アンコンシャスバイアスの対策とは? 個人・職場・企業への影響と対策事例
私たちの身の周りには、多くのアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)が存在しています。アンコンシャスバイアスを完全になくすことはできませんが、悪い影響が出ないように対策することは可能です。
この記事では、下記4点について解説します。
- アンコンシャスバイアスに気付かないとどうなるのか
- アンコンシャスバイアスがもたらす影響
- アンコンシャスバイアス対策と伝え方の注意点
- アンコンシャスバイアスへの対策事例
アンコンシャスバイアスに気付かないとどうなるのか
アンコンシャスバイアスとは、無意識の思い込みを指します。人は生活のあらゆる場面で、「男だから」「女だから」「大学卒だから」「もう〇〇歳だから」といった情報をもとにして、無意識に「〇〇だからこうだ」と決め付けてしまうことがあります。アンコンシャスバイアスに気付かないまま物事を判断してしまうと、人を傷付けてしまったり、組織の成長を阻害してしまったりすることがあります。アンコンシャスバイアスの影響範囲は、日常生活、学校生活、職場、経営、友人関係など、多岐にわたっています。特に、企業のマネジメント層・経営層においては企業の成長に直結することもあります。思い込みに気付かないままだと、一人ひとりがイキイキと活躍できない社会になってしまう恐れがあります。
※出典:アンコンシャスバイアスとは?|一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所
アンコンシャスバイアスがもたらす影響
アンコンシャスバイアスに気付かないままでいると、“不適切な判断”や“不適切な言動”を引き起こすこととなり、周りにネガティブな影響を与えたり、コンプライアンス上やコミュニケーションにおける問題に発展したりする可能性があります。具体的にどんな場面で影響を与えるのか、個人、職場、企業ブランドの3つの場面について解説します。
①個人への影響
個人への影響には、下記のような例が挙げられます。
・家庭や学校において他人とコミュニケーションを取る時の影響
「家事や育児は女性の役割だ」「男の子は泣いてはいけない」など、無意識の思い込みによる言動が関係性に影響し、ケンカや対立、いじめ、差別の原因になる可能性もあります。このように、人種・性別・世代等の属性などから先入観や固定観念を持って判断することを「ステレオタイプバイアス」と呼びます。
特にアンコンシャスバイアスの影響を色濃く受けてしまうのがLGBTQ(性的マイノリティ)の人々で、学校でいじめられたり、就職活動で自身の性自認を伝えたことで採用されなかったりするなど、多くの困難に直面するケースが少なくありません。
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②職場への影響
職場への影響には、下記のような例が挙げられます。
・意思決定や評価・査定をする時の影響
人種、性別、年齢、障がい、疾病などから抱くイメージで決め付けてしまい、採用・育成・人事配置・昇進等を行う場面で公平な判断ができず、適材適所がなされなくなる恐れがあります。働く人は成長の機会を十分に与えられずモチベーション低下や離職を招く可能性もあるでしょう。例えば、「がんを発症した人はゆっくり休んだ方がいい」というアンコンシャスバイアスがありますが、実際には「働き続けたい」と考える人も多く存在します。
③企業ブランドへの影響
企業ブランドへの影響には、下記のような例が挙げられます。
・広告がユーザーに与える影響
広告は企業ブランドを向上させる効果が期待できる半面、一歩間違えれば炎上などによるマイナスプロモーションにつながるリスクもあります。アンコンシャスバイアスに気付かないまま発信された企業CMは、批判され炎上するなど企業活動全体にまで影響が及ぶ危険性もあるかもしれません。これまでに炎上した広告の中でも多く見られる事例が、ジェンダーの視点から批判を受ける広告です。当事者を傷つけてしまう上、企業ブランドも毀損(きそん)してしまう恐れがあります。
炎上リスクを抑えるため、ハラスメント防止やコンプライアンスの徹底ための研修などを行い、ジェンダーなどに関する理解を深めることも必要です。
また、企業以外にも炎上事例があります。内閣府の研究会が発表した恋愛の支援策として「壁ドン」が登場し、その行為自体が状況によって暴力性が強まり、デートDVにつながりかねないと波紋を生んだこともありました。
採用現場における性別のアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)に対応する企業が増えています。ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会は、2020年に顔写真やファーストネーム、性別に関わる情報の取得を廃止した「ブラインド採用」の導入を手がけました。
同社が展開するヘアケアブランド「LUX」は、女性が理想の自分に近づくために社会のルールや固定観念にとらわれず、自分らしく輝くためのサポートをすることをブランドフィロソフィーに掲げています。こうした女性の採用やダイバーシティを推進する取り組みは、企業ブランドを確立し、社会やユーザーから高い評価を得られることが期待されます。
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※出典:「LUX Social Damage Care Project」始動 | Unilever
アンコンシャスバイアス対策と伝え方の注意点
アンコンシャスバイアスにうまく対処するには、経験や思い込みに振り回されていないかを確認し、相手に不快な思いをさせていないか日頃から注意することが重要です。まずは、人間は成長する過程においてバイアスを必ず身につけてしまうこと、無意識の思い込みで判断していることを自ら認めることが第一歩です。自分自身の行動を振り返り、自分が常識だと思って話した内容や当たり前だと思って取った態度について検討し直すのがよいでしょう。
すぐにできる対策としてメモを取る方法があります。「これって、私のアンコンシャスバイアス?」と自分に問いながら、アンコンシャスバイアスのメモを1~2週間にわたって取ってみてください。「こうあるべきだ」と思ったことをメモし、「なぜ自分はこう思うのだろう?」と見直すことで思考のクセに気付くことができます。
他者の考えに触れることも、アンコンシャスバイアスに気付くためには有効です。自分では気付けなかった認知のクセや誤りを指摘してくれたり、新たなものの見方や考え方に気付かせてくれたりする機会を持てるでしょう。
他者に対してアンコンシャスバイアスを指摘し、責めるようなことは避けた方がよいかもしれません。例えば、上司と部下、親と子ども、夫と妻といった関係性において、相手の言動に対して「それってアンコンシャスバイアスだよね?」と直接指摘することは、相手の受け取り方や伝え方次第で関係性の悪化につながる可能性もあります。「私は嫌な思いをした」など、自分自身の言葉で伝えるのが望ましいでしょう。
※出典:守屋智敬著『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント 最高のリーダーは自分を信じない』
アンコンシャスバイアスへの対策事例
アンコンシャスバイアスへ対処するため、具体的な取り組みを行った事例を3つ紹介します。
事例①Google
無意識の思い込みを理解し、多様な視点を持つ組織へと変わるために、2013年5月からアンコンシャスバイアスについての教育活動を開始しました。
例えば、IT企業を題材にしたドラマ「Silicon Valley」のポスターには、男性しか登場しません。このポスターは、「IT企業の経営者には男性しかいない」という思い込みを助長します。まずはこのようにアンコンシャスバイアスが生み出されるプロセスを知ることが重要です。
バイアスがかかった意思決定は、バイアスがかかっていない意思決定よりも短時間になされるメリットがあります。しかし、多様性のある組織の長所を打ち消してしまうデメリットの大きさに目を向ける必要もあります。
Googleでは面接や人事評価などのさまざまな場面で、アンコンシャスバイアスへの対策が立てられています。
出典:Unconscious Bias @ Work | Google Ventures
事例②弘前大学
働きやすく、学びやすい環境づくりのために、教員選考過程について男女共同参画の観点から記録する「ダイバーシティレポート」制度を実施しています。女性限定公募を除く全ての教員公募を対象に、選考の各段階について男女共同参画の観点からレポートが行われています。
事例③ソフトバンク
管理職の女性比率を2035年度までに20%にする目標を掲げ、外部の有識者を招いて「女性活躍推進委員会」を設置しています。女性活躍を含むダイバーシティを推進するため、社員の意識調査アンケート、eラーニング、ワークショップなどを実施し、アンコンシャスバイアスの問題についても取り組んでいます。
出典:多様性の一丁目一番地。ソフトバンクで加速する女性活躍推進の取り組み
社会や組織は、性別や属性、置かれた立場などが一人ひとり異なる多様な人たちが集まり、活動する場です。アンコンシャスバイアスは誰にでもあるもので、あること自体が悪いわけではありません。しかし、決め付けや押し付けによって個人の能力を発揮する場を奪ったり、無用なストレスを与えてしまい就業意欲を損ねたりすることで、組織の生産力や推進力が低下する可能性もあります。
アンコンシャスバイアスに気付き、対策しようと組織が一体となって取り組むことがインクルーシブな居場所づくりの一歩となるでしょう。
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まとめ
先入観や思い込みは、過去に蓄積された経験などによってつくられ、知らないうちに固定観念として住み着いてしまうものです。「私には、無意識の思い込みなどない」というのもアンコンシャスバイアスの一つかもしれません。アンコンシャスバイアスから目をそらさず、自覚していない思い込みや先入観に気付くことで、一人ひとりがイキイキと活躍できる社会に変化していくことでしょう。
執筆:遠藤 光太
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