【実話】ペットの闘病で心が折れそうなとき――余命20日の愛猫を看取った猫マスターが語る“心のセルフケア”
5世帯に1世帯が動物と暮らしている(※)今、動物をペットではなく、家族の一員と思う飼い主は多い。だからこそ、ペットの闘病や看取りの際には言葉にできない辛さを抱く。
ペット保険会社「PS保険」が2025年に行ったペットロスに関する実態調査では飼い主の約6割がペットロスを経験していることが判明。「十分なケアができなかった」という後悔が56.0%と最多だった。
そうした苦しみを和らげるには、闘病中などに自身の心もケアに目を向けることが大切だ。
自他ともに認める“猫マスター”の響介さんは愛猫ポポロンくん(10歳)が余命20日のリンパ腫だと告げられた際、愛猫と自分の両方を大切にしながらポポロンくんを看取った。
※出典:
・令和7年(2025年)全国犬猫飼育実態調査(主要指標サマリー):一般社団法人ペットフード協会
・ペットに関する調査(2024年):Cross Marketing
闘病前に書いた“愛猫に向けた2通の手紙”が心の支えに
――まず、ポポロンくんとはどんな経緯で出会ったんですか?
響介さん(以下、響介):捨てられていたところを保護しました。体が弱くて心配でしたが、一番元気モリモリなムキムキ猫になりました。

運動神経は抜群。お気に入りのおもちゃを投げると咥えて持ってきてくれて。毎朝、「僕の頭を最初にさわれ〜!」と猫圧をかけるのが日課でした。愛称は、ポーチーです。
――リンパ腫が判明した経緯は?
響介:慢性気管支炎や慢性副鼻腔炎、アレルギーがあったので体調は気にかけていましたが、2024年6月3日、くしゃみをした時に鼻血が出て。
過去に副鼻腔炎の悪化で鼻血が出たことがあったので、今回も同じだろうと思っていましたが、初めてご飯を食べなくなり、覚悟を決めて病院へ行ったら、余命20日の悪性リンパ腫と告げられました。
――その時は、どんなことを思われましたか?
響介:リンパ腫と言われる0.001秒前まで、「ただお腹いっぱいなだけであれ……!」と、馬鹿みたいな祈りを込めていました。

告知された瞬間の記憶は、正直ありません。目ん玉の奥からドクンドクンという音が鳴りましたが、意外と冷静に話は聞けました。ポーチーはすぐ、検査入院しました。
――冷静に説明が聞けたのは、すごいですね。
響介:でも、ひとりで帰宅する時、駐車場を歩いていたら倒れました(笑)。空を見て大泣き。でも、泣いて喚いても治らないから泣くのはここで最後にしようと決めました。
――闘病を始める前には未来のポポロンくんに向けて、リンパ腫が寛解した時用の手紙と治療が上手くいかなかった時の手紙を1通ずつ用意されたそうですね。
響介:「最初に泣き切る」と決めたので、闘病を疑似体験してメンタルを鍛えようと思って。この先、起こり得る症状を想像しながら、あえて先に辛い思いをしました。
どれくらい時間が残されているか分からないのに泣きっ面で一緒にいたくない、最後の記憶に残る僕が泣き顔なのは嫌だと思ったから。
――未来の自分が感じるであろう苦しみを想定するのは辛いですが、自身の心を守ることにも繋がりますもんね。
響介:手紙のおかげで、闘病中に上手くいかないことがあっても「想定内……」と自分を落ち着かせることができました。

ただ、本音を言えば、寛解した後に治療が上手くいった時用の手紙を読み上げて一緒に笑い合いたいという想いもありました。
闘病は“無感情”でいい――猫マスターが心がけた心の守り方
――告知後、どんな治療を受けましたか?
響介:数種類の抗がん剤を毎週または2週間に一度、計画的に打ちました。抗がん剤を打った後は自宅で整腸剤やステロイド、吐き気止めなどを与えました。
――闘病生活の中で意識されていたことは?
響介:多頭飼いなので、他猫たちへの配慮も忘れないようにしました。あと、抗がん剤治療中はトイレを分けたり、注射後の数日間はケージにいてもらったりしなければならないけど、僕と触れ合う回数は減らないよう、抱っこしたり一緒に寝たりしました。

家中は、カメラだらけ。ご飯を食べる量をグラム単位で見て、何なら食べた、何は食べない、どの状況なら食べるなど、全てチェックしていました。
――闘病中はセルフケアが難しいものですが、響介さんはご自身のメンタルケアも意識されていましたね。
響介:僕は、「飼い主が元気でなければ闘病は上手くいかない」という意識が強かったので。猫は心を読み取るので、僕が嘆くと一番辛いはずの本人が自分を責めてしまいそうな気がして。
あと、「一緒にいたい」という僕のわがままに強制的に付き合わせてしまった以上、嘆いてはいけないんだとも思っていました。
――闘病中は愛猫の変化に心が沈むこともありますが、そうした時はどのようなセルフケアをされていましたか?
響介:一番意識したのは、健康体だった時と比べないことです。僕には、「猫は今が常に一番かわいい」という信念があるんですが、それが闘病中にも活きて。
地獄のような瞬間もたくさんありましたが、体重が減った時には「スリム!イケメンがより際立っちゃう!」と捉えていました。

食べる量が減った時には「体が心配……」ではなく、「こんなご飯食べたくないよね!鰹節ならどう!?」と、愛猫とゲームをする感覚で過ごしました。
――前向きな思考が難しい時は、どんな風に「闘病」と向き合っていくと心が楽になりやすいでしょうか?
響介:闘病は機械的に、共に過ごす時間は愛でいっぱいの“いつも通り”を意識するといいかも。闘病自体に感情が入ると疲れてしまいますし、疲労感やストレスが猫に伝わってしまう。闘病は先生の言うとおり、とにかく無感情でいいと僕は思います。
互いが想えていたら「腕の中で安らかに眠れた最期」になる
――ポポロンくんは一時、リンパ腫が寛解したものの、その後、喉に転移して目が見えない、初めての粗相などの症状が現れたそうですね。そうした姿を見る中で心境の変化はありましたか。
響介:長く一緒に過ごすことを目標に治療を始めましたが、段々「それは人間のエゴなのかもしれない」と悟りました。それからは「辛くない時間を長く……」とか「ポーチーが過ごしたいと思う時間にしよう」と思うようになりました。
――そうした考えから積極的な治療を止めて、緩和ケアに入られたんですね。
響介:諦めとか逃げなどは一切なく、「これが最善なんだ」と、自然に緩和ケアを決断できました。

終末期は絶望の毎日と思われるかもしれませんが、僕は真逆で。「最強に最高の毎日を過ごしてやるぜ〜!覚悟してろ!ここからは、“辛い”はゼロだ!最期の最期まで幸せで埋め尽くす!」と思っていたので、悲観的な感情は一切ありませんでした。
――終末期には、どんなことを意識されていましたか。
この時期も、“いつも通り”を徹底していました。あとは、くっつきすぎないこと。あと少ししかいられない……と思うとベッタリしたくなりますが、それがストレスになることもあり得るので、いつもと同じように声をかけて、寝て、笑うようにしました。

ポーチーはひとりの時間を作ったら、ご飯食べたり動いたりしてくれたので、たまにはひとりの時間を作ってあげることも大切かも。
――最期は、どのように迎えられたのでしょうか。
響介:腕の中で看取ることができましたが、亡くなる前には発作のような症状や痙攣などが起き、思い描いていた理想の死とのギャップに驚きました。
――リアルな最期に直面すると、「腕の中で安らかに」がいかに難しいかを痛感しますし、「腕の中で逝かせてあげられなかった」と自分を責めてしまう飼い主さんもいますよね。
響介:「腕の中で安らかに」は、あくまで概念的なもの。一緒に過ごせた、こんなに愛した、こんなに想えたのなら物理的な距離は関係ない。最期の瞬間に互いが想えていたら、「腕の中で安らかに」だと思います。
――実際に腕の中であったかどうかは関係なく、互いの気持ちが繋がっていれば”腕の中で逝かせてあげられた“と同じ最期になるということですね。
響介:そうですね。「最期は離れた場所だった……」と自分を責める必要はなくて、猫ちゃんがあなたの腕の中を想像し、思い出して最期を迎えたのなら、それは「腕の中で安らかに」なんだと思います。

僕は物理的に「腕の中で安らかに」を迎えられ、僕にとって最善の最期でしたが、それが必ずしも万人にとっての最善ではなく、「僕らの最期はこうだった」に過ぎない。最善はそれぞれの家庭によって違うし、実際に起きたその最期こそが猫ちゃんにとっては最善で、その最期を迎えられたのは飼い主さんの愛があったからです。
ペットロス後の“涙”は亡き愛猫を愛している証
――現在、ペットロスの辛さとはどう向き合っていますか?
響介:向き合うと辛いので、悲しみと同じ方向を向いている感じです。突然、高熱が出たり、ギターを弾いている時に膝乗りポーチーを思い出したりして、悲しくなることはありますが、“立ち直れない”ではなく、「早くまた会いたいな~」という気持ちです。
――生前の姿を思い出して悲しくなった時には、どんなセルフケアをしていますか?
響介:泣きます。でも、同時に「まだ僕、こんなにポーチーを愛せてるんだ」と自分の愛の深さを再認識します。びしょ濡れになったハンカチ見て、「この涙が愛の重さだぜ……(キリッ)」とかやってます(笑)。
――悲しみや涙を「愛の証」と変換するのは、いいですね。
響介:闘病中、限界を迎えてくたばりかけていた僕を見るポーチーの表情や行動は、どこか優しくて、本当の意味での優しさとか寄り添いのようなものを痛感しました。

僕は何度も「猫と暮らすのはただかわいいだけじゃない、現実も見ろ」と偉そうに言ってきましたが、実際に闘病や看取りを経験して本当にそうだなと改めて思ったし、猫と暮らすには命と向き合う覚悟が必要だと再認識しました。
――猫って無性の愛をくれるからこそ、愛猫の気持ちを考えつつ、愛猫が愛してくれた自分も大切にしながら最期まで一緒に生きていきたいですよね。
響介:「猫と生きる」や「猫と過ごす」は、どんな綺麗事を言っても人間のエゴです。勝手に人間が家に連れてきて、勝手に愛して、勝手に匂いを嗅いだりする。だからこそ、勝手に猫を最高に幸せにしてあげる責任が人間にはあると思う。
僕は最期の瞬間まで、そのエゴを通して愛し続けたいです。その気持ちはきっと猫にも伝わって、同じ気持ちであってくれるはず……というエゴも貫き通したい。最期の瞬間まで幸せで埋め尽くせられれば、きっと猫も幸せなまま、また会いにきてくれると思う。……それも、またエゴなんですけどね(笑)。
一緒にいる時間を捕まえたくて、逃したくなくて必死に追いかけ続けた闘病生活はまるで、おにごっこだった――。そう振り返る響介さんは今、ずっと鬼のターンである感覚でポポロンくんと再会できる日を待ちわびている。
ふたりの闘病はブログや『愛猫が余命20日と宣告されました』(ワニブックス)に詳しく綴られているので、いつか来る“その日”のために読みこんでおきたい。
文:古川諭香

本業:猫マスター
副業:作編曲家、サウンドプロデューサー、ギタリスト、音楽大学非常勤講師
保有資格:【猫健康管理士】【猫疾病予防管理士】【猫のシニア生活健康アドバイザー】猫と追いかけっこがしたくてマンション購入。猫ともっと本気で追いかけっこしたいがために注文住宅を建築。曲の締切、猫のご飯の締切、住宅ローン(残り30年)に日々追われながら猫たちとのおにごっこの必勝法を模索する日々を過ごす。おにごっこで勝つために次は山か島を買うらしい。著書に『借金1000万作曲家の人生を変えてくれた猫の話』(ワニブックス)、『猫を飼うのをすすめない11の理由』(サンマーク出版)、『下僕の恩返し』(ビジネス社)がある。
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