個人でも使えるリスキリング補助金まとめ|対象制度・条件・申請方法を解説
急速なデジタル化や産業構造の変化により、新しいスキルの習得は個人のキャリアを守り広げるために欠かせない時代になりました。しかし、リスキリングにかかる費用負担は決して軽くありません。実は国や自治体には個人が直接利用できる補助金や助成金の制度が複数存在します。この記事では、個人が活用できるリスキリング補助金の全体像を整理し、各制度の対象者や条件、助成内容、申請方法をわかりやすく解説します。自分に合った制度を見つけて、費用負担を抑えながら希望するスキルや資格を身につけるための第一歩を踏み出しましょう。
リスキリングの基本
リスキリング補助金を活用する前に、まずリスキリングとは何か、そしてなぜ今重要なのかを理解しておくことが大切です。ここではリスキリングの基本的な考え方と、個人が得られる具体的な効果について整理します。
リスキリングの定義と目的
リスキリングとは、技術革新や産業構造の変化に対応するために、新しいスキルや知識を学び直すことを指します。単なる資格取得や趣味の学習とは異なり、現在の仕事やこれから就きたい仕事に必要な実践的なスキルを身につけることが目的です。
特にデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、データ分析やプログラミング、生成AIの活用といったデジタルスキルの需要が急増しています。リスキリングはこうした変化に対応し、個人が労働市場で価値を保ち続けるための戦略的な学び直しといえるでしょう。
リスキリングで得られる主要な効果
リスキリングによって個人が得られる効果は多岐にわたります。まず第一に、キャリアの選択肢が広がることが挙げられます。新しいスキルを習得することで、現在の職場での業務範囲が拡大したり、より専門性の高いポジションに挑戦したりできるようになります。
さらに、転職やキャリアチェンジの可能性も高まります。成長分野のスキルを持つことで、より条件の良い企業への転職や、全く新しい業界への挑戦が現実的になります。フリーランスや個人事業主の方にとっては、提供できるサービスの幅が広がり、収入アップにつながる可能性もあります。
また、雇用の安定性が向上することも重要な効果です。AIや自動化によって従来の仕事が減少する中、新しいスキルを持つことは雇用の安全弁となります。年齢を重ねても市場価値を維持できることは、長期的なキャリア形成において大きなアドバンテージといえるでしょう。
現代におけるリスキリングの重要性
2025年現在、リスキリングの重要性が高まっている背景には、いくつかの社会的要因があります。まず、生成AIをはじめとする技術革新のスピードが加速しており、従来のスキルが陳腐化するサイクルが短くなっていることが挙げられます。5年前には最先端だったスキルが、今ではベーシックなスキルになっているケースも少なくありません。
また、日本の労働市場では人手不足が深刻化する一方で、デジタル人材の不足が特に顕著です。経済産業省の調査では、2030年には最大で79万人のIT人材が不足すると予測されており、デジタルスキルを持つ人材への需要は今後さらに高まると見られています。
こうした状況を受けて、政府は個人のリスキリングを積極的に支援する姿勢を強めています。政府主導の補助金制度を利用することで、費用負担を抑えながらスキルアップできる環境が整いつつあります。
女性に限らず、誰しも何らかの事情によってキャリアにブランクが生じる可能性があります。以下の記事では、フリーランス女性と企業の仕事のマッチングサービスを提供する、株式会社Waris(ワリス)共同代表の方にお話を伺いました。ぜひこちらの記事もご一読ください。
事例紹介
個人向けリスキリング補助金の種類と比較
個人が利用できるリスキリング補助金には複数の種類があり、それぞれ対象者や助成内容、申請方法が異なります。ここでは主要な制度を整理し、自分に合った補助金を選ぶための判断材料を提供します。
教育訓練給付金
教育訓練給付金は雇用保険に加入している、または加入していた個人が利用できるリスキリング支援制度です。厚生労働省が運営しており、受講費用の一部が支給される仕組みになっています。
この制度には「一般教育訓練給付金」「特定一般教育訓練給付金」「専門実践教育訓練給付金」の3種類があります。一般教育訓練給付金は受講費用の20%(上限10万円)が支給され、比較的幅広い講座が対象です。特定一般教育訓練給付金は受講費用の40%(上限20万円)が支給され、速やかな再就職や早期のキャリア形成に役立つ講座が対象となります。
専門実践教育訓練給付金は最も手厚い支援で、受講費用の50%(年間上限40万円、最大3年で120万円)が支給され、資格取得後1年以内に就職した場合は70%(年間上限56万円)に引き上げられます。対象講座には看護師や保育士などの国家資格取得講座、専門職学位課程、第四次産業革命スキル習得講座(デジタル分野の専門講座)などが含まれます。
対象者の条件は、雇用保険の被保険者期間が一般教育訓練は3年以上(初回利用は1年以上)、専門実践教育訓練は3年以上(初回利用は2年以上)となっています。退職後も一定期間内であれば利用可能で、離職後1年以内(特例により最大20年)なら申請できます。申請はハローワークで行い、受講開始の1か月前までに手続きが必要です。
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業は、経済産業省が2022年度から開始した比較的新しい制度で、転職やキャリアチェンジを目指す個人を対象としています。この制度の特徴は、単なる受講費用の補助だけでなく、キャリア相談から転職支援までを一体的にサポートする点にあります。
補助内容は受講費用の1/2(上限40万円)が基本ですが、転職に成功した場合は追加で受講費用の1/5(上限16万円)が支給され、合計で最大56万円の支援を受けられます。対象となる講座はデジタルスキルやAI、データ分析、デジタルマーケティングなど、成長分野に特化したものが中心です。
この制度を利用するには、まず経済産業省が認定した事業者(キャリアコンサルタントやオンライン学習プラットフォームなど)に登録し、キャリア相談を受けることから始まります。その上で自分に合った講座を選び、受講・修了後に転職活動を行うという流れになります。
対象者は特に雇用保険の加入歴などの制限はなく、正社員だけでなく契約社員やパート、派遣社員なども利用できます。ただし、転職意欲があることが前提条件となるため、現在の職場でのスキルアップのみを目的とする場合は他の制度の方が適している場合もあります。申請方法や公募スケジュールは事業者によって異なるため、経済産業省や各事業者のウェブサイトで最新情報を確認することが重要です。
求職者支援制度
求職者支援制度は、雇用保険を受給できない求職者を対象とした職業訓練制度です。この制度の特徴は、訓練受講中の生活支援として「職業訓練受講給付金」が支給される点にあります。月額10万円の給付金に加え、通所手当(交通費)も支給されるため、収入がない状態でもある程度金銭面の不安を軽減しながら訓練に専念できます。
訓練は基礎コースと実践コースに分かれており、基礎コースはビジネスパソコンや社会人基礎力など基本的なスキルを、実践コースはIT、介護、医療事務などより専門的なスキルを学びます。訓練期間は2か月から6か月程度で、原則無料(テキスト代のみ自己負担)です。
対象者は雇用保険の受給資格がない求職者で、具体的にはフリーランスや自営業を廃業した方、雇用保険の受給期間が終了した方、雇用保険の加入期間が足りず失業給付を受けられない方などが該当します。給付金を受けるには、世帯全体の月収が30万円以下、世帯全体の金融資産が300万円以下などの要件を満たす必要があります。
申請はハローワークで行い、キャリアコンサルティングを受けた上で訓練校を選択します。訓練修了後は就職支援も受けられるため、再就職を目指す方には手厚いサポート体制といえるでしょう。
母子父子家庭自立支援給付金
母子父子家庭自立支援給付金は、ひとり親家庭の自立を支援するための制度で、就職に有利な資格取得を目指す方を対象としています。「自立支援教育訓練給付金」と「高等職業訓練促進給付金」の2種類があります。
自立支援教育訓練給付金は、指定された教育訓練講座を受講した場合に受講費用の60%が支給されます。対象講座は看護師、介護福祉士、保育士、調理師、美容師など、幅広い資格取得講座が含まれます。
高等職業訓練促進給付金は、看護師や准看護師、介護福祉士、保育士、理学療法士、作業療法士などの資格取得のため、1年以上養成機関で修業する場合に、訓練期間中の生活費が支給される制度です。支給額は月額10万円(住民税課税世帯は月額7万500円)で、修了後には修了支援給付金として5万円(住民税課税世帯は2万5,000円)が一括支給されます。
対象者は20歳未満の子を扶養しているひとり親で、児童扶養手当の支給を受けているか同様の所得水準にある方です。申請は各自治体の福祉担当窓口で行い、事前相談が必要となります。
自治体や都道府県のリスキリング補助金事例
国の制度に加えて、都道府県や市区町村が独自に実施しているリスキリング補助金も増えています。これらは地域の産業特性や雇用課題に応じて設計されており、国の制度では対象外となる講座や条件でも利用できる場合があります。
例えば東京都では「TOKYOはたらくネット」を通じて、中小企業で働く従業員向けの職業訓練費用助成や、女性の再就職支援プログラムなどを提供しています。大阪府では「スキルアップ支援金」として、求職者や非正規雇用者を対象に、IT系資格取得講座の受講費用を補助する制度があります。また、地方自治体の中には、UIターン就職を促進するため、移住者向けの職業訓練費用を補助する制度を設けているところもあります。
自治体の補助金制度は年度ごとに内容が変わることも多く、募集期間が限定されている場合もあります。居住地や勤務地の自治体ホームページや商工会議所、ハローワークなどで最新情報をこまめに確認することをおすすめします。複数の制度を組み合わせることで、より手厚い支援を受けられる可能性もあります。
以下は主要なリスキリング補助金制度の特徴を比較した表です。自分の状況や目的に合った制度を選ぶ際の参考にしてください。
| 制度名 | 運営主体 | 対象者 | 補助率・上限額 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 教育訓練給付金(専門実践) | 厚生労働省 | 雇用保険加入者(2年以上) | 50~70%、最大年間56万円 | 対象講座が幅広く、国家資格取得にも対応 |
| キャリアアップ支援事業 | 経済産業省 | 転職希望者(雇用形態不問) | 50%+20%、最大56万円 | キャリア相談と転職支援がセット |
| 求職者支援制度 | 厚生労働省 | 雇用保険受給できない求職者 | 訓練費無料+月額10万円給付 | 生活支援給付金が受けられる |
| 母子父子家庭自立支援給付金 | 自治体 | ひとり親家庭 | 60%、上限20~80万円 | 養成機関通学中の生活費支援もあり |
| 自治体独自制度 | 都道府県・市区町村 | 自治体により異なる | 自治体により異なる | 地域特性に応じた独自の支援内容 |
リスキリング補助金の申請手順と注意点
補助金制度を理解した後は、実際に申請するための具体的な手順と注意点を把握することが重要です。ここでは申請前の準備から受給後の注意点まで、実践的な情報を提供します。
申請前に必ず確認する条件と必要書類
補助金の申請では、対象者要件と必要書類の確認が最も重要なステップです。要件を満たしていないまま申請しても不承認となり、時間と労力が無駄になってしまいます。
まず、自分が対象者要件を満たしているか正確に確認しましょう。雇用保険の被保険者期間は、直近の勤務先だけでなく過去の勤務先の期間も通算できる場合があります。離職後の方は、離職からの経過期間も重要です。原則1年以内という期限がありますが、妊娠・出産・育児・疾病などの理由がある場合は最大20年まで延長される特例もあります。
必要書類は制度によって異なりますが、共通して求められることが多いのは以下の書類です。本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)、雇用保険被保険者証または離職票、受講する講座のパンフレットや受講料の明細、振込先の金融機関情報がわかるものなどです。専門実践教育訓練給付金の場合は、受講前にキャリアコンサルタントの面談を受け、ジョブ・カードを作成する必要もあります。書類に不備があると審査が遅れたり、最悪の場合不承認となったりするため、申請前にチェックリストを作成して漏れがないか確認することをおすすめします。
申請の具体的な流れとタイムライン
補助金申請の一般的な流れを理解しておくことで、スムーズに手続きを進められます。ここでは最も利用者が多い教育訓練給付金を例に、申請から受給までのタイムラインを説明します。
まず、受講したい講座が教育訓練給付金の対象講座かを確認します。厚生労働省の「教育訓練給付制度検索システム」や各講座のウェブサイトで確認できます。対象講座であることが確認できたら、受講申し込みを行います。この時点ではまだ補助金の正式申請ではありません。
専門実践教育訓練給付金の場合、受講開始日の2週間前までにハローワークで受給資格確認手続きを行う必要があります。この手続きでは、必要書類を提出し、受給資格があるかどうかの審査を受けます。受給資格が確認できたら、講座を受講開始します。
受講中は、専門実践教育訓練の場合、6か月ごとに受講状況の確認と支給申請を行います。この際、受講証明書や受講費用の領収書、出席状況を証明する書類などを提出します。
講座を修了したら、修了日の翌日から1か月以内に支給申請を行います。修了証明書、領収書、本人確認書類などを提出し、審査が行われます。審査に問題がなければ、指定した口座に給付金が振り込まれます。
金銭面の注意
補助金制度の多くは、受講者が一旦全額を支払い、後から補助金が支給される「後払い方式」となっています。このため、手元に受講費用を用意しておく必要があります。
例えば専門実践教育訓練給付金の場合、受講費用が年間60万円の講座であれば、まず60万円を自己負担で支払います。その後、6か月ごとの支給申請を経て、最終的に30万円(50%)または42万円(70%)が返金される仕組みです。つまり、受講開始から最初の支給まで約6~7か月のタイムラグがあります。
この資金負担を軽減する方法として、分割払いに対応している講座を選ぶことが考えられます。ただし、教育訓練給付金は「実際に支払った額」に対して給付されるため、分割払いの場合は支払いが完了した部分についてのみ給付を受けられます。また、クレジットカードでの支払いも可能ですが、領収書の発行方法などについて事前に教育機関に確認しておくと安心です。
まとめ
個人が利用できるリスキリング補助金には、教育訓練給付金、リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業、求職者支援制度、母子父子家庭自立支援給付金、そして自治体独自の制度など、さまざまな選択肢があります。それぞれ対象者や助成内容、申請方法が異なるため、自分の状況や目標に合った制度を選ぶことが重要です。雇用保険の加入状況や離職の有無、転職意向の有無、家族構成などによって最適な制度は変わってきます。
変化の激しい時代だからこそ、新しいスキルを習得することは個人のキャリアを守り広げる有力な手段です。まずは自分の居住地や勤務地のハローワーク、自治体窓口に相談し、利用できる制度を確認することから始めてみてください。適切な支援を受けながら学び直すことで、あなたの望むキャリアや生き方を実現する道が開けるはずです。
LIFULL STORIES編集部
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