なぜ、私たちは「ルッキズム(外見至上主義)」に縛られるのか|助産師、性教育YouTuber・シオリーヌ(大貫詩織)が実践した“呪いの言葉”との向き合い方
「ルッキズムは悪いことだと思わない」という意見があります。たしかに私たちは、さまざまな場面で見た目による判断をしています。それは否定できない事実でしょう。
しかし問題なのは、ルッキズムによって差別やヘイトを生んだり、さまざまなコンプレックスを引き起こしたり、のちに「呪いの言葉」となって自分自身を苦しめてしまうことです。
助産師、性教育YouTuberのシオリーヌさんは、ルッキズムの影響もあり、過去に3度の大幅なダイエットを経験しました。痩せることで、周囲から見た目を褒められ、ダイエットはより加速していった結果、摂食障害になってしまいました。今回は、自身の経験に基づいてルッキズムの問題点や対処法を語ってもらいました。
褒め言葉が呪いの言葉に変わる
――まず、ルッキズムとは何でしょうか?
シオリーヌさん(以下、シオリーヌ):ルッキズムとは、外見でその人の価値を測り、差別をする考え方のことです。「太っている人は痩せている人より劣っている」「二重の人は一重の人よりも価値がある」といったものです。
生まれ持った顔の構造や体格、体質、肌の色などは、自分で選べるものではありません。同じ量の食事を摂っていてもまったく太らない人もいれば、脂肪がつきやすい体質の人もいます。
そのように、自分の意思で選べないもので人の評価を決め付けることは、ありのままの自分で生きるという、人の権利を侵す行為です。
――シオリーヌさんがルッキズムにとらわれてしまったご経験について教えてください。
シオリーヌ:私はこれまでの人生で3回、過度なダイエットをしたことがあります。
1回目は中学校3年生のときでした。身体測定で、当時好きだった男の子が友達と話しているのを耳に挟んで、その子よりも自分の体重が重いことを知ったんです。そのときにすごくショックで「痩せなきゃ」と思ったのが、最初に過度なダイエットをしたきっかけでしたね。そのときに短期間で一気に痩せたんです。すると、周囲からの反応がものすごく変わって、チヤホヤしてもらえました。「見た目が変わると周りの対応はこんなに変わるんだ」と、自分にとって成功体験になってしまったんです。
2回目は、大学2年生のときです。お付き合いしていた人から「もう少し痩せてほしい」という言葉を受け取り、私も「パートナーと釣り合うようになりたい」という気持ちが出てきました。痩せてくると、パートナーにも「可愛くなったね」と言われるのがうれしかったですし、周りの友達からも「痩せたよね」「きれいになったよね」と褒められ、うれしくなりました。
そして過度なダイエットをしてしまい、私は摂食障害になりました。中学生のときは少しの食事制限と運動をしていた程度だったのですが、大学生では、極端なカロリー制限と過食嘔吐を始めてしまいました。
――そのとき、どのような心の動きがあったのでしょうか?
シオリーヌ:見た目を褒められるとうれしくて、「痩せたね」「可愛くなったね」と言ってもらう言葉を原動力に、ダイエットを頑張っているつもりでした。でも、そのあと自分に限界が来てリバウンドをします。すると、そうした見た目に対する褒め言葉が、今度は呪いになるんです。
「痩せたら、あんなに褒めてくれた。つまり、太ったらもう褒められたときの自分じゃない」と考えてしまう。これがルッキズムの一つの問題点だと思います。周りからの評価で、「痩せている私は素晴らしくて、太った私は醜い」という思い込みが染みついてしまいました。
見た目で人を判断し、評価することは、たとえ褒めていたとしてもそのようにネガティブな影響を引き起こしてしまうことがあります。
自分の体型を素敵だとは思えないとしても――。「ボディニュートラル」とは?
――摂食障害の状態からどのように抜け出していったのですか?
シオリーヌ:社会人になってから3回目の過度なダイエットをしていたのですが、あるとき、常温の豆腐が歯に染みたんです。そのときに「やばい」と思いました。摂食障害で過食嘔吐を繰り返していると、胃液が歯に影響を及ぼしてしまうことがあるのです。
当時の私は「おばあちゃんになったら、ようやく自分の見た目がどうでもよくなって、太っていようが痩せていようが好きなものを何でも食べよう」と考えていました。なのに、そのときに歯がボロボロだったら食事を楽しめないのは良くないと感じました。そこで「ちゃんと克服しないといけない」とはじめて自分で明確に思いましたね。
――今は、ルッキズムとどのように付き合っていますか?
シオリーヌ:正直なところ、今の私も「自分の見た目に対して何もコンプレックスがない」と言える状態ではありません。今の自分の体型を素敵だとは思えないし、今より痩せていたときの写真を見ると「いいな」と思うんです。
「ボディポジティブ」という言葉があります。自分の体を肯定的に捉えることを意味するのですが、私は「今の見た目で最高」とは思えていないので、ボディポジティブとは言えない状態です。
ただ、私は「ボディニュートラル」の状態に近いと思っています。自分の体を、良いとも悪いともジャッジしない。ただ私がそこにいるだけのニュートラルな状態です。お風呂に入る前に鏡を見て「ここのお肉がやばい」と思ってしまうのですが、そこから過度で不健康なダイエットに走るようにはならないのが今の私です。
――そのような捉え方になるまでに、どういう心境の変化があったのでしょうか?
シオリーヌ:見た目よりも、健康が大事だと思えるように変化してきたと思います。
パーソナルトレーニングの影響も大きいです。私は現在、ニュージーランドを拠点に活動しているmikikoさんのパーソナルトレーニングを受けています。
パーソナルトレーニングと言うと、食事制限をして、鶏肉とブロッコリーをいっぱい食べて、ジムでものすごく頑張るイメージがあると思います。私もそう思っていたのですが、mikikoさんはまず最初の数か月間は運動の話をせず、栄養と睡眠の話だけをしていました。特に、私に「これを食べてください」とよく言ってくれるんです。
私は、週4回ほどジャンクフードを食べるような食生活でした。子育てをしていると、自分のご飯のことが後回しになってしまってつい簡単な食事ばかりに……。それによって、むくみがあったり、よく眠れなかったりする実感があったんです。
mikikoさんは「まず摂れていない栄養が多いから、その栄養を摂るためにこれを食べよう」とアドバイスをくれるんです。私はダイエットで「今の生活から何を減らすか」ばかり考えてきたのに、「何を増やすか」をmikikoさんは話してくれます。
教わった食事の摂り方を実践していくうちに、むくみが減ったし、寝つきが良くなったんです。ダイエット以外で、自分の体のことをこんなに考えているのは初めてでした。今は見た目よりも心と体の健康を大切に思えています。
mikikoさんのアドバイスを受け、普段の食事内容を見直し、栄養バランスなどを考慮したメニューに変更。
自分の意思で選んだものを褒める
――ルッキズムに関して、社会の変化をどのように見ていますか?
シオリーヌ:例えば、ファッションモデルの方々が細身の体型の方しかいないと、それを見て「私も痩せていなければいけない」と無意識に捉えてしまうことがあります。
誰でもスマホを持つ時代なので、外見コンプレックスを刺激する広告やSNSを無意識に目にすることが昔よりも格段に増えています。こうした社会で生きていたら強迫観念のように「痩せなきゃ」と思うのは仕方がないのかなと思います。
ですが、最近はプラスサイズのモデルさんも増えてきていますよね。それも、少し前までは、プラスサイズの方向けのファッション誌やブランドがあって、それ以外のブランドはやはり細身の体型のモデルさんばかりでしたが、今は大きなブランドにも広がり始めています。大きなブランドでXSから4Lまでサイズ展開があり、いろんな体型のモデルさんが広告に起用されるケースも出てきています。
私はInstagramで、自分の身長・体重と近いモデルさんをフォローして、参考にしています。身長・体重を公表しているモデルさんも増えてきているんですよね。オンラインで服を買うときにも、「そのモデルさんがこうやって着ているんだ」と参考にできるので、やはりいろんな体型のモデルさんがいるとありがたいです。
――ルッキズムでネガティブな影響を起こさないために、コミュニケーションで気をつけたほうがいいことはどんなことですか?
シオリーヌ:見た目をとやかく言わないことですね。親や親戚から見た目をからかわれて、コンプレックスになっている人もたくさんいます。久しぶりに会った親戚のおじさんに「なんか横に大きくなってきたな」「たくましくなってきたな」と言われる場面ってありますよね。言っているほうは何とも思っていなくても、本人にとっては染みついて、一生消えないコンプレックスになることがあると知っておいてほしいです。
また、褒め言葉として言っているつもりでも、それを嫌味に感じたり、私のようにあとから“呪いの言葉”に感じたりすることもあります。
私自身も、失敗した経験があります。大学生のときに華奢な友達がいて、私はダイエットの最中だったので、その子が羨ましくてしょうがなかったんです。会ったときに、「また痩せたんじゃない?」「脚細くなったね」と、良かれと思って彼女に言ったことがあります。すると、「自分は食べても太れない体質なのが嫌だと思っているから、『痩せた』と言わないでほしい」と彼女から言われたんです。「悪いことをしたな」と反省しています。
彼女のように、外見からは判断できないさまざまなコンプレックスを持っている人がいるんだということを学びました。「見た目に対する褒め言葉が相手にとってうれしい言葉とは限らない」という視点は持っておいた方がいいと思います。
――どのようなコミュニケーションの仕方がおすすめですか?
シオリーヌ:「『見た目を褒めちゃいけない』と言われると、何を褒めていいかわからない」と言われることがあるのですが、いっぱいあると思うんですよね。
私は、その人が自分の意思で選んでいることを褒めるのがいいと思います。例えば、「お洋服が似合っているね」「ネイル可愛いね」「今日のメイク素敵だね」など。また、言葉遣い、表情、態度など、自分の意思で表現しているものはたくさんあります。
それから、私が過度なダイエットに取り組んでいたときに支えられたのは、私が痩せようが太ろうが何も言ってこない友達の存在でした。「この人は私の体型の変化に興味ないんだな」「ただ私と遊ぶ時間が楽しいと思ってくれているんだな」と感じられました。
見た目についてとやかく言わず、一貫して同じ態度でずっとそばにいてくれる人がいれば、その人の支えになると思います。
善意のつもりで伝えた見た目への褒め言葉でも、人を傷つけることがあります。心の中で、人を見た目でジャッジしてしまうことをゼロにするのは難しいとしても、ルッキズムのネガティブな影響を知り、コミュニケーションに配慮することはできます。まずは、あなたの周囲にあるルッキズムに、目を向けてみませんか。
取材・執筆:遠藤光太
撮影:徳山喜行

助産師/性教育YouTuber。株式会社Rine代表取締役。NPO法人コハグ代表理事。総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベント等の講師を務める。YouTubeチャンネルでは、性の知識を気軽に学べる動画を配信中。著書に『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)、『こどもジェンダー』(ワニブックス)がある。
YouTube https://www.youtube.com/@shiorine
X @shiori_mw
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