【前編】インターセクショナリティとは? 世界の差別問題と外国人に対する偏見や固定観念を取り払うには
多様な背景を持つ人々が暮らす現代社会では、世間の常識や本人に刷り込まれている偏見や思い込みで他人を批判したり差別をしたりする場面が往々にしてあります。自分と異なるルーツや背景を持つ人に対する理解と尊重は、社会をより豊かにし、多くの人が自分らしい生き方をするために重要な視点です。
21世紀において、多様性への理解やジェンダー研究において注目されているのが、ブラック・フェミニズムをはじめとするマイノリティ女性の運動から生まれた「インターセクショナリティ」の概念です。日本語で「交差性」と訳される「インターセクショナリティ」は地域文化研究、社会運動、政策に影響を与えていますが、ここでは差別問題の文脈にフォーカスして取り上げます。
この記事では以下の5点について解説します。
前編
後編
インターセクショナリティ(差別の交差性)とは?

インターセクショナリティ(交差性)とは、「「人種、エスニシティ、ネイション、ジェンダー、階級、セクシュアリティなど、さまざまな差別の軸が組み合わさり、相互に作用することで独特の抑圧が生じている状況」と定義されます。
差別問題の文脈で取り上げられることが多い「インターセクショナリティ」ですが、単に複数のマイノリティ性を抱えている個人に対する差別だけではなく、複数の要因が交差したところに生じる固有の経験、リアリティを重視し、それを可視化しようという試みを指します。
インターセクショナリティの概念を理解するために前提として以下の3要素を念頭に置いておくことが必要です。
- 私たち一人ひとりの間には「差異」が存在する。それは人種や国籍、性別、性的思考、階級や障がいの有無などによって割り当てられる「社会的カテゴリー」に由来する。
- それらの差異は「力関係」を生み出す。どの「社会的カテゴリー」に属するかによって、有利な位置に立つ人もいれば、逆の状況に追い込まれる人もいる。
- 社会における個人の有利・不利の力関係は1つではなく、複数の「社会的カテゴリー」の「重なり合い」の中で生じている。
つまり、インターセクショナリティとは、以上の「差異によって生じている力関係」が「交差」することを指します。
出典:内閣府日本学術会議事務局「未来からの問い―日本学術会議100年を構想する」 内閣府
インターセクショナリティ(差別の交差性)の概念
弁護士で人権活動家のK.W.クレンショーが1989年に初めて分析概念として「インターセクショナリティ」という言葉を使いました。クレンショーは、「黒人」や「女性」という「社会的カテゴリー」で均質的かつ相互排他的に分析されることで、「黒人女性」が経験する多面的差別や複雑で入り組んだ支配や従属構造が軽視されてしまうと主張しました。
クレンショーがよく取り上げるインターセクショナリティの事例として「デグラフェンレイド対ゼネラルモータース裁判」があります。これはエマ・デグラフェンレイド含め4名の「黒人女性」が自動車メーカーのゼネラルモータースを相手に差別を受けていると主張して提起した裁判です。
裁判所は人種差別と男女差別の申し立てを別々に検討し、「白人女性」を事務所や秘書として雇っているため、男女差別はないと判断しました。さらに「黒人男性」も工場で雇われており、人種差別はないとしました。クレンショーはこうした訴訟において裁判所は「黒人女性」特有の経験を無視する傾向があると主張しました。
分析概念としてインターセクショナリティの視点が重要である理由について、福岡女子大学の徐阿貴氏は次のように述べます。
<女性>や<黒人>を均質、かつ相互に関係のないカテゴリーとみなすと、内部の多様性や権力関係、不平等な配置が見えなくなる。交差性の概念は、一枚岩的なアイデンティティを再考し、集団内部の差異、集団間関係、集団と個人の関係をあぶり出す。
※引用:Intersectionality(交差性)の概念をひもとく | ヒューライツ大阪(一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター)
認定NPO法人国連ウィメン日本協会は「インターセクショナル・フェミニズム」が重要なのは、世界中の国や地域が経験している危機が一様ではなく、複合的な脅威である点を挙げています。つまり、さまざまなグループが経験している経験や課題を細分化しないで受け止める必要があります。
出典:インターセクショナル・フェミニズムとは?なぜ今、重要なのか?(国連ウィメン日本協会)
東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター特任教授。専門はジェンダー、セクシュアリティ、ディスアビリティ理論。一般社団法人ふぇみ・ゼミ&カフェ運営委員。著書に、『レズビアンである〈わたしたち〉のストーリー』(生活書院、2008年)、『合理的配慮――対話を開く、対話が拓く』(共著、有斐閣、2016年)や『クィア・スタディーズをひらく 1――アイデンティティ、コミュニティ、スペース』(共編、晃洋書房、2019年)、『「社会」を扱う新たなモード――「障害の社会モデル」の使い方』(共著、生活書院、2022年)などがある。
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