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【スペシャル対談】誰かのハッピーのために自分を犠牲にしなきゃ、なんてない

小林りこ・増尾圭悟 Sufu

スポーツはあらゆる人の人生を豊かに彩るツールだが、その陰には平等に競技を楽しむことを妨げる多くの課題が存在する。障がい者や教育の現場の声と正面から向き合い、「スポーツを通じて世の中を良くしたい」という強い思いを持つ二人に、それぞれが遂行するプロジェクトに懸ける思いと、失敗を恐れず挑戦し続ける秘訣について語っていただいた。

大きな夢を描いても、「自分では力不足」「失敗が怖い」と弱気になったり、「前例のない物事がうまくいくはずない」「既存のルールを変えられるはずがない」といった思い込みにとらわれ、自ら行動に制約をかけてしまうことはないだろうか? 誰もが抱きがちな不安や既成概念をものともせず、自身の目標に向けて突き進んでいるのが、LIFULL OPEN SWITCHビジネスプランコンテストVol.3で高校生初の受賞を果たした小林りこさんと、株式会社LIFULLの新規事業としてSufu事業責任者を務める増尾圭悟だ。
二人に共通するのは「スポーツで世の中を良くしたい」という思い。小林さんはスポーツを通じて心のバリアフリーを目指す「U-Sports」というWebサービスのアイデアを。増尾はITを活用してスポーツの成長支援を目指す「Sufu」サービスを立案し、「世の中の概念や既存のシステムを変えたい」という壮大な目標に挑んでいる。

障がい者の方と一緒に
スポーツを楽しむ時間を通じて
個人を尊重できる社会を実現したい

「U-Sports」とは障がい者がスポーツに取り組む際の社会の障がいを軽減するため、スポーツ施設や団体のバリアフリー情報を利用者の声と共に届けるWebサービス。現在はサイトのオープンに向けて実証実験の準備を進めている段階だが、前例のないサービスだけにその期待値は高い。

この事業の発案者である小林さんの目標は、共にスポーツを楽しむことで障がいのある方との相互理解を深め、差別を軽減し、個人として尊重しようと思える機会を広げていくこと。その思いを抱くようになった原点は、中学3年生のときに始めたアーチェリーを通じて出会った、車いすのアーチャーたちとの出会いにあるという。

小林さん「アーチェリーってちょっと特殊なスポーツで、健常者も障がいのある方も同じ環境で練習ができて、同じ条件で出られる試合が多いんです。弓の種類や一部のルールなどに違う部分もありますが、上達に向けて試行錯誤していく部分や競技を楽しむ思いは共通する部分もすごく多いと思うんです。

正直、アーチェリーを始める以前は障がいのある方に対して『助けなきゃ』いけない存在だと認識していました。だけどアーチェリーという競技では、彼らから学ぶ機会や同じ選手として助けていただくことが本当に多くて。純粋に同じスポーツを楽しむ仲間としての時間を重ねるうちに、『助けるべき』なのではなく『一緒に支え合う』存在なんだと意識が大きく変わりました。同時に、『スポーツを楽しむ』という共通の目的があれば、“障がい”というバックグラウンドにとらわれない関わりが持てることに気が付いたんです」

増尾「障がい者の方と健常者が同じ空間で一緒にやれるスポーツって珍しいですよね。私はアイスホッケーをやっているのですが、障がい者の方がプレイするパラアイスホッケーとはまったく別物なので、同じ時間を過ごすという機会がなかなか持てなくて。ちなみに、OPEN SWITCHビジネスプランコンテストにはどうして応募しようと思ったんですか?」

小林さん「募集要項にSDGsとLIFULLの『利他主義』という社是が大きく書かれていたからです。SDGsは模擬国連を通じて関心がありましたし、何よりLIFULLの『相手をハッピーにすることで自分もハッピーになる』という理念にものすごく共感して(笑)。

他社のビジネスコンテストにも企画を出したことがあったのですが、『すぐに利益を生み出せるマーケットじゃないよね』と言われてしまうことが多くて。けど、『社会的な課題をどう解決していくか』という部分を企業の事業を通じて追求されているLIFULLなら、私の思いを評価してくださるのではないかと思ったんです」

スポーツにおける教育格差と教師の負担はITの力で変えられる

育成のプロが作成したスポーツの練習メニュー動画を提供する、Sufuのアイデアの原点は増尾自身の経験。小・中・高校と続けた野球で野球未経験の指導者に教わる期間が長く、後悔が残ったこと。大学時代に始めたアイスホッケーで自分たちが練習メニューを考える際に情報収集に苦労したこと。中学校教師になった友達が部活指導を苦に小学校教師へ転職してしまったこと――。

それらを突き詰めて考えた結果、「選手自身が自ら最適なPDCAを回せるようになればよい」という発想が生まれたという。今はまだ準備段階だが、11月から始まる全国の中学4校とバスケ部の協力の下での実証実験がうまくいけば、正式版のリリースに進む予定だ。

増尾「私たちが現在目指すのは、部活動における教師の定義を『教える立場』ではなく『支える立場』に変えていくこと。スポーツ庁の調査結果によると、公立中学校運動部活動において約4割の先生が部活で自分の専門外の種目の指導を行っているんです。それってものすごく負担・プレッシャーだし、子どもたちの成長にも影響しますよね。そんなときこそSufuが技術面などの成長を支援できれば、教師は教え子の成長を支える役割に徹することができますし、子どもたちにもいい循環を生み出していけると思うんです。

スポーツにおける子どもたちの教育格差を是正することも課題のひとつ。具体的には良い指導者に巡り合えないことで起きる指導面での格差。それから人口が少ない地方では近くにクラブチームがなかったり、人口が少ないためそもそも指導者が少ないなどの地域格差。そして経済的な余裕の有無からスクールに通わせることができないなど家庭ごとの経済格差。これらを是正したいという思いもSufuのベースになっています」

障がい者を取り巻く課題は決して人ごとじゃない

小林さんが課題として考えているのは、障がいのある方への差別の軽減と、障害があることを理由に挑戦に制約がある現状。障がいのある方に直接話を聞いて知ったのは、周囲の気遣いや「障がい者にはムリ」という思い込みによって、思うようにスポーツに挑戦し継続するのが難しくなってしまっていること。そして、スポーツセンターなどの施設で障がい者にとって必要な設備や対応を把握するための情報が少ない、もしくは非常にわかりづらいケースが多いこと。U-sportsでスポーツ施設などの情報を届けたいという発想は、これらの意見がヒントになっている。

小林さん「多くの方に障がいは周囲の環境に存在するという『社会的な障がい』に対する意識を持っていただくことも重要だと思います。みんな無意識のうちに『自分には関係ない』と線引きしがちですが、年を取れば誰もが高齢者になりますし、ケガをして車いすになる可能性だってあります。障がいのある方が利用しやすい環境を整備したり、当事者に関心を持って理解を深めていくことは、相手のためであると同時に、社会のため、ひいては自分のためにもなる。そのきっかけづくりのためにも、障がいのある方たちと一緒にスポーツなどを楽しむ機会を増やしたいんですよね。同じ時間を楽しむ中で気付きを得て、改善策を考えて、とみんなで取り組んでいけたら、いい循環になるのではないかと思っています」

自分に必要なものだと思うから壁や困難も苦にならない

新しい価値を生み出し、世の中を変えようという高い志を実現するためには、あらゆる課題や困難がつきものだ。社会に深く根付いた偏見や既成概念という大きな壁の存在を感じながらも、お二人が意欲的に挑戦し続けられる理由とは?

小林さん「『自分にできるのかな?』と思うことはないわけではありません。でもやってみないとわからないですし、失敗したらそこから学んでいけばいいやって(笑)。社会勉強中のいち高校生として世間にどんな既成概念があるかをすべてわかってはいないからこそ、挑戦できている部分もあると思います。何より、スポーツを楽しむ障がい者の方から『こんな可能性に気付けたんだよね』という話を聞いているとワクワクするし、私自身のモチベ―ションも上がるんです。もしかしたら、一緒に挑戦できていること自体が楽しさであり、やりがいに通じているのかもしれません」

増尾「私は大好きなスポーツをベースに、誰かの役に立てているということがやりがいですね。私たちの取り組みを通じて困っている人たちがハッピーになっていく未来が見えるとすごくうれしいし、使命感も高まるので。あと、私の場合は仕事でつらいと思ったことがないんです。もちろん大変なことも壁にぶつかることも多いですよ。けど、そのすべてが自分の使命や目標を達成するために必要なことだと思えるので納得感がありますし、嫌な気持ちになったこともない。たぶん、『スポーツで世の中を良くする!』とか『Sufuという事業を形にしたい!』という軸が社会人1年目のころからブレていないからでしょうね」

勇気を出して踏み出せば必ず誰かが支えてくれる

「挑戦の原点になるようなものって、実は身近なところにあると思うんです」と語る小林さん。自分の好きなことや日常のふとした疑問、ささいな気付きを「社会から見るとどうなのか?」という視点で見つめ直すと、社会に貢献していくための発想や自分がどうしたいかという目標につながっていくという。この流れは小林さんのU-Sportsだけでなく、増尾がSufuの発想に至る過程にも共通している。それぞれの思いを実現するための挑戦と向き合う中で得た、新たな気付きと既成概念の変化とは?

小林さん「高校生の自分でも社会に働きかけることができると気付けたことです。これまでビジネスは社会人になってからじゃないと取り組めないと思っていたし、生活も学校というコミュニティの中だけで完結しがちでした。けど、ビジネスコンテストなどを通じて高校性独自の視点を社会に出してみたら、いろいろな方から『面白い』と言っていただけたり、後押ししていただく機会をもらえたり。これまでの疑問や行動に意味があると気付けたのも、挑戦を続けた成果だと思います」

増尾「私の場合は『自分がこの状況を変えなければ!』という使命感が強くなったことですね。取り組みを通じて困っている人に触れる機会が圧倒的に増えたことで、目の前の困っている人を支えたい、負を感じている部分を私たちの力で取り除いていきたいと、より強く思うようになった気がします」

挑戦を通じてさらに成長し、前へ進み続ける彼らの思いが実る日は遠くない。そんな二人に「目標に向けて挑戦したいけど行動を起こせない……」という人の背中を押すメッセージをいただいた。

小林さん「悩むということは、『やりたい』という思いの表れでもあると思うので、迷ったらまずは1歩目を踏み出してみるのも一つの選択肢だと思います。全力で向き合えば意外と頑張れたり、思った以上にできちゃったりするかもしれない。うまくいかなくても、その失敗から学べば新たな成長につながります。本当に人はそれぞれなので、挑戦することこそ正義だとは思いません。けれども、気負いすぎず、やってみたいと思ったことに挑戦することで、想像以上の楽しさや発見にも出合えることもあると思います」

増尾「いきなり結果を求めるのではなく、まずは楽しむことから。そして夢中になれる何かを見つける努力から始めるのがいいのではないでしょうか。そのためには、興味の有無にかかわらず、いろいろなことを経験する必要があると思います。やっぱり自分で見聞きしたものが思考のベースになっていきますし、経験が多いほど選択の幅や人とのつながりも広がっていく。これだと思えるものを見つけたら、あとは全力で楽しむだけですよ!」

撮影/尾藤能暢 取材・文/水嶋レモン

Profile 小林りこ・増尾圭悟

小林りこ
「インクルージョン&ダイバーシティ」の実現を目指す現役高校生。 現在は、スポーツに挑戦する時の社会の「障害」を軽減するサービス“U-Sports”を開発中。 2020年8月、LIFULL主催の「OPEN SWITCHビジネスプランコンテストVol.3」にて高校生初の入賞。 アーチェリー東京都代表選手としても活躍しており、国民体育大会で団体入賞経験もある。模擬国連活動に取り組み、全日本大会・国際大会に出場。高校生ビジネス競技での世界大会出場経験もある。

増尾圭悟
1986年生まれ、神奈川県出身。
2009年株式会社ネクスト(現・LIFULL)新卒入社。一度LIFULLを退職してサッカーJリーグクラブに転職、スポーツビジネスの現場に。LIFULL復職後、LIFULL HOME'S新築分譲領域で営業、ものづくり両方の責任者を経験した後、社長の井上に直談判し、自らが過去出したSWITCH入賞案件のSufuを2020年4月より事業化し、現在事業オーナーを務める。

SOLUTIONS 2020/11/11 【スペシャル対談】誰かのハッピーのために自分を犠牲にしなきゃ、なんてない