未婚率上昇の背景とは? 結婚・家族観の変化やソロ社会化から読み解く

日本で少子高齢化が進む背景には、さまざまな問題が潜んでいます。その一つが年々高くなる未婚率です。かつての日本には、「幸せな人生に結婚は欠かせない」という考えがありました。しかし、今ではそうした価値観が大きく変化しています。未婚率上昇の背景を知るため、この記事では下記の6点を解説します。

  • 「ソロ社会」化が加速する日本
  • なぜ未婚者が増えているのか
  • 晩婚化が進む要因とは
  • 単身世帯が増える背景と結婚・家族観の変化
  • 「結婚すれば幸せになれる」は、もはや幻想?
  • 結婚や家族のあり方に関する価値観や考え方は多様である

「ソロ社会」化が加速する日本

内閣府が発表した『令和4年版 少子化社会対策白書』によると、1970年の未婚割合は男性でわずか1.7%、女性で3.3%でした。しかし、2020年には男性が28.3%、女性が17.8%まで上昇しています。広告会社にて数多くの企業のマーケティングを手掛け、現在は「独身研究家」として活動する荒川和久さんは、50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合を「生涯未婚率」と呼んでいます。実際には「生涯未婚」とは断定できませんが、その割合は年々増加しています。

生涯未婚率の増加に加え、晩婚化や出生率の低下も顕著です。その要因の一つとして考えられるのが、初婚年齢の上昇でしょう。1975年に男性の平均初婚年齢は27.0歳、女性は24.7歳でした。それが2020年には男性は31.0歳、女性は29.4歳まで上昇しています。また、夫婦の完結出生児数(結婚持続期間が15~19年の初婚同士の夫婦における平均出生子ども数)は1970年代から2002年まで2.2人前後で安定的に推移していましたが、2005年から減少傾向に。2021年には1.90人となり、過去最低値となりました。さらに、40年前に比べ離婚率も高くなり、結婚した3組に1組が離婚する時代となっています。

生涯未婚率の増加、晩婚化、出生率の低下、そして、離婚者の増大などの要因が重なり、配偶者がいない独身者が増加しています。独身者が必ずしも一人暮らしとは限りませんが、日本社会全体で単身世帯が増加しています。令和2年国勢調査によると、2020年における単身世帯の割合は総世帯の約38%を占め、20年で約1.64倍というデータがあります。

独身研究家の荒川和久さんは、単身世帯が増加している社会を「ソロ化」していると分析。2040年には独身者は人口の47%に達すると予測しています。実際、昨今では「ソロキャンプ」「ソロサウナ」「ひとりカラオケ」「ひとり焼き肉」など、「ソロ活」が盛んになっていて「おひとりさま需要」に応えるビジネスも増えています。

出典:
令和4年版 少子化社会対策白書|内閣府
2021年社会保障・人口問題基本調査<結婚と出産に関する全国調査>|国立社会保障・人口問題研究所
令和2年国勢調査 人口等基本集計結果 結果の概要

 

なぜ未婚者が増えているのか

内閣府「男女共同参画白書(令和4年版)」によると、1970年にピークに達した初婚件数は1995年~2000年に一時的に増加したが、その後は年々減少し続けています。2020年、2021年のコロナ禍以降はその傾向に拍車がかかり、2021年には約51.4万件になりました。これは1970年の約半分です。

財務省のシンクタンクである財務総合政策研究所の分析によると、未婚者の増加には「理想と現実のギャップがあり、そのギャップを埋められないままでいること」が背景にあるとのことです。

こうした背景から、結婚を選択しない層は年々増え続けているのです。

出典:
男女共同参画白書(令和4年版)|内閣府
財務総合政策研究所「なぜ未婚者が増えているのか―その背景分析―

事実婚を選択している人の割合

ここまでのデータは「法的に結婚している」とみなされる層に関するものでした。では、「事実婚」を選択している人の割合はどうなのでしょうか。事実婚に関するデータが少ないため実態は見えにくいものの、内閣府が実施した各種意識調査から、成人人口の2~3%が事実婚を選択していると推察できます。例えば、内閣府男女共同参画局が実施した「人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査(令和3年度)」によると、調査回答者のうち「配偶者(事実婚・内縁)がいる」と回答した人は2.3%でした。

出典:男女共同参画白書 令和4年版|内閣府 

晩婚化が進む要因とは

ここでは、晩婚化が進む要因について紹介します。国立社会保障・人口問題研究所の第15回出生動向基本調査によると、25~34歳の層が独身でいる理由には「適当な相手にまだめぐり会わない」が一番多く、「まだ必要性を感じない」や「自由さや気楽さを失いたくない」という理由も多く見られました。

全体的な傾向として、若い年齢層(18~24歳)では、「まだ(結婚の)必要性を感じない」「仕事(学業)に打ち込みたい」などの「結婚しない理由」が多く挙げられています。一方、年齢層が上がるにつれて「適当な相手にまだめぐり会わない」などの「結婚の条件が整わない」ことが多くなる傾向にあります。

出典:第15回出生動向基本調査|国立社会保障・人口問題研究所

単身世帯が増える背景と結婚・家族観の変化

日本社会において、単身世帯が年々増加している背景には3つの理由が考えられます。1つは高齢者の単身世帯が増加していることです。2020年における65歳以上の人口のうち、単身世帯が占める割合は19%、つまり5人に1人近くが一人暮らしをしていたことになります。

2つ目は、離婚率の高止まりがあり、離婚して親元に戻る人もいますが、単身世帯になる人も多いという理由です。

最後は、独身者の結婚意欲減少が挙げられます。これは、初婚件数が減少し、未婚率が増えていることからも明らかです。こうした独身者における結婚観の変化は、ソロ社会化を加速させる理由の一つになっています。

結婚や家族、男女のあり方、働き方に関する旧来的な見方を支持する考えも変化しています。例えば、「結婚したら子どもを持つべき」と考える人は2015年の調査時には女性67.4%、男性75.4%でしたが、2021年には女性36.6%、男性55.0%まで低下しました。また、「女/男らしさは必要」という項目にも意識の変化が見られます。このことから、世間一般的な男らしさや女らしさへのこだわりも減退していることがうかがえます。

出典:第16回出生動向基本調査 結果の概要|国立社会保障・人口問題研究所

「結婚すれば幸せになれる」は、もはや幻想?

日本には、「結婚すれば幸せになれる」という社会通念が存在した時代もありました。しかし、昨今は結婚に対する考え方も多様化し、自らの意思で結婚しないことを選ぶ「選択的非婚者」も増えつつあります。

内閣府の「少子化社会に関する国際意識調査報告書(令和2年度版)」によると、「結婚は必ずするべきだ」と回答した人はわずか3.6%でした。これは2015年度の9%よりもさらに5.4ポイントも減少しています。また、「結婚はした方がよい」と回答した人も2015年調査の56.5%より12.3ポイントも減少し、44.2%まで下がりました。

多くの意識調査では結婚していない人と比べ、結婚している人の幸福度は高いというデータもありますが、前出の荒川さんは、人生における「幸せ」と「結婚」に因果関係はないと語ります。幸せを感じられるかどうかは「環境の中でどう行動していくか」が大事であり、「結婚については自由に決めるべき。選んだ道で幸せになれるかどうかも、自分次第」とのことでした。

加えて、若者の貧困問題が結婚や出産という選択肢そのものを難しくしているという指摘があります。政府は「異次元の少子化対策」として、低収入の若者たちの月々の奨学金返済額を減らし債務の返済を先送りにする措置や、今後給付型の奨学金制度を拡充するとしていますが、すでに貧困に陥っている若者たちを救済できていません。そのため、多くの若者たちが経済的余裕のない状態が続き、結婚して出産するプランを描けないでいるという側面があることも否めません。

出典:少子化社会に関する国際意識調査報告書(令和2年度版)|内閣府

結婚や家族のあり方に関する価値観や考え方は多様である

日本では「結婚がゴール」という考え方が根強く残っており、離婚やひとり親に対してネガティブなイメージを抱く人も少なくありません。しかし、結婚や家族のあり方に関する価値観や考え方はさまざまであると知ることで、思い込みや結婚に呪縛されずに生きられるかもしれません。

弁護士の山口真由さんは、「世間は結婚や出産を選ばない女性に対して優しくはありません。しかし、“多様性の押し売り”にならないためには、女性側にも相手のことを理解しようとする姿勢が求められます」と述べて、結婚に関する考え方や立場に対して相互に理解を示す重要性を強調します。

俳優、タレント、モデルとして活躍する最上もがさんは、母親としても育児に試行錯誤しています。結婚や子育てはこうあるべき、という世の中の「当たり前」にとらわれない生き方を発信している点が評価され、株式会社LIFULLの「『しなきゃ、なんてない。』アワード2021」を受賞しました。最上さんは、「大切なのは『自分はどっちの生き方が楽か』ということ。自分がつらくない生き方、楽でいられる方法を見つけてほしいなって思います」と語ります。

まとめ

未婚率が年々上昇傾向にある背景には、さまざまな要因があります。ただ、未婚率の上昇や晩婚化、少子化などの問題を表面的に捉え、「結婚しなくてはいけない」「子どもを産まなくてはいけない」などの一方的な価値観の押し付けは避けたほうがよいでしょう。ソロ化社会を全面的に肯定するのではなく、価値観の多様性を認めつつ、一人ひとりが社会の課題に取り組んでいくことが大切と言えます。

監修者 山田昌弘

中央大学文学部教授。1957年、東京都生まれ。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を常に多角的に解析し、その打開策を提言し続ける社会学者。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。未来に希望や夢を抱けなくなった現代社会において、子どもや若者の導き方、夫婦の関係や家族のあり方など、未来を見据えた鋭い提言を続ける。

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