肉乃小路ニクヨの“人生に投資する“極意 ―働きながら、自分のお金も働かせる“インフレに負けない“生き方―
お金があれば幸せ?それとも時間がたっぷりあれば幸せ? その答えを軽やかに語ってくれるのは、金融愛好家でニューレディの肉乃小路ニクヨさん。これまで“ためになるお金の話”で大好評を博したニクヨさんが、今回は人生を彩る3つのキーワード ―お金、時間、幸せ― をめぐって、リアルな体験を交えながらユーモアたっぷりに語ってくれました。そして今回は、初めての試みとして、オンラインで参加者を募っての公開取材を敢行。たくさんの方々に、ニクヨさんの生の声が、熱い思いが届いたことと思います。
いつまでも続くかのように感じられた暑さも、やっと収束の気配を見せ始め、朝晩は過ごしやすくなった今日この頃。しかし一方で、夏が終わって秋が訪れると、会社や学校に通う若者たちの中に、心身の不調を訴える人が増える、というデータがあるそうだ。2025年の夏はとりわけ暑かったから、その傾向は例年以上かもしれない。今回またニクヨさんにご登場いただいたのは、秋を迎えて調子を落としている方たちに向けて、今日からでもすぐに参考にできるような、そして元気が出るようなお話をお聞きしたかったからだ。そしてニクヨさんには期待通りの、いや期待を超える、たくさんの素敵なお話を伺うことができた。
投資って、ある意味「もう一人の自分」だと思う。つまり、私の代わりに、私のお金に活躍してもらうこと
秋は”お金より心”が冷える季節
秋になると心身の不調を訴える若者が増えるらしいという話をすると、ニクヨさんは、すぐにウンウンと頷きながら、話し始めた。
「ああ、それは分かりますね。夏が終わると、急に肌寒くなって人恋しくなる。急激な温度の低下が寂しさを作り出すんだと思うんですよ。そろそろコンビニに肉まんが並び始め、やがておでんが並び始める。そういう寂しさ、寒さみたいなものを、気温以上に感じる時期なんですよね。それでちょっと気持ちが不安定になったりするんじゃないかな?」
幼い頃から、お金にワクワクしていた ― 商売の家で育ち、金融に惹かれた原点
さて、ニクヨさんは現在、「経済愛好家」を名乗っていらっしゃるが、お金に対する興味は、いつごろ芽生えたのか、尋ねてみた。
「それはもう、幼少期からありました。父方の実家も母方の実家も商売をしておりましたので、どちらの実家に帰っても『自営業って、こんなふうに商売しながら暮らしてるんだな』って小さい頃から感じてましたね。それに、そもそもお金が好きだった。銀行に連れて行かれると、親が銀行の人と相談している間に、私は両替機のところに行って、人が両替する様子をじーっと見てたんですよ。入れたお札が100円玉になって出て来るのを見てワクワクしてた」
その後ニクヨさんは、慶應義塾大学を卒業し、外資系の証券会社に入社。好きな道に進んで順風満帆の船出をしたように見えるが、実は出だしでつまずいてしまったのだという。
「就職から間もなく、ちょっと体を壊してしまった。それで派遣社員とか契約社員からスタートすることになって、ちょっと出遅れちゃったんです」。
ニクヨさんは、“リテール”と言われる、個人客への商品の提案や案内といった業務を担当、併せて、みんなが嫌がる電話セールスもやった。「周りのおじさんたちは、電話しながらのデータ入力が苦手だったんですけど、私はSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)でパソコンの入力には慣れてたから、そういったところから必死にのし上がっていった。全然エリートじゃなくて、たたき上げなんです」。
とはいえ、ニクヨさんのそんな経験の数々が、今の“分かりやすいお金の話”に生かされているのではなかろうか?
「ああ、そうかもしれない。私がその頃お客さまに説明してたことと、今やってることって、同じですもんね」
あえて飛び込んだ「貧乏」生活が教えてくれたこと―幸せの閾値を低くする経験
ニクヨさんは、著書の中で「自分は貧乏を経験しているから、幸せを感じる閾値が低い」と書かれている。しかし、いつ、どんな貧乏を経験されたのかと不思議に思って尋ねてみると、それは、生まれ育った家庭の話ではなく、就職後のことなのだという。
「実はさっき話した、就職して間もなく体を壊したっていう、その頃のことなんです。体を治しながらでも働かなきゃいけないけど、どうしよう?と思って。実家に応援してもらうことも考えたけど、いや、自分一人でやっていける経済感覚を早く身につけなきゃ、と思った。それと、当時好きだった作家で『桃尻娘』(講談社)で有名な橋本治さんが、『貧乏は正しい!ぼくらの未来計画』(小学館文庫)というエッセイを書かれていた。じゃあ今のうちにその貧乏を経験しとこうって、4畳一間のアパートを借りた。24歳の時です。家賃が3万2000円の、当時としてもすごく安いアパート。そこで自立を目指して頑張り始めました」。
ニクヨさんはその頃、『ローマ人の物語』(塩野七生著・新潮社)も読んでいて、ローマ人がインフラをフルに活用して生活していたことを学んでいた。だから自分も、図書館やカフェといった東京のインフラを有効活用して、たとえ質素でも卑屈にならずに生きていこうと決意したのだという。
「29歳くらいまで、そんな生活をしていました。でもあれは絶対やってよかったと思うし、一生ものの経済感覚が身につけられた。あれがなかったら私、お金のありがたみも分かってなかったと思うんですよね。あの経験があるから、幸せを感じる閾値が低いというか、どんなことがあっても『ああ、あの頃に比べたら全然マシだ!』みたいな感じがある」
「時間」は人生最大の投資先 ― 長期投資と命の有限さから学んだこと
新NISAのスタートとともに投資を始めた人も多いが、投資の基本といえば、まず挙げられるのは、じっくり時間をかけてお金を増やしていく「長期投資」だ。長期投資は、数年~数十年程度の期間で行う投資で、時間を長く使えば使うほどお金を増やしやすいという傾向を利用した投資スタイルだが、一方で、ニクヨさんも著書に書かれている通り「人は歳を重ねて初めて、時間の大切さに気づく。そして気づいた時には残り時間は少なくなっている」。
なぜ人は若い時には、時間の大切さに気づかないのだろう?「それは、『死』というものが身近にあるかないかの違いだと思う。私くらいの歳になると、周りに亡くなってしまう方も出てきて、命が有限なんだということを考えさせられますよね。あと、時間が経つのがすごく早いって感じる。最近、私はようやくその理由がわかったんですけど、20歳の人にとっての1年って1/20の感覚。だけど50歳の人の1年って1/50なんですよ。どっちが短いかって言ったら1/50ですよね。あとは体力が衰えるってことを若い頃は知らない。体力の衰えもまた、自分の終わりを感じさせる。そういうのも含めて、年齢が高いほど、時間の大切さが痛切に感じられるんだと思います」
気づいた時に、始めればいい―人生に遅すぎることはない
だからといって、若い人に無理やり時間の大切さを説いても仕方がない、とニクヨさんは言う。
「嫌がってる人に水を飲ませようとしても飲まない、みたいな感じですよね。どんなにありがたい言葉でも、やっぱり自分が腑に落ちるとき、気づくタイミングってあると思うんですよ。そこから大事にすればいいし、人生に遅すぎることはないと思うので、気がついたら、そこからやればいい、っていう感覚でいいと思いますよ」
若いうちは「自己投資」が最強の戦略―自分株式会社のトップラインを伸ばす
投資という言葉から私たちは、株式投資、不動産投資といった類を頭に浮かべる。しかしニクヨさんは、「自分への投資」もまた重要だと考えている。
デフレからインフレに向かいつつある今の時代には、とりわけそれが有効だと。「自分への投資をすることで、専門知識が増えて、専門分野ができたりする。すると自分の労働価値、付加価値が上がって、給料アップにつながる。そうやって自己投資を続けていくことで、自分の労働価値を上げていくのもまた、インフレに対する1つの答えだと思います。
インフレになって一番困るのは誰かというと、それは年金生活者の方。年金という決められた金額の中で暮らさなければならないのに、物の値段は上がっていくわけだから。それに対して労働者は、物の値段が上がっても、賃上げによって給料も上がっていくから、『働く』こと自体がインフレ対策なんです。その上で自己投資をすれば、それは1つのインフレ・ヘッジになると思いますね」
では、株や金融資産に投資するか?それとも自分に投資するか?は、どう考えて選択すれば良いのだろう?
「私は、30代、40代ぐらいまでは、自分に投資をした方がリターンは大きいかもしれないと思う。私は自分を、自分株式会社、つまり一つの会社だと考えるんです。売り上げというトップライン(損益計算書の一番上に表記される項目=売上高)を、どこまで伸ばせるか?って考える。その人が働いている業界にもよりますけど、40歳くらいまでだったら、『この会社で、こういう知識を身につけて頑張れば、給料を伸ばせるかもしれない』っていう見込みが立つ人なら、自己投資をして、トップラインを伸ばすことに専念した方がいい。逆に、『ここで頑張っても、もう給料は上がらないな』っていう業種・業界にいる人は、もうちょっと金融資産への投資に振り向けた方がいいんじゃないかな、と思いますね」
投資とは、もう一人の自分を働かせること― 株も自己投資も“人生を拡張する手段”
さらにニクヨさんは、投資についての、興味深い解釈を紹介してくれた。金融、投資というのは、「もう一人の自分を働かせる作業」だと言うのだ。
「例えば今、バフェットさん(ウォーレン・バフェット。米国の著名な投資家)が、日本の商社の株を買いまくってると言われてますけど、その商社に、自分は就職したかったけど残念ながら入れなかった、という人がいるとします。そんな人には、入れないけど株主になる、という手があるんですよ。
つまり、入りたかった商社に、自分の代わりに自分のお金を入れる。株主になるということは、自分のお金をそこで活用してもらうことなんです。それが投資の面白さなんですよ。だから、自分が給料を伸ばしやすい業界にいるのだったら、自己投資をして自分の給料を上げていくのがいいし、そうじゃなければ、自分の代わりに自分のお金に働いてもらえばいい。それができるのが、投資の面白さだと思います」
“So What?” “Why So?”-自問自答の習慣が、幸せの質を高める
ニクヨさんは、これまで折に触れ「自分の考えを言語化する」ことの重要性を語ってこられたが、それに関連して、最近見つけた「いいこと」を紹介してくれた。それは「自問自答」、つまり自分と対話することだという。
「私はプールで水中ウォーキングするんですけど、その時、何か聴きたくて耳にイヤホン入れてたら、ぶつかったりして危ないから、それはできない。すると、ただ運動するだけの時間になっちゃうんですけど、その時間に始めたのが『自問自答』なんです。例えば私、最近あるTV番組に出演してすごく嫌な経験をして、その番組のディレクターが許せなかった。『あいつ本当にムカつく!』って。
でも、そこで終わらせないで、“So What?” “Why So?”っていう問いかけを自分の中で続けていくんです(事実・情報に対して、「So What? だから何?」と「Why So? それはなぜ?」という問いを繰り返すことで、課題の本質と解決策を明確にするための論理的思考法)。
『あいつムカつく!』『だから何?』『なぜそうなったの?』って、水の中を歩きながら問い続ける。すると『あれ?もしかしてあいつがこうしたのには、こんな意図があったのかも』なんてことが見えてくる。『自分は、新しい経験とか価値を求めてリスクを取りにいってるけど、あのディレクターもまた、新しい私の一面を撮りたくて頑張った結果なのかもしれないぞ』とか。するとだんだん怒りも収まって、そこからさらにいろいろ考えていく。
気になることは曖昧にしておかないで、 ”So What?” ” Why So?” を繰り返して言語化のトレーニングをしていく。
私の場合は運動中ですけど、一人旅とかもいいですよね。ちょっと目先を変えて、自分から逃げられない状態を作って自問自答する。そういうことを繰り返していくと、言語化する力も上がっていくんじゃないかなと思います」
私が幸せを感じる瞬間―温かいお風呂とシンプルな暮らし
さて、ニクヨさんがいま幸せを感じるのはどんな時なのか?聞いてみた。
「最近、部屋がキレイになって、というのも断捨離をしましてね。それからは、部屋で暮らしてるだけで幸せを感じる。あと、温かいお風呂に入ってるだけで、幸せになったり。私は本当に幸せの閾値が低いので、バカ安い幸せを感じやすい体質なんです(笑)。でもそれも、若い頃に貧乏を体験したせいかもしれないけど、いずれにしてもホント、得な体質ですよね」
ご本人は「得な体質」のひと言で済ませてしまったけれど、幸せの閾値が低いということはつまり、「忙しい日々の中でも、頻繁に幸せを感じている」わけで、それはきっと、かつての貧乏体験と、挫折と成功が折り重なった数々の経験と、幅広い交友関係の賜物に違いない。
最後に
「9月、10月は、その気温以上に冷えるから、あったかいもの食べとけ!っていうのが、私から皆さんへ贈る言葉です。幸せも健康も仕事も胃腸から、ですよ。夏は冷たいものばっか食べて胃腸が弱ってますからね。以前占いの方と対談した時に「胃腸を大事にした方がいい」って言われて、すごく腑に落ちたんですよ。体や心が弱りそうな時には、まずは胃腸を守っとけ、胃腸は夏で疲れてるから、って。皆さんも温かいものを食べて、どうか元気に過ごしてください!」
取材・執筆:宮川貫治
撮影:阿部拓朗

「経済愛好家」「コラムニスト」「ニューレディ」。
1975年東京都出身。幼少期から高校まで千葉県在住。渋谷教育学園幕張高等学校卒業。慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中(1996年)に女装を開始。証券会社に就職後、銀行と保険会社でキャリアを積む。 会社員と並行してショウガール・ゲイバーのママとして勤務。 経済・お金・ライフハック・人生観を独自の視点で語る。
Instagram nikunokouji294
X @Nikuchang294
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