「将来への不安」にどう向き合えばいいのか。生きづらさを抱えた人たちを支援する抱樸・奥田知志さんに問う

“しなきゃ”はこうして生まれる

ホームレスに関する実感調査(2024年/ダイバーシティサッカー協会・LIFULL共同実施)において、3人に一人が「将来ホームレス状態になる可能性がある」と回答した。さらに20代の回答者に限ると、二人に一人が同様の回答であった。この事実を受けて、何かしなければいけない気持ちが込み上げる。しかしどう向き合えばいいのか、情けないほどに分からない。ヒントを求めて、「生きづらさ」を抱えたさまざまな人を支援する認定NPO法人 抱樸(ほうぼく)理事長・奥田知志(おくだ・ともし)さんに尋ねた。

奥田さんの原点は学生時代、大阪西成区の日雇い労働者の街・釜ヶ崎でのボランティア活動にある。1980年代の日本はまだバブル崩壊の前。労働人口の約8割が正規雇用であったにも関わらず、路上で寝なくてはならない人はすでに少なくなかった。日雇い労働者への理解や支援が希薄ななか、奥田さんたちは日夜、夜回りや越冬支援に奮闘した。時代の影で寒空に消える声なき叫びが、奥田さんの歩む道を決定づけた。

路上生活者への支援を始めて38年。理事長を務めるNPO法人 抱樸は現在、路上生活者に限らず、被虐待児や一人親世帯、刑余者などへの居住支援、就労支援、更生支援など多岐に渡る福祉事業を行っている。多くの困窮者に伴走し続けている奥田さんは、「将来ホームレス状態になる可能性」を感じているという人たちに、なんと言うのだろうか。

「ホームレス」とは何かを考えること。自分のことを諦めない人と出会うこと。

経済力よりも深刻。「関係性」を喪失しないこと

「驚きはしませんね」
多くの人が「ホームレス状態になる可能性」を案じている調査結果の感想を問うと、奥田さんは静かに微笑みながらそう言った。

「それだけ先行きが不安だということです。日本財団が行っている世界18歳意識調査でも、『自国の将来について良くなる』と答えた割合はたった15%。日本は6ヶ国中、最下位でした。若者に限らず、この国の未来が読めない。自国も、そして自分自身も、どちらかといえば悪くなるだろうと考えている人がどれほど多いか。それが表れた結果です」

ホームレス状態とは、具体的にどんな状況なのか。抱樸では、その困窮さを二つの側面から捉えている。

「ひとつは経済的な困窮状態です。住む家がない、ハウスレス。お金も仕事もない、経済的な困窮にいることですね。一方でもうひとつ、家族や友人など、ホームと呼べる社会的関係性が切れた状態を、私たちはホームレスだと捉えています。このアンケートで『ホームレス状態になる可能性がある』と答えた人たちは恐らく、前者の困窮さを想像して回答したのだと思いますが、実は彼らの失望や絶望の中に、この二つが存在しているのではないでしょうか」

経済的な困窮だけを見て対処する支援では、本当の解決には至らない。もうひとつ、生きづらさの根本にある「孤立」をきちんと読み取らなければ、「落としどころを見誤ってしまう」と危惧する。

「社会保障や現金支給ももちろん大事。それも社会を支えるものですが、しかし社会とは本来、繋がりやねぎらいなど、お互いを気にし合う関係性のことです。エモーショナルな表現にはなりますが、でもその集合が社会になる。困窮状態に陥ったとき、自分と一緒に右往左往してくれる人がいるかどうか。自分が自分のことを諦めても、自分のことを諦めない人が一人でもいること。それが社会のあるべきかたちじゃないでしょうか」

他者性を育み、諦めない理由を持つ

困窮状態に陥ってしまう引き金は、千差万別。奥田さんは、「何のために働くのか。それは、何のために生きるかと同じ」と、実に人間的な姿勢を示してくれた。

「私はよくアウトプットとアウトカムという言葉を使うんですが、アウトプットは目標です。何のために働くんですか?と聞かれた答えとして、『家を建てたい』とか『貯金したい』といったわかりやすいもの。一方でアウトカムとは、もっと本質的な問いで、目的を意味しています。本質とは、お金ではなく、誰かのため、ということ。例えば、私の一番下の子はまだ学生なので『子どもの学費のため働く』とも言えますけど、本質はお金じゃない、子どものためです。だって、お金のためだったら、私が諦めた時点で終わってしまう。それじゃ全て自分のためだけに生きていることになる。もちろん、誰しも自分のために生きて良いんですよ。誰かのために自分を犠牲にする必要なんて全くない。ただ、自分が諦めた時に全てが終わってしまうとしたら、それは危ない。だからこそ、誰かのために働く。あるいは、誰かのために生きる。僕が諦めちゃったらこの人どうなるの?と考えることで、人生の意味が深まるんです」

大事なことは、自分のなかに「他者性」を内包することだと言う。困窮している人に対して自己責任論を突きつけたり、あるいは、諦めてしまった人の弱みにつけ込み闇バイトを差し出すようなことに抵抗するためには、自分ではない誰かの気持ちを宿すことが力となる。

「現実的な社会保障をちゃんと充実させることも当然必要です。それと合わせて、家族のいない単身者が4割近くまで増えた今、自分を必要としてくれる人と出会える仕組みをどう作るのか。アメリカの調査(2007年/ピュー・リサーチ・センター)では、『貧困状態にある国民の支援は政府がするべきである』という項目に『同意する』と答えた日本人は約6割しかいませんでした。これもまた調査対象47ヵ国中、最下位。約4割の人は『助けなくていい』と思っています。現状の日本ではそうした意見に対して、いやいや、困った時に助けてくれるのが国家であるべきだ、という層がせめぎあっている気がしますね。社会が信頼を取り戻せるかどうかが問われています」

底が抜けた現実。声にすべきは「わからない」

いまだ根強い自己責任論。その社会的背景として奥田さんは、「日本の基礎構造が壊れたのは1990年代から」と、30余年を振り返った。

「バブルが崩壊し、日本的な雇用が明らかに壊れて、いわゆる就職氷河期世代が出たのが90年代頭。その少し前、1985年には派遣法ができて、初めは限定的だった派遣の職業も、ほんの10年ほどで自由化されました。世界を見てみると、イギリスのサッチャー首相が『もはや社会というものはない』と、新自由主義を掲げたのが1987年。日本では国鉄が解体された年です。その後、建築現場も派遣で人が雇えるようになったのが2003年。2008年にはリーマンショックが起きて、日比谷公園に年越し派遣村が開設されました。

今20〜30代の人たちは、雇用が安定していた日本を知らない世代です。生まれた時から、日本の労働者の半分ぐらいが非正規雇用だった。今は公務員でも会計年度任用職員という、一年単位の有期雇用が少なくありません。こうしてみると、『この先良くなるかわからない』という気持ちは決して感覚的なものではなく、日本の基礎構造の底が抜けたという現実問題にあるでしょう」

社会構造の変化により、単身者が増え、家族単位を前提にしていた社会制度では追いつかない。その歪みが是正されないまま今に至っていることを憂いた。底が抜けた原因は、誰にあるのか。仮想敵を示す声に惑わされることなく、私たちは冷静に見定めることが必要だ。

「抱樸では、従来の家族が担っていた主な役割として、『気づき』と『つなぎ』があると考えています。一緒にいる家族だからこそ誰かの問題に気づくことができ、解決手段につなぐことができるんです。なので、ここでも孤立が問題になってきます。気づいてくれる家族がいないなら、全て自分でなんとかしなくてはいけない、と思ってしまう。自分に対してそう思う人は、他人に対しても同じように考えてしまうんですね」

奥田さんは著書や講演のなかでたびたび、「ことば」の重要さに触れている。ことばは人と人を繋ぎ、ことばがあることで、自分の悲しみやつらさを表現できる。しかしそれには訓練が必要であり、学びや教育の本来の意味は「わからない」「助けてほしい」という状況を伝えられるようになることだと説く。

「教育は本来、問いがあり、考えるという過程にあるはず。ああでもない、こうでもない、と考えること。世の中は不可解なことばかりですから、不可解であることに耐えられるかどうか。『不可解性の耐性』こそが教育の目的だと思います」

なんとかなる。ホームレスには、ならない

奥田さんの目は、静かで優しい。と同時に、動じない強さを感じるのは、多くの人生に関わってきたからだ。まだ見ぬ未来への不安に駆られた若者に言葉をかけるとしたら、「諦めるのはまだ早い。ホームレスにはならない」と言い切った。

「日本には生活保護制度もあれば、 2002年にホームレス自立支援法、2015年には生活困窮者自立支援制度もでき、住宅セーフティネットという政策もあります。それぞれ私も審議委員として関わってきました。制度はあるんです。問題は、そうした制度を使わない方が良いという考え方や、申請方法などを具体的に教わることがないまま社会に出ること。そのため今は少し知恵が必要で、だからNPO職員が奮闘したりしています。細い道だけど、あるにはある。あなたのことを諦めない人もいる。だからまだ諦めないで、と伝えたいです」

抱樸はこれまで、4,000人近い路上生活者を自立に導いた。自立達成率9割超、そのうち6割は生活保護ではなく就労自立。自立の継続率も9割を超える。全てを失っても立ち上がり、突き抜けた4,000人は希望の光だ。奥田さんはさらに力強く、「貧すれば鈍するなんて、まったく違う」と加えた。

「私の経験では、貧すれば出会う、貧すれば考える、です。本当に困った時、それまで見えなかった世界が見えるんですよ。後から振り返ってみると、80年代後半の釜ヶ崎ではすでに、派遣法がどんな問題を生み出すのか、予想されていました。こんな法律ができたら日本中で非正規雇用が溢れてしまう、ドヤ街が増えるぞ、と反対の声を上げていたんです。追いやられた人たちにしか見えない、認識論的特権があった。何も困らずに生きている人たちが見落とすことを、彼らだから分かるんだと気づかされました」

奥田さんは今、福岡県北九州市に「希望のまち」を作っている。あらゆる人のホームとなり、多機能で複合的な「まち」。2026年秋の完成に先駆けて、スタッフや関係者の公募から組み合わせてつくられたキャッチフレーズは、「わたしがいる あなたがいる なんとかなる」だという。

「今の社会で圧倒的に欠けているのは、「なんとかなると思えること」です。その前に、自分で自分を諦めてしまうから。私たちも気安く、なんとかできます、全て解決できます、なんて言うことはできません。でも「なんとかなる」と言えるのは、あなたが一緒にいるからです。それが唯一の条件。あなたががんばると言うから、私は諦めずに「なんとかなる」と言えるんです。将来ホームレス状態になるかもしれないと案じている人にも、同じ言葉をかけたいです」

取材・執筆:やなぎさわまどか
撮影:八幡宏

Profile 奥田知志(おくだ・ともし)

認定NPO法人抱樸理事長、東八幡キリスト教会の牧師。関西学院大学神学部に入学後、大阪の釜ヶ崎に通うようになる。以来、ホームレスや困窮者の支援に携わり、現在は現職の他、ホームレス支援全国ネットワーク理事長、共生地域創造財団 代表理事、全国居住支援法人協議会 共同代表も務める。主な著書に『「助けて」と言える国へ 人と社会をつなぐ』(集英社新書)、『わたしがいる あなたがいる なんとかなる「希望のまち」のつくりかた』(西日本新聞社)他多数。

X @tomoshiokuda
抱樸ウェブサイト https://www.houboku.net/
抱樸マンスリーサポーター https://www.houboku.net/monthly/
書籍『わたしがいる あなたがいる なんとかなる「希望のまち」のつくりかた https://amzn.asia/d/7RFAZZZ

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