男性育休とは? 法改正で育児休業制度はどう変わるのか
政府が掲げる「働き方改革」において男性の育児参加を促進する仕組みの導入が提言され、育児休業(育休)取得に向けた環境整備が進んでいます。また、新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに在宅勤務が増加し、家族との生活をより重視する志向が高まった背景もあり、男性の育休取得に注目が集まっています。男性の育休取得率は年々増加傾向にはあるものの、依然として割合は低く、2022年4月からは状況改善に向けて改正された育児・介護休業法が段階的に施行されます。
希望に応じて男女共に仕事と育児を両立できるよう、職場環境の整備、分割などの柔軟な取得、さらには大企業には育休取得状況の公表などが求められ、男性の育休は今後、より取得しやすくなることが期待されています。
この記事では下記の3点を解説します。
- 育休制度の法改正はどこが変わるのか?
- 男性育休取得が必要とされる背景と企業が向き合うべき課題
- コロナ禍で変化した育児への気持ちと男性の子育て事例
育休制度の法改正はどこが変わるのか?
2020年5月に閣議決定した、少子化対策の指針となる第4次「少子化社会対策大綱」において、政府は2025年までに男性の育児休業取得率を30%まで引き上げる目標を掲げました。この大綱では、5つの柱ごとに整備・支援すべき重点課題を挙げており、その中には「男女共に仕事と子育てを両立できる環境の整備」「男性の家事・育児参画の促進」など男性の育休取得向上を目指した項目が盛り込まれています。
※出典:少子化社会対策大綱: 子ども・子育て本部 – 内閣府
こうした追い風もある中で2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月1日より段階的に施行されます。改正の趣旨は以下の通りです。
“出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設、育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け、育児休業給付に関する所要の規定の整備等の措置を講ずる。”
引用:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律の概要(厚生労働省)
まず2022年4月には、育児休業を取得しやすい環境の整備が義務化されました。具体的には下記の内容が事業者に求められます。
① 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
② 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
③ 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
④ 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
引用:育児・介護休業法 改正ポイントのご案内(厚生労働省)
また、育児・介護休業取得要件が緩和されます。改正前は、(1)引き続き雇用された期間が1年以上、(2)1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない、と2つの要件がありました。法改正によって、(1)の要件が撤廃され、(2)の要件のみとなり、勤務期間が短くても育休を取得しやすくなります。
次に2022年10月に施行される範囲では、育休とは別に取得することのできる産後パパ育休(出生時育児休業)が創設されます。
産後パパ育休は、子の出生後8週間以内の期間に、4週間までの長さで2回まで分割して取得することが可能です。また、育休は原則1カ月前までに申し出が必要ですが、産後パパ育休は2週間前までの申し出が条件なので注意しましょう。「出産後は心身の回復が必要な時期なので、妻のそばにいたい」「育児に最初から関わりたい」といった要望に沿って、男性の育児参加を後押しする制度なので、柔軟に休みが取得できることが期待されます。
また、産後パパ育休とは別に既存の育休制度も改正されました。育児休業の取得回数は、夫婦共に分割2回となっています。
引用:育児・介護休業法 改正ポイントのご案内(厚生労働省)
最後に、2023年4月には従業員1000人超の企業を対象に、年に1度、育児休業取得状況の公表が義務化され、男性の「育児休業等の取得率」か「育児休業等と育児目的休暇の取得率」を公表することになりました。
企業側は新制度をもとに従業員の育休取得を推進するため、社内制度の見直しや労使協定の締結などが求められます。
男性育休取得が必要とされる背景と企業が向き合うべき課題
育児休暇が取得しづらい背景
法改正の背景には、日本での男性の育休取得率の低さがあります。
厚生労働省が発表した「令和2年度雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得率は2020年で約12.7%と2019年の調査より5.17%上昇しましたが、女性の81.6%に比べれば依然として圧倒的に低いのが現状です。取得期間を見ても、男性の場合は約8割が1カ月未満で、9割近くが6カ月以上という女性よりも短い傾向になります。
一方で、育休取得を希望していたにもかかわらず利用できなかった男性の割合は、約4割というデータがあります。育児休暇を望む男性たちは一定数いるにもかかわらず、それがかなっていない現状があるのです。
※出典:令和2年度雇用均等基本調査 – 厚生労働省
男性の育児休業取得を促進する背景について厚生労働省が発表した「育児・介護休業法の改正について」によると、男性の正社員が育児休業制度を利用しなかった理由の中で最も多かったのは、「収入を減らしたくなかったから」でした。育児休業給付や社会保険料免除の制度などはありますが、育休を取得しない場合よりも収入が減ってしまう場合が多いためか、収入への不安感は色濃いようです。
また、「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから、または会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」などという理由も多く見られました。育休を取ることで周囲の迷惑になってしまうなど、人員不足や仕事の性質、まわりへの影響を理由に休業申請がしづらいという人が多いということが分かります。
出典:育児・介護休業法の改正について(厚生労働省)
育休取得時に気をつけたいこと
基本的に、育休制度は男女に関係なく利用できます。育休取得時には、男女を問わず上長やリーダーへの育休取得の相談をこまめにし、担当業務の引き継ぎや調整を前もって進めておくと育休取得がしやすくなるはずです。
また、育児休業を取った先輩がいたら、積極的に情報をもらいにいくことも有効でしょう。事例を社内に共有し、育休取得のハードルが高くないことを発信するのも一つです。
コロナ禍で変化した育児への気持ちと男性の子育て事例
制度が改正され、職場環境の改善も進めば、男性の育休取得がしやすい環境へと徐々に変わっていくでしょう。
日本労働組合総連合会が行った調査によれば、「コロナ禍以降、子育てにかかわる時間が増えた」と回答したのは男性で43.8%、女性で51.8%でした。コロナ禍でリモートワークが増えたことにより、これまで以上に育児に関わるきっかけが増えていることが分かっています。
また、コロナ禍でリモートワークが増えたことにより、「もっと子育てにかかわろうという気持ちが強くなった」(男女全体で46.9%)、「配偶者・パートナーと協力して子育てをしようという気持ちが強くなった」(男女全体で47%)といった回答があるように男女共に子育てに関わろうという意識も高まっています。
育児は男女のどちらかだけで行ったり、参加したりするものではありません。社会全体で、男女共に協力し合うことで、子どもへの愛情が深まるばかりか、パートナー同士の心身の負担も大きく軽減されるはずです。
出典:男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020
父親の子育てを楽しく発信する木下ゆーきさん
子育てインフルエンサーとして活動する木下さんは、父親による子育て動画を中心に発信しています。「おむつ替え動画(アパレル店員編)」などの楽しい動画を見たことがある方も多いかもしれません。
子育てというのは夫婦が力を合わせて行わなければならないもので、“『参加』ではなく『主催』です”と木下さんは強調します。
シングルファーザーだった時期があり、子育ての大変さを強く実感する木下さん。“僕は子育てを楽しんでいるわけじゃなくて、『めちゃくちゃ大変だから楽しまないとやってられない』と思っています”と語ります。
「イクメン」という言葉がなくなればいいと考える安藤哲也さん
安藤さんは、2006年にNPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げ、父親支援に取り組んできました。合言葉は「父親であることを楽しもう」です。
“10年前に『イクメン』という言葉が出てきてはやった。この言葉には賛否ありますが、僕は社会の目が男性の育児に向いたという点でよかったと思っています。でもそろそろ過渡期を終えて、男性の育児がスタンダードになれば、イクメンという言葉はなくなると思う”
と語るように、安藤さんは「イクメン」という言葉がなくなればいいと考えています。
まとめ
男性育休の取得者は増加傾向にあるものの、女性と比べれば大幅に少ないのが現状ですが、育児休業を取得しやすい環境の整備が義務化されたことで、男性の育休取得者が増えることが期待されます。
段階的な施行となることもあり、制度の利用においては働く人にも企業側にも細やかな配慮が必要となるでしょう。育児休業を取得しやすい環境や文化が少しづつ企業内で醸成されていけば、育休取得が一般的になる社会が実現されるはずです。
監修者:大塚万紀子
1978年生まれ。中央大学大学院法学研究科卒業。株式会社ワーク・ライフバランスの取締役/パートナーコンサルタント。自らのマネジメントスタイルを変革してきた過去の経験や、高度なコーチングスキル、コミュニケーションスキルを生かしてさまざまな働き方変革を効果的に遂行。行政組織における働き方の見直しや、地域創生の鍵としての働き方改革促進を担う。
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