バーンアウト(燃え尽き症候群)とは? 仕事におけるメンタルケアと予防策を解説
仕事に打ち込む人なら誰でも経験する可能性がある「バーンアウト(燃え尽き症候群)」。昼夜を問わず、次々と運び込まれる患者をケアし続けた医療従事者だけではなく、テレワークなどにより、オンオフの切り替えが難しくなることでバーンアウトしてしまった人も多くいます。
この記事では以下の6点を解説します。
- バーンアウト(燃え尽き症候群)とは
- バーンアウト(燃え尽き症候群)が増加する背景
- バーンアウト(燃え尽き症候群)に陥りやすい人とは?
- バーンアウト(燃え尽き症候群)は「失恋」と似ている?
- バーンアウト(燃え尽き症候群)の予防策とマインドケア
- まずは自分の心身のケアを第一に
バーンアウト(燃え尽き症候群)とは
「バーンアウト(燃え尽き症候群)」とは、過剰かつ長期的なストレスにより、感情的、肉体的、精神的に疲弊した状態を指します。それまで熱心に仕事にまい進してきた人が突然やる気を失ってしまうのです。ただ、バーンアウトは精神疾患の公式な診断名ではないことに注意が必要です。
Adecco Groupが2021年10月に日本を含む世界25カ国で働く1万4,800人を対象に行った調査によると、「過去1年に、働きすぎやバーンアウトで苦しんだことがある」と答えた人は日本では20%でした。また、「職場でのメンタルヘルスに対する適切な支援が、将来的に重要になる」と答えた人は43%でした。
世界保健機関(WHO)が公表した国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)によると、バーンアウトの特徴として「消耗したという感覚」「仕事に対する否定的・冷笑的な感情」「職務上の課題を達成できるという感覚の低下」の3点があります。コロナ禍で激務を強いられた医師や看護師などの医療従事者は、いわば感情労働であり、特にバーンアウトに陥りやすい職種の一つとされています。
※出典:世界25カ国の調査から見る「“日常”の再定義:新たな時代の働き方とは 2021」
※参考:ICD-11
バーンアウト(燃え尽き症候群)が増加する背景
バーンアウト(燃え尽き症候群)が注目された背景の一つに、新型コロナウイルス感染症拡大によって在宅勤務やリモートワークへシフトするなど、働き方の変化があります。
Microsoft社は、パンデミックが始まって半年後の2020年9月にオーストラリア、ブラジル、ドイツ、日本、インド、シンガポール、英国、米国の6,000人以上のインフォメーションワーカーと、現場の最前線で活躍するファーストラインワーカーを対象に調査を行いました。
それによると、ファーストラインワーカーとインフォメーションワーカーの30%以上がパンデミックによって「仕事における燃え尽きの感覚が増した」と回答しています。また、リモートワーカーの3分の1が、仕事と生活の境界の不明確化が自分のウェルビーイング(幸福。肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態)に悪影響を与えていると述べました。
Microsoft Research主任研究者のシャムシ・イクバル氏は「『通勤しなくてよくなり、時間を節約できてうれしい』という人は多いですが、仕事に向けて気分を高揚させ、また、仕事を終えて気持ちを解放するためのルーチンがないと私たちは一日の終わりには疲れ果ててしまうのです」と分析しています。
※出典:パンデミックから6カ月間のウェルビーイングに関する調査結果 -Japan News Center
バーンアウト(燃え尽き症候群)に陥りやすい人とは?
以前から日本社会では、職場でのバーンアウトについて取り上げられてきました。
バーンアウトは仕事を頑張った後の「やり切った」感のイメージで一般的に理解されていることが多く、スポーツ選手の引退会見にあるような何かを達成した後の清々しさを「燃え尽き」と表現したりします。
しかしバーンアウトとは、「完全燃焼」とは正反対の、「燃えたかったのに燃えられなかった」という不完全燃焼の意味で使われます。
同志社大学の久保真人教授によると、看護師や教員、介護職員、客室乗務員、コールセンタースタッフなどお客さまにサービスを提供する「感情労働」の職業の人は、職務ストレスからバーンアウトに陥りやすいとされています。感情労働に従事している人は、急に働く意欲を失い、休職を選択するだけでなく、ついには離職してしまうケースもあります。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、職場に出勤しないリモートワークの働き方が急増しました。このように、ひたすら自宅のパソコンに向かっている中、「自分は何のために仕事をしているんだろう」と虚しさにとらわれてしまい、バーンアウトに陥りやすいのは、「Z世代」と呼ばれる1990年代後半から2000年代生まれの若手が多いといいます。
また、リモートワーク下でマネジメント業務が増え、それが負担になるミドルマネジャー層や、コロナ禍で新卒・転職・異動した「新参者」が、組織のメンバーとして認められている実感が得られずに孤立してしまい、バーンアウトが起こることがあります。「自分はここにいてよいのだろうか?」と疑問を抱くようになってしまうといいます。
※出典:バーンアウト (燃え尽き症候群) – 労働政策研究・研修機構
バーンアウト(燃え尽き症候群)の主な症状
バーンアウトに陥ると、仕事量やタスクの管理、プロジェクト管理ができなくなったり、タスクの優先順位を付けられなくなったりすることがあります。
バーンアウトの主な症状に次の3つがあります。
・情緒的消耗感
一生懸命仕事に打ち込んだ結果、情緒的に消耗し、精神的な疲労を感じてしまいます。対人関係での疲労が情緒的消耗感につながることがあります。
・脱人格化
情緒的に消耗し、エネルギーが枯渇すると、「脱人格化」と呼ばれる防衛反応が見られるようになります。具体的には、同僚や顧客など、相手の人格を無視した思いやりの感じられない対応に表れます。
・個人的達成感の低下
情緒的消耗感、脱人格化によって、悪循環に陥り、個人的達成感も低下します。結果として、仕事の質が著しく低下し、成果も出せなくなります。
※参考文献:「対人援助職におけるバーンアウト・感情労働の関係性 : 精神的な疲労に着目する意義について」土井 裕貴
バーンアウト(燃え尽き症候群)は「失恋」と似ている?
上述したように医師や看護師などの感情労働に従事している人はバーンアウトに陥りやすいといわれています。その理由には、つらい状況にいる人の苦しい気持ちに共感しすぎることで自分自身の心が疲れてしまう「共感疲労」が関係しているようです。つまり、他者をケアすることから援助者は心理的疲労を感じ、「何もしたくない」「仕事を辞めたい」といったバーンアウトに陥ってしまうのです。
前述の久保教授は1990年代初めからバーンアウトを研究してきましたが、「バーンアウトは失恋に似ている」と指摘します。失恋とバーンアウトの共通点は「自分はこれだけ頑張って、尽くしているのに、なぜ相手には通じないのか、成果が出ないのか」という思いが募ってしまう点です。
バーンアウト(燃え尽き症候群)の予防策とマインドケア
バーンアウトに陥ると、本人が大変な思いをするだけでなく、企業側にとっても損失となります。つまり、従業員が疲弊し、バーンアウトに陥ると、企業全体の生産性が低下し、最後には離職するリスクもあります。
現在、多くの企業ではオフィスとテレワークのハイブリッドな働き方を推し進めています。その中で各企業はウェルビーイングを促進し、従業員のメンタルヘルスを良好に保つ支援方法を検討すべきでしょう。
バーンアウトを防止する上でマネジメント層が心がけたいのは、コミュニケーションです。業務量が可視化されにくくオーバーワークに陥りやすい業種であれば、スケジュール管理ツールの導入も効果的でしょう。また、若手がやりがいを失ってバーンアウトに陥るのを防ぐためには、会社が目指す理念やパーパス、フィロソフィーを経営層から積極的に発信することも役立ちます。
加えて、一人ひとりが予防策を講じることが大切です。産業医の大室正志氏によると、「バーンアウトの予防には『心・技・体』の管理が欠かせない」といいます。日常に運動を取り入れて「体」をメンテナンスし、会社以外の多様な人とのつながりを大切に「心」をケアすることが大切です。もし、キャパオーバーの状態が続き、肉体的にも精神的にも限界が来ていると感じるなら、思い切って有給休暇を取るのも対処法の一つでしょう。
臨済宗建長寺派林香寺の第19代住職である川野泰周さんは、精神科医でもあり、ビジネスパーソンに向けて国内大手企業で「マインドフルネス」の社員研修も担当しています。川野さんは、「現代社会で生きていく限り、ストレスやイライラを完全になくすことはできません。しかし、そんな心の問題に上手に向き合うことはできます。マインドフルネスは古来より人類が直面し続けている悩みの解消法」だといいます。禅の理念をベースにしたマインドフルネスは多くの企業でも導入され、効果が実証されているため、試してみてもよいかもしれません。
まずは自分の心身のケアを第一に
職場や社会から「頑張る」ことを要求され、ついついそれに過剰に応えようと無理をしてしまうことが多い現代社会。過剰なストレスが原因でバーンアウトしてしまう前に、時には休息をとったり、専門家に相談したりして問題を一人で抱え込まないようにしましょう。
石倉秀明さんは、1,500人以上のメンバーがフルリモートで働く株式会社キャスターの取締役CROですが、30代になってからパニック症候群・自閉スペクトラム症と診断されたことを公表しました。石倉さんは自身の経験から「自分が『できない側』に回りそうになったら、環境を変えて、一回逃げてみる」ことが大切だと語ります。燃え尽きないために「『こう生きるべき』っていう世間の声は無視して、もっと自分の心に正直に、わがままに生きてもいいんじゃないでしょうか」と投げかけます。
臨床心理士のみたらし加奈さんは、SNSを通してメンタルヘルスの情報を発信しています。心と体のバランスが崩れてしまい病んでしまう要因の一つは「心の悲鳴を自分自身で否定してしまう行動」とみたらしさんは指摘します。そのため、「体や行動の違和感に目を向けて、改善アクションを起こしてみて、それでも体の不調が改善されず、しんどさが変わらない時には専門機関に行く」ことを勧めます。
phaさんは、元「日本一有名なニート」として知られるブロガー・作家です。phaさんが言うように「何事も頑張りすぎてしまうのではなく、自分が楽しいと思うことが一番自分にとってもうまくできることだし、結果的に人のためにもなる」という視点を持つとしたらバーンアウトに陥ることを避けられるのかもしれません。
まとめ
働き方の多様化などで労働環境が激変する状況も増える中、ストレス過多でバーンアウトに陥るケースもあるようです。仕事にやりがいを見つけることは大切ですが、それを見いだせない自分とのギャップに苦しむのなら、それは本末転倒になってしまいます。
日本人は「頑張ること」「やり遂げること」を大事にする価値観を持っていますが、それもほどほどがよいのかもしれません。まずは自分の体と心を健康に保ち、自分が楽しめることを探すことから始めてみてはいかがでしょうか。
監修者:久保真人
同志社大学政策学部政策学科教授。1999年京都大学大学院文学研究科博士号取得。2007年より現職。研究テーマはバーンアウト(燃え尽き症候群)、ヒューマンサービス組織。『バーンアウトの心理学』(単著・サイエンス社)、『よくわかる看護組織論』(共編著・ミネルヴァ書房)など著書・共著書多数。
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