top  / stories  / 置かれた場所で成果が出るまで頑張らなきゃ、なんてない。

置かれた場所で成果が出るまで頑張らなきゃ、なんてない。

福村 瑛

フーズカカオ株式会社の代表取締役として、スペシャルティカカオ豆の開発、それらを使ったチョコレート原料の開発と卸売りの事業を行う福村瑛さん。仕事を通して農園と都市を行き来することに楽しさを感じながら日々カカオと向き合い、よりおいしいカカオの開発、そしてカカオ農園を取り巻く環境を変えていくことに努めている。その根底には幼少期、学生の頃から感じ始めた「環境を変えることで活躍できる」という思いがあったという。

私たちが普段食べているチョコレートの原料となるカカオ。その生産者であるカカオ農園が抱える貧困や児童労働の問題は、SDGsが掲げる目標とも大きく関わっている。しかし、私たちがもっとその問題について積極的に知ろうとする姿勢を見せなければ、入ってくるのは実際の状況や現地の声とはかけ離れた情報ばかりとなり、解決に向かっていくのは難しいのではないだろうか。カカオ農園に強みとなる「武器」を持たせられるようなことをしたい、と語るのがフーズカカオ株式会社で農園の開発事業を行う福村さんである。カカオ農園が抱える課題解決に向けて一人一人できること、福村さんが取り組んでいきたいことについてお話を伺った。

環境を変えることで活躍できる人がいる 、
自分が身を置くべき場所を考える

まずは、福村さんの現在の考え方にもつながる幼少期~学生の頃のお話を伺う。

「子供の頃は親や友人には『小心者』だとよく言われていました。ちょっとしたことでも気にすることが多く、決してチャレンジするようなタイプではありませんでした。
小学生の頃からサッカーをやっていたのですが、当時は同じ年の子供に比べて体力もなく、6年生までサッカーを続けていてもちゃんと試合に出られず、コンプレックスに感じていましたね。中学生になってからはサッカーのクラブチームに入り、その頃になると体力もついてきて試合に出られるようになったのですが、同じポジションの子と競い合うようになり、少し険悪な関係になった末、親にも友達にも相談することができず、途中でクラブチームを辞めてしまいました。そのとき、初めて自分が何かを辞めて、既定路線から外れるという決断をしました。

とても不安な決断でしたが、『自分がそこにいることが喜ばれない』という思いがあったので、『自分がもっと活躍できる場所』、『自分がいて喜ばれる場所』に行きたいと考えて、中学の部活動に入りました。クラブチームでついた実力がとても重宝され、部活動では活躍できただけではなく、チームメイトからも感謝されました。

そのとき、『環境を変えることで活躍できるし、みんなも喜んでくれる』という良い循環が生まれた感覚がありました。また、『強いチーム、トップの組織で活躍することが良いことだ』という自分の中にあった概念が覆されたときでもありました。

その後、高校では10番をつけてエースを任されるまでになりましたが、自分が思うようにプレーできなくなることや実力を発揮できなくなると感じ、10番を外させてもらい、陰で活躍することを選ぶようになりました。結果としてそれがチームを良い方向に向かわせたので、選択は間違っていなかったなと感じました。もちろん、実力でのトップには憧れますが、自分は遅咲きなので、すぐに期待をされる、すぐに結果を求められるのが苦手なんですよね。短期的に結果を求められるとすぐにつぶれちゃうタイプですね。結果を出すまではなるべく長く待っていてほしい。ただ結果を出すまでは貪欲にやり続ける執着心、胆力はあるので、そういうことを期待してくれる人や環境の中ではすごく活躍できるなと感じています。サッカーでのチームスポーツという経験を経て、今の考え方に近い『自分が身を置くべき場所とは』ということを考えるようになりました」

現在の事業を始めた経緯はどのようなものだったのだろうか。

「もともとチョコレートが好きで就活のときから大手のチョコレートメーカーにも興味は持っていました。ただ、大手企業に入っても活躍できないし、チョコレートが好きなだけで、自分にとっては稼げる仕事にはならないと思っていました。

なので、その当時活躍できると思ったベンチャー企業に入社しました。その会社では翻訳のネットワーク化をサービスとして提供しており、そこでは日本語ができるインドネシア人やタイ人が旅行サイトや飲食店のサイトの翻訳をして活躍していました。オンラインがなければ、彼らは活躍することができなかったけど、オンラインがあることによって翻訳のスキルを生かすことができ、現地では手に入れることのできないくらいのお金を手にしているところを見て、『環境を変えることで活躍できる人がいる』というのを感じました。

これってチョコレートにも通じないかな、という思いがあったことと、当時からチョコレートに関しては違和感を持っていて、原料が高いのに農家の収入が増えていかないことに関してもっと知りたいと思い、旅行がてらインドネシアの農園を訪問しました。そこでわかったのは現地の農家の人たちは、既存の村のバイヤーに売るという手段しかないから価格が上がらない、ということでした。高額でも良質なものを求めている人たちに売るルートさえあれば、質の高いものを作るきっかけにもなるし、売れた時にちゃんとお金が入ってくる、ということを感じました。その人たちが『活躍できる環境をつくってあげることが大事』と感じて、カカオに目をつけたのが、事業を始めたきっかけですね」

時間はかかるかもしれないが、少しずつ農園の人が活躍できる環境に変えていく

現在取り組む事業やプロジェクトについて、どのような考えがあるのだろうか。

「事業内容としては風味の良いカカオ豆の開発、そして開発したカカオ豆をベースとしたカカオ原料、チョコレート原料の開発と卸売りがメインの事業となります。それに加えて自分たちの原料を使ったお菓子作りをして販売する事業も行っています。事業を行っていく上では、お金の面と採用の面で苦労しました。何にお金を使うべきなのか、適正な金額なのかなどがわかっていませんでしたので、本来の発注金額の3倍くらいのお金を払ってしまったこともありました。カカオ豆の開発から行うと、先に大きなお金を使うことが多くなるので、せっかくカカオ豆を販売しても、開発や加工に使うお金が大きすぎて、お金が入ってくるよりも出ていくほうが多くなっちゃうんですよね。これに気が付かなかったこともあり1年目と3年目につぶれかけました(笑)。

採用面では相手にとってその環境が『身を置くべき場所』であるかというところまで掘り下げられず、お互いにとって良くない結果になってしまったこともありました。当時は優秀な人にはぜひ働いてもらいたいという思いが強かったので。現在のコアメンバーも最初からフルコミットで参加してもらうのではなく、とりあえずこれやってみてよ、というところから始めてみて、その人がもっとやってみたいと思ったり、こちらがもっとやれそうだなと思ってお願いしたりするなど、徐々に関与度を拡大していく感じで今に至ります。事業的にも数年といった短期間での急成長、急拡大を求めているわけではなく10年20年という単位で考えているので、焦って口説いて人を採用することはないですね。一緒にやりたい意思は伝えても無理やり巻き込みたくはない。あくまで自然にですね」

LIFULLとのプロジェクト

「『LIFULL Table Presents地球料理 -Earth Cuisine-』という、地球上でまだ光を当てられていない素材にフォーカスし、その素材を食べることで地球のためになる、地球の新たな食材を見つけるプロジェクト第3弾で、僕たちのカカオを提供し、カカオの殻、枝、葉などの、通常チョコレートの主原料となる『カカオマス』や『ココアバター』を一切使わない、カカオの廃材のみを使ったサスティナブルで新しいチョコレート『ECOLATE』の開発に協力しました。

地球料理 Earth Cuisine #3 – ECOLATE カカオの廃材から生まれた新しいチョコレート -|Earth Cuisine

カカオの廃材を食べるという発想は、LIFULLのアイディアで、僕たちにはないものだったので新鮮でした。プロジェクトのコンセプトの、『食べることによって解決する』というのが単純に廃棄されるはずだった資源を使うから収入が増えるとか、そういうことじゃないんだな、と徐々に気が付いてきました。インドネシアだけでなく、各国のカカオ農園ではカカオ豆が食品として丁寧に扱われていない現状があり、カカオ豆だけに農薬が使われていなければいいわけではなくて、木全体に農薬が使われていてはだめで、木全体の手入れやケアをしていくことに切り替わっていくなと感じるようになりました。カカオポッドや枝、葉っぱが売れるということがわかると、農園の人も農薬を極力使わない方がいいという判断になり、農薬を使わないから豆も安心して食べることができるし、好循環が生まれて、食べることで農薬の問題が自然に解決していくんじゃないかと感じました。単純に農薬を使わないでほしいと言っても、収入が減ったり取り返しのつかない虫害が発生する可能性もあり、農薬の問題は解決が難しいので、無理やり感がない方がいいなと思いました。一緒に取り組むことで農園の生産性や技術力が上がって安定して品質の良いものが作れるようになるような、農園に“武器”を持たせられるプロジェクトには協力していきたいです」

持続可能な消費・生産のために一人一人ができること

「消費者一人一人にもっと知ろうとする姿勢がないと変わらないんじゃないかと思います。おいしいとか、パッケージに書かれていることがSDGsっぽいとかだけで選んでしまうと本当にSDGsじゃないのにそれを買い続けてしまったりして、結局SDGsを達成できなくなってしまうので、しっかり確認して自分の責任で判断していくことが大事かなと思います。

カカオの話で言うと、よく、『なぜオーガニックにしないのか』と聞かれるんですね。でも、それは市場が小さいからでしかないんですよね。本当にオーガニックになっている商品にもっとお金を払ってくれる消費者が増えなければいけないとか、もっと単価が高いことに納得してくれる人が増えないといけないとか、それがないと農園側も、作っても売れないしもうからない状況になってしまうので。だから消費者も賢くならないといけない、現場を知らないといけない、というふうに思っています。

良くも悪くも日本の人たちは人を信用しすぎている気がするんですよね。他の人がこう言っているからそれが事実だと、思ってしまうケースが多いような気がしています。二次・三次情報だけで判断しているから本当の事実がなかなか伝わっていないと思います。カカオ農園の話も同じで、貧困の問題とか児童労働の問題とかは海外メディアを翻訳した記事で判断しており、日本のジャーナリストが実際に現地に足を運んで記事にしているケースが少なすぎる、というのがかなり問題な気がしますね。一次情報を得ることが本当の課題を解決する第一歩だと思っています」

今後、福村さんが事業を通じて成し遂げていきたいことは。

「カカオ農家の方は既にチャンスのある環境にいるんです。というのも、カカオベルトと呼ばれるカカオが生産できる地域は限られていて、その場所に農園を持てているということがすごくチャンスだからです。そこに加えて農家の方々が活躍できて稼ぐための『武器』となるものを持ってもらって一緒に成長できたら楽しいだろうなと思っています。

また、カカオがワイン生産地のような文化圏になっていったらいいなと想像もしています。というのも、カカオもワインと同じで発酵という技術、工程こそが変化をもたらせて、すごくいろいろなバリエーションのものを作り出すんですよ。なので、ワインの醸造所みたいになりうるなと思ってます。この醸造所の技術力は、今は誰も高くない状態なので、いろんなところに醸造所をつくって、自分たちの今年の発酵カカオの出来を競い合うような文化をつくっていきたいです。そのために僕らは今、発酵の研究や発酵機械の設計などを進めているところです。未来に向けての投資というところではそういったことをやっています」

自分が身を置く場所・環境の選択を大事にしてもらいたいです。決して偉そうなことを言うつもりはないのですが、後戻りができる状況であればどんどん環境は変えてみた方がいいと思っています。自分が犠牲になるけど、周りが喜んでくれる環境ではなく、自然に自分も活躍できて回りも幸せになる、そんな環境がいいですよね。一回環境を変えてみることで今まで見えていなかったことが見えたりして、より幸せになるポジション取りをしやすくなると思います。能力が絶対的に優れている人って限られていると思うので、自分がここでトップにならなければいけないというプレッシャーを感じるような場所にいなくてもよくて、「自分はここにいたほうがいいんだ」と思える場所を探す旅というものはあってもいいのかなと思います。僕自身もまだまだ、もっと快適な場所を探しています。

撮影/加藤木 淳

福村 瑛
Profile 福村 瑛

1991年生まれ石川県出身。大学時代に中南米縦断、VCでのインターンなどを経て、バイリンガルコミュニティサービスConyacを運営する株式会社エニドア(現Xtra株式会社)に勤務。ダンデライオンチョコレートジャパンでチョコレート製造の修行後、カカオ開発会社フーズカカオ株式会社を設立。東南アジアでスペシャルティカカオ豆の開発、それらを使ったチョコレート原料の卸売事業を展開。自社カカオ菓子ブランドCROKKAも運営。

STORIES 2021/05/19 置かれた場所で成果が出るまで頑張らなきゃ、なんてない。