老後生活に必要な資金はいくら? 安心して暮らすための準備を紹介
2019年に金融庁の金融審議会 市場ワーキング・グループによる「高齢社会における資産形成・管理」に関する報告書が発端となり、老後2,000万円問題が世間で大きな波紋を呼びました。自分の老後資産は十分なのだろうかと、不安を抱く人もいるかもしれません。「自分の場合はいくら必要になるのか」を考え、備えることで安心して老後を迎えられるでしょう。
この記事では老後の備えについて下記の4点を解説します。
- 老後の生活費はいくらかかる? 必要資金の目安
- ゆとりある老後生活を楽しむための準備や心構えとは
- 高齢者だからといって「やりたいこと」を諦めることはない
- 老後の生活を支える住まい問題を解決するサービス
老後の生活費はいくらかかる? 必要資金の目安
金融庁の金融審議会 市場ワーキング・グループによる「高齢社会における資産形成・管理」に関する報告書の試算を基に考えると、夫が65歳、妻が60歳の夫婦のみの無職世帯で、毎月5万5,000円の赤字が30年間続いた際に、合計で2,000万円が不足することになります。
公益財団法人生命保険文化センターや総務省・厚生労働省のデータを参考に、老後が不安な人の割合や老後に必要な資金を解説します。
老後に対する不安
生命保険文化センターが行った2019年度「生活保障に関する調査」では、老後に不安を感じている人の割合は84.4%で、大半の人が不安を覚えていることが分かります。
具体的な悩みの割合は、「公的年金だけでは不十分」が82.8%、「日常生活に支障が出る」が57.4%、「退職金や企業年金だけでは不十分」が38.8%となっています。
※出典:生命保険文化センター「生活保障に関する調査」2019年度
先に紹介した生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」では、預貯金・個人年金保険・有価証券などの老後資金の使用開始の平均年齢は65.9歳でした。老後資金の計画を立てる時、目安の一つになるでしょう。
※出典:「老後」とはいつから?|リスクに備えるための生活設計|ひと目でわかる生活設計情報|公益財団法人 生命保険文化センター
老後に必要な最低限の生活費はいくら?
同調査によると、夫婦2人で老後生活を送る場合に最低限必要と考える生活費は、月額で平均22.1万円とされています。また、分布を見ると20万~25万円未満が29.4%で最多です。
※出典:老後の生活費はいくらくらい必要と考える?|リスクに備えるための生活設計|ひと目でわかる生活設計情報|公益財団法人 生命保険文化センター
また、同調査での公的年金で老後の生活費をまかなえるかという質問には、78.7%の人が「まかなえるとは思わない」と回答しました。多くの人が、老後の生活費をまかなうためには、企業年金・退職金・自助努力などを必要とすると考えているようです。
総務省統計局が行った2020年の家計調査年報(家計収支編)では、65歳以上で無職の高齢者2人世帯の1カ月平均の収入は、実収入25万6,660円で、そのうち可処分所得は2万25,501円でした。一方消費支出は22万4,390円で、可処分所得とほぼ同額です。また、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得12万5,423円に対し、消費支出は13万3,146円と、約7,700円不足しています。総務省統計局のデータも公的年金だけでは日常生活費をまかないきれない可能性が高いことを示しています。
ゆとりのある老後生活を送るためにも、老後のための資金の備えは不可欠になってくるでしょう。
※出典:家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年)- 総務省統計局
ゆとりある老後生活を送るための必要資金はいくら?
老後2,000万円問題でフィーチャーされた金額は絶対に必要な額というよりはあくまでも目安であり、必要な老後資金は家庭の状況や希望のライフスタイルによって変わります。
既出の生命保険文化センターの調査によると、2人以上世帯がゆとりある老後生活を送るための生活費の平均は月額36万1,000円という回答結果が出ています。老後のゆとりのための上乗せ額の使途を示したグラフを見ると、旅行やレジャー・趣味や教養などを楽しみたい人が多いことが分かります。
出典:「生活保障に関する調査」2019年度(生命保険文化センター)
では、公的年金はいくら受け取れるのでしょうか。公的年金のうち、全国民が受け取れる国民年金は、20~60歳までの40年間(480カ月)全て支払っていれば、現在年間78万900円を受け取れます。
月額で見ると国民年金は5万6,358円、厚生年金は14万6,145円というデータが厚生労働省の2020年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」から算出されています。国民年金・厚生年金を両方受け取れるサラリーマンや公務員であっても、月額20万2,503円です。ゆとりある生活を送るためには、約16万0,000円不足する計算になります。2人以上世帯がゆとりある老後生活を送るためには、退職金・企業年金に加え、貯蓄・資産運用・退職後の就労などでカバーする必要があると言えるでしょう。
ゆとりある老後生活を楽しむための準備や心構えとは
ゆとりある老後生活を楽しむために、今からコツコツと準備をしておくと安心です。老後のために資金をためる方法を紹介します。
①年金額を増やす
受給資格期間を満たしていない人や、受け取る年金が満額より少なくてもっと増やしたい人などは、60歳以上でも国民年金に加入し続けられる場合があります。加入できる期間の上限は40年(480カ月)です。また、厚生年金の場合は受給資格を満たしていない人は、上限の70歳を超えても加入可能です。
②iDeCoを利用する
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、任意で加入できる私的年金制度のことです。掛け金を運用し、掛け金と運用益の合計額を受け取れます。また、iDeCoの掛け金は全額所得控除の対象だったり、運用して出た利益は非課税で再投資が可能になるなど、税制的なメリットによって節税効果が期待できます。ただし、iDeCo の所得控除を利用するには、年末調整の申告や確定が必要です。
③国民年金基金に加入する
国民年金のみが対象となる個人事業主・フリーランス向けに、国民年金基金があります。国民年金に上乗せして加入でき、65歳以降に年金が受け取れます。
④定年後も働く
60歳で定年退職を迎えてから働くのも選択肢の一つです。再雇用制度等を利用して収入を得れば、貯金を切り崩さずに生活できる可能性が高まります。厚生労働省が2021年1月に発表した「2020年高年齢者の雇用状況集計結果」によると、大企業・中小企業の99.8%~99.9%とほぼ全ての企業が、65歳までの継続雇用制を導入しています。
このように、老後のために資金をためる方法はいくつかあります。できることから始めてみましょう。
高齢者だからといって「やりたいこと」を諦めることはない
十分なお金を確保するだけでなく、生きがいや夢を見つけることでも充実した老後生活を送れるかもしれません。LIFULL STORIESでインタビューした、高齢者になっても自分のやりたいことに挑戦する3人をご紹介します。
MCでこ八さんは、実の孫と「赤ちゃん婆ちゃん」というユニットを組み、68歳でラップを始めました。きっかけは孫のライブを見に行ったことで、「こんなのやったら私にもできる」と思ったそうです。肺がんや難病を乗り越えた経験もある、人生経験豊富なでこ八さんの言葉は、オーディエンスを魅了しています。さらに、ラップを始めてから、かかりつけ医も驚くほど体調が良くなったそうです。コロナ禍でライブ数は減りましたが、現在も精力的に楽曲を作っています。
瀧島未香さんは、87歳で日本最高齢のフィットネスインストラクターとしてデビュー。「100歳まで力強く年を重ねていく」をテーマに掲げ、「タキミカ体操」を考案しました。現在はパソコンを使ったオンラインレッスンも行い、コロナ禍に合わせた活動を行っています。フィットネスにハマったきっかけは、体重が15kg増えてしまったことです。元の体に戻したいと思った瀧島さんは、ジムへの入会を決めました。90歳になって、ジョギング・筋トレ・体操など、毎日5時間の運動を欠かさず行い、体形維持に努めています。
薄井シンシアさんは、17年間の専業主婦生活を終え企業に再就職した後、62歳で外資系ホテルの日本法人社長に就任。何度か転職も経験していますが、自分の価値観・優先順位・キャパシティーを考慮して決断を行ってきました。仕事と家庭の両立を当たり前とする今の風潮に懐疑的で、「育児を終えてからキャリアを作る選択肢があってもいい」と語ります。チャンスが平等に与えられる社会であってほしいとの考えから、元専業主婦やシングルマザーなど観光業未経験でも、やる気と学ぶ意欲さえあれば積極的に採用しています。
老後の生活を支える住まい問題を解決するサービス
老後の住まい探しも、大きな問題の一つと言えるでしょう。子どもがいない、もしくは子どもに頼らず生活したいと考える高齢世代が入居できる賃貸住宅を見つけるためには、多くの苦労がつきまといます。
山本遼さんが代表を務める株式会社R65では、高齢者も入居可能な賃貸住宅を取り扱っています。大学卒業後に就職した不動産会社が高齢者の賃貸契約を容赦なく断っていたことをきっかけに、この事業を始めたそうです。高齢化が進む日本では、賃貸のあり方を変える必要があると考えた山本さんは起業を決意します。見守り機器や特別な保険を導入することで、高齢者を受け入れてくれる大家さんが次々に賛同し、取り扱う物件も増加。現在は主に東京都や神奈川県で広げるR65不動産ですが、今後は全国に展開していくそうです。
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高齢者フレンドリーな不動産会社を探すサービス
LIFULL HOME'Sでは、年齢・国籍・性別などさまざまなバックグラウンドを持つ人と不動産業をつなげるサービス「FRIENDLY DOOR」を運営しています。高齢者にフレンドリーな不動産会社を、お住まいの地域に合わせて全国47都道府県から検索可能です。賃貸のお問い合わせも無料で行っています。
まとめ
老後の生活資金を公的年金だけでまかなうことは難しいと考えている人は実際に少なくありません。ゆとりのある老後生活を過ごすためには、退職金・企業年金の他、貯蓄・資産運用・退職後の就労など、老後資金を増やす方法を検討するのも一つの手段です。受け取れる年金額を増やすために、iDeCoを利用するなど、少しずつできることを始めればゆとりのある老後につながっていくのでしょう。
また、生きがいや夢を見つけることも老後を充実したものにしてくれるでしょう。高齢者だからといって、やりたいことを諦める必要はありません。何歳になってもチャレンジすることは、心身の健康への寄与につながるはずです。
監修者:藤井 寿和
合同会社福祉クリエーションジャパン代表。24歳まで陸上自衛官を経験後、介護の仕事に転身。20代で医療法人の事業部統括マネジャーに就任した後、35歳で独立。スタッフや設備の優劣を問わず良好な施設運営ができる「いつでもどこでも誰でもメソッド」を軸に、年間100日を超える出張活動を全国で展開中。介護業界の情報発信とスポットライトが当たる重要性に築き、メディア事業を立ち上げ、現在に至る。
https://fcjpn.com/
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