親に愛されなかったから誰からも愛されない、なんてない。―生きづらさを抱えた子どもの居場所をつくり、社会に送り出す女性の挑戦―

子どもは誰でも親から愛されたいと願っている。しかし虐待や育児放棄により親から愛されずに育った子どもが親になると、自分の子どもにも虐待や育児放棄を行う場合がある。親が子どもを育てられないと判断された場合は、子どもは児童養護施設で暮らすことになる。ここでさらに問題を起こすなどして施設でも暮らせなくなった子どもたちがいて、その子らを受け入れるのが自立援助ホームである。髙橋麻子さんは、静岡県・三島市で2つの自立援助ホームを立ち上げた女性。「髙橋さんのホームだと子どもたちは変わる」と評される髙橋流・子どもたちへの接し方の決め手は“愛”だ。

髙橋麻子さん

街の中心部に美しい水のせせらぎが流れ、霊峰・富士山を仰ぎ見る三島市。ここに、親の愛に飢え、生きづらさを抱えている青少年たちを支えている女性がいる。髙橋麻子さん。親からの愛を得られず、心に深い傷を負った少年たちの居場所ともなる「自立援助ホーム」を2つ運営している。大人への不信感を強く持った少年たちは、ときに犯罪を犯してしまうこともある。そして多くがADHDやASDなどの発達障がいも持っている。

髙橋さんはなぜ彼らを支えようと思ったのだろう。

過去は変えられないけれど、“ここから”やり直すことはできると思うんです

「この子たちは社会に出られるだろうか」が出発点

自立援助ホーム(以下ホームと記載)とは「義務教育終了後、何らかの理由で家庭にいられなくなり、また児童養護施設等を退所し、働かざるを得なくなった、原則として15〜20歳までの青少年たちが暮らすところ」(全国自立援助ホーム協議会パンフレットより)である。

児童養護施設含め、親元から離れてこうした施設で暮らす子どもは2023年2月時点で約4万2000人がいるとされる(こども家庭庁調べ)。

髙橋さんは三島市で「KOKOKARA(ここから)」と「KOKORONE(こころね)」という2つのホームを運営している。きっかけは、子どもたちを自然環境の中でさまざまな体験をさせて学んだり遊んだりする「森のようちえん」を運営しているときに、結構な割合で発達障がいの子どもがいると気が付いたことだった。

そういう子どもをよく見ていると、親が子どもに全く関心がないケースが多かった。発達障がいに特徴的な行動をしていても、なぜそうするのか理解しようとしていない。

公園に行けばよその子どもとトラブルになる。じっとしていなければならない場所で動き回る。「なぜできないの!」としかり続けるが、それは発達障がいの症状なので、本人にも止めることができない。ここで医療につながることができれば治療により変わることもできるが、医療につながれず、つらい日々の繰り返されると、親も苦しみ、結果、虐待に向かうことも少なくないという。

「虐待をする親は、自分も虐待されて育ったことが多いんです。負の連鎖ですよね。医療にもつながれず、理解者もいない発達障がいの子どもたち、虐待された子どもたちは、大人になったら社会に出ていけるんだろうか? と考えるようになりました」

髙橋麻子さん

発達障がいは特別なものではない。文部科学省の2022年のデータによれば、小学校・中学校の生徒のうち8.8%が「学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされている。過去には「じっとしていられない問題行動の子ども」や「衝動が激しい子ども」など、困った子どもというくくりだったが、現代では医療によりADHD、ASDなどの診断が下りるようになった。数としては、昔から変わらないのかもしれない。

彼らの将来を案じていた髙橋さんは、あるときホームの存在を知った。ADHDやASDなどの発達障がいを抱えていたり、いろんな事情で親と暮らせなかったりしている子どもたちが生活を共にしている施設だと聞いて「やってみたい」と思った。

実施主体は都道府県、政令指定都市、児童相談所設置市など自治体だが、経営主体は民間も可能だ。生きづらい子どもたちが自立できるように生活を支えたい。そんな思いで2020年に1つ目のホーム「KOKOKARA」を設立することになった。

ところがすぐに満室になってしまった。もともとていねいに目配りできるように6名までの小規模なものなのだが、まだまだホームに行きたい少年がいると聞いて、すぐに2施設目となる「KOKORONE」を設立。

「ホームは男女一緒にはできないので、うちは男性専用です。私の子どもが4人とも男の子なので、女の子の育て方分からないし」

と笑う髙橋さんは、自身の子育てについてこう語る。

「私は早くに結婚したので4人とももう成人して結婚もしています。男4人ですからいろいろ問題を起こして学校に呼ばれたりもしました。発達障がい気味の子もいます。でも、とにかく愛いっぱいに育てて、幸せな子育てをしましたから、今度は困っている人の子育てを手伝いたいという気持ちになったのかも。ホームの子たちに対しては、自分の子どもを育てるのと同じように接しています」

シングルマザーや経済困窮家庭への食料支援シングルマザーや経済困窮家庭への食料支援も行っている

愛をもらえなかった子どもたち

入所してきた少年たちはそのほとんどが、児童養護施設から来ている。養護施設は通常なら大学卒業にあたる年齢まで入所していられるが、問題行動を起こしたり、犯罪を犯して鑑別所に行ったりした場合は養護施設にはいられなくなり、ホームへと移ってくる。

それぞれ、しんどい過去を背負っている。ADHD、ASDなどの発達障がいがある少年もいる。発達障がいと犯罪は直結はしないが、コミュニケーションが苦手、衝動性があるといった特性が、時として犯罪に結びついてしまうことはないとはいえない。

虐待されてきた子。無視され続けてきた子。きょうだいは可愛がられているのに、一人だけ放置されてきた子。携帯で何十万もの課金をしてしまったり、窃盗、万引きをしたり、親に向かって刃物を向けた子もいる。

ほとんどが、親から愛されることなく育ってきた。その裏返しで、実は狂おしいほど親の愛を求めている。

ある子は全身に入れ墨を入れているが、その一部には母親の生首に包丁が刺さっている図柄があるという。

「本当に憎かったら、その人の顔をわざわざ刺青で入れないだろうにって思うんですけどね」

本当は愛されたい。愛してほしかった。でも求めても得られなかった。みんな心の中の「愛」のピースが欠けたままだ。 

髙橋麻子さん

「事件や問題を起こした過去は変えられないけど、ホームの名前通り“ここから”やり直すことはできます。もし発達障がいがあるとしたら、その症状とどう付き合っていけばいいかを地道に地道に教えていきます。反抗されたり、暴言を吐かれても絶対に見捨てない。その姿勢をずっと続けていきます」

髙橋さんは親ではないが、親が与えなかった愛情を彼らに注ぐ。それを繰り返すうちに、少年たちと髙橋さんの間に信頼関係が築かれていく。

社会訓練の場を用意 その名も「農CARRY」

ホームは入所者の自立が目的なので、みんなバイトや就職にも挑戦する。しかし、例えばコンビニエンスストアのようにレジ打ち、品出し、発注、接客など多数のタスクが同時発生するような場だと、がんばっても発達障がいの特性でなかなか対応できない。クビになってしまうこともしょっちゅうだ。

「誰だって何度もそんな体験をすると辛いです。どんどん自己肯定感が下がってしまう。なんとかできないか? と考えて立ち上げたのがカレー屋。いわば、職業訓練のためのお店です。彼らにはおしぼりと水の提供、スープのサーブをやってもらっています」

「農CARRY」のカレー「農CARRY」は大人気! 近所のお年寄り夫婦や公務員、若いカップルまで市内の人々が訪れる(髙橋さん提供)

名付けて「農CARRY」。髙橋さんの活動を理解し、応援してくれている伊豆国分寺の住職が場所を貸してくれており、キッチンカーで料理を手渡し、境内の休憩所で食べることができる。

「挨拶もちゃんとできない子が多いし、敬語もよく知らないから『水、飲む?』とか突然お客様に話しかけてビックリされたりするんですが『すいません、この子たちが社会に出るための訓練でもあるんで、大目に見てくださいね』と説明すると、だんだんお客様の方から『あんた、先週は店にいなかったけど風邪でもひいたの?』とか『帰るよ、テーブル片付けよろしく。がんばってね』とか声をかけてくださるようになっていってね。ゆるいつながりができているようで、うれしく思っています」

「農CARRY」は、こだわりのスパイスカレーで有名な「もうやんカレー」のフランチャイズである。都内の店舗だと一食1150円〜1850円のランチビュッフェが「農CARRY」ではなんと500円。 2〜3種類のカレーにサラダがお皿に盛り放題。さらに卵料理、スープ、時にはデザートもついている。もちろん「もうやんカレー」の社長も了承済みだ。

「農CARRY」の野菜ビュッフェ野菜は料亭に卸すほどのトップクラス農家が提供しているだけあっておいしい(髙橋さん提供)

「500円でこのクオリティを出せるのは、周囲の皆さんの助けがあってのこと。『農CARRY』は子ども食堂でもあって、子どものため、ホームの少年たちのためにと、活動に賛同してくれる農家の方が新鮮な野菜を無償で提供してくださっているんです。卵もそう。三島のブランド卵「けさたま」をいただいています。場所も伊豆国分寺のご住職の行為で境内をお借りしている。みんな、子どもたちのためにと協力してくださっているんです」

働けば、高額ではないが日給も得られる。少年たちは報酬を握って仕事の後にファストフード屋に行ったり、カラオケを楽しんだりして、仕事の喜びを感じるようになった。そうすると、ホームの仲間や先輩で、働いてしっかり給料をもらっている子の様子にも目が向くようになり「俺も仕事したい」「建築の仕事したい」「居酒屋でバイトしてみようかな」と話すようになるという。

その他にも、便利屋サービスのようなことも始まった。「部屋の掃除や買い物などを1時間1000円でやります」と記したチラシを配ったら、介護施設から利用者が入れ替わる際の部屋の掃除をして欲しいと依頼が来た。

「自分の部屋は汚いのに、汗かいて一生懸命に掃除してね。すごく喜んでもらえるんです。利用者さんともちょっと話したりして、子どもたちも楽しんでいます」

1度だけ、ホームを辞めようと思った

髙橋さんは、今まで1回だけ、ホームを閉めようかと悩んだことがあった。それは入所者が自殺したときだ。

「やはり親に育児放棄された子で、親戚の家を転々とするうち問題を起こし、養護施設を経てうちに来た子でした。一度高校を退学してるんですけど、一生懸命に学校に入り直し、生徒会長までやるようになっていました。ただ、イジメに遭っていた。最初はイジりだったのが、どんどんエスカレートしていってイジメになってしまって、とても仲が良かった彼女からも振られてしまって。

彼女ができてやっと居場所、家族ができると思っていたみたいで『俺、結婚したい』と言ってたのに、全部崩れてしまって、死にたくなった。

こういうとき、ことを起こす前に何らかの形でサインを送ってくるんです。夜中に遠方まで出かけて泣きながら電話してきて、慌ててスタッフが迎えに行きました。帰ってきたら、『麻子さん、辛いよ〜』って泣きながらしがみついてくるんです。私も抱きしめながら『失恋ぐらいで悩んでる場合じゃないよ。次の子に行くよ!』って励ました、その翌日に……。

その時も、Instagramに『死ぬ』って投稿したらしく、高校の同級生たちが心配してホームに来たんです。慌てて部屋にいったら、もう亡くなってました。見てすぐ、もう亡くなっていると分かりました。

その時は、やはりショックでした……。半年ぐらい何もできなかった。もう生きていることもしんどくて、ホームも閉めようと思いましたね」

髙橋麻子さん

ただ、髙橋さんの辛さを県や児童相談所など周囲の人々が理解し、支えてくれた。亡くなった彼に、伊豆国分寺のご住職がお経を上げてくれ、お骨も預かってくれている。髙橋さんは折に触れ、手を合わせに出向く。

それにしても、少年たちの心はなんと繊細で、危ういのだろうか。

少年たちは髙橋さんのことを「麻子さん」または「麻子」と呼ぶ。「麻子!」と呼びかけられて髙橋さんが何かで忙しくて「ああ、はいはい」と流そうとすると「おい! 聞いてよ!」と後ろから飛びついてきたりする。髙橋さんがカレーの準備をしている横で「ねえねえ、話聞いてる? 聞いてるの? ねえー」と言ってくる子もいる。

また、ぬいぐるみが好きでゲームセンターで取ってきたぬいぐるみを部屋にいっぱい並べている子もいる。

まるで幼い頃に得られなかった愛情を取り戻そうとしているようなのだ。

「やっぱりどこか、愛情に満たされなかった子どもの頃のまま、凍りついて置いてきぼりになった心が残っているような感じですね。本当に切ない。いずれはホームを出て一人でがんばらなくてはいけないけれど、その前にここで子ども時代の愛を取り戻そうとしても、入所してくるのがだいたい16歳ぐらい。卒業するまでの年数を考えたら、時間が足りないですね」

髙橋麻子さん

「KOKOKARA」「KOKORONE」は業界の評価も高く、児童相談所からも「なんで髙橋さんのところに行くと、子どもたちはこんなに変わるんですか? 秘訣はなんですか?」と聞かれるそうだ。

「1つはね、お日さまの下で泥んこになって汗をかくこと。ホームでは農作業をやってるんです。汗だくで草刈りしたり野菜を育てたりすると元気になっていくんですよ!

あとは『森のようちえん』の手伝いもしてもらってるんだけど、小さい子をおんぶして走り回ったりね。小さい子に手を引っ張られたりとか、子どもと遊ぶこともいいみたいです。人との触れ合いがあると、どんどん変わっていきます。

もうすぐ伊豆国分寺の中に『絵本カフェ』をオープンする予定なんですが、そこでも管理人みたいな感じでスタッフになってもらおうと思っています」

カレー屋のお客さんも、「森のようちえん」の子どもたちも、腫れ物に触るような扱いはしない。人間同士のやり取りとして、彼らと交流している。屋外での活動もだが、少年たちが変わっていったのは、髙橋さんのコーディネート力で、彼らと地域の人々に交流が生まれたことと、髙橋さんの愛情の成果ではないだろうか。

彼らが社会に出るために 私たちにできること

児童養護施設やホームから社会に出ていく際、いくつもの課題がある。

1つは、人は誰しも、年齢で大人になるのではないということ。2024年3月までは、18歳、最長22歳まで施設で暮らし、その後は社会で自立する(一人暮らしをして働く、あるいは大学へ行く)ことが求められていた。

だが、2024年4月児童福祉法改正があり、この年齢制限が撤廃された。

「年齢で区切って『◯歳だからもうしっかりしたでしょう、さあ卒業してがんばって』と言われても、できない子のほうが多いです。年齢制限が撤廃されたことはその点からはよいのですが、今度は『それでは何歳になっても出ていかない子が増えるのでは』と危惧する風潮があって、逆に子どもたちそれぞれが何歳で自立するかの個別計画書を作り、卒業する時期を厳格にしようとする動きもあるんです。法が変わっても実態はなかなか変わらない」

また一度ホームを出てしまうと、再入所はできない。一人暮らしを始めても、孤独を感じ戻ってきてしまう少年もいる。しかしもし受け入れたとすると、その少年に対する国の「社会的自立支援事業等」の予算はつかない。

「かといって、突き放すことなんてできませんよ。親は育児放棄しているから親元には帰れない。実質ホームが実家のようなものですしね。

だから今考えているのは、シェアハウスみたいな、みんなで家賃を出し合って1軒の家に住むような形。目の届くところで、本当に自立できる状態になるまで暮らせる場所を作ろうかと思ってます。そうすれば私自身も安心できるし」

ホームで暮らす少年たちを「見えない少年」にしてはいけない。かつて子どもを地域全体で見守ってきたように、また虐待を受けたり、発達障がいがある子どもの特性を理解して、共に暮す世の中を作るために、私たちは何をしていくべきだろう。

髙橋さんは、私たちにもできることはあると言う。

農CARRYや絵本カフェで会うことがあったら、彼らにひと声かけてみてください。『元気でやってる?』『困ってることはない』というさりげないやり取りが何よりなんです。あなたを見守っているよ、気にかけているよ、というあたたかな目線が、何よりの支えになります。
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取材・執筆:有川美紀子
撮影:阿部 拓朗

髙橋麻子さん
Profile 髙橋 麻子

三島市出身。青少年の自立援助ホーム「KOKOKARA」と「KOKORONE」理事長・ホーム長のほか、NPO法人森のようちえん 太陽と緑の風クラブ理事長、一般社団法人災害教育支援機構 代表理事。防災士、ペット災害危機管理士。三島地区保護司会保護司。子ども食堂(毎週火・水は農CURRY)運営。子育て支援やひとり親家庭支援の活動も行う。2026年からは絵本カフェを伊豆国分寺で開設予定。生まれ育った三島を愛し、コミュニティFMボイスキューのパーソナリティーや、テレしずWasabeeのライターとして地域の魅力の発信にも力を入れる。

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