【寄稿】住むなら広い家じゃないと、なんてない―ミドルシニア夫婦が都心のワンルームで豊かに暮らすコツ―
ミドルシニア世代の都心でのミニマルライフ
大木奈ハル子47歳。東京都港区在住、駅徒歩3分のマンションで60代の夫と2人暮らし。こんな風に自己紹介をすると、リッチなミドルシニア夫妻をイメージするかもしれません。
しかしその住まいが築50年以上で、12畳しかないワンルームで暮らすミニマリストという文言を追加すると、最初の印象とガラリと変わるのではないでしょうか?
我が家は老い仕度を見据えて「都心で小さな家を選んで住居費を下げ、大都心の恩恵を受けて暮らす」という選択肢を選びました。高層マンションの谷間にひっそりと佇む、昭和レトロな物件を、DIYでコツコツ整えながら、狭いながらも楽しい我が家を満喫しています。
ミニマリストはモノトーンじゃないと、なんてない
ミニマリストというと病的なほど断捨離する人という雰囲気が先行しがちで、「金銭的余裕がない人やケチな人の質素で貧乏な暮らし」とか「何もない無機質な部屋で毎日同じ服を着て暮らしている人」と、いうような印象を持たれている方が多いようです。
さらに、人気ミニマリストインフルエンサーのファッションやインテリアにある程度の傾向があるためか、いつの間にか「インテリアはシンプル」「色はモノトーン」「服は無地」というような暗黙のルールも追加されているようです。
本来はミニマリストとは、持ち物をできるだけ減らし、必要最小限のものだけで暮らす人のことを指します。「なんでミニマリストなのに、部屋がごちゃごちゃしてるんだ?」「ミニマリストの部屋ならモノトーンであるべきだ」というご意見も、ちょくちょくいただくのですが、家具や家電、調理器具や日用品に衣類など、自分たちにとって興味のないものはとことんそぎ落としているからこそ、狭い家でも、アートや雑貨、おもちゃなど好きなものを飾るスペースを確保できているのです。
これからも私は「ミニマリストです(キリッ)」と自称していくと思います。
小さな暮らしはストレスが少ない
小さな家で暮らしていく上で、「家が狭いとストレスがたまるでしょう?」「モノが少ないと不便じゃない?」この2つが、最もよく聞かれる質問です。でも、答えはNO。
家が狭ければ部屋の隅々まで目が行き届きますし、家の面積に対して、相応の所有量を保っていれば生活に支障が出るほどの圧迫感はありません。荷物が少なければ散らかりにくくなるし、どこに何があるかすぐわかるようになり、暮らしは便利になります。
掃除機だってあっという間に終わるし、水道光熱費も少なくて済む。夫婦で過ごす時間が増えるし、一緒にテレビを観れば会話もはずむ。
小さな暮らしを始めて気が付いたのですが、生活に必要なものって意外と少ないようです。
実は家を狭くしているのは「今は使ってないけれど、もしかしたらいつか使うかもしれないもの」や「気に入っていないけれど、どこも壊れていないから捨てるにはしのびないもの」、「二度と使わないけれど、見ると懐かしくつい残してしまうもの」だったりします。
もったいない、罪悪感の向こうに見えるもの
私たちは子どもの頃から、まだ使えるものを手放すのは「もったいない」と言われて育ったためか、捨てるという行為には強い罪悪感が伴います。そのためつい捨てるのを後回しにして、見えないところに追いやって、溜め込んでしまいがちです。
実はこのような必要ないのに捨てられないものたちが、家を圧迫し、居心地を悪くしていくのです。我が家はそもそも収納スペースがないので、捨てることに躊躇がありません。家が狭ければ、限りあるスペースを塞ぐことこそが最大の「もったいない」行為です。
とはいえ、捨てることに対しての罪悪感がなくなる訳ではなく、「なるべく捨てる行為をしたくない」と考えるようになりました。すると、ノベルティのボールペンやエコバッグ、使う予定のない便利グッズなど、不必要なものを家に持ち込むことが減りました。
もしかすると、「ミニマリストになると欲しいものも我慢しなければいけない」と思っている人もいるかもしれませんが、実はその逆なのです。私はミニマリストになってから、生活に必要がないものが何か明確になり、欲しいものだけを取捨選択できるようになりました(もちろん今でも失敗はありますが、以前と比べると格段に違います)。
「使っていないもの」「気に入らないもの」「二度と使わないもの」を排除して残るのは、「生活に絶対に必要なもの」と「とびきりのお気に入り」です。そうなると、狭い部屋はストレスを感じるどころか、お気に入りがぎっしり詰まった秘密基地のような空間に変貌します。
生活するには自家用車が絶対必要、なんてない
小さな暮らしのメリットの次は、都心暮らしのメリットをお伝えさせてください。
都心で暮らして感じた最大のメリットは、自家用車がなくても暮らしに不便がないことです。徒歩5分圏内にコンビニ、スーパー、飲食店やカフェチェーン、ホテルに病院、銀行などのインフラが揃っていれば、車がなくても徒歩と自転車で生活が事足ります。
車は普通車の場合、車体費とは別に維持費が毎月3~4万円必要と言われています。つまり都心部は家賃が高くても、車にお金がかからない分、引っ越す前よりも年間の固定費は抑えられるため、生活にかかる総費用は安くなることも多いのです。
私はもともと運転が苦手でほぼペーパードライバーだった上に、40代半ばからは老眼も始まり、運動神経も鈍ってきていたので、車を運転せずに済む今の環境はありがたいばかりです。
車のある暮らしはたしかに便利でしたが、都心部に住めば車がなくても、徒歩圏内でショッピングはもちろん、映画、コンサートなどのだいたいの娯楽を手に入れられるため、特に不便はありません。駅チカに住めば遠方に出かける場合でも、フットワークは軽やかです。
都会は生活コストがかかる、なんてない
さらに驚いたことに「都心部はこんなに家賃が高いのだから、きっと物価も高いのだろう」と思っていたら、意外や意外。物価はそうでもないのです。高い店ももちろん多いのですが、安い店も多く、物価の幅が広いという印象を持ちました。
チョコレート菓子や、コーンフレークなどの加工食品は「ドン・キホーテ」で買えば激安だし、肉は「肉のハナマサ」や「オーケーストア」で高品質なものが低価格で手に入る。徒歩圏内には築地場外市場もあり、日本中の新鮮な野菜や魚が揃っています。
銀座に行けば、高級ブランド店だけでなく「ユニクロ」や「G.U.」、「ワークマン」や「ダイソー」も軒を連ねています。「マクドナルド」や「ガスト」など、一部では都心価格を打ち出してきましたが、ほとんどの飲食チェーンやコンビニでは、全国一律でほぼ同じ商品を購入できるのです。
贅沢をしようと思えばどこまでも贅沢ができるけれど、節約しようと思えば極めることだってできる。そんな選択肢の多さが、都会の魅力なのかもしれません。
以前の私はコレクター気質で、ものに溢れた部屋で暮らし、以前の夫はバブル世代の浪費家で、あったらあるだけお金を使うタイプでしたが、結婚して都心部で小さな暮らしを始めてからというもの、身の丈にあった金額で楽しめることを探すようになり、生活費を下げることに成功しました。
豊かなセカンドライフは田舎じゃないと、なんてない
テレビや雑誌のメディアでは「都心は家賃も物価も高いから、セカンドライフは田舎でゆったりのんびり暮らす」というのを理想の老後のように紹介しているのも見受けます。
実は私たち夫婦も、夫の定年退職後に田舎で畑仕事をして暮らすことに憧れ、自治体が運営する滞在型市民農園の「クラインガルテン」を本気で探していた時期もあります。
しかし私は持病の腰痛が再発し、畑仕事どころか庭の雑草抜きさえ難しくなりました。庭仕事どころか玄関前の掃除さえ必要ないマンション暮らしが、どうやらお似合いのようです。
夫は2年前に胃がんになり、現在も抗がん剤の治療を継続しています。通院する病院が遠いというのは肉体的にも精神的にも大きな負担になるため、最善の医療が受けられる総合病院のそばが、夫にとっては最良のようです。
ということで田舎暮らしに憧れつつも、都心で小さく暮らすということが、私たちにとってはベターな選択だったという訳です。
住むなら広い家じゃないと、なんてない
満員電車に揺られながら「都心に住みたいけれど安月給だからとても無理」と、ただ嘆くよりも、荷物を減らして車を手放せば、都心暮らしはとたんに現実味を帯びてきます。
「私は洋服が多いからウォークインクローゼットのある物件じゃないと」とか「駐車場代がかかるから都心には住めない」となってくると、自分の生活が服や車に乗っ取られてしまっているようなもの。
もちろん、服や車が生活を犠牲にするほど好きならば、それで全然良いのですが、でもそうではない人にとって、通勤時間が減り、その分自分の時間が増えるという都心暮らしは、魅力的なのではないでしょうか?
引越しの際はついつい、今持っているものを全部持ち運ぶことを考えてしまいますが、自分にとっての優先順位を考えて、理想の暮らしに近づけるチャンスなのかもしれません。
我が家は住まいを選ぶ際に、「築浅」「2DK」「バストイレ別」などの見た目や広さ、設備面よりも、「住みたいエリア」で「駅徒歩〇分」という部分を重視しました。部屋のサイズに合わせて荷物を持てば、居心地の良い部屋はつくれるけれど、家の外の環境は自分たちではどうにもならないので、一番譲れないのは周辺環境とアクセスの良さだと考えたからです。
住むなら広い家じゃないと、なんてない。夫婦2人ならそれほど必要なものは多くない。人は増やすことに価値を見出し、大きいことが良いことだと考えがちですが、自分たちの暮らしたい場所で、収入に見合った生活を営むようになり、減らしていく豊かさ、小さく暮らすことの魅力というものもあるのだと気付かされました。
40代のサブカル好き主婦ブロガー・ライター。朝メニュー愛好家。都心の小さな1Rで夫婦暮らし中。東京都港区狭くて古い(30平米築50年)ボロマンション在住のミニマリストで、夫と猫と同居中。暮らしのテーマは「ささやかな贅沢」と「遊び心のある節約」。特技は節約とDIY。インテリアはおしゃれとかはやりよりインスピレーションを重視。そのため家中が柄モノ・色モノだらけで手が付けられない状態になっている。日本聴導犬協会の子犬預かりボランティア活動をしているため、犬の出入りが激しめ。著書に『台所図鑑』(大和書房)がある。
X @tei_nai
note https://www.teinai.work/
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