子育てと仕事の両立は難しい、なんてない。
LIFULL FaMの事業責任者を務める秋庭麻衣さん。2004年に、株式会社ネクスト(現株式会社LIFULL)に入社後、結婚・出産を経験する。2005年に社内第1号となる産休・育休を取得し、翌年復帰。子育てと仕事を並行させながら人生を歩むことを決断した。今もなお、自身がママである経験から、「育児のためにキャリアを中断しないといけない」という多くの女性を悩ませる問題の解決にアプローチする秋庭さん。働くママのためのサービスを創り出した背景に迫る。
(2021年4月14日加筆修正)
社会問題の一つとして、かねてより多く取り上げられている「子育てと仕事の両立」。人口研究などを行う、厚生労働省の施設等機関「国立社会保障・人口問題研究所」の発表(2016年)によれば、結婚・出産後も仕事を続けたいと考える女性は年々増加傾向にあり、実際に出産後も継続して就業する人の割合は79.1%(育休後復帰含む)。しかしその一方で、出産を機に退職せざるを得ない人の割合は20.9%と、約2割の女性たちが仕事を辞めざるを得ない状況となっている。産休・育休後も、スキル不足などから就職難に陥るなど、問題はいまだに山積み状態だ。そんな社会において、LIFULL FaMは、「出産で仕事から離れたママたちが、子連れで出勤し、自分のペースで働きながら、スキルアップもできる職場」を提供している。自身も1児のママである秋庭さんに、事業提案に至った背景や社会課題への取り組み、未来に向けての思いを伺った。
子育てしながら働くママは
きっと不安に思っている
2004年に株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)に新卒1期生として入社した秋庭さん。翌年、結婚・妊娠により産休、育休制度を取得した。この制度を社内で利用したのは秋庭さんが初めてだったという。出産や子育てを機に「キャリアを中断せざるを得ない」と考える女性は当時も今も多いが、秋庭さんは子育てをしながらキャリアを積んでいく道を選んだ。
「妊娠については正直自分でも驚きを隠せませんでした。当時は寝ないで働く覚悟で入社したので、子育てがマイナスになるとしか思えなかったというのが本音ですが、上司をはじめ社内の人たちに相談したら励まされ、むしろ会社としても出産した女性も活躍できるということをアピールしたいと後押ししてくれました。なので仕事を辞める選択肢は私の中ではありませんでした。育休中は、会社員として戻ったときに子育てと両立できるかという不安はありましたが、会社としても法律で決められている規定の範囲内でしかサポートできない状態だったので、今後私以外でも子育てする人がきっと不安に思うのではないかと思い、子育てに対する支援制度のようなものを作りたいと思うようになりました。復帰時に支援制度の構想について代表の井上(高志)に話に行くと『やってみよう』ということになり、復帰後、私は新卒採用担当として人事の仕事をしながら支援制度導入についても進めていきました。そして入社から6年がたった2010年、LIFULL FaMの前身となるモデルを、社内の新規事業提案制度で提案して優秀賞をいただき、2014年に会社化しました。当時は自分で事業を推し進めたいというよりも、自分ができることで会社に貢献したいという気持ちが強かったです」
経験を生かし、課題解決に向けて事業を立ち上げ
2014年10月、株式会社LIFULL FaMが設立。当時は「ママとパパがチームになって子育てしよう」をコンセプトにしたコミュニケーションアプリを主に運営していた。現在は、子連れでも出勤できるオフィス運営や、WEBマーケティング分野でスキルアップできる「ママの就労支援事業」に取り組み、企業コンサルティングなども実施している。子育て中でも転職や復職に有利になるスキルを身に付けられる仕組みを作った。
「『子育てと仕事を両立したい人をサポートしていくことが人生のビジョンである』ということを改めて決断し、会社を設立。ママとパパの子育ての『連絡帳』となるアプリを運営していました。当時、私の子どもの年齢は9歳で子育てという意味では落ち着きつつありましたが、まだ子どもが小さいときは仕事が忙しくなると迎えが遅くなり、『ごめんね』と思っていました。そもそも会社に対しても常に申し訳ないなと感じていました。この申し訳ないという気持ちがとてもつらくて、常に自分の中で葛藤がありました。これをなくすために考えたのが連絡帳アプリだったんです。実は2012年に離婚を経験したことも私の中で大きかったです。子どもが熱を出したときに、もう一人の親であるパパがもっと活躍してくれればなと感じていました。私はパパを巻き込めずに結局離婚。育児に対してパパが自然と自発性を持ってくれるようなツールが必要だと感じていたんです。周りにいる子育てしながら働いているママたちの葛藤は痛いほど理解でき、『子育てと仕事の両立』という社会の課題がなくなっていないことを感じました。働いているママたちが日々葛藤する社会を変えていきたい、むしろそれを仕事にしていきたいと思いました」
しかし、うまくいかないことだってもちろんある。一時、事業撤退まで覚悟したが、声がかかり別の形で事業を継続することができるようになった。どん底を味わった後は這い上がるだけ。日々大変なことを感じつつもただただまい進する。
「日々さまざまな業務に携わっているともちろん時間的な問題も精神的な問題もありますが、今の私の原動力は、『働いている人たちの笑顔』です。もともと大きなホテルの広報をしていたのに、子どもが生まれたことで仕事を続けられなくて辞めてしまったという人が、今一緒に働いてくれています。一度事務の仕事に就いたのですが、ホテルの広報のときほど業務内容が濃くなく手持ち無沙汰状態で。もっと仕事がしたいということでとても活躍しています。中には、9時半から13時半まで事務所で働き、子どもの幼稚園のお迎えと同時に帰宅、その後は在宅作業という働き方をしている人もいます。いま、子育てをしながらでもキャリアを積める、自分が輝ける仕事があると、私たちの働き方やビジョンに共感してくれる人が全国から集まりつつあり、福井県鯖江市や宮崎市にも事業を展開しています。そこでは多くのママたちが楽しそうに働いてくれていますし、共感してくれる人は全国にきっとたくさんいると思います。LIFULL FaMでは、それぞれのライフスタイルに合った働き方ができ、ここで働く彼女たちは確実にスキルアップしています。短い時間で今までのスキルを生かし、さらに新しいスキルを身に付けて活躍してほしい。ママをしていると、子どもに対してわかりやすく説明したり、時間管理に対してのスキルが付いたりと、ママだからこその能力を持った人たちが集まり、仕事に役立たせていると思います。もちろん、子どもが熱を出したときも、『今日もお休みしてすみません』というような罪悪感を感じにくい環境作りができているとも思います。そんな彼女たちから、『こんなに楽しく働ける場所があってよかった』と言われることが私にとって一番うれしいです」
働くママが輝ける世の中に
現在、LIFULL FaMは、東京都、鯖江市、宮崎市に拠点を置いて事業展開をしている。今後は全国に拠点を増やし、日本の働くママたちを応援していきたいと願っている。
「『子育てと仕事をハッピーに』を合言葉のように会社ではいつも口にしているんです。事業をやっているとどうしてもお金を稼ぐことに注力しがちになってしまいますが、この言葉を胸に日々精進しております。もちろん、私の経験を生かして世の中の力になりたいですし、全国の働くママたちをサポートしていきたいと思っています。今は、私たちのこの事業を全国展開するにあたっていろいろと準備をしなければいけないのですが……私自身が現場にいるのがすごく好きで、一緒に働いているみんなと日々過ごしていると、心のどこかでは現状に甘んじてしまいそうになります。自分自身のこういった課題とも向き合いながら、全国の働くママを支援していきたい。子育て中のママでもキャリアを積んでいけるし、ママだからこその経験やスキルを生かしていけばきっともっと活躍できるはず。働くママが今よりももっと輝ける世の中に変えていきたいです」
株式会社LIFULL 地方創生推進部 FaMグループ グループ長。
株式会社ネクスト(現株式会社LIFULL)に新卒で入社し、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現LIFULL HOME'S」の営業を経験。社内第1号となる産休・育休を取得し、復職後に経営陣に自ら新たな子育て支援施策を提案し、社内制度を立案。時短勤務を続けながら人事部で新卒採用や人材育成を担当し、管理職としてメンバーのマネジメントを経験。
仕事と子育ての両立で直面する問題を解決したい、という強い思いから2014年10月にネクストから100%出資を受けて「LIFULL FaM」を設立。ママが子連れで働き、スキルアップする「ママの就労支援事業」を運営。現在、東京都目黒区と福井県鯖江市、宮崎県宮崎市にオフィスを展開。2021年4月より株式が社LIFULL FaMは株式会社LIFULLに吸収合併、現在に至る。
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