なぜ、日本で女性管理職の数は増えないのか|女性のキャリア意欲を奪う企業構造とは?ジャーナリスト・浜田敬子が語る、助け合いで築く幸福で働きやすい未来

コロナ禍で普及したリモートワークは子育てや介護を担う女性の働きやすさを向上させましたが、さまざまな理由から「原則出社」に戻してしまった企業も少なくありません。これにより、育休後に希望のキャリアを歩めずモチベーションが低下したり、ワンオペ育児で夫への不満を募らせたりと、女性の生き方・働き方・結婚生活に関する課題が再び浮き彫りになっています。

ジェンダー平等の達成度が先進国の中で最低レベルの日本(※1)。女性のキャリアを阻む構造上の問題や、令和に求められる管理職像の変化について、ジャーナリストの浜田敬子さんが分析します。

※1 Global Gender Gap Report 2023 | World Economic Forum

問題は女性の意識ではなくキャリア意欲を奪う企業構造にある

――経済協力開発機構(OECD)の2022年国際比較によると、日本の女性役員比率は15.5%(※2)。G7のうち最下位で、フランス(45.2%)、ドイツ(37.2%)、アメリカ(31.3%)など他の先進国に大差を付けられています。なぜ日本では、女性役員の登用が進まないのでしょうか。

浜田敬子さん(以下、浜田):入社時には男女ともに企業の採用基準を満たしているから、能力の差はないということですよね。にもかかわらず、管理職数の差がこれだけあるのは構造的な問題が大きいのだと思います。最も根本にあるのが「男性は仕事、女性は家庭」といった性別役割分業意識で、男性だけでなく女性自身がそう思い込まされている面もあります。

「女性自身が管理職になることに消極的である」とよく言われますが、問題は本人の意識ではなく彼女たちの意欲を減退させる構造。例えば、目の前で男性社員に大きなチャンスが回されたり、男性社員だけが飲みに連れて行かれ、上司との関係が濃密になっていく現実を見たりしたら、だんだん意欲をなくして当然ですよね。

日本企業は女性に対して働き続けやすくするための両立支援制度は整えてきました。例えば育児や介護のための時短勤務が代表的ですが、時短勤務を取る99%は女性です。時短勤務によって両立はしやすくなる半面、キャリアに後れを取ったり、給料が減ったりといったデメリットもあります。さらに時短勤務を取っているだけで、上司からは「特別な存在」と見られ、「大変だよね」「早く帰りなよ」と過剰に配慮され、重要な仕事から外されていく。上司も悪気があるわけではないので、これを好意的性差別と呼びます。よかれと思ってやったことが、実は女性の機会を奪うことにつながるのです。 

―先日、浜田さんがXで「そろそろメディアの見出しなどで働く女性を『〇〇ママ』と表現するのはやめません?」と問題提起されました。どのような思いからだったのでしょうか?

浜田:私も週刊誌『AERA』の編集部にいた頃、見出しに「ママ社員」「ママ管理職」などと書いたことがあります。当時のなぜそういう表現をしたのか振り返ってみると、「子育てもしながら頑張っている」という思いを込めたつもりですが、その根底には「家事や育児する役割は女性」というバイアスが私自身にあったことは否定できません。しかし、「ママ」を強調すること自体が今ではバイアスを強化するものだと考えているので、女性のキャリアを応援するメディアにおいて、未だに性別役割分業意識に基づく差別が内在化されていることを残念に思い、このような投稿をしました。

※2 内閣府 男女共同参画局「諸外国の女性役員割合」

意思決定に多様な人材が入ることでイノベーションが生まれる

―女性の管理職比率が低いままだと、企業にとってどんなデメリットがあるのでしょうか。

浜田:ジェンダー平等の実現はSDGsの5番目の目標にも入っています。同じ能力があるにもかかわらず、評価に差がつけられたり、機会を与えられないことは差別であり、人権問題にあたります。

意思決定層に多様な人材が入ったほうが企業では競争力が上がる、イノベーションが生まれるなど、プラスの相関があることは10年以上前から言われていて、 世界各国は積極的にダイバーシティを推進しています。ジェンダー平等の水準が上位の国のほうが競争力や幸福度も高いことは国際調査の結果からも明らかです(※3)。

ドイツでは2015年に役員比率は男女共に30%以上にする義務(クオータ制)が課され、女性が選出されない場合、男性は付けず空席を維持しなければならないことになりました。約4000万人も人口が少ないドイツに、日本はGDPで抜かれようとしていますが、その大きな要因は1人あたりの生産性の高さだけではなく、一人ひとりがきちんと自分の能力を開花させられる土壌があるからだと思っています。

日本は結局ジェンダー平等も含めて、そこが進んでいないから、成長が停滞したまま。「失われた30年」と言われる背景として、目の前にいる特に女性という人材をきちんと活かしきれなかったことは大きいと思います。

もう一つ、ダイバーシティはポジティブな側面から語られることが多いですが、日本の場合は特に、同質のリスクの方が顕在化しています。多くの企業の経営層は50代以上の日本人男性で占められており、その中だけで物事を決定しています。同じような価値観の中だけで意思決定をするのは、外部環境の変化に気づきにくいなどリスクが伴います。自分たちがやっていることを正しいと信じて疑わない、やり方を変えないから、競争力の低下や不祥事にもつながるのです。

なぜ他の先進国とのジェンダーギャップランキングで差がついたのかと言えば、1番大きいのは、女性登用の数値目標を義務化しなかったということが大きい。日本人は数値目標を義務化するなどルール化すれば、真面目なのでダイバーシティ推進に取り組むはずなのです。こうしたルール変更には政治の力が必要です。ただ、衆議院では1割しかいないなど女性議員の少なさが、ここでも議論を阻害しています。待っていても政治はなかなか変わらないから、危機感を持っている企業は中期経営計画に数値を入れて、あるべき企業の未来像を描き、そこからバックキャスト(未来から逆算して目標や計画を立てる戦略的思考)で女性管理職の育成計画を進めています。

※3 The Global Gender Gap Report 2012

―具体的な事例を教えてください。

浜田:例えば、キリンホールディングス株式会社は2030年までに女性役員比率30%にする目標を掲げ、経営層、入社3年目の女性社員とその上司、20代後半から30代前半の経営幹部を担えると選抜された女性社員の3層に対して、徹底的な研修を実施するなど、取り組みを進める企業も出てきています。

化粧品会社の日本ロレアル株式会社は女性管理職の比率がすでに50%を超えていますが、数値目標などは特に掲げておらず、徹底して行っているのは入社時から男女で同じ機会を与えること。女性の場合は出産前に、平均3つの部署を経験するそうです。例えば、営業、マーケティング、人事をそれぞれ経験すれば会社全体のこともわかるし、自信も付く。産休・育休を経て職場復帰する時は皆フルタイムで戻ってくるそうです。フルタイムで復帰してくる先輩が当たり前のようにいる環境も大きいですが、育休前に経験した部署の中で、最も働きやすい職場に復帰できるのも時短を取らずに済んでいる要因だと思います。

交渉には対案がセット。可視化・言語化で働きやすい職場を自らつくる

―女性側も、国や会社が変わるのを待つだけでなく、自ら働きかける姿勢が必要ですね。

浜田:交渉はすごく大事ですね。交渉と聞くと日本人は“対立”を思い浮かべる人が多いのですが、職場にとってどうすればプラスになるかという方向で提案すれば上司からも歓迎されるはずです。

例えば、「小さな子どもがいるので、週に2日リモートワークをさせてもらえると、もっとこんな仕事もできます」などと言えば、「小さな子どもがいるから大変」というだけよりずっとリモートワークの可能性が高まりますよね。職場の上司もほとんどが男性なので、子育て中の社員の時間の使い方や、どんな日常を送っているのかをなかなか理解していないことが多い。そうすると、どんな支援をしたらいいかがわかっていないケースもあります。

私も編集長時代自分と同じワーキングマザーの事情は理解できていましたが、男性にはそういう苦労はないだろうというバイアスがありました。でも、男性で家事・育児を担っている人もいるし、独身で親の介護をしている人もいたんです。

誰しも家庭や健康上の問題を多かれ少なかれ抱えているもので、できないところを周りの人がカバーするのは、チームとして働いていれば当たり前だということを、当時反省しました。具体的な提案や対案まで出して、それでもノーと言う上司は、合理的な理由からではない場合もあるので、もっと上の上司や人事部など、別のところに相談に行ったほうがいいと思います。

―家事や育児に参加しない夫に対して、交渉のコツはありますか?

浜田:職場と家庭はよく似ています。家庭を円満にするには夫婦でコミュニケーションを取り、問題を可視化する必要がありますが、男性から見えている家事ってごく一部なんですよね。料理、洗濯、掃除、保育園の送迎以外に「名もなき家事」と呼ばれるものがあって、 朝起きてカーテンを開ける、窓を開ける、布団を整える、保育園の準備をする、連絡帳を書くなど、妻が担っている家事と夫が「やっているつもり」の家事の認識は全く異なります。

いきなり全てを50:50にするのは難しくても、家事の内容を可視化して、「ここはあなたに担当してほしい」「どれならできる?」と言語化することが大事です。お互いに「察してほしい」では不幸になりますから。

とはいえ今の若い男性の価値観はかなり変わってきていて、「男性の育休を認めてくれないから転職した」など、少し前だったら考えられないような話もたくさん聞きます。共働きがスタンダードなこの時代、妻のキャリアも同等に考えたいという男性が増えているのは明るい兆しだなと思います。お互いどんなキャリアを歩みたいのか、そのための家事育児の分担をどうするのかは早めに話し合っておけるといいですね。

一度の交渉でお互いが納得することはなかなか難しいですが、上司にしても夫にしても、理不尽な理由で反対されるのだとしたら、その会社にいる意味も、夫婦でいる意味もないのではないでしょうか。今は売り手市場であり、企業側も管理職の女性比率を上げなければならないので、キャリアに前向きな女性は採用したいという企業も増えています。

働くこと自体を応援してくれない夫との関係は、日常的に家事育児の負担が女性に偏るだけでなく、精神的にも大きなストレスになると思います。今は離婚する人も多い時代です。仕事を諦めて経済的な自立を手放すより、女性のキャリア形成を支援してくれる会社で働いて、自分1人でも子どもを養っていける経済力を身につけてほしい。そうすれば離婚する自由も得られますから。     

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裁量や権限が増えれば、仕事はもっと楽しくなる

―管理職への挑戦をためらう女性に、メッセージをお願いします。

浜田:「自分はもうこのポジションでいい」、「働き続けられればそれでいい」と思っている人も多いかもしれませんが、どんな人でも必ず成長できることを伝えたいです。

誰でも同じ仕事をずっと続けていると、その人の能力が仕事の内容を超えてくる時が必ずきます。私もアエラで6年間記者として働いていた時、毎週毎週違うテーマを取材するので、それは楽しく充実はしていました。でも、もう少し何かにチャレンジしたいという気持ちが出てきて、留学なども考え出していたんですね。少しそのポジションに飽きていたんだと思います。初めて副編集長という管理職になったのはそんな時でした。

当日は子どももいなかったので、子育てとの両立に悩むことはなかったのですが、それでも新しい管理職の仕事ではメンバー、特に同世代や少し上の男性のメンバーとの付き合い方に悩むなど、試行錯誤しました。でも、チームを率いて、皆の力を引き出し、いい結果が出た時の達成感は一人だけの仕事とは全く違いました。

女性たちに伝えているのは、同じ仕事をしていると、今やっている仕事が物足りなくなる時は絶対に来るから、管理職になる・ならないに限らず、少しでも難易度の高い仕事にはチャレンジしたほうがいいということです。自分の裁量や権限が増える経験をすれば、仕事はもっと楽しくなります。

管理職になるのを躊躇する理由の中には、今のリーダー像を見て、「自分には無理だ」と思ってしまうケースがあります。私もかつてそうでした。「あんなふうにスパッと指示できない」「強いリーダーシップを取れない」と不安でした。確かに比較的男性は「躊躇せず指示する」「決断を早く下す」ことが得意だなと感じます。今、管理職に就いているのは圧倒的に男性の割合が高いので、こうした「皆を引っ張っていく」のがリーダーだと思い込んでいる女性も多いでしょう。

しかし、今の時代に求められるのは、社員が自律的に働き、安心していろんな意見を出しやすい職場をつくれるリーダーです。自分で手を動かすのではなく、皆に気持ちよく働いてもらうには、気配りや共感力、傾聴力が欠かせません。女性は人の意見を聞いたり、人の変化に気付いたりするのが得意な人が比較的多いと思うので、実は「令和時代のリーダー」に向いている素養があると思いますね。

リモートワークが普及したことで、管理職に手を挙げる女性が増えています。富士通株式会社では、キャリア志向に応じたポスティング制度により、入社2年目の女性社員がマネージャーに就任したことが話題となりました。キャリアとプライベートをトレードオフするのではなく、「自分の健康や家族、生活が成り立った上でいい仕事をしたい」というように、若い世代のキャリア観も変化しており、多様なタイプのリーダーがいたほうが会社にとっても部下にとってもプラスに働くでしょう。既存の価値観に縛られず、これからの時代に合った、自分なりのリーダーシップを築いていってください。

これからの日本をつくる「令和のリーダー像」には、女性を含めたマイノリティの視点が欠かせません。今まで見てきたトップダウン型のリーダーの姿をそのまま真似するのではなく、いいところだけを取り入れるようにすると、自分なりのリーダーシップを築くヒントになります。一人で抱え込まず、ぜひ周りの力も借りながら、幸せや働きやすさを追求していきましょう。

取材・執筆:酒井理恵
撮影:内海裕之

浜田敬子さん
Profile 浜田 敬子

1989年に朝日新聞社に入社。99年からAERA編集部。副編集長などを経て、2014年からAERA編集長。2017年3月末に朝日新聞社を退社後、世界12カ国で展開する経済オンラインメディアBusiness Insiderの日本版を統括編集長として立ち上げる。2020年末に退任し、フリーランスのジャーナリストに。2022年8月に一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構を設立。2022年度ソーシャルジャーナリスト賞受賞。
「羽鳥慎一モーニングショー」「サンデーモーニング」「News23」のコメンテーターや、ダイバーシティなどについての講演多数。著書に『働く女子と罪悪感』『男性中心企業の終焉』『いいね!ボタンを押す前に』(共著)。


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公式ホームページ https://www.hamakeiinfo.com/

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