いつもパートナーと価値観を合わせなきゃ、なんてない。
人の悩みの多くは人間関係だといわれるが、その中でも多くの人がパートナーとの関係性やコミュニケーションの難しさに悩んだことがあるのではないだろうか。家族・パートナーシップに関する社会課題の解決に取り組むあつたゆかさんに、パートナーとの話し合いや共存のコツについて伺った。
以前よりも多様な生き方が可視化されてきた現代。人々にとっての大きな悩みの一つが人間関係だろう。多くの価値観がある分、すれ違いも起きやすい。そしてその中でもとりわけ深い悩みに発展しやすいのがパートナーとの関係性という人も多いのではないだろうか。
恋人同士や夫婦など、社会的な関係性はどうあれ、多くの時間を共に生きることになるパートナーとの対話は避けて通れない課題だ。例えば異性愛カップルの結婚一つとっても、そもそも籍を入れるのか、名字はどちらが変更するのか、どのような家に住むのかなど話し合って決めなければいけないことはたくさんある。そんな時に、好きな人、大事な人だからこそ正直に不満を言えなかったり、我慢してしまったりといった状況はよく聞く。
株式会社すきだよ代表取締役のあつたさんは、こんな状況に対して軽やかに、そしてスマートな解決方法を提示してくれる。あつたさんが取り組むのは、夫婦・カップルの価値観共有サービス「ふたり会議」や、交際ステータスに関係なくフラットにパートナーシップを学ぶことのできるコミュニティ「ふたりの教室」を通したパートナー間の課題解決だ。あつたさんがこのような活動を始めた背景にはどんな思いが込められているのか、お話を伺った。
正反対の性格だからこそ「価値観が違う」ことを受け入れられた
現在はパートナーとのコミュニケーション術の発信者として人気のあつたさん。ご自身の性格については「大ざっぱ」だと語る。一般的にはネガティブに捉えられがちな言葉で、同じく大ざっぱな筆者としてはできれば隠したいなんて思ってしまう。今ではあっけらかんと語るあつたさんも、実は以前はこんな性格を自身のパートナーに隠そうとした過去があったという。
「好きな人に対して、自分が欠点だと思っているものを開示するのって怖いことですよね。『部屋が汚いからお嫁に行けないよ』なんて言われたこともあったので、大ざっぱな性格は絶対隠さなきゃと思って、半同棲中にはいかにも料理が得意なように見せたり、頑張って部屋を片付けようとしたりしていたんです。でも一緒に暮らし始めたら、半月ぐらいでバレちゃいました。そうしたら夫が『僕は家事をしてほしくてあなたと付き合っているわけじゃない。その性格も魅力になる』と言ってくれたんです。欠点だと思って頑張って隠していたんですけど、見方が変わったし、バレたらすごく楽になったんです」
そんなあつたさんに対し、パートナーは性格が正反対だという。よく「価値観が一緒」といった理由で交際に発展したカップルの話は聞くが、あつたさん夫婦はそうではない。一見、正反対の相手との生活は難しそうにも見えるが、なぜうまくコミュニケーションが取れるのだろうか。
「私たちは、初めから何もかも違ったからこそ、話し合わないといけなかったので、コミュニケーションがうまくなったのかなと思います。カップル間の価値観が違うのは悪いことだと思う人も多い気がしていて。それで同じ価値観だと思って付き合って、2年後くらいに『子ども欲しくないの?』とか『家事してくれない』とか、意見がぶつかってしまう話はよく聞きますよね。本当は、価値観って違って当たり前だと思うんです。なので、初めから違いを前提とすることは意識しています」
パートナー間の問題は仕組み化で解決を目指す
とはいえ、パートナー間で意見のすれ違いが生じた時にはつい感情的になってしまったり、話し合いの仕方が分からないという人も多くいるのではないだろうか。そんな時、あつたさんはどんなふうに話し合いをしているのだろうか。
「話し合いのコツは、仕組み化したり、区分けすることです。例えば、部屋のきれいさに関しては、一緒に住むのであればどちらかが我慢しなきゃいけないと思いますよね。でも、意外と統一しなくてもいいんですよ。私の部屋までは汚くしてもいいけれど、リビングは人が来ても大丈夫なきれいさにしておこうというような感じで、汚くしていいゾーンときれいに保つゾーンを分けたりしています。そうすれば、お互いにストレスを少なくできますよね。
パートナーシップの問題では、『相手が悪い』か『自分が悪い』と他責か自責のどちらかになりがちだと思いますが、誰も悪くない『無責』という考えを大切にしています。大ざっぱなのも、きれい好きなのも20年以上生きてきた性格なので、変えるのは難しいです。それだったら、仕組みを変えた方が合理的ですよね」
コロナ禍に突入し、家で一緒にいる時間が増えたという人も多いだろう。あつたさん夫婦も仕事場が同じになることや、長時間一緒にいることで生まれたストレスもあったというが、これらも部屋のレイアウトを変更したり新しいデバイスを導入したりと仕組みで解決できたという。しかし、個々人の工夫では解決できない問題があるのも事実だ。
「籍を入れたら名字の問題が出ますが、これについては現状はどちらかが変えるしかなく、第3の案はないですよね。私自身もすごく悩みました。あつたが珍しい名字なので無くしたくないと思い、議論はしました。結局、夫の名字に変えましたが、議論の時には名字を変えることの何が嫌なのかを話し合いました。私の場合は、大ざっぱな性格もあり、銀行やクレジットカード、運転免許証の変更など、こんなに多くの手続きが要るのに、1人だけが負担しなきゃいけないのが特に嫌だったんです。なので、もし私が名字を変える場合は全部一緒についてきてほしいし、費用も半分負担してほしいと言って、決まりました。自分が何が嫌なのかを分かっていることも話し合いには重要かもしれません」
パートナーは「家庭」を運営する共同経営者
あつたさん夫婦の実践は、4年ほど前からTwitterを通して発信を始めると、瞬く間に注目を集めた。これをきっかけに、現在では自身の経験を基にパートナーシップの課題解決をするためのコミュニティやサービスを運営している。
「いま運営している『ふたり会議』や『ふたりの教室』は、主に結婚を意識したタイミングの方へ向けて作ったのですが、意外と幅広い方に使っていただいています。10代のカップルがコミュニケーションを学ぶために使ったり、今はシングルの方が将来のパートナーのために勉強されたりしている例もあります。家事の分担や、結婚のタイミング、愛情表現の仕方やセックスの頻度など、悩みはそれぞれですが、悩みの数だけ多様な解決方法がシェアされていて私も見ていて勉強になります。例えば、週に1回定例会議を設けているカップルや、スプレッドシートで議題を管理しているカップル、互いに考えの言語化をしっかりして話し合うためにLINEでやり取りするカップルなど。皆さんそれぞれ工夫されています」
さまざまなカップルの悩みを聞いてきたあつたさんから見て、良好なパートナーシップとはどのような関係性のことを指すのだろうか。
「パートナーは、一緒に人生という会社を運営していく共同経営者だと思っています。なんでも言い合える必要はないけれど、話し合いができる関係だといいなと思います。パートナーと自分や、家庭を一つの会社と見立てた時に経営陣の2人が話し合えなかったら心配ですよね。会社だったら、違和感やトラブルがあったら仲間に報告します。家庭でも同じように、抱えたまま長い時間を過ごすよりは、家事がオーバータスクだったら助けを求めたり、早い段階で不満や疑問をシェアして解決できる関係性がいいパートナーシップなのではないでしょうか」
パートナーは共同経営者、そう考えると途端に冷静になれる気がしてくる。恋人や家族を相手にすると、感情で解決しようとしたり、我慢を重ねてしまうことは多いだろう。そんな時には、一度フラットな視点に立ち、自分の不満の根本を分解してみるのがいいのかもしれない。共に人生のかじを取る相手だからこそ、互いの意見の良し悪しだけではなく、価値観の違いを前提とした最適解を探し続ける必要がありそうだ。
取材・執筆:白鳥菜都
株式会社すきだよ代表取締役。「誰もが大切な人とずっと幸せでいられる社会をつくる」をビジョンに、家族・パートナーシップに関する社会課題を解決し、ふたりらしい生き方を支援する。8万人以上の夫婦・カップルが利用する対話ツール「ふたり会議」や、お互いを尊重し合うパートナーシップの築き方を学べるコミュニティ「ふたりの教室」を運営。
株式会社すきだよ https://sukidayo.co.jp/
Twitter @yuka_atsuta
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