心理的安全性の高い職場にするには? アンコンシャスバイアスの具体例を紹介
アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)の具体例には、どんなものがあるのでしょうか。具体例を知り、自分自身や周りの人々のアンコンシャスバイアスに気付くことで、私たちは一人ひとりがイキイキと活躍できる社会を作っていくことができます。
この記事では、下記4点について解説します。
- アンコンシャスバイアスが生じるメカニズム
- 個人や組織・集団に生じるバイアスの具体例
- 職場で生じるアンコンシャスバイアスは組織の成長を妨げ、悪影響を及ぼす
- 職場でよくあるアンコンシャスバイアスの具体例
アンコンシャスバイアスが生じるメカニズム
アンコンシャスバイアスが生じる背景の一つとして、脳の情報処理の特性があります。アメリカの行動経済学者・心理学者であるダニエル・カーネマンは、事前の情報インプットが情報バイアスとして判断や選択に影響すると説いています。
カーネマンは、人間の脳は自動的で処理が速い「システム1」と、意識的で処理の遅い「システム2」の2つのモードで思考を処理すると定義しました。アンコンシャスバイアスには、「システム1」の「速い思考」が強く関係していると考えることができます。アンコンシャスバイアスは、過去の経験や周囲の意見、日々接する情報から形成されるもので、誰もが持っているものです。人は過去の経験や見聞きしたこと、学んだことなどを基に「システム1」で素早い判断を行おうとするわけです。カーネマンはある実験で教師が生徒の成績を予測する際、「今年の1年生は勉強熱心で読書家だ」という事前情報を与えられた場合と、そうでない場合では予測結果が大きく異なるという結果を示しました。
出典:古山英二『日本橋学館大学紀要 第7号』「行動(心理)経済学(behavioral economics)と脳科学」
個人や組織・集団に生じるバイアスの具体例
ダニエル・カーネマンが説く脳のメカニズムによると、直感的な思考を行う「システム1」と、合理的・論理的思考を行う「システム2」という対照的な機能を活用しながら、私たちは日常のあらゆる出来事を判断しています。
「システム1」は速いため努力が不要ですが、アンコンシャスバイアスが影響しやすくなり、時として非合理的な判断をしてしまう性質があります。経験から蓄積された思い込みが影響して考えが偏ってしまうことを「認知バイアス」と呼びます。ここでは、個人と組織、それぞれのシーンで生じる認知バイアスを紹介します。
個人に生じる認知バイアス
ステレオタイプバイアスは、人の属性や一部の特性をもとに先入観や固定観念で決め付けてしまうことです。性別や人種などで相手を見てしまうことは、ステレオタイプの一種です。
例えばハロー効果は、相手の一部の長所で全てが良く見えることです。身なりがきちんとしている人は仕事もできる人だと思ってしまうことなどが挙げられます。このように、ポジティブにも思えるバイアスも、アンコンシャスバイアスの一部なのです。
組織・集団に生じる認知バイアス
集団同調性バイアスは、周りと同じように行動してしまうことです。例えば、みんながYESと言っていると自分もYESと言わなければならないように感じてしまうことが集団同調性バイアスに該当します。集団同調性バイアスが誤った方向に進んでしまうと、経営判断のミスやハラスメント、炎上を起こしてしまう恐れがあります。
正常性バイアスは、周りが変化していたり危機的な状況が迫っていたりしても「私は大丈夫」と、正常の範囲内だと都合のいいように現状を捉えてしまうことです。警報が鳴っても逃げる気にならないことなどが挙げられます。
出典:守屋智敬著『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント 最高のリーダーは自分を信じない』
職場で生じるアンコンシャスバイアスは組織の成長を妨げ、悪影響を及ぼす
2013年にGoogleがアンコンシャスバイアスの解消に向けた取り組みを行ったことをきっかけに、アンコンシャスバイアスが世界で認知されるようになりました。従業員の多様性、公平性、包摂性に注目するDE&I(Diversity、Equity、Inclusion)の動きが世界的に広がっていることもあり、それらを阻害することもあるアンコンシャスバイアスに、より注目が集まっています。
日本でも、女性管理職や外国人社員、高齢者の再雇用など、働き方や属性の多様化が進むことを受け、アンコンシャスバイアスと向き合う必要性が高まっています。職場内にはアンコンシャスバイアスが多く存在し、次のような悪影響を及ぼす恐れがあります。
- ハラスメントの原因となる
- ダイバーシティ促進が進みにくくなる
- 社内風土が悪くなる
- 社内の連携が取れなくなる
- コンプライアンス違反などが起こりやすくなる
組織においてアンコンシャスバイアスが最も影響を与えるのは、採用、育成、人事配置、昇進等など意思決定や人を評価する場面かもしれません。「女性に理系の仕事は無理だろう」「体育会系だから、多少の残業にも耐えられるだろう」「エンジニアはコミュニケーション能力が低い」「おじさんだから、ITには弱い」など、個人の資質や本質を見ずに、性別・属性・外見に対する思い込みや決め付けによって判断し、能力での公平な判断をしないケースが多いと、組織や個人に悪影響を及ぼしてしまいます。
ジャーナリスト・浜田敬子さんは、日本で女性役員の登用が進まない理由は、「男性は仕事、女性は家庭」といった無意識な性別役割分業意識が男性だけでなく女性自身にもあることを挙げています。
職場でよくあるアンコンシャスバイアスの具体例
職場において、性別役割を感じるアンコンシャスバイアスの発言を受けた事例を紹介します。
①上司へのお茶出しは女性がやった方がウケがいいよと言われた
→「受付、接客・応対(お茶出しなど)は女性の仕事だ」というバイアス
②男性の同僚から「女性は感情的に物事を考えて行動する」と言われた
→「女性は感情的になりやすい」というバイアス
③管理職面接で、女性の細やかさを生かして頑張ってほしいと言われた
→「女性は、細やかな気配りができるものだ」というバイアス
④営業の数字が取れず、同期の女性に数字が負けていた際に、上司から「男なら女より数字を取れ。負けて恥ずかしくないのか」と叱責された
→「男性は女性に負けてはいけないものだ」というバイアス
⑤男性だから仕事を夜遅くまで残って頑張りなさいと上司から言われた
→「男性なら残業や休日出勤をするのは当たり前だ」というバイアス
内閣府の調査によると、女性が性別に基づく役割や思い込みを⾔動や態度から感じた経験における1位は「家事・育児は女性がするべきだ」でした。こうしたアンコンシャスバイアスはいまだに根強く存在しています。
こうしたアンコンシャスバイアスは、職場の心理的安全性を損なう要因となるだけでなく女性活躍や高齢者雇用、障がい者雇用などにおいて大きな障壁となる可能性があります。
アンコンシャスバイアスの認知度が上がる中、企業研修の実施も増加しています。しかし、管理職や経営陣から誤解や開き直りの言葉が出ることもあり、考え、解釈、価値観の対立を生みかねないケースもあります。マネジメント職に就くリーダー層、経営層はアンコンシャスバイアスの解消に取り組む重要性を認識し、本質的に対処していくために、より理解を深めることが大切ではないでしょうか。
出典:内閣府 令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究
まとめ
社会や組織において円滑なコミュニケーションを図り、個人の能力を最大限に引き出すことで多様な人材の活躍を推進するためには、それを阻むアンコンシャスバイアスを学ぶこと、そしてお互いに気付くことが大切です。自分の中にあるアンコンシャスバイアスに気付き、それにとらわれない、周囲に押しつけないという意識を企業で働く全ての人に浸透させる取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
執筆:遠藤 光太
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