【前編】社会的孤立・孤独の問題とは? 心の健康と不安の解消・対策・向き合い方
新型コロナウイルス感染症対策のため、テレワークや授業参加はオンラインにシフトするなど、人と人との接触が極端に制限され、私たちの人間関係は大きく変化しました。
ニッセイ基礎研究所が行った調査によると、コロナ禍前と比べ、家族や友人との対面でのコミュニケーションが減ったと感じた人は4割を超える結果に。また、4人に1人がコミュニケーション機会の減少による孤独や孤立への不安を感じると答えました。
長引くコロナ禍の影響、または高齢社会を起因とした孤立・孤独の問題は深刻さを増しており、国や自治体、民間企業との連携も含め、孤立・孤独の問題への対応が本格化しています。
ここでは、高齢者の社会的孤立も含め、下記の4点を解説します。
前編
後編
※出典:2020・2021年度特別調査 「第7回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」 調査結果概要
コロナ禍や独居問題など「孤立・孤独」に陥る背景とは
2020年から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大は、人々の孤独感にどのような影響を与えているのでしょうか?
特定非営利(NPO)法人「あなたのいばしょ」は2022年2月に約3,000人を対象に「コロナ禍での人々の孤独に関する調査」を実施しました。その結果、4割近くの人が孤独を感じており、新型コロナウイルス感染症拡大から約2年経過しても、孤独感はほとんど減少していないことが明らかになったのです。特に「若者・中年(20~59歳)の人」「男性」「(コロナ前と比較して)暮らし向きが悪くなった人」「(個人的なことを話せる)友人が一人もいない人」が孤独になりやすいことが分かりました。この調査結果から、これまで社会に内在していた孤独・孤立の問題がコロナ禍で一気に顕在化したことが分かります。
特に高齢者の一人暮らしは家族とのコミュニケーションだけでなく、地域社会とのつながりも持ちにくいと言えます。その結果、「個人的なことを話せる友人が一人もいない」状態になり、孤独が加速、最終的にはそのまま孤独死を迎えるケースもあるのです。
※出典:共同発表:コロナ下での人々の孤独に関する調査を実施~若い世代とコロナで暮らし向きの影響を受けた人の孤独感が特に高いことが明らかに~
内閣府の「令和3年版高齢社会白書」によれば、65歳以上で独居している人の数(全国)は、1980年当時は男性約19万人、女性約69万人だったのが、2015年には男性約192万人、女性約400万人と、約35年間で独居老人は約7倍に膨れ上がっています。
独居している高齢者が増加している背景には、核家族化、少子高齢化など、家族の形の変化が挙げられます。また、多くの人々は退職と同時に職場でのつながりが失われてしまうことも、要因として考えられるでしょう。なお、中には一人暮らしの経済的な状態に満足しており、その状態を変えたくないという理由を挙げる人もいます。
※出典:家族と世帯|令和3年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府
孤独を解消するための支援や向き合い方には何がある?

人が孤立する理由はさまざまです。自ら進んで独居している場合もありますが、家族や周りの人との交流がない状態が続くと、孤独感が強まります。
2021年2月に日本では「孤独・孤立対策担当大臣」が任命されました。これはイギリスに続き、世界で2カ国目です。これまで「ひきこもり」など孤立・孤独問題は精神医療の観点から論じられる傾向が強かったことを考えると、孤立が社会的問題として認知されるようになった表れと言えるかもしれません。
なお、イギリスでは、国民の7人に1人、65歳以上の10人に3人が孤独を感じており、それによる経済的損失は年間320億ポンド(約4.7兆円 ※2017年当時の調査結果に基づく)といわれています。
※出典:孤立が生み出す社会課題・健康リスク ――日英の事例 | コラム | SOMPOリスクマネジメント
政府が本腰を入れて、孤独・孤立問題に取り組み始め、2021年には「孤独・孤立対策推進会議」が開催されました。ソーシャルメディアの活用、孤独・孤立の実態把握、孤独・孤立関係団体の連携支援の3つのテーマに関するタスクフォースを設置し、NPO等の支援団体、民間企業、学識経験者、行政が一体となって動いています。
例えば、内閣官房 孤独・孤立対策担当室「あなたはひとりじゃない」では、誰にも頼れず、一人で悩みごとを抱える相談者に向けて約150の支援制度や相談窓口を準備。それぞれの状況に合った支援をチャットボットで探すことができます。漠然とした孤独への不安だけではなく、子どもたちのいじめ、性暴力・性犯罪、児童虐待、配偶者等からの暴力(DV)など多様な悩みに対して間口を広げている点が特徴です。
政府の取り組みからも分かるように、孤独・孤立問題を解決する第一歩は誰かに相談することです。ただ、すでに孤立している人たちにとって、自分の悩みを相談することは口で言うほど簡単なことではありません。
実際、一般社団法人ひきこもりUX会議が2019年に実施した「ひきこもり・生きづらさについての実態調査」によると、「悩みごとを相談できる人はいますか」という質問に対して「いない」と答えた人は全体で41.9%、一人暮らしの人では63.8%が「頼れる人はいない」と答えました。同法人は、生きづらい状況を軽減、改善するためには安心できる居場所と、就労をゴールとしない支援が必要だといいます。孤独を感じる人がいつでも戻れる場所の整備や、対等に話ができる当事者同士のつながりが求められます。
※出典:第3回孤独・孤立に関するフォーラム テーマ「子ども・若者」|内閣官房ホームページ
後編へ続く
早稲田大学卒業後、小笠原六川国際総合法律事務所入所。2011年に同所を退所し、法律事務所アルシエンを開設。一般社団法人終活カウンセラー協会の法律監修・講師も務めている。著書に『孤独死が起きた時に、孤独死に備える時に Q&A孤独死をめぐる法律と実務-遺族、事務手続・対応、相続、孤独死の防止』(日本加除出版)などがある。
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