最近、よく耳にする「サステナブル」という言葉。サステナブルは、地球環境や経済・社会の持続性を指すものです。サステナブルが意味する「持続可能性」が世間に認知されたきっかけは、国連が掲げた世界共通の目標「SDGs」(持続可能な開発目標)です。この持続可能性という概念の国際的な取り組みの歴史や、2030年を目標にした世界が一丸となって取り組むSDGsとは何かをご紹介します。
「サステナブル」とは何か?
サステナブル(sustainable)は、直訳すると「持続可能な」という意味の英語です。世界の人たちが共通の目標として取り組むSDGsが発表された2015年以降、地球環境や社会経済の持続可能性を指す概念として認知されています。
SDGsについては後述しますが、SDGsの理念の中核である持続可能性は、50年前の国際的な議論の場で度々登場していました。
国際的なテーマとして「持続可能性」が登場した歴史と背景
先進国が経済成長を遂げる一方で、深刻な環境破壊が浮き彫りになった1970年代。先進国と発展途上国の貧富の差がさらに拡大し、経済開発を優先すべきとする発展途上国と環境保全を優先すべきと考える先進国で意見が対立していました。そして、1987年ブルントラント委員会で提唱された「我らの共通の未来(Our Common Future)」という報告書で「持続可能な開発」という概念が発表されます。この「持続可能な開発」という概念は、地球規模の環境保全と経済成長の関係を表すものとして定義されました。1992年には「地球サミット」がブラジルのリオデジャネイロで開催され、環境と開発に関して各国が遵守すべき行動原則「リオ宣言」と、その宣言を達成するための行動計画「アジェンダ21」が採択され、持続可能性の概念が世界的に普及しました。
さらに2002年、南アフリカ共和国のヨハネスブルグで持続可能な開発を議題にした「持続可能な開発に関する世界首脳会議」を開催し、アジェンダ21の取り組みを強化する内容を盛り込んだ「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」が採択されました。
2000年代では、持続可能な社会を実現するための議論が活発化します。2015年には「2030アジェンダ」が発表され、その中で、私たちが普段耳にする「持続可能な開発目標(SDGs)」が宣言されました。「2030アジェンダ」は、国際社会が2030年に向けて、持続可能な社会の実現のために取り組むべき課題(アジェンダ)を集大成した新たな国際的な枠組みです。
世界各国が取り組む「SDGs」とは?
環境保護と経済発展を両立させる国際的な概念として示された「持続可能な開発(=サステナブルデベロップメント)」は、歴史の中で直面する国際課題に対応して変化し、そのたびに新たな目標として国際的な会議で発表されてきました。
2000年にニューヨークで開催された「国際ミレニアムサミット」では、開発分野における国際社会共通の目標「MDGs」が発表され、15年後までに達成すべき8つの目標が掲げられました。このMDGsの後継として誕生したのが、SDGsです。
SDGsは、国際ミレニアムサミット開催から5年後の2015年9月の国連サミットで採択された成果文章「アジェンダ2030」に掲げられており、「持続可能な開発目標」を表すSustainable Development Goalsの頭文字を取って SDGs(エスディージーズ)と呼ばれています。
MDGsは、それまで個別に目標を掲げていた国連、各国政府、NGOの共通目標を定め、達成に向けて先進国と発展途上国の政策のバランスを図るなど、共通の枠組みを定めた点などが画期的でした。MDGsが一定の成果を上げたことをきっかけに、発展途上国に限らず先進国を含む世界中の人に適用される普遍性(ユニバーサリティ)という特徴を持たせた開発目標として引き継がれたのがSDGsです。
SDGs では、MDGsにあった貧困、教育、社会開発などのゴールのほか、経済開発、環境・気候変動、人権といった17のゴールと各ゴールごとに合計169のターゲットが設定されました。各ゴールはほかのゴールと関連が深く、環境・経済・社会における持続可能な開発の3側面を統合的に向上することが必須となっています。
つまり、人類の生存基盤である環境が前提にあり、社会経済活動は良好な環境があって初めて持続的に行うことができる――という理念のもと、構築されています。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレをみんなに
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさも守ろう
- 陸の豊かさを守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
国内での「持続可能な社会」への取り組み
SDGsに取り組む国は2020年8月時点で166カ国ありますが、日本はSDGs達成度ランキングの第何位かご存じでしょうか?
各国のSDGs達成状況を記したリポートを発行している持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)の「The 2020 SDG Index scores」によると、2020年、日本は2019年の15位から順位を落とし17位、スコアは100点満点で79.17でした。
※参照元:Press Release: Sustainable Development Report 2020 – Sustainable Development Report
また、SDSNとドイツのベルテルスマン財団が毎年発表するリポート「Sustainable Development Report 2020」では、17ゴール中、日本が達成した(グリーン)は4の教育、9の産業・インフラ、16の平和と公正のみでした。ジェンダー平等、気候変動、海洋生態系、陸上生態系、パートナーシップの5つは最低評価のレッド評価で、最大の課題として位置づけられています。
持続可能な社会の実現に向けて、日本でもさまざまな取り組みが行われています。
政府は、2007年に「21世紀環境立国戦略」を決定し、低炭素社会、循環型社会、自然共生社会づくりの取り組みを統合的に進めていくことで地球環境の危機を克服する「持続可能な社会」を目指すことを提示しました。
また、2016年5月にはSDGs 推進本部を設置。同年12月には実施指針を策定し、世界に向けてSDGsへの参加を表明しました。実施方針として、8つの優先課題と具体的施策を定め、民間企業も含めたあらゆる取り組みを後押しすることが示されました。
政府だけではなく、日本経済団体連合会(経団連)もSDGsを推進しています。企業が遵守、実践すべき項目として制定した「企業行動憲章」という倫理規定が、“世界共通の目標であるSDGsへの取り組みが企業の行動規範となる”と打ち出した内容に改定しました。
この改定にあたって、経団連は会員企業に対して以下の宣言を行いました。
会員企業は、持続可能な社会の実現が企業の発展の基盤であることを認識し、広く社会に有用で新たな付加価値および雇用の創造、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した経営の推進により、社会的責任への取り組みを進める。また、自社のみならず、グループ企業、サプライチェーンに対しても行動変革を促すとともに、多様な組織との協働を通じて、Society 5.0の実現、SDGsの達成に向けて行動する。
会員企業は、本憲章の精神を遵守し、自主的に実践していくことを宣言する。
※参照元:企業行動憲章 | Policy(提言・報告書) | 一般社団法人 日本経済団体連合会 / Keidanren
気候変動問題に対する政府の取り組み
SDGsでは、気候変動対策、自然資源保護など環境に関わる12 のゴールが設定されています。これに対し、日本も国の環境保全に関する基本的な計画にSDGsの考え方を採用。「第五次環境基本計画」ではSDGsの視点を踏まえて「地域循環共生圏」を提唱し、関係府省庁と連携して取り組んできました。
世界各国は気候変動問題が経済発展に対しての最大のグローバルリスクと認識し、2015年にパリで開催されたCOP21で脱炭素社会の構築に向けた世界共通の目標「パリ協定」が合意されました。これは温室効果ガスの主要排出国、発展途上国を含むすべての締約国が温室効果ガスの排出削減目標を持つ初めての法的枠組みであり、日本は2016年11月に受諾しました。
そして日本は2016年5月、「地球温暖化対策計画」を閣議決定しました。①2030年度までに温室効果ガス排出量26%減、②長期目標として2050年80%減を目指した戦略的取り組みを行う、③世界の温室効果ガスの削減に向けた取り組み、と目指すべき方向を3つに定めました。
このように、気候変動問題の解決に向けて国は大きく前進しています。2020年7月には、経済産業省主導によるレジ袋有料化が全国で話題になりましたが、これも政府の環境保全対策の一つである「プラスチック資源循環戦略」に基づく取り組みの一環です。
※参照元:平成29年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(環境省)
令和2年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(環境省)
SDGs達成に向けた中小企業の取り組み事例
SDGsは政府や自治体だけの取り組みではなく、一般企業でも注目されています。その理由は、SDGsの根幹にある「将来世代のニーズを損なわずに、現代世代のニーズを満たす開発」を行おうという考え方の中には、あらゆる分野における社会の課題と⻑期的な視点でのニーズが詰まっているといえるからです。
SDGsのゴールに含まれる環境問題や社会問題の視点を経営に取り入れることにより、新規ビジネスのチャンスや市場開拓が可能になるというメリットがあります。
また、政府も一般企業がSDGsに取り組む流れを支援しています。2018年、環境省はすべての企業が持続的に発展するためにSDGsを道しるべとして活用することを提言した「持続可能な開発目標活用ガイド」を発行しました。本ガイドは「SDGsと企業経営はどう結びつくのか?」という疑問を持つ方の手引書という位置づけで、SDGsを活用することで新たなビジネスチャンスや地域経済を支えるヒントを見いだし、取り組んでいる企業の事例が紹介されています。農業と福祉の連携によって社会課題の解決を目指す企業の事例を見てみましょう。
【中小企業の事例】
農事組合法人 One
人出不足が問題の「農業」と障がい者の雇用機会創出を目指す「福祉」の連携によって、それぞれの課題解決を目指す事業を行っています。
2017 年 12月、農業を通じて社会のさまざまな課題解決につながるよう、SDGsに取り組むことを宣言。環境改善型農業とICT活用による働き方改革を実践しています。公式サイト上には「oneが取り組む課題と目指すべきゴール」として、農業を取り巻くフィールドとSDGsのゴールを関連づけて設定した相関図を掲載。SDGsへの取り組みを通じて地方創生や農業の魅力を発信しています。
※参照元:持続可能な開発目標活用ガイド2版 – 環境省
農事組合法人One | 石川県金沢市で金澤美人れんこん、宮野久市米、超濃厚にんにくを栽培、販売。
LIFULLが取り組む「サステナブル=持続可能な社会」とは
SDGs達成期まで残り10年となる2020年以降は、「行動の10年」と呼ばれています。民間企業においても環境や社会に貢献するサステナブルな取り組みが、さらに加速していくことでしょう。
株式会社LIFULLも、さまざまな事業でサステナブルな取り組みを行っています。ここでは、3つの取り組みをご紹介します。
LivingAnywhere commons
「自分らしくを、もっと自由に」をテーマに、さまざまなテクノロジーによって水、電気、食料、通信、医療、教育、仕事など、人にとって必要不可欠なものが地球上どこにいても手に入る世界へアップデートし、ライフラインの限界から解放された本当の意味での「自由な生き方」の実現を目指すプロジェクトです。
水や電力を自給する「オフグリッド」による生活インフラの構築を推進しているほか、造船会社の社員寮・小学校旧校舎など建物を再利用し新しい価値を創造しています。
LIFULL地方創生
日本全国で今後急増する「空き家」に着目し、空き家データの活用、人材育成マッチング、活用ノウハウプロデュース、資金調達支援等を行うプロジェクトです。空き家活用を通して、次世代の住まいのあり方を切り開く取り組みで、空き家を使う人を誘致することで、空き家がある地方の活性化や地域の維持に貢献しています。
LIFULL TABLE
森林の放置や竹害などの社会課題と食を結びつけ、食べることが地球のためになる、地球の新たな食材を見つけるプロジェクトを実行しています。間伐材や竹に対して「食べる」という新たな選択肢を提示しており、新たな需要を生み出すことで、これらの問題に対する持続的な解決策を模索しています。
地球環境を守り、限られた資源を用いて経済と社会を構築するという考え方が「持続可能性(サステナブル)」の本質です。
持続可能な社会づくりは国や自治体だけの問題ではなく、消費者一人ひとりの行動と意識が密接に関わっています。日本において持続可能な社会をつくるためには、各地域がそれぞれ環境・経済・社会の統合的向上を目指す取り組みを進めるべきです。そしてその取り組みを実践するのは、地域に根差した企業や組織に属する私たちです。
未来をもっと住みやすい世界にするために「自分たちは何ができるのか」を考え、行動していきましょう。