIFULLの顔として表に出ていくこと。これがチーム経営です。私自身が部長や執行役員に抜擢されたように、スターを育てて輩出していきたい。これは、抜擢された経験のある私だからできることだと考えています。
それに、創業期に入社した“かわいい新卒”がバトンを受け取って、創業社長の真似で事業を続けて、20年後に次世代へバトンを渡すなんてかっこ悪いことは私も望んでいません。ダイナミックに、多様な人に光を当てていきます。
――伊東さんが考える多様な人が活躍できる組織とは、どんなものですか。
年齢や性別、国籍など目に見える多様性と、育ってきた背景や価値観など目に見えない多様性があります。いずれも押し付け合うと居心地が悪くなり、組織として弱くなっていきます。お互いの個性を認めながら、それぞれに望むものを要求し合うことが大切です。そして、多様性あふれる組織が実現すると、LIFULLで働きたい優秀な人が増えて、結果として業績が伸びていくと考えています。
――LIFULLは2024年4月18日に「“老い”の既成概念から卒業し、これまでの超経験を活かして働く」というステートメントで老卒採用をスタートしました。若手の抜擢に加えてシニア社員を増やすことで、多様性あふれる組織の実現が進みそうです。
若手の抜擢は私が社長に就任してから真っ先に取り組み、2024年4月1日にはプレス発表もしました。一方で、意識して取り組まないと巡り合えないのが60歳以上の層です。
今の60代は本当に元気です。私は、60歳以上の皆さんの労働力を使わないのは日本とって損失だと思っています。それに、不動産業界で定年まで勤め上げた方の知見はすごいということを私自身、身を持って知っています。実務取引の実績の豊富さも業界ネットワークも、フル活用しないともったいないですね。
――伊東さん自身は、年上の部下と働くことをどう捉えていますか。
私は25歳でグループ長になったので、長い間、年上の部下と一緒に働いてきました。今も、役員部長クラスの半数以上は私より年上です。そんな状況で学んだのは、グループ長も社長もあくまで“役割”だということです。役職があるから人間的に偉いわけではなく、社長という役割でチームを率いている。役職は人間として上か下かではないと割り切れると、リスペクトをもって接することができます。そうなれば、あとは人対人の付き合いですから、年齢も性別も国籍も気にしません。
“第2創業期”は、全員で成長していく
――社長を引き受ける時に、前社長の井上高志さんと約束したことはありますか。
井上から言われたのは、LIFULLの仲間たちのアイデンティティでもある社是の利他主義と、経営理念の『常に革進することで、より多くの人々が心からの「安心」と「喜び」を得られる社会の仕組みを創る』を変えないこと。この二つを下ろした瞬間にLIFULLはLIFULLではなくなります。
加えて、「自分に忖度しないように」と言われました。「創業社長が始めたことだから」「創業時からのルールだから」と不可侵の領域が出てくるとしたら、それこそ変えないとダメだと言われています。
――社長交代してすぐに、LIFULLで働くメンバーに「第2創業期だ」と伝えました。ここから変わるという決意を感じます。
私だけではなく、みんなにマインドチェンジをしてほしいと思って「第2創業期」と位置づけました。井上が1995年にネクストホーム(株式会社ネクストの前身)を創業して以来、ネクスト・LIFULL=井上高志なんです。みんな、何があっても最後は「井上さんが何とかしてくれる」という意識があったと思います。これからは私が二代目の社長ですが、井上と同じことができるかというと、まだ修行中です。私も頑張るけれど、皆さん自身も変わってほしい。LIFULLは創業オーナーがいる安定した会社ではなく、もう一度ベンチャー企業と捉えて頑張りたくて、第2創業期という強い言葉を選びました。
そして、私一人でどうにもならない部分はチームでやっていこうという意味でも、チーム経営を打ち出しています。みんなこれまで一緒に戦ってきた仲間です。私の強みも弱い部分も知っている人たちばかりだから、「伊東の弱い部分は支えるよ」と言える。そもそも、チームとはそういうものですよね。
――伊東さんは権高な雰囲気がありません。コックピットに座る自分を客観的に捉える姿勢が、新しい社長像だと感じます。
私は自分を良く見せようなんて思っていないです。でも、周りから見たら「LIFULLの社長」なので、思わぬところで勘違いをして天狗になるかもしれない。今は、仕事以外のコミュニティを持つことが大切だと感じています。マンションの理事会や近所の飲み会コミュニティなど、役職名が外れてフラットになる場に身をおいて、社長の肩書に麻痺しないことを大切にしています。
取材・執筆:石川歩
撮影:白松清之
大学卒業後、2006年株式会社ネクスト(現LIFULL)に新卒で入社。 HOME'S(現LIFULL HOME'S)の営業職として全国を飛び回ったのち、賃貸・流通領域の営業部長を経て、2015年には最年少の32歳で執行役員に就任。 その後、LIFULL HOME'Sの新規事業を創るべく新UX開発部を立ち上げ、Webだけに留まらないオムニチャネル戦略を推進させていく。 売買事業も含め事業成長を促進し、2019年にはLIFULL HOME'S事業本部長、2020年には取締役執行役員、そして2023年12月21日をもって、代表取締役社長執行役員に就任。
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