仕事を続けながら世界一周はできない、なんてない。

東松 寛文

働き方改革に取り組む企業が増えてきている昨今。今でこそ会社員がプライベートの時間を取りやすくなってきたが、それもここ数年の出来事だ。そんな風潮が浸透する前から、東松さんは平日はサラリーマンとして勤務し、週末には世界中を旅するというリーマントラベラーを発信し続けている。

留学をしたい、海外に行きたい。でも、こんなに忙しいのにできっこない……。そう思いながら日々会社勤めをしている社会人も多いだろう。一般的に激務といわれている広告代理店で働く東松さんも、かつてはめったに休みが取れない環境で日常を過ごしていた。しかし、2016年からはほぼ毎週末といっていいほど海外旅行を楽しんでいる。どのような経緯でそれを可能にしたのか、なぜリーマントラベラーを目指したのだろうか。彼にとって人生の分岐点ともなった出来事や、環境の変化について迫る――。

平日なのに、人生を楽しむ。
そんな大人をたくさん見たんです

某広告代理店に入社し、激務のサラリーマン生活を過ごしていた東松さん。当時、「特に海外へ行きたいと思っていたわけではないんです」と語る。「今はリーマントラベラーというやりたいことを見つけましたが、社会人になるとき、特にやりたいことっていうのは見えてなくて。将来何かやりたいなって思いはフワッとあったんですけれど、それが何なのかはわからなかったんです。仕事も毎日忙しくて旅行なんてできない生活だったし、海外にも行ったことがなかった。でも、それに対して特に疑問はなかったんですよ。働いていれば、学生のときにできなかったようなことが仕事でできたり、いろんな人に出会ってどんどん成長していることが実感できたりするじゃないですか。やりたいことが見つからなくて悶々としていたときもあるけれど、仕事が忙しくても頑張って、いつか何かができたらいいなって思っていたくらいなんです」

そんな東松さんの社会人3年目に、海外に行くきっかけが訪れる。高校時代から好きだったNBAの試合がロサンゼルスで開催されるときだった。「ちょうどその年のゴールデンウィークが4連休で、あと1日休めばなんとかその試合が見られるな、という感じだったんですよ。ただ、当時所属していた部署はそのたった1日を誰も休まないようなところで、さらに僕が一番年下。だから環境的には難しかったんですけれど……とりあえずチケット取っちゃおうと思って。そして実際に購入してみたら、なんかそこから行けそうだなって思ってきたんですよね(笑)。そこから1週間前になって上司に行きたいですっていう手に汗握るプレゼンをしたら、1日くらいだったらいいよって行かせてもらえたんです」

初めての海外、3泊5日のひとり旅。NBAの試合がきっかけだったが、現地での経験や人との出会いに大きな感銘を受けたという。

「僕、ガイドブックを持っていればなんとかなるだろうと思ってホテルとか予約していなかったんですけれど、そのガイドブックを家に置いてきてしまったことをロサンゼルスの空港で気付きまして。まさかですよね。TOEIC400点台だし、英語は全然話せないのに(笑)。でも、“アイウォントゥーゴートゥー……”とか言いまくっていたら全然楽しんで旅ができたんですよ。だから、英語が話せなくても僕は全然楽しめるんだなって気付いた。あと、その旅の間、平日なのに人生を楽しんでいる人にすごく出会ったんです。当時僕の平日は、会社のために朝から晩まで働いて、夜はお付き合いという名目のもと飲み会に行って……という繰り返しだったので、プライベートな時間が全くなくて。日曜の夜になると明日も仕事だしな、ってどこかで思うじゃないですか。周りにもそういう人たちが多かったし。でも海外に行ったとき、平日にもかかわらず、自分の人生を楽しんでいる大人たちをたくさん見たんです。それが良いとか悪いとかではなく、こんな生き方があるんだ、こういう生き方を見たいなってすごく思って。そこから海外旅行をするようになったんですよね」

海外旅行を始めたら、仕事の効率も上がっていた

日本へ戻ると、また会社員として忙しい日々が待っていた。しかし、その後は3日間でアジア、1日足してカリブ海……などを繰り返し、翌年には7〜8回ほど海外旅行。休みの取りやすさや環境は以前と変わらなかったが、東松さん自身の働き方は大きく変わっていた。

「結局は忙しくて大きな休みは取れなかったんですけれど、休めないからこそ、土・日曜や3連休とかで海外に行っちゃったんです。どんなに短くても、海外に行けないことよりも、行った方がたくさんの気付きがある。いろんな生き方を見られるから、全然もったいなくないんですよ。しかも、それを繰り返していたら、仕事の仕方もすごく改善されてきたんですよね。今までは何となく終電まで働いたり、先輩が帰るまでは帰れないとかがあったんですけれど、金曜に空港に行くことを決めると、間に合うように月曜から計画的に仕事をするようになるんです。休むって決めたら残業時間も徐々に減っていって、どんどん仕事の効率が上がっていた。さらに、海外へ行くことでいろんなインプットを受けるので、アイデアがどんどん生まれて仕事に還元されたり、会話の質も高まったんです。休み方を変えたことで仕事にも良い影響がどんどん出て、それが自分の自信にもなっていきました」

海外旅行をするようになったことで、自分の将来を見つめる時間ができたと語る東松さん。そこで感じたのは、今まで会社の中でイメージしてきた将来像は、自分が満足するものではないのではないか、という疑いだった。

「僕が頑張っていれば20年後にこうなっているだろうな、なっていたいな、となんとなくイメージしていた先輩がいたんですけれど、ふと、これだと僕は満足しなさそうだなと思ったんです。そこで、もしかするとこの会社の中でやりたいことってないのかも、と疑問を感じて。とはいえ会社を辞める理由もないし、やりたいこともはっきり見つかっていなかったので、もし会社以外でやりたいことを探すとしたら……旅行だな、と。そのとき、“あれ? 僕なんでこんなに旅行しているんだっけ?”と初めて考えたんです」

いろんな生き方があることを日本で伝えていきたい

短期間でもこれだけ海外旅行へ行く理由を考えていくと、いろいろな生き方を日本にたくさん伝えたいという思いが浮かび上がってきた。

「僕、現地の世界遺産とかは全然行かなかったんですよ。目の前にあったら寄るくらいで、優先順位が低くて。ガイドブックに載っていないような、現地の人が行くような市場やレストラン、現地の若者が集まるクラブとかに行っていた。その共通点を考えてみたら、そこの国にいる人たちの生き方が見たかったんだなって思ったんです。思い返してみると、そういうことって、学校の教育の中では教わらなかった。日本の教育を受けて、普通に大学に入って、会社に入ったらあとは仕事をやるだけだって思っていたのに、知らないことはいっぱいある。そういういろんな選択肢から生き方を選べることを、日本人は知らなくていいんだっけ?と思ったんですよね。かつての僕と同じく、何の疑問も持たずにサラリーマンになって、漠然と将来に不安を持ちながら過ごして……。それを感じたときに、日本にいてもいろんな生き方があることを伝えられる人になりたいなって思ったんです。僕は、サラリーマンをしながら旅行をすることで、そのやりたいことを見つけることができた。それって、誰もができることなんじゃないかなって。会社を辞めないとできないというのはおかしいと思うんですよね。だから、リーマントラベラーとして発信しています」

海外旅行って、自分にしかない能力を見つけやすいんです。好き嫌いがはっきりしやすいし、目に止まりやすい。だからこそ、自分探しにもいい。海外に行ったあとに振り返って、自分がどう感情を動かされたとかって結構大事なんですよね。つまらなかったとしても、そのつまらない理由を分析してみると、そこに自分が使うべき能力や希少性が隠れていたりする。わざわざ新しいことをしようと思わなくても、そこを掘り下げるだけでやりたいことが出てきたりするんです。僕にとってはそれが“旅行”だった。会社員として働いていても、プライベートを充実させると必ず仕事にもプラスになる。それを感じる人が増えてほしいし、僕がそのサンプルの一人になれたらうれしいです
東松 寛文
Profile 東松 寛文

1987年生まれ、岐阜県出身。社会人3年目以降、6年間で48カ国99都市に渡航。2016年10〜12月は毎週末海外旅行に行き、3カ月で5大陸18カ国を制覇する。TVや新聞などのメディアにも多数出演。自身の講演も人気が高く、著書『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』も話題を呼んでいる。

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