地方移住とは? 移住先の見つけ方・失敗しないための注意点を解説

新型コロナウイルス感染症の流行は、図らずも日本人の働き方を大きく変えました。働き方改革で推奨されていた、場所を選ばない働き方であるテレワークが一気に定着し、多くの企業で導入が進みました。テレワークを選択できるようになったことをきっかけに、大都市を離れ地方移住を決意した人も少なくないようです。しかし、実際に移住をするとなると考えるべき要素はたくさんあります。

移住を考え始めた人に向けて、この記事では以下の4点を解説します。

  • コロナ禍で高まる地方移住への関心
  • 地方移住を始める手順と移住先を見つける方法3選
  • 地方移住を失敗しないための注意点
  • 地方移住や新しい暮らし方を通じて自分らしい生き方を実現した事例

コロナ禍で高まる地方移住への関心

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が2020年5月に発表した「移住等の増加に向けた広報戦略の立案・実施のための調査事業報告書」によると、20~59歳の東京圏在住者の49.8%が「地方暮らし」に関心を持っていることが分かりました。また、東京圏出身者よりも地方圏出身者の関心が高いこと、中高年よりも若者が地方移住に高い関心を持っていることも分かりました。

出典:「移住等の増加に向けた広報戦略の立案・実施のための調査事業 報告書」(内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局

こうした傾向を踏まえ、各自治体も移住者を呼び込み、定住させようとさまざまな政策を実施しています。

地方移住への意識が高まっている理由の一つはコロナ禍によるテレワーク導入など、働き方の変化だといわれており、その動きはとりわけ東京圏で目立っているようです。

※出典:2月 都道府県別・テレワーク実施率 – パーソル総合研究所

2018年において東京都には約3,700万人、日本の総人口の29%が住んでいて、東京の一極集中が顕著でした。しかし、コロナ禍の影響もあり、2020年7月から2021年2月の8カ月間連続して東京圏は転出超過を記録しています。2019年まで24年間連続で東京圏へは転入超過でしたが、コロナ禍を契機に東京圏から地方へ人が流れる傾向が見られるようになりました。

そして、それは若い層においてより際立っています。内閣府による「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、東京都23区に住む20代の11.8%が地方移住に「関心が高くなった」、23.6%が「関心がやや高くなった」と回答しており、合わせて35.4%が地方移住への関心が新型コロナウイルス感染症の影響により高まったことが分かりますこれは大阪・名古屋圏の15.2%に比べると2倍以上の数字です。

※出典:移住の決め手はコロナ前後で変化したか?自然環境は移住の決め手になりうるか? | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

コロナ禍を契機に移住の希望者が増えていますが、この傾向は新型コロナウイルス感染症による一過性のブームではないと思われます。というのも、認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが2021年10月に公表した「地方移住に関する調査結果」では首都圏の地方移住希望者は約309万人と推計されていますが、その要因を新型コロナウイルス感染症だと答えた人は、地方移住を検討している人全体の3割ほどにしか達していなかったからです。今後、コロナ禍が落ち着いても、移住を希望する人は一定程度いることが予想されます。

※出典:地方移住に関する調査結果公開 – 認定NPO法人 ふるさと回帰支援センター

また、総務省の「『地方への人の流れの創出』に向けた効果的移住定住推進施策事例集」によると移住先の住居形態について新築の持ち家の割合が2017年の36.9%から2020年には30.9%と低くなり、中古の持ち家を希望する割合が13.5%から20.6%へと高まっています。これにより今後地方の空き家活用が進むことも期待されます。

出典:「地方への人の流れの創出」に向けた効果的移住定住推進施策事例集(総務省)

地方移住を始める手順と移住先を見つける方法3選

地方移住への関心が高まっている背景

2020年の4~5月の緊急事態宣言下では、全国での外出自粛要請が発出されました。業務においてもテレワークへの移行が促され、それに伴い在宅での働き方を容認する企業が急増した経緯があります。また、出社せずとも在宅で業務をこなせることに多くの人々が気づくきっかけにもなりました。そうした背景もあり、地方移住に関心を高めた人も同タイミングで増加したことが予想されます。

ただ一口に地方移住と言っても、ふるさとに戻って家族と暮らすため、都会を離れて地縁のない地方で農業をしたいから、定年退職後に田舎で暮らすためなど目的はさまざまです。転職や結婚、子育てなどのライフイベントにも影響します。まずは移住する目的や理想の暮らし方を明確にして移住先を決めるとよいかもしれません。移住先を決めるにあたってどのように情報収集すればよいのか、3つの方法を紹介します。

※出典:「地方への人の流れの創出」に向けた効果的移住定住推進施策事例集 2021年3月 総務省

移住先を見つける3つの方法

ここでは例として、移住先の情報収集の方法を3つ紹介します。

方法①各自治体などの移住促進サイトをチェックする

2人以上世帯から単身者までさまざまなタイプに向けてのサイトがあるため、チェックしてみましょう。以下に3つの例を挙げます。

【いいかも地方暮らし|はじめての移住応援サイト

地方暮らしに関心はあるがまだ行動を起こしていない東京圏の若者層を対象に、移住の検討を促すためのサイトです。

【にいがた暮らし|新潟U・Iインターン総合サイト

新潟へのUターン、Iターン、移住に関する情報を網羅し、市町村ごとの移住セミナーや相談会情報なども掲載しています。にいがた暮らしのようなサイトは各自治体が用意していますので、気になる地域を探してみてはいかがでしょうか。

【移住婚】

新型コロナウイルス感染症をきっかけに移住してライフスタイルを見直したい独身者を応援する一般社団法事日本婚活支援協会のサイトです。

方法②移住相談センターへ相談する

ふるさと回帰支援センターは、地方移住を応援する北海道から沖縄まで全国約950を超える自治体と連携し、地方移住希望者をサポートしています。

方法③地方移住マッチングサービスを利用する

株式会社LIFULLの「LOCAL MATCH」は地域の仕事情報から移住先を探せるマッチングサービスです。希望条件・プロフィールを登録することで、地元企業からスカウトが届くため、職場環境や給料など希望条件を相談できます。

地方移住後の暮らしに対して不安に思うこととは?

地方移住により道路の渋滞や通勤ラッシュから解放され、のびのびとした生活を楽しめるイメージがありますが、デメリットもあります。移住後に地方暮らしの現実に直面し「こんなはずじゃなかった」と後悔しないように、地方での生活のメリット・デメリットを総合的に判断した上で移住を決定したいものです。

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が2020年9月に報告した「東京圏、地方での暮らしや移住及び地方への関心に関する意識調査」によると、地方へ移り住むことを妨げている理由や移動に関心を持てない理由として「求めている業種・職種の働き口が見つからないこと」が39.4%と一番多い意見でした。その他にも、「生活利便性(買い物、交通利便性など)が低いこと」(35.6%)、「現在と比べ賃金が安くなってしまうこと」(34.2%)の回答が続きます。

また、男性と女性では不安を覚えるポイントが異なる傾向にあり、男性は「求めている業種・職種の働き口が見つからないこと」の割合が最も高く、女性は「生活利便性(買い物、交通利便性など)が低いこと」を最たる要因に挙げています。

同意識調査に基づき、男性・女性が感じる不安を具体的に挙げてみましょう。

【男性の声】

  • 給与面。見ていたら圧倒的に首都圏が高い。また、(就職情報)条件の要綱を見るとやっぱり地方に比べると1割か1.5割は全然違うなという感じがする。
  • 車がないと生きていけないかなと思うほど交通の便が悪い。バスとかも田舎だと多分8時とかに終わってしまうので不安。

【女性の声】

  • 田舎だとスーパーが早く閉まるイメージなので生きていけるだろうか。
  • また一から人間関係をつくることになり、今みたいに気心の知れた友人たちと疎遠になるのは不安。地方のコミュニティーがあって、そこに入るのは勇気がいる。
  • 仕事と地域コミュニティーの不安以外にも、交通や生活の便といった不安がある。

移住は、住む場所や職場、人間関係などたくさんの変化を伴う人生の転機とも言えるイベントです。理想とする地方暮らしには何が必要か、どういう移住先が自分に合っているのかを入念にリサーチしておくと安心です。

失敗しない移住先選びのポイントについては、こちらも併せてチェックしましょう。

関連記事

【ホームズ】地方移住者が語る、失敗しない移住先の選び方とポイント

※出典:調査報告書(本編) – 地方創生 令和2年9月 内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局

地方移住や新しい暮らし方を通じて自分らしい生き方を実践した事例

地方移住を実践している人の体験談に触れることも、移住後の生活をイメージするのに役立ちます。また、そこから地方移住するにあたってどんな備えが必要なのかヒントも得られるはずです。ここでは地方移住で自分らしい生き方や働き方を楽しんでいる2人の事例を紹介します。

「家族との時間をもっと持ちたい」、東京を離れて家族5人で北海道に移住した田中全亮さん

世界的に有名なスポーツ&アパレルブランドの会社に勤務しながら東京・目黒区でマンション暮らしをしていた田中さん。仕事は充実していたものの、長年勤める中で家族との時間をもっと大切にしたい。子どもが成長していく中で環境を変えたほうがよいのではと考え、移住を決断しました。

移住にあたって経済的な面など不安がなかったわけではないようですが、ポジティブ思考の田中さんは北海道で農業と漁師に挑戦。そうした新しい経験を通して東京にいたら得られなかった多くの学びや気づきを体感できたとのことです。

田中さんはこれから移住を考えている人に「やっておけば良かった、と後悔するよりも、できる時にやる!という気持ちと行動力が大切なのだと思います」とメッセージを送ります。

世界を旅し、田舎暮らしも経験した上でたどり着いた自分を満たす生き方

「TABI LABO」創設者であり、運営会社のNEW STANDARD株式会社の代表取締役でもある久志尚太郎さん。中学校卒業後アメリカに留学、16歳で飛び級卒業し、17歳で起業、21歳で世界を回る旅に出たというユニークな経歴の持ち主です。

旅を終え、世界的テクノロジー企業のデル・テクノロジーズ株式会社で3年間会社員生活を送るも26歳で退社し、「自分たちが欲しいものや未来は自分たちの手でつくり上げたい」と宮崎県の串間市に移住。築70年の古民家を借り、農家支援やエコツーリズムなどを経験しました。

地方での暮らしで多くの経験を経て、「令和時代の幸せな暮らしは、自分の価値観がすべての軸になる」と、ライフスタイルの多様化について語ります。

まとめ

新型コロナウイルス感染症の流行は、くしくも「今の暮らし・働き方の是非」を私たちに問いかけるきっかけになりました。都市圏では仕事の見つけやすさ、生活の利便性などのメリットがありますが、地方移住によって家族との時間や自然に触れる機会が増加するなどまた違った魅力があります。移住を考え始めた方は移住先として魅力を感じる場所について情報収集したり、移住経験者の話を聞いたりすることから始めてみてはいかがでしょうか。自分と家族にとって幸せな時間を与えてくれるのは、もしかしたら地方での生活かもしれません。

監修者:高橋 公

1947年生まれ、福島県出身。1970年に早稲田大学を中退し、1977年に自治労本部に入職。廃棄物行政、社会保障、組織対策などの仕事を手掛ける。1997年から連合へ出向、社会政策局長として国土・土地・住宅政策、環境政策、教育政策、農業政策などを担当する。連合勤務を経て2002年に認定NPO法人ふるさと会期支援センターの事務局長に就任。2017年に理事長、現在に至る。

2022/06/08 地方移住とは? 移住先の見つけ方・失敗しないための注意点を解説

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