不登校を直さなきゃ、なんてない。
不登校=「引きこもっていて暗そう」という世間的なイメージには当てはまらず、不登校になってからのほうが明るくなったし、積極的に外出したという小幡さん。それは嫌でしかたなかった学校という牢獄(ろうごく)から抜け出し、世界が開けたからだ。彼が伝えたいのは、「無理して学校に行かなくてもいい。居場所はどこにでもある」ということ。不登校はネガティブな選択ではなく多様な生き方の一つであること、不登校を取り巻く世間と親が持つ固定観念とは何かについて伺った。
文部科学省が2020年に発表した2019年度の全国の不登校児童生徒の数は、18万人以上。過去5年間、小学校・中学校ともに不登校の割合は増加傾向にある(※1)。元不登校生徒であり、その後学校に行かなくても自分らしく生きられることを自ら証明した小幡和輝さんが発信し続けるのが「#不登校は不幸じゃない」というメッセージ。今の人生は幸せで充実していると言い、「不登校になって良かった」とすら語る。幼少期は漫画やゲーム、囲碁など自分の好きなことだけに没頭し、教室の外で教養や生き方を学んだ彼は18歳で起業。2019年からゲームの家庭教師サービスをスタートし、ゲームを通じて何を変えようとしているのか。子どもたちは今、何に興味・関心を持ち、どういう未来を見据えているのか。不登校問題から、子どもの教育とゲーム教材の可能性について伺った。
(※1)出典元:令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要
子どもにとって学校は世界のすべてじゃない
義務教育の約10年間、ほとんど学校に行っていない。学校が終わった後、いとこと一緒にするゲームの時間だけが楽しみだった。苦手な体育の授業があることも学校に行きたくなかった理由だが、もう一つが給食の牛乳だった。
「とにかく大嫌いでした。飲みたくないのに毎日牛乳が出てきて、『飲みなさい』と先生が強要してくる。なんで、本人が嫌だと拒否することを毎日強要されるのか、幼心にもその理不尽さに嫌気がさしていました。
好きなことはやらせてくれない上に嫌だな~と思うことは避けられず、頑張ってこなさないといけない、あの集団行動でのしんどさとかまわりに合わせないといけない空気感がとにかく嫌でした。好き嫌いが激しい性格で、嫌だと思ったらやらない。学校に行かないことを親に告げると、当然のように『行きなさい』と説得されましたけど頑なに拒否していました。仮病や家出を使って抵抗して、3カ月くらい親とけんかしていましたね。
不登校の間、勉強はほとんどせず好きなことだけ夢中になってやっていました。漢字は漫画とゲームで覚えたし、毎日ゲーム漬け状態でした。累計で約3万時間はゲームしていたんじゃないかな。ゲーム条例を作った香川県議会の議員が聞いたら、激怒しそうですね(笑)。頑固な息子に、両親は次第に説得を諦めるようになりましたよ」
年々増加する不登校児童生徒の数に比例するかのように、子どもたちの自殺も後を絶たず深刻な問題になっている。内閣府がまとめた資料によると、夏休み明けの9月1日に18歳以下の自殺者が最も増えていること(※2)がわかった。
「不登校になる理由は、子どもによってさまざまですが、当事者が感じていることは一つで、“学校に居場所がないこと”に尽きます。当然、いじめを発端にした理由もあるでしょう。児童生徒の自殺が、2020年には過去最多人数を更新しました。不登校の数との因果関係があると見るのが自然です。
不登校の先に、自殺を選択してしまう子どもの気持ちは残念ながら、理解できます。教員だった父は特に厳しく、無理やり登校させられたときもありました。小学生の頃、家の近くにあった踏み切りを見て、飛び込んだら楽なんじゃないかと思ったことも。あのまま登校を続けていたら、自分も死の道を選んでいたかもしれません。我慢して学校に行かず、不登校を選択して良かったと今でも思っています」
(※2)引用元:「18歳以下の日別自殺者数(平成27年版自殺対策白書<抄>)」

「うちの子どもは不登校にならない」は親のエゴでしかない
「学校に行くことが“子どもにとって幸せだ”と、頭ごなしに決め付けている保護者が多すぎますね。学校に居場所がなく、孤立している子どもに対して『学校に行かなくても生きていける道がある』『選択肢があるんだよ』と気づかせるのが親の役割のはずです。これまで全国の保護者と子どもと接してみて気づいたんですが、自分の子どもがよもや不登校になるなんて考えもしていない親が多い。それは、親側のエゴでしかありません。
子どもが不登校を選択したときは、追い詰められた結果なんです。それまで悩んで苦しんで、心が折れてしまっている。そういった子どもの背景を理解せずに、『学校を休むのは社会のルールとして許されない』なんて、親の勝手な都合を押し付けるのは言語道断です。傷ついた心の回復には時間がかかるもの。本人が行きたくないって言うなら、休ませてあげてほしいんです」
子どものことを100%理解していると思い違いをしている親が多いと指摘する小幡さん。そこにはジェネレーションギャップによる親子の壁が存在するという。どういうことなのか。
「3年前に全国をまわって不登校の子どもたちと対話する機会があったんですが、僕が不登校の子どもとゲームの話で盛り上がっていると、保護者が『うちの子どもがこんなに楽しそうに話す姿を初めて見ました』って言うんですよ。それは、好きなゲームのことを理解してくれる年上のお兄ちゃん的感覚で話してくれているからだと思うんです。子どもたちが好きなものを親が理解していないんだなと感じましたね。
プロゲーマーやYouTuberになりたいという子どもは、一流芸能人や一流アスリートと同じ感覚でHIKAKINさんを見ているんです。ここに親世代と子世代のギャップがあるんです。そこで親がYouTuberやプロゲーマーなんて仕事じゃないとか言いだしたら、子どもの好きなこと、憧れの人を全否定するのと同じです。とてもショックなことですよね。
小学生に大人気のゲーム『フォートナイト』で、全国大会に出場できるくらいのスキルを自分の子どもが持っていたとしても、理解できない親は応援もせず、子どもの隠れた才能をつぶしてしまうことだってあります。
子どもの話がわからないからと耳を傾けようとしない、理解しようという努力をしていない親は、本当の意味で子どもを理解しているとは言えません。親が自分の理解者であることを認識して、子どもが自己開示してコミュニケーションが取れている状態なら、学校での悩みごとや困っていることを相談する可能性もあります。子どもと同じ目線に立つためには、子どもが話すこと、好きなことを否定せずに聞いてあげることが重要なんです」
ゲームで得られる学びと能力とは
新型コロナウイルスの影響による一斉休校をきっかけに、授業だけでなく進学塾などでもオンライン化が一気に進んでいる。日本初となる、ゲームのオンライン家庭教師「ゲムトレ」を立ち上げた小幡さんに、オンライン教育のメリットを伺った。
「学校の対面授業には一定の拘束力・強制力があり、教室内の生徒全員が同じ条件のもと学びます。嫌いな科目にも向き合わなければいけませんが、オンライン授業なら好きな科目や学習したい課題を選んで、自分のペースで学べるところが長所だと言えます。好きな分野や得意ジャンルを伸ばすのにオンラインはうってつけだと思います。
教材の選び方ですが、分野や科目によってオンラインの向き不向きがあるので、子どもたちと相談しながらいろんな教材を試してみると良いでしょう。学校や担任の先生は選べませんが、教材やオンラインスクールは子ども自身で選ぶことができます。プログラミングスクールの多くや私が立ち上げたゲムトレでは体験会を実施しているので、子どもの成長にとって何がベストな教材か、いろいろトライしてみてください。

「ゲームを使った新しい習い事として、『ゲムトレ』をスタートしました。2020年に、第5回日本アントレプレナー大賞にて、エンタメ部門グランプリを受賞しました」(小幡さん)
未来の教材として、僕はゲームに無限の可能性を感じています。eスポーツというジャンルが確立され、プロゲーマーが職業として認知され始めていますが、僕はゲームに教育面でも大きな効果があると伝えていきたいんです。2020年に入り、日本の教育現場では論理的な思考力、主体的に学ぶ力などが重視されるようになりましたが、ゲームはこれからの時代を生き抜く能力が鍛えられると考えています。
チームプレイを通じて協調性やコミュニケーション能力が高まりますし、敵を倒してミッションをクリアするためには戦略を練ることが必須で、情報処理能力や論理的思考力が求められます。ゲームが強くなることで、自己肯定感が高まる効果も期待できます。僕は、不登校になってからゲームを通じてたくさんの友達ができて、人生が救われました。最高のコミュニケーションツールでもあり、最良の教材でした。ゲームを単なる遊びで終わらせず、子どもの人生を豊かにする“人生の教科書”として認めてもらえる未来を作っていきたいと思っています」
オンラインで「世界中の人たちとつながる」ことを可能にしたゲームは、エンターテインメントの枠を超えるものになりつつある。不登校を経験し、ゲームで人生を切り開いてきた小幡さんだからこそ、ゲームには子どもたちに生きる力や元気を与えるパワー以上に、教育的意義があることを確信したのだと思う。
1994年、和歌山県生まれ。株式会社ゲムトレ代表取締役社長。小学2年生で不登校になる。義務教育の期間はすべてゲームに費やし、その後定時制高校に入学。学校では教えてくれないことを不登校の時期に学び、高校3年生で起業。2017年、47都道府県から参加者を募り、世界遺産の高野山で開催した「地方創生会議」がTwitterトレンド1位を獲得する。2019年10月、ゲームのオンライン家庭教師「ゲムトレ」をスタート。約25人のゲーマーが講師役を務め、子どもを中心に約200人を指導する。2021年3月14日には脳科学者の茂木健一郎氏などをゲストに、オンライントークイベントを開催する。
オンライン家庭教師「ゲムトレ」 https://gametrainer.jp/
Twitter @nagomiobata
みんなが読んでいる記事
-
2024/04/18
子どもを産んだらキャリアを諦めなきゃ、なんてない。―私が、D&I+委員会やProject Butterflyの活動に励む理由―堺 亜希住宅・不動産情報サイトLIFULL HOME'Sの新築一戸建て領域のグループ長を務める堺亜希は、3児の母でもある。そしてLIFULL社内のダイバーシティ&インクルージョンを推進する「D&I+(D&Iプラス)委員会」の委員長も務めている。幅広い業務を担う中で、堺はこれまでどのように家庭と仕事のバランスをとってきたのか。そして、堺は今どんな思いで働いているのかを聞いた。
-
2024/05/24
“できない”、なんてない。―LIFULLのリーダーたち―LIFULL HOME'S事業本部FRIENDLY DOOR責任者 龔 軼群FRIENDLY DOOR責任者 龔 軼群(キョウ イグン)2024年4月1日、ソーシャルエンタープライズとして事業を通して社会課題解決に取り組む株式会社LIFULLは、チーム経営の強化を目的に、新たなCxOおよび事業CEO・責任者就任を発表しました。性別や国籍を問わない多様な顔ぶれで、代表取締役社長の伊東祐司が掲げた「チーム経営」を力強く推進していきます。 シリーズ「LIFULLのリーダーたち」、今回はFRIENDLY DOOR責任者の龔軼群(キョウ イグン)に話を聞きます。
-
2024/08/14インクルーシブアートとは?【前編】障がい者の文化芸術活動を通じた共生社会の実現と取り組み例「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」をキーワードにして、さまざまな社会的ムーブメントが起きています。その一つに「インクルーシブアート」があります。2018年6月に成立した「障がい者による文化芸術活動」とも呼応し、官民一体で障がい者を含んだ芸術活動が活発化しています。この記事では、インクルーシブアートについて解説します。
-
2022/02/03性別を決めなきゃ、なんてない。聖秋流(せしる)人気ジェンダーレスクリエイター。TwitterやTikTokでジェンダーレスについて発信し、現在SNS総合フォロワー95万人超え。昔から女友達が多く、中学時代に自分の性別へ違和感を持ち始めた。高校時代にはコンプレックス解消のためにメイクを研究しながら、自分や自分と同じ悩みを抱える人たちのためにSNSで発信を開始した。今では誰にでも堂々と自分らしさを表現でき、生きやすくなったと話す聖秋流さん。ジェンダーレスクリエイターになるまでのストーリーと自分らしく生きる秘訣(ひけつ)を伺った。
-
2025/03/31家賃を払わなきゃ、なんてない。―「感謝」が「家賃」代わりに!? 移住のスタートを支える新しい共同住宅の仕組みとは。―中村真広 島原万丈「建築と不動産×テクノロジー」をキーワードに活動してきた中村真広さんのインタビュー。ツクルバ共同創業や虫村の構想を通じて、多様な人々と共創し、経済システムを超えた新たな場づくりを模索する中村さんの思いと実践を、島原万丈さんとの対談で探ります。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。