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STORIES 2019/08/27

理想の暮らしを実現することは難しい、なんてない【前編】

久志 尚太郎

新しい価値観やライフスタイルに触れることができる世界中のトピックを発信している「TABI LABO」。同メディアの創設者であり、運営会社NEW STANDARD株式会社の代表取締役でもある久志尚太郎さん。世界を旅し、田舎暮らしも経験した久志さんの、令和という新しい時代の幸せの志向性とは?

心が疲れているときなどは特に、「自然豊かな田舎で暮らしたい……」と思ってしまうものだが、ウェルビーイング的な自分の理想を問われたら果たして即答できるだろうか? 満たされて生きるためには何が必要なのか、自分にとっての理想の暮らしとはどんなものなのか。世界を旅し、田舎暮らしも経験した上で、「東京で心地良く暮らしている」久志さんに自分を満たす生き方について話を聞いた。

世界の広げ方って実はすごくシンプル。
小さなことでも良いので、自分で創ってみること。それだけでも驚くほど世界は広がるんです

新しい価値観やライフスタイルに触れることができる世界中のトピックを発信しているデジタルメディア「TABI LABO」や、熱狂を起点とした独自のマーケティング手法でビジネス課題解決を実現する「BUSINESS DESIGN & BRAND STUDIO」、イベントスペース&カフェ「BPM」の運営など、新しいメディアのビジネスモデルで業界を革新してきた株式会社TABILABO。事業の拡大に合わせ、2019年8月1日より社名をNEW STANDARD株式会社に改めたものの創業時から一貫しているのは、「WE CREATE WHAT WE WANT  自分たちが欲しいものや未来は自分たちの手で創り上げる」という企業文化だ。2019年秋にはD2C事業の本格的な立ち上げもひかえ、「創り出す」こと「生み出す」ことの比重がさらに増している。

「『自分たちが欲しいものや未来は自分たちの手で創り上げる』という発想は、僕が21歳から2年間ヒッピーコミュニティーを回りながら世界中を旅していたときに得たもの。そのときに得た知見が僕の考え方のベースになっています」

「ヒッピーコミュニティーに暮らす人々がやっていることは何かというと、盲目的に与えられたものを消費するのではなく欲しいものは自分たちで創ること。家や食べ物、服や雑貨、仕事も含め、必要なものは自分たちで創り出す。そういう彼らの生き方を通して、資本主義経済が成熟した先にあるものは、国家や国民というマクロの視点での経済発展ではなく、自分たちが本当に欲しいものや欲しい未来を自分たちの手で創り出す時代に移り変わっていくのだと感じました」

民族楽器のディジュリドゥを吹く久志さん

良いか悪いかはやってみて自分で決めたい

誰も思いつかなかった発想でスマホ時代のメディアと新しい広告の形を創り上げてきた久志さんは、その人生の序盤からすでに型破りだ。中学受験で入学した有名進学校を「面白くない」という理由で1年でやめ、地元の公立中学卒業後、アメリカに留学し16歳で飛び級卒業。17歳で起業し帰国後19歳でDELLに入社。世界を回る旅に出たのは、トップセールスマンとして華々しい成果を上げ続けていた21歳のときだ。

「みんなと違うことがしたい、みんなと違う景色がみたい。という思いが強いんです。それに加えて子どもの頃から『大人は嘘ばっかり言ってるな』と思うことがすごくあって、何がほんとで何がダメなのか、社会から与えられたルールや認識ではなく自分の中で判断していきたい。やってみて、その上で良いか悪いかは自分で決めたいという気持ちが強いんです。ややこしいですよね(笑)」

「これをしてはいけないだろう」と、無意識のうちに設定しがちなリミッターを振り切ってしまう傾向は物心ついた頃からあったようだ。

世界を回る旅を終えた久志さんはDELLに復職。サービスセールス部門のマネージャーとして3年会社員生活を送るが26歳のときに退職。「自分たちが欲しいものや未来は自分たちの手で創り上げる」ことを実現するために宮崎県の串間市に移住し、築70年の古民家を借りて家の改修工事から着手した。

「生活に必要なものはすべて自分たちで作りたいと思っていたので、五右衛門風呂、簡易水洗のトイレ、キッチン、床の張り替えや建具作り。仲間の手を借りながら一から何でもやりましたね」

 

宮崎ではNPO法人を立ち上げソーシャルビジネスにも従事した。

「ビジネスの力を使って地域を良くしたいと考えて、野菜を売ったり塩を作ったり、カフェもやりましたし、農家支援やエコツーリズムのようなこともしました。ただ、うまくいかないことも多かったです。自分が良いと思っていても、そこに住んでいる人には求められていないこともたくさんあった。ボトムアップで日本を良くするっていうことは今の僕には難しいなと感じました」

30歳を目前にして、「もっと社会に対して問いかけられるような事業を通して日本を良くしていく必要がある」と感じた久志さんは東京に戻りTABI LABOを立ち上げる。しかし、宮崎での生活が久志さんにもたらしたものは大きい。

「自分で作ってみるという生活を体現できたことは貴重な経験でした。その分野だけに特化したプロフェッショナルではなく、違うスキルセットを持った素人が分野を越えたときに発揮する可能性にも気づきました」

何よりも「田舎暮らし」を一度やってみたという経験は、自分が求める理想のライフスタイルが本当は何なのかを知るための貴重な手がかりになった。

「こうあるべきだ」よりも心の底から湧き出る「こうありたい」

“理想の田舎暮らし”を経て、今は東京に暮らす久志さんだが、住まいの環境に求めるものは「日当たりと風の抜け」だという。

「世界を旅したり田舎暮らしをしたり、いろいろやってみてわかったことですが、僕が一番心地良くいられるのは日当たりと風の抜けが良い部屋で暮らすことだった。それに気づいてからは、家探しのポイントもその2点。あとは部屋で植物をたくさん育てることで満たされています。家が一番リラックスできる場所なので、リゾートへ行きたいとも全く思いません。むしろ家にいたい。この部屋で暮らすことにすごく幸福感があります」

1日の幸福度を高めるために朝の時間を大切にしているという久志さん。朝、5時台に起きて軽く運動をし、自分で作った朝食を食べる。

何を幸せと感じるか、どうあれば満たされるか。ウェルビーイング的な観点からも住環境を含めたライフスタイルはより個人的な満足度に傾いてきていると久志さんは推測する。

「平成って、『こうあるべきだ』とか『これが幸せの形だ』みたいな、『こうあるべきだ論』がすごく強かったと思うんです。いわゆる“意識高い系”ですね。でもだんだんと、そんなことしたくないという空気にもなってきて、今は『与えられた価値観にそって無理して意識高く生きるよりも、もっとリラックスして自然体でよくないか?』というふうに流れが変わってきているように感じます。インスタ映えももう死語ですよね」

「リラックスして自然体でよくないか?」というのは、頑張らなくてもいいというざっくりした意味ではなく、努力のベクトルとして、世の中の「こうあるべきだ」よりも、自分の心の底から湧き出てくる「こうありたい」「これがいい」に向かっている、ということだ。

「平成の『意識高い系』っていうのは周りからどう見えているかがキーだったんです。比較した結果どうかというフィードバックがあって初めて『自分はこれでいいんだ』と思えるような満足感だった。例えばインスタグラム、これも結局まわりの人に『いいね!』を押してもらうために映える写真を撮っていた。でも、『それは本当に自分が求めているものか?』を考えたときキツいじゃないですか。頑張れば頑張るほどどんどん実体の自分から離れていくし無理をしなきゃいけない。『いいね!』と評価されるほど、偽りの自分を作り続けなくちゃいけなくなる。努力の方向性としてキツくなっていく。『努力をするならそっちじゃなくていい』ということです。時代の向かう先として、『自分が心地良く自分らしく生きていくためには何をどうしていったらいいか』に比重は傾きつつあるように感じています」

つまりそれは「同じ努力をするなら、自分が心地良く生きられることのために努力したほうが有効だ」ということだ。そして今後はより「個人として何をどう選択して、どう生きていきたいか」が問われる時代になっていく。それが“令和的な幸福”のスタイルだと久志さんは語る。

~理想の暮らしを実現することは難しい、なんてない【後編】につづく~

撮影/尾藤能暢
取材・文/ささきみどり

Profile 久志 尚太郎

NEW STANDARD株式会社
代表取締役
1984年生まれ。中学卒業後、米国留学。16歳で高校を飛び級卒業後、起業。帰国後は19歳でDELLに入社、20歳で法人営業部のトップセールスマンに。21歳から23歳までの2年間は同社を退職し、世界25カ国を放浪。復職後は25歳でサービスセールス部門のマネジャーに就任。同社退職後、宮崎県でソーシャルビジネスに従事。2014年株式会社TABILABOを創業、2017年社内組織BRANDSTUDIO(ブランドスタジオ)を設立、2019年8月NEW STANDARD株式会社へ社名変更。

NEW STANDARD HP  https://new-standard.co.jp

Twitter @shotarobinkushi

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