育児があるから自分の理想は妥協しなきゃ、なんてない。
株式会社ガルテンの代表で、ライフスタイルWEBマガジンNEXTWEEKENDの編集長を務める村上萌さん。現在は会社経営をする傍ら育児にも勤しみ、東京と大阪での2拠点生活を送っている。村上さんを取り巻く状況を並べると多忙なイメージがつきまとうが、やるべきことに追われて息苦しい状況に陥らないために、いつも自分のご機嫌をとりながら生活しているという。コロナがますます厳しい状況を強いるこの時期、働く女性の一人としての価値観に迫った。

コロナは私たちの生活に大きな変化をもたらした。在宅勤務に切り替わり、自分のリズムで心地の良い生活を送れている人もいれば、感染予防を意識しながら引き続き職場まで通勤している人もいる。外出自粛に伴い、SNSを含むオンラインでのコミュニケーションも増えたことから、自分と周りの環境を比べてしまい、息苦しくなったという人も多い。20代で起業し、現在は経営者として東京と大阪の2拠点生活を送る村上萌さんは、たえず自分の置かれる状況を捉え直し、この時代をたくましく、そして楽しく生き抜いている。みんなが苦労するこの厳しい時代に、私たちは自分の生活の理想をどのように描いていけばよいのだろうか。
「自分はこんなもんじゃない」が
すべての原動力
コロナが流行する以前から、北海道と東京、東京と大阪、など2拠点での生活を送っている村上さん。大学卒業後は就活もしていた村上さんが起業したのは24歳のときだった。
「今でこそ仕事とプライベートの境界線を曖昧にすることが提唱されているかもしれないですが、22歳のときの私は『どうしたらプロのサッカー選手をしている彼と一緒に生きていきながら、自分のしたい仕事ができるんだろう』ということをナチュラルに考えていました。就活で失敗が続いていたときに、当時神戸が拠点のチームで選手だった夫から『じゃあもう神戸に来る?』って言われたこともあります。半プロポーズだったのかもしれないんですけど、しょうがなく呼んでもらう感じがすごく嫌で。夫のことを支えるためにも、ちゃんと自分を好きな状態でいたいと思っていました。」
フリーランス時代の村上さん
それから、「どうしたら自分が社会の役に立ってお金をもらえるのか」を考え、周りの人々にプレゼンをする日々が続いた。そして、2011年にガルテンを設立した。
「頑張れば手が届く」距離感で、人を勇気づけたい
村上さんが起業を選んだのは、なぜだったのか。一人で事業に取り組む難しさもあれば、団体で取り組む難しさもある。考え抜いた末に、村上さんは後者を選んだ。
会社設立当時からのブランドのコンセプトは「NEXTWEEKEND」。その季節ならではの衣食住の楽しみ方や、アクティビティを発信している。本当に人を勇気づけられるポイントは、遠すぎない「次の週末」にある。村上さん自身がそう感じたきっかけは以前、知人からかけられた言葉にあった。
「はじめて90分間、一人で企業で講演するというシチュエーションで、本当にできるのかすごく悩んでいたときに、知り合いの人に『2時間向き合って、準備したら絶対できるよ』って言われて、すごく元気が出たんです。自分にはまだ早いと思って勝手に人ごとにしていたけど、大切なのは時間じゃなくて向き合うことなんだな、と気づきました。そしてせっかく講演を聞いてもらったんだったらその人が『次の週末に自分でもできるかも』とか、『意外とすぐできるんだ』と思ってほしい。それは、社員もみんな同じに持っている気持ちですね」
大切にしたいものがくっきりと浮かびあがる2拠点生活
村上さんは今まで仕事と育児に、2拠点生活の中で取り組んできた。現在は旦那さんの所属するサッカーチームの拠点である大阪を本拠地に、仕事の用事で東京に駆けつける生活だ。毎回の移動をともにしている娘さんは、村上さんにとってどのような存在なのだろうか。
「子どもを通して見る世界がすごく奇麗で、それが原動力になっています。例えばこの間、起きたばかりの3歳の娘が寝室から出てきて、『アイス食べていい?』って言ったんですよ。『そんな朝イチでアイス食べないよ』って言ったら、『昨日は寝る前に食べないって言ったじゃん。いつ食べればいいの?』と言われて。『あ、そうだよね。アイスの時間!ってお楽しみを、ちゃんと作ればよかったね』と反省しました。娘は今を一生懸命楽しもうとしてるんだなと思って。大人が常識にとらわれて気づけないことに対して、そもそもの質問を突きつけられることがよくあります」
仕事と育児だけでなく、2拠点生活には「移動」がつきもの。大阪と東京を行き来する生活を村上さん自身はどう思っているのだろうか。
「2拠点生活は、夫の移籍がなくなったとしても続けたいと思うくらい気に入っています。時間の有限性をすごく感じて生きていられるんです。例えば、以前住んでいた北海道の富良野のラベンダーってすごく奇麗なんですけど、札幌の人に聞くと一回も富良野に行ったことがないという人が想像以上に多くて。そういう方は、『遠いからね。でもまぁ、いつでも行けるし』なんておっしゃるんですけど、いつでもできるって思ってる人の行動力ってそんなに出てこないと思っていて。私は『今年がここで過ごす最後の夏かもしれない』と思っているので、今できることをいつも意識しています。『いつでもいいや』からくるズルズル感がなくなる点で、2拠点生活は本当に好きですね。」
コロナの流行によって以前のように気楽に外出ができなくなった今、多くの人が「制限」の中で生活している。「限られた外出時間の中で」「せっかく外出するから」という制限がかえって自分の本当の声を研ぎ澄ましてくれるのではないかと村上さんは話す。
大変な時代だからこそ、自分自身の理想をきちんと描く
就活をやめてフリーランスへ、起業、2拠点生活……マジョリティとは異なる働き方をしてきた村上さん。原動力となったのは「自分はこんなもんじゃない」という意識だった。
「『こんなもん』って思っちゃうとすごく楽だとは思うんですけど、もったいないですよね。私自身が置かれている環境を他の人と比較したら、捉え方によっては子育てと仕事の両立も大変だし、2拠点間の移動が疲れるっていう感想で終わると思うんですけど、自分の選んだ道ってわかっているから、『こんなもんじゃない』という意識で、どうやったら今の生活がちょっとでも改善できて楽しめるかなって考えています。子どももいるからには楽しもうと思って、見えてきたこともありますね。子どもがいなかったらいないで、金曜夜から一人旅に行ける生活が心地いいって答えてたと思いますよ」
常に本質を問いながら自分の理想を考えることを大事にする村上さん。自身の会社では、オンラインでの働き方が普及する中で、改めてオフラインの「場」の良さが認識されたという。一方で、村上さん個人として大切にしていきたいこととは、どんなことなのだろう。
「私が偏愛している物事がすごく大事だなっていうことを改めて感じています。これについてはいくらでも語れるとか、みんなにぜひ見てほしいと思うものとかあるのってすごくパワーになると思うんです。北海道に住んでいた頃は、何かを見るたびに『これは絶対みんなにも見せたい…!』と思う景色や体験ばかりだったので、何年も連続して社員旅行の目的地にしていました」
社員旅行
「『今』できることをすぐ考えてしまうんです。確かに夏はまた来年も来るけど、子どもと自分たちの年齢は確実に変わっていくし、この状況で過ごせるこの季節は1度しかないと思うと、『今、したい』と思うことは尽きません。先日は娘の3歳の誕生日にイルカに乗りたいと思ってイルカに乗りにいきました。『これとこれ合わせたらどうなるかな』という子どものときからの好奇心が、今日の自分の選択肢を増やしてくれると思います」
楽な選択肢はいっぱいあると思うんですけど、考えるのをやめないで「自分はもっとできるはず」って思う。理想とのギャップの中に何かできることがあるから、「こんなはずじゃない」って思っていいと思うんですよね、全然。自分の目の前にあるものを人ごとと思わないだけで、ひとつでも改善策は見つかると思います。
編集協力/IDEAS FOR GOOD

1987年生まれ、神奈川県出身。
2011年に起業を決意し、株式会社ガルテンを立ち上げ、代表取締役に就任。現在は「季節の楽しみと小さな工夫で、理想の生活を叶える」をコンセプトにしたコミュニティメディアNEXTWEEKENDで編集長を務め、雑誌やウェブマガジン、イベント、商品を通して「次の週末に取り入れたくなる1.5歩先の理想」を発信している。
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