空き家問題の現状と課題とは? 活用事例と活用支援・取り組みを解説

少子高齢化により、日本の人口減少は加速しています。その結果、さまざまな問題が引き起こされていますが、その一つが空き家問題です。

「家の片付けができていない」「売りたくても売れない」といった理由で空き家を放置している所有者も少なからずいて、相続した家が「負の不動産」となり得る問題もはらんでいます。総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、2018年時点での空き家は全国で約848万9000戸と過去最大となっており、空き家の管理や活用は喫緊の課題と言えるでしょう。

そうした中、空き家問題に取り組む動きも始まっています。ここでは、空き家問題について下記の3点について解説します。

  • 空き家の現状と増える原因
  • 空き家をどう活用するかが喫緊の課題
  • 空き家の活用事例と活用支援・取り組み

空き家の現状と増える原因

「空き家」「特定空き家等」とは、「空家対策特別措置法(2014年11月27日公布)」告示によると、『空家等』とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。(第2条第1項)

『特定空家等』とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。(第2条第2項)」と定義されています。

空き家は、不動産会社が管理している「売却用」や「賃貸用」、別荘などの「二次利用敵住宅」、そしてそれ以外の「その他」に分類されます。問題なのは、「その他」に分類される空き家で、放置されると犯罪の温床になったり、防災性を低下させたり、衛生や景観を悪化させたりするリスクがあります。

※出典:空家等対策特別措置法について – 国土交通省

総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、2018年の空き家は全国で848万9000戸でした。そのうち「その他」の空き家は約349万戸で、全体の41.1%を占めています。

※引用:平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要‐総務省

空き家が総住宅数に占める割合は13.6%で過去最高になりましたが、今後も空き家率はますます増加していくことが予想されています。野村総合研究所が2018年6月に発表したリポートによると、2033年には国内の空き家は1955万戸、全住宅に占める割合も27.3%になる見通しとされています。

空き家が増加している背景と日本の人口問題には密接な関連があります。例えば、入口の大部分を占める団塊の世代が高齢者になり、老人ホームなどの高齢者住宅や子どもの家などに転居することで、自宅が空き家になります。また、核家族化により親世代とは別に、子世代が別に住居を構えることが多いため、供給数は増える一方で、利用されない物件もまた増えている状況が続いています。こうした状況が重なり、相続によって不動産を取得するものの、物件の所在地は相続人の居住地から遠く、容易に行き来できず、結局は空き家として放置されてしまうという状況が生まれるのです。特に人口が減少傾向にある地方では、一度空き家になった住宅は次の住み手が見つかりにくく、都市部に比べて空き家問題が深刻といわれています。

※出典:2030年の住宅市場と課題 | NRIメディアフォーラム | 野村総合研究所(NRI)

空き家をどう活用するかが喫緊の課題

増え続ける空き家問題に対処するため、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が2014年11月に成立しました。この法律によって、空き家の所有者は「周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努める」こととされました。

状態の良くない空き家(特定空家等)を適正に管理しない所有者に対しては、市町村が助言・指導、勧告といった行政指導ができるようになりました。勧告しても改善されなければ、市町村は強制力を持った命令ができ、命令に違反すれば過料を科されることになります。また、勧告を受けた物件については、固定資産税等の特例が除外されるので、税金が高くなることもあります。

また、命令を受けたにもかかわらず改善がなされない場合、市町村が所有者の代わりに問題に対処することがあります。例えば、倒壊の危険がある家屋を放置していたり、伸び放題の庭木をそのままにしていたりする場合、行政が樹木の伐採や建物の解体を行い、その費用を所有者に請求する「行政代執行」が行われることがあります。

こうした公的な対策に加え、民間レベルの空き家対策も考えなければなりません。というのも、前出の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、1981年以降建築された約110万戸の空き家のうち腐朽・破損のない約67万戸、1980年以前の耐震性のある空き家約74万戸のうち腐朽・破損のない約36万戸を合計すると、全国で約103万戸の空き家が腐朽・破損していないと考えられるからです。さらに、そのうち、駅から1km以内で簡易な手入れにより活用可能な空き家は全国で約48万戸だと推計されます。

空き家の活用方法としては、居住用として貸す方法があります。一軒丸ごと貸し出すこともできますし、一室ごと、あるいは階ごとでシェアハウスとして賃貸しすることも可能でしょう。また、店や倉庫は会社・事業用として活用することもできます。ただ、その場合には物件の状態に応じてリノベーションが必要になるでしょう。さらにリノベーションにかなりの費用がかかるようなら、解体して土地をコインパーキングやトランクルーム、太陽光発電のスペースとして活用する方法もあります。

※出典:平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要

空き家の活用事例と活用支援・取り組み

民間レベルで空き家活用がなかなか進まない大きな要因として、活用するための投資負担が重いという問題があります。最も一般的な活用方法は売却や賃貸ですが、そのためには外壁や屋根の改修、水まわり設備の交換など数百万円の初期投資が必要になります。

こうした課題をクリアすべく自治体が民間企業と連携し、空き家対策に取り組むケースも増えてきました。ここでは、2つの事例を紹介します。

事例①AKARI三鷹

北斗ソリューションズ株式会社は、NPO法人 空家・空地管理センターと協力して、「AKARI(あかり)」という制度を開始しました。同社は空き家を3~7年間借り上げ、大規模なリノベーションを行ったのち、戸建てや店舗、民泊として利用者に賃貸しします。空き家の管理は入居者と事業者が行うため、物件所有者は管理の手間がかかりません。物件所有者は租税公課を支払い続けなければなりませんが、家賃収入を得ることでそのための収入源を確保できます。また、契約期間が終了すれば、以前よりもキレイな状態で物件が手元に返ってくるという仕組みです。

すでに「AKARI三鷹」として築年数不詳の空き家を5年間借り上げ、純和風の雰囲気はそのままにリノベーションし、賃貸一戸建て化した例もあります。

※出典:商品・サービス | 北斗ソリューションズ株式会社

事例②うぶすなの家

新潟県十日町市、津南市による「大地の芸術祭」実行委員会において、空き家と廃校をアートミュージアムとして活用する取り組みがなされました。そのうちの一つである「うぶすなの家」は、築約100年の茅葺きの民家に現代陶芸家たちによって囲炉裏やかまど、洗面台、風呂などが設置され、やきものの美術館兼レストランとして再生していました。

※出典:うぶすなの家 – 作品|大地の芸術祭

アートと地域活性化の事例

上述の事例に加え、アートと地域活性化の事例は他にもあります。

木工用ボンドで絵を描く現代アート作家として活躍する冨永ボンドさんは結婚を機に佐賀県多久市に移住しました。そこで目にしたのは、過疎化が進行し、商店街の店が次々とシャッターを下ろしていく「シャッター商店街」。

多久市の職員からの働きかけがきっかけで、冨永さんは「多久市ウォールアートプロジェクト」を提案しました。これは多久市を中心とした半径500m以内の中心地に大きな壁画を100カ所作り、日本一のウォールアートの街を形成するというプロジェクトです。同時に多久市周辺の空き家を活用し、ワークショップを開いたり、物販の店を置いたりもしています。これが観光資源となり、多くの人を呼び込めるようになり、今では街の雰囲気も大きく変わったようです。

全国空き家対策推進協議会が運営する検索サイトでは、全国自治体の空き家対策支援制度情報を掲載しています。今空き家を所有している人に向けた、物件の説明や片付け等に使える支援制度や、働き手世帯・子育て世帯をターゲットに、定住の意思のある県外からの移住者が購入した空き家の改修等の費用を補助する制度が検索できるようになっているため、活用してみてはいかがでしょうか。

「地方公共団体による空き家対策支援制度」検索サイト

地域活性化や理想の住まいづくりを通じて空き家の有効活用に取り組む事例

多くの人が「役に立たない」「古くて住めたものではない」という感想を持ちがちな空き家ですが、空き家の可能性を開いた人たちがいるのも事実です。実際、空き家は放置すればさまざまな問題を引き起こしますが、正しく活用することで対処コストの削減、人口の循環、税収増など好循環を生み、地域創生の動力になり得ます。以下では、その一例をご紹介します。

「LIFULL地方創生」では、2017年にスタートした「LIFULL HOME’S空き家バンク」を通じて、全国の空き家を掘り起こしデータベース化し、空き家の有効活用やその先にある地域活性化に取り組んでいます。空き家バンクの成功事例として、カフェやゲストハウス、シェアハウスなど多様な活用が生まれているとのことです。

渡邊享子さんは、宮城県石巻市で株式会社巻組(まきぐみ)を立ち上げ、宮城県内、東京都内で計15軒の賃貸物件、民泊付きシェアハウスを運用しています。ただ、その狙いは地域活性化ではなく、あくまでも居住者一人ひとりが自分らしく幸せに暮らすことだと言います。

水上和磨さんは、東京都台東区の築100年の古民家・桜縁荘の管理人です。また、株式会社まちあかり舎代表取締役として、空き家になっている古い建物をオーナーから借り受けて改修、それをサブリースして貸し出すことで再生を図る取り組みを行っています。水上さんは、古い建物をリノベーションするにしても、完璧な商品にする必要はなく、傷だらけだからこそ魅力的であり、家に対する考え方をもっと柔軟にすべきだと言います。

国土交通省モデル事業LIFULL HOME’S空き家バンク」とは

「空き家バンク」とは、地方自治体が、空き家の賃貸・売却を希望する所有者から提供された情報を集約し、空き家をこれから利用・活用したい人に紹介する制度です。

「LIFULL地方創生」が取り組んでいるLIFULL HOME’S空き家バンク」は、地方自治体が募集する空き家と、空き家の利活用を希望するユーザーをマッチングする情報プラットフォーム。自治体は空き家、空き地の情報を無料で登録、編集、公開できます。

※引用:LIFULL HOME’S空き家バンクとは

空き家をお持ちでお困りの方は、空き家が所在する地域の自治体に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

まとめ

空き家問題は、物件所有者や、各自治体ごとの狭い範囲で見れば頭の痛い問題かもしれません。しかし、俯瞰(ふかん)的な視点で見れば住まいをなかなか探せない「住宅弱者」の人たちを助けるきっかけにもなります。また、起業家やアーティストなどに拠点を提供したり、地域活性化の起爆剤となったりするポテンシャルも秘めています。今後も行政だけでなく、民間も一体となってこの問題に取り組んでいくことが必要だと言えるでしょう。

監修者:田中 百
株式会社LIFULL地方創生推進部空き家プラットフォームソリューショングループ/LIFULL HOME’S空き家バンク事務局。元国家公務員からLIFULLへ参加。空き家バンク、関係人口創出に関わる官民連携事業の企画を担当。    

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