カミングアウトとは? SOGIハラ/アウティングの問題、LGBTQ+の支援者「Ally(アライ)」について解説

カミングアウトを理解するためには、「LGBTQ+」について理解することも重要です。「LGBTQ+」は、現代において多くの人が耳にするようになった言葉と言えるでしょう。また、LGBTQ+に似た言葉として「SOGI」があります。LGBTQ+は性的マイノリティー当事者を指す言葉ですが、SOGIは全ての人に関係する要素です。

この記事では、カミングアウトについて理解を深めるために、下記の5点を解説します。

  • 「SOGI」って何?「LGBTQ+」との違い
  • カミングアウトとは?
  • SOGIハラスメントとは?
  • LGBTQ+を理解・応援する人・企業を示す「Ally(アライ)」とは
  • さまざまな人が自分らしくいられる社会を目指して

「SOGI」って何?「LGBTQ+」との違い

「SOGI(ソジ)」とは、「性的指向(Sexual Orientation)」と「性自認(Gender Identity)」の頭文字を取った言葉です。ここでいう「性的指向」とは、「誰を好きになるかならないか、なるとしたらどんな性を好きになるか」を指す概念であり、「性自認」とは「自身の性をどのように認識しているか」を表します。

SOGIは近年国際社会において使用されるようになり、日本でも2015年頃から紹介され始めました。2017年3月には、衆議院第一議員会館でLGBT差別を禁止する法の制定を国会議員に求める「レインボー国会」と呼ばれた院内集会が開催されました。このレインボー国会で、「SOGIハラ」(SOGIハラスメント)という新しい言葉が使われました。

「SOGIハラ」とは、性的指向や性自認に関連する差別やいじめ、いやがらせを指します。また、望まない性別での生活を強いられたり、SOGIを理由として学校や職場で不利益を被ったりすることなども広く含んでいます。

「SOGI」とは自己意識の概念であり、全ての人が持っているものです。LGBTQ+に代わる、新しいセクシュアルマイノリティーの呼称ではないことに注意が必要です。「SOGIの人」というような表現は誤りとなります。

出典:国会議員に「性的指向や性自認に関する公正と平等」を求める院内集会が開催されました | Magazine for LGBTQ+Ally – PRIDE JAPAN

カミングアウトとは?

「カミングアウト」とは、「自分の性的指向や性自認(=SOGI)」を自身の意思で他者に伝えることです。「自分が身を隠していたクローゼットの中から出てくる」という意味の言葉 “coming out of the closet”に由来しています。

カミングアウトは一度すれば終わるイメージを持っている人もいるかもしれませんが、実際はほとんどの場合、そうではありません。カミングアウトにはさまざまな段階、事情があるものです。例えば、友人にはカミングアウトしていても、家族にはカミングアウトする時期を検討しているケースがあります。また、親しい家族や友人にはカミングアウトしていても、職場ではカミングアウトしたくない(するつもりはない)というケースもあります。

「日本におけるクィア・スタディーズの構築」研究グループが実施した性的マイノリティーについての意識調査によると、職場の同僚や近しい友人、親戚や家族に「同性愛者がいる」と答えた人は2015年調査の5.3%から3.4ポイント増の8.7%でした。また、「性別を変えた、あるいはそうかもしれないと考えている人がいる」と答えた人は2015年調査の1.8%から2ポイント増の3.8%でした。この調査からカミングアウトする人たちが少しずつ増えていることが分かります。

また、カミングアウトという言葉がメディアなどで異なった文脈で使用されることも増えています。上述したように、カミングアウトとは、本来はセクシュアルマイノリティーの人たちが大切なアイデンティティーの一部であるSOGIについて周りに伝えることなので、「ちょっとした秘密を別の人に話す」ことを気軽にカミングアウトと呼ぶべきではありません。

※出典:性的マイノリティについての意識:2019年(第2回)全国調査

SOGIハラスメントとは?

前述したように「SOGIハラスメント」という言葉が初めて使われたのは、2017年のレインボー国会でした。「なくそう!SOGIハラ」実行委員会のメンバーで、東京ディズニーリゾートで同性カップルとして初めて挙式した増原裕子さんによると、「SOGIハラ」には大きく分けて次の5つがあるとのことです。

  • 差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称
  • いじめ、無視、暴力
  • 望まない性別での生活の強要
  • 不当な異動や解雇
  • 人のSOGIを許可なく公表する(アウティング)

性的指向および性自認は、個人情報の中でも特に取り扱いに配慮が必要なセンシティブな情報です。企業や上司が本人の許可なくセクシュアリティーを暴露するアウティングをした場合、その行為は「パワハラ」にあたります。と2022年に施行されたパワハラ防止法には、アウティングとSOGIハラもパワハラに該当すると明記されました。

2015年には一橋大学法科大学院の学生が友人に自分がゲイであることをカミングアウトしたところ、その友人にアウティングされ、自身の意思に反してSOGIを公表された学生は自殺によって亡くなるという痛ましい事件が起きました。

この事件の後、アウティングが本人のプライバシー権を侵害する行為だという意識が少しずつ高まり、2018年には東京都国立市が全国で初めてアウティングを禁じる条例を施行しました。2022年には、パワーハラスメント防止措置が全企業に義務化されましたが、パワハラ防止策として定められた措置義務に、SOGIハラスメントおよびアウティングも適用されることになっています。

※出典:多様な性、セクシュアル・マイノリティ/国立市ホームページ
※出典:職場における ガイドライン – 国立市

LGBTQ+を理解・応援する人・企業を示す「Ally(アライ)」とは

「アライ」とは「同盟、支援」を意味する「ally」が語源で、性的マイノリティーを理解し支援するという考え方、あるいはそうした立場を明確にしている人々を指す言葉です。

auじぶん銀行株式会社が行った「LGBT当事者をとりまく就業環境の実態調査」によると、自身が性的マイノリティーであることを企業に伝えていない当事者の割合は8割以上にのぼります。職場でカミングアウトすることは非常に困難であるという現状がうかがえるでしょう

カミングアウトしない理由として、以下のような理由が挙がりました。

  • 職場の人と接しづらくなると思ったから
  • 人事評価や配置転換、異動などで不利な扱いを受ける可能性があるから
  • 性的マイノリティーについて差別的な言動をする人がいる、またはいるかもしれないから

ネガティブな影響を恐れて、カミングアウトしない人が多いことが分かります。

こうした現状を踏まえて、東京2020オリンピック・パラリンピックをきっかけにダイバーシティ&インクルージョン社会の実現に注目が集まり、LGBTQ+フレンドリー(アライ)を目指す企業が増えています。「アライ」を増やしていけば、誰もが働きやすい環境をつくれるため、企業の「ダイバーシティ化」にもつながるというメリットがあります。

※出典:LGBTの8割以上が職場でカミングアウトしていない?企業のLGBT支援制度の整備状況は? | コラム | auじぶん銀行

アライ企業の取り組み事例

A社(※参考文献上の表記に基づく)はLGBTQ+フレンドリーな企業として、採用過程および当事者入社後の人材流出を防ぐために際立った取り組みをしています。採用段階では、レインボーの旗を飾り、LGBTQ+フレンドリーであることを当事者にも非当事者にも積極的に意思表明しています。公の場で自身のSOGIを公表する当事者は少ないですが、こうした取り組みにより、入社しても差別されることはないと当事者は安心できるでしょう。

※参考文献:ダイバーシティマネジメントに基づく日本企業におけるLGBTの施策と展望|Vol. 15 『立命館ビジネスジャーナル』

さまざまな人が自分らしくいられる社会を目指して

アウティングのような行為を生まないためには、それを受け入れてしまう人々の意識の改革も重要です。多くの著名人がSNSや学校、企業での講演活動を通じて発信を続けています。

ここでは、「カミングアウトをするもしないも当人の自由」を前提に、自分らしく生きる人たちを紹介します。

MeiさんはSNS総フォロワー数40万人超えのトランスジェンダーを公表するインフルエンサーです。高校生の時から女性として生活し、2022年3月には性別適合手術を受け、戸籍上も女性に変更しました。Meiさんは自身の経験を踏まえて、「性の形も、幸せの形も人それぞれ。性転換手術(「性別適合手術」の表現の方がベターなのですが、Meiさん本人のお言葉なので、変更してないです)を受けることや、好きな人と法律婚することが誰にとっても幸せなことだ、とは思いません。でも、それを選ぶかどうかを自分で決められる。そんな誰もが平等に選択肢を持てる世界になってほしい」と語ります。

また、建築デザイナー、コンサルタントとして働きながら、モデルとしても活躍するサリー楓さんは、大学院在学中にカミングアウトし、性別移行を経験したトランスジェンダー当事者です。サリー楓さんは在学中にカミングアウトした理由について「これから迎える就職活動について考えた時、私のアイデンティティーを理解した上で採用してもらった企業で働きたいと思いました」といいます。最終面接の際にも自分の熱量や思いをアイデンティティとともに伝えたそうです。

他にも滝沢ななえさんは、元バレーボール選手で、現在はパーソナルトレーナーとして活躍しています。現役時代に自身がレズビアンであることに気付き、2017年にメディアで自らのセクシュアリティーを公表しました。ただ、カミングアウトすることがみんなにとって正解だとは考えていません。「LGBTQ+をカミングアウトできる時代になったことは、ものすごい進歩です。ただし、公表すべきだということではありません。大事なのは、カミングアウトするのもしないのも、本人の自由であること」と滝沢さんは述べます。

まとめ

「LGBTQ+」という言葉が社会的に認知されるようになってきましたが、まだまだ多様性が受け入れられる社会が実現しているとはいえません。私たちはカテゴライズしたがる傾向があり「LGBTQ+はこういう人たち」、「性的マイノリティーはカミングアウトすべき」などと凝り固まった見方をしてしまいがちです。セクシュアリティーは全ての人にとってセンシティブな問題であることを認識することで、アウティングを防ぎ、人を決め付けで判断することを避けられるのかもしません。

監修者:東 小雪
公認心理師。LGBTアクティビスト。宝塚歌劇団を退団後、2010年にレズビアンであることをカミングアウト。東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ、日本初の同性パートナーシップ証明書を取得し話題に。LGBT・女性の生き方などのテーマを中心に講演やメディアに多数出演。著書『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』共著『レズビアン的結婚生活』など多数。現在、フォトジャーナリスト安田菜津紀とのYouTube番組「生きづらいあなたへ」を配信中。

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