終活とは?【前編】終活で人生を豊かに。エンディングノートと遺言書の違いを解説
「終活」は、今では広く使われるようなり、多くの人が知る言葉ですが、実際のところ何をいつからどのようにしたらよいのか、具体的なイメージが湧かない人も多いのではないでしょうか。終活は決して高齢者向けの言葉ではありません。むしろ、現役世代も含めて終活をすることで人生はより豊かになります。
この記事では、「終活」について以下の5点を解説します。
前編
後編
終活とは?エンディングノートと遺言書の違いを解説
一般社団法人終活カウンセラー協会によると、「終活(しゅうかつ)」とは「人生の終焉を考えることを通じて、自分を見つめ、今をより良く自分らしく生きる活動」のことです。(※1)
終活とは、お葬式やお墓の準備、財産の分与の準備、認知症の準備など、つまるところ、自分の死の準備をすることです。ただ、死の準備と考えると、多くの人が前向きに取り組む気にならないのです。そこで、終活とは安心して長生きを楽しむための準備と考えることにするのです。
そもそも「終活」という言葉が世間で使われはじめたのは2009年頃でした。2012年には「ユーキャン流行語大賞」でトップ10にランクインしました。最近では、少子高齢化がさらに進み、終活は就活と並び、メジャーな言葉になっています。日本の人口問題と超高齢化問題に関して、厚生労働省のウェブサイトにはこのような予測が書かれています。
「日本の人口は近年減少局面を迎えており、2070年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は39%の水準になると推計されています。また、団塊の世代の方々が全て75歳となる2025年には、75歳以上の人口が全人口の約18%となり、2040年には65歳以上の人口が全人口の約35%となると推計されています。」(※2)
また、日本人全体の平均寿命は着実に延び続けており、2022年には男性が81.05歳、女性が87.09歳になりました(※3)。ただ、人生の最期まで元気でいられるとは限らないため、認知症の法的支援サービスの利用を検討したり、介護や医療の希望をエンディングノートなどに書いて家族へ意思表示するなどの事前対策が必要で、これも終活の典型例です。
終活の目的は、自分の人生を自分で決める自己決定の側面と、残される家族や周囲の大事な人に迷惑をかけないようにするための準備の側面があります。そのため、終活をすれば、家族との絆を強めたり、自分の生き方や価値観を再考することができます。
終活の具体例は以下のようなものがあります。
1.エンディングノートの作成
エンディングノートは、主に自分が亡くなったときのために備えて、家族や大切な人にさまざまな情報や思いを伝えるための自由記述的なノートであり、法的文書ではありません。だから誰でも気軽に書けますし、様式などの決め事もありません。
2.遺言書の作成
これに対して遺言書は、主に自分の死後の財産の分与に関する意思表示を記載した法的文書です。エンディングノートとは異なり、遺言書は原則として、法律で様式が決まっており、法的な強制力があります。
3.生前整理
生前整理とは、元気なうちに身のまわりのものを整理することです。自分が亡くなった後に遺族が遺品を整理する負担を軽減できます。また、ひとり暮らしで身寄りのない方の場合、生前整理をしておくことは非常に重要です。
4.葬儀・お墓の準備
葬儀やお墓にも、ある程度のお金がかかります。前もって準備しておくことで自分らしい葬儀を執り行えますし、遺族の負担を減らせます。
エンディングノートと遺言書の違い
エンディングノートは、家族や大切な人にあててメッセージを残す意味合いです。自分の資産や葬儀に関することだけでなく、自分の思い出や家族へのメッセージなども含めることができます。また、自分の治療方法の希望や介護に関する希望といった、死ぬ間際の希望も書けます。これに対し、遺言書というのは、例えば「長男と次男は私の遺産をこのように分けなさい」などといった強制力を伴う指示を含み、主に財産に関する処分をするのです。また、遺言書には死ぬ間際の希望は書けません。ただし、その法的効果はともかく、エンディングノートのような自由記述的な内容を書くことは可能です(付言事項)。
一般に、遺言書は、遺言者の自筆で書かれた「自筆証書遺言」、公証人によって作成された「公正証書遺言」、遺言者本人が作成した遺言書を、公証人に内容は秘密にしたまま存在のみを証明してもらう「秘密証書遺言」の3種類があります。(※4)
自筆証書遺言なら自分で簡単に書けます。しかし、そうであるとしても、遺言をすることの重大さを考えると、作成の際は弁護士、司法書士などの遺言の専門家に相談するのが無難です。また、自分が保有する財産を特定するため、財産目録を作成しなくてはなりません。なお、資産の総額によっては相続税対策をする必要もあり、これに関しては税理士の専門となります。
出典:
※1 終活とは?|一般社団法人 終活カウンセラー協会
※2 我が国の人口について|厚生労働省
※3 日本人の平均寿命はどのくらい? | 公益財団法人 生命保険文化センター
※4 終活のすすめ~エンディングノートと遺言書 | 東京消費者センター
終活のメリット・デメリット
ここでは、終活のメリットとデメリットについて解説します。
終活のメリット
終活のメリットとして以下の点があります。
・精神的なメリット
家族のことを考えて介護や医療、葬儀などに関して準備をしておくと、自分の人生の終焉に対して心の準備ができます。病に倒れて自分の意思表示ができなくなっても後悔しないで済みますし、将来への不安も軽減されます。
・人間関係のメリット
終活の目的の一つは遺族の負担を減らすことです。家族にその思いが伝われば、お互いの関係は良好になります。また、エンディングノートを作成するにあたり、家族がこれまでしてくれたことに思いを向けることになり、感謝の気持ちが深まります。
・社会的なメリット
生前整理をする中で自分が大切に使ってきたものや財産を地域社会の誰かに使ってもらいたいという気持ちが生まれることがあります。その場合は、生前あるいは死後の寄附を考えることになりますが、後者は遺言ですることが可能です。
・経済的なメリット
終活をする中で自分の資産を見直せば、死後に遺族が相続税などで苦しまないように、相続税対策を行えます。例えば、年間110万円までなら税金がかからない贈与が可能です。また、配偶者に対して居住用不動産を贈与すれば、2,000万円までは贈与税がかかりません。
・終活で断捨離するメリット
体力や判断力のある50代から少しずつ断捨離や整理整頓をすることで自分が何を大切にしているかを見つめることができ、今の生活の充実感にもつながります。
終活のデメリット
終活のデメリットには以下の点があります。
・時間的なデメリット
終活は自分自身の人生の振り返りをすることでもあり、片手間にできるものでもありません。また、大事な自分の財産をどう処分するか決めるのにも慎重さが求められます。実際に遺言書を作成する場合は、専門家のサポートを受けながら、家族と相談を重ねながら、それなりに時間をかける必要があります。
・精神的なデメリット
終活は自分の老いや病気、死についてじっくり考える時間です。死に向き合うため、考えることがつらいと感じる方もいるでしょう。また、資産について家族とも話し合わなければならず、意見が合わないこともあり、ストレスを抱えることにもなりかねません。自分の思い通りにいかない場合は、弁護士や司法書士などの法律の専門家に相談するとよいでしょう。
以上のメリット、デメリットを考慮して、それでも終活をポジティブな気持ちで行うことが大切です。終活と「死」はセットのため、終活について積極的に話題にすることは「縁起が悪い」と考える傾向や、「終活は死の間近に迫った高齢者がするものだ」という誤解もあります。しかし、終活は「死に支度」ということでもありません。老いていく中で自分の人生の総まとめをすることであり、最後まで自分らしい生き方を模索するための活動なのです。そのように前向きに考えることで、私たちは早めの終活をして、良い老後を送れるようになるでしょう。
出典:相続税対策9つの方法を厳選 節税のために準備しておくこと 注意点も解説 | 相続会議(朝日新聞社運営のポータルサイト)
執筆:河合 良成
株式会社Ensemble Fund & Consulting 代表取締役。昭和女子大学現代ビジネス研
究所研究員。主要な専門分野は「投資」と「終活」。1974 年生まれ。1997 年慶應義塾大学法学部法律学科卒。司法書士(茨城司法書士会会員)。金融アナリスト。国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(Certified Financial Technician)。日本テクニカルアナリスト協会会員。エッセイストとして、ブログや会報誌などにエッセイを書いている。「あんみつ先生のラブリーなエッセイAnmitsu Sensei's Lovely Essay」には、日々の出来事、専門分野の記事のほか、ワイン、現代アート、クラシック音楽、料理、いぬ、映画や本の紹介などが載っている。近著に「ふと終活のことを考えたら最初に読む本」がある。
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