【前編】多様化する夫婦関係の形【夫婦別姓、不妊、セクシュアルマイノリティーのパートナーシップ】
家族のあり方についてさまざまな考え方がある中で、夫婦や家族は多様性の時代を迎えています。この記事では、多様化する夫婦関係の形を取り上げ、夫婦別姓・不妊・セクシュアルマイノリティーのパートナーシップについて紹介していきます。
この記事では、以下4点について見ていきます。
前編
後編
夫婦・家族が直面するさまざまな悩み

さまざまな場面で「ダイバーシティ(多様性)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。現代は人それぞれの人生や価値観を否定せず、認め合うことが求められる時代を迎えていると言えるでしょう。
社会変容や個人の意識の変化により、家族や夫婦のあり方も多様化してきています。
例えば、同性パートナーによるカップル、夫婦別姓を望むがゆえに事実婚でいるカップル、不妊治療に取り組む夫婦、代理出産で生まれた子どもと暮らす家族など、従来の概念による家族、夫婦に当てはまらない“家族の形”“夫婦の形”が生まれ、それぞれ不安や悩みを抱えながら生活しています。
家族というコミュニティーの概念が時代とともに変化し続ける一方で、社会や法制度は従来の家族像をベースに考えられており、多様化するさまざまな家族形態を認め、尊重できているとは言い難い現状があります。例えば、男女が法律婚をする場合はどちらか一方が姓を変える必要があり、夫婦別姓は認められていません。また、社会通念として女性が姓を変えることが一般的とされているため、本当は姓を変えたくなかった女性たちが不満や不便さを感じています。また、法律婚は異性との結婚を前提としており、同性パートナー同士の結婚は法律的に認められていないという現状があります。
夫婦関係の多様化と夫婦別姓の現状とは?

2021年現在の日本の法律上では、夫婦別姓は認められていません。外国籍の異性と結婚する場合にのみ、例外的に夫婦別姓が認められています。早稲田大学の棚村政行教授らによる選択的夫婦別姓についての意識調査では、「賛成」の割合が70.6%に上りました。
夫婦別姓のメリット・デメリット
夫婦別姓を選択するために、法律婚を選ばず事実婚にした場合のメリット・デメリットについて見ていきます。
夫婦別姓であれば、結婚した後にも呼称も戸籍も変わりません。そのため結婚や離婚の事実を知られたくない人に話す必要もなくなります。特に、離婚したことを話さなければならなくなるストレスを回避でき、プライバシーを守れるというメリットがあります。
日本では、結婚すれば女性が姓を変えるのが当たり前のように認識されています。しかし法律で夫婦別姓が認められれば、運転免許証や銀行口座、保険などで姓の変更手続きが不要になったり、改姓によって旧姓で積み上げてきたキャリアに支障をきたす、という状況を回避できたりします。また、女性の権利を向上させ、男女平等社会に近づく一歩となることでしょう。
もちろん、夫婦別姓におけるデメリットもあります。例えば、日本の病院は法的に結婚していないパートナーを家族とは見なさず、相手の医療全般についての決定権を認めていない場合がほとんどです。
実際に、事実婚を選択したものの、手術の際にパートナーの重大な局面で支えになれない現実を突きつけられ、パートナーの退院後に婚姻届を提出したという事例もあります。病院での面会・立ち合い、医療全般についての決定権については、明確な法律はありません。「家族や親族に限定する」というのは病院のローカルルールです。また、医療についての決定権は、本来本人のみに認められるものです。しかしその判断ができない状況の患者には、医師の裁量や家族の判断によって実施されているのが実情です。
対策としては、パートナーを指定した書面を医療に関する代理人を通じて病院に提出する方法がありますが、最終判断は病院に委ねられます。
もう一つのデメリットは、父子関係です。夫婦別姓の家庭では、子どもが生まれた時点で実の父親と子どもの間に法律上の父子関係がありません。法律的には、法律婚の夫婦の間に生まれた子は、「嫡出推定制度」によって、生まれた時点で夫の子と推定されます(民法772条1項)。
しかし、法律婚でなければ父子関係を推定できないため、実の父親であっても、法律上は「父子関係がない」ということになってしまいます。法律上の父子関係を生じさせるためには、実の父親が別途「認知」することが必要になります。認知されない限り、子どもは実の父親に対して法律上の扶養を求める権利はなく、法定相続人になることもできません。
夫婦別姓を選択した当事者の事例
旧姓で著作を発表するなどのキャリアを持つ井田奈穂さん。選択的夫婦別姓を実現するため、「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」を立ち上げるなど、積極的に活動している彼女は、夫婦別姓についての意見をインタビューで語っています。
同姓にすることを選んだものの、やっぱり納得できないと語る石井リナさん。「自分の姓を選びたいと思って生きているだけで、なんでこんなに傷つけられるんだろう? 外国籍の方と結婚したら夫婦別姓にできるのに、日本国籍同士だとできないのはなぜ?」と、インタビューでさまざまな葛藤を明かしてくれました。
後編へ続く
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