無理してチャレンジしなきゃ、なんてない。【後編】-好きなことが原動力。EXILEメンバー 松本利夫の多彩な表現活動 -
希代の天才ダンサーが集結したEXILEは、J-POPのメインストリームを突き進んだ。リーダーであり運営会社LDH JAPANの社長だったEXILE HIROさんがパフォーマーを引退してから、順番がまわってきたのは、オリジナルメンバーの松本利夫さんたちだった。
連載 無理してチャレンジしなきゃ、なんてない。-好きなことが原動力。EXILEメンバー 松本利夫の多彩な表現活動 -

松本さんは指定難病のベーチェット病であることを公表している。病と向き合いながらEXILEパフォーマーを続け、2015年に同じくオリジナルメンバーのEXILE MAKIDAIさん、EXILE ÜSAさんとともにパフォーマーを卒業したが、現在もEXILEのメンバーとして舞台や映画など幅広く表現活動をしている。
後編では、困難に立ち向かいながらそれでもパフォーマーとしてステージに立ち続けた思い、パフォーマー卒業後の新しいチャレンジや精力的に活動し続ける原動力について伺った。
「何かチャレンジしなきゃ」「一歩踏み出さなきゃ」だけではなく、素直に好きと思えるものだから続けられる
30歳のある日、急に左目が見えなくなる事態に
メジャーシーンで輝き続ける裏で、松本さんはある難病と闘っていた。
「はっきりと『ここから病気になりました』ということはないんです。小学生の頃から虫歯や口内炎が多かったり、熱が出ることはあったりして、予兆はありました。それから徐々に悪化していったので、自分の中では『たまにこういう症状があるけど大丈夫だな』と思っていました。
急激に悪化したのは、23歳の時。40度超えの熱が1週間ぐらい出る状態になってしまって、病院でベーチェット病と診断されました。ただ、熱が出ても1週間我慢していれば引くし、そこまで重い病気として捉えていなかったんですよね」
しかし、30歳のある日、思いもよらない異変が生じた。朝起きると、左目が見えなくなっていたのだ。
「『目やにかな』と思いながら目をこすっても全然見えなくて。病院に行ったら『その部分はもう治りません』と言われ、ただただ衝撃でした。医師から『体を酷使することはよくないから、今の仕事は辞めた方がいい』とも言われ、1カ月間ずっと苦悩していました」
医師の助言を受けながらもパフォーマー人生を走り続けた
それでもパフォーマーを続けた。そこには仲間の支えがあった。
「メンバーはすごく支えてくれて、気遣ってくれて、励ましてくれました。でも、『続けるか続けないかの判断をするのはまっちゃん(松本さん)だから、まっちゃんが出した答えを俺たちは受け入れるよ』と言ってくれて、助けられました。
答えを出すまで1カ月ぐらい考えさせてもらって、最終的には『メンバーのみんなにちょっと迷惑かけるかもしれないですけど、やらせてください』と伝えました。まだ30歳だったので、人生の重みをそこまで大きく感じ取っていなかったのかもしれません。大好きなダンスができなくなることを受け入れられず、無理してでもやっていこうと決めたんです」
無理をすることによるリスクは、もちろん大きかったはずだ。決して美談にしてはいけないことかもしれない。しかし結果的に、松本さんはドクターストップがかかってからの約10年間走り抜けた。
「ベーチェット病は、自分の免疫力が何らかの原因によって自分を攻撃してくる病気なんです。免疫力の一番高い30歳頃が、症状の一番強い時期ですごくつらくて。だから年を重ねていくと、その免疫力も落ちてくるので、症状も和らいできて、体の状態は少しずつ良くなっていきました」
パフォーマーを卒業しても、表舞台で表現できることを追求し続けたい
2015年末、同じくオリジナルメンバーで盟友のEXILE MAKIDAIさん、EXILE ÜSAさんとともにパフォーマーを卒業した。
「僕らの仕事は、スポーツ選手やアスリートのようなものです。サッカーの“キングカズ”さんみたいにずっと続けられる人は本当にまれで、僕たちはどこかで、自分で引き際を見つけないと、と思うんです。先輩のHIROさんが先にパフォーマーを引退してから、ずっと『次は俺たちだ』と考えていました。
でも、自分たちがゼロからつくった居場所がEXILEです。パフォーマー現役時代からファッションブランドを立ち上げたり、俳優を始めたりしてきたのは、パフォーマーであることよりもEXILEの一員であることを軸にしていたからです」
パフォーマーを卒業してもグループ自体は卒業せず、俳優として多数の映画やドラマに出演するなど、“今の松本利夫が表舞台で表現できること”を模索する姿勢は、EXILEパフォーマー時代と何ら変わらないと語る。根本的な部分は、ゲームにハマっていた小学生の頃から変わっていないのかもしれない。好きなことに没頭することだ。
「僕の原動力は、好きなことに取り組めているかどうか。好きでもないのに『これをやらなきゃ』と思っていたら、続かないと思うんです。だから、僕はいろんなジャンルに飛び込んできましたが、『何かチャレンジしなきゃ』『一歩踏み出さなきゃ』という感じだけでもなくて、好きだからやってきたものばかりです」
人生100年時代といわれる。その間、病や障がいがない健康である人生が望ましいし、1つの仕事で一生を過ごす方が珍しいかもしれない。松本さんは、自分らしくあるために好きなことを続け、現在のポジションにいる。長い道のりを進む私たちは、何を大切にすればいいのだろうか。
「まずやってみることが大事だと思います。そして、やってみても続かなければ意味がないとするならば、結局、好きなことをするしかない。本能的に自分がいつの間にか没頭していることの方がいいんじゃないかなと感じます」
EXILEの快進撃は当時、誰もが知っていた。しかし松本さんが、輝くステージの裏では難病と向き合っていたことを知っていた人は、少ないかもしれない。人は、輝いているように見えても、裏に事情があることもある。ポジティブに見えても、とてつもなく大きな悩みを抱えていることもある。
人生に、困難や変化は付き物。それぞれの「ステージ」に立つためには、「しなきゃ」の前に、自分が没頭できることを探してみるのもいいかもしれない。
取材・執筆:遠藤光太
撮影:内海裕之

16歳からダンスを始め、1999年にダンスユニット「J Soul Brothers」加入、2001年にEXILEのパフォーマーとして「Your eyes only~曖昧なぼくの輪郭~」でデビュー。2007年、劇団EXILES第一回公演『太陽に灼かれて』より役者としての活動を開始すると、映画『LONG CARAVAN』にて初主演、「ビンタ!~弁護士事務員ミノワが愛で解決します~」(NTV)で連続ドラマ初主演。2015年末にEXILEパフォーマーを卒業。現在は「松本利夫ワンマンSHOW『MATSUぼっち』シリーズ」の上演、舞台や映画、ドラマで主演するなど、役者業を中心に活躍中。
Twitter @matsu0527_ldh
Instagram @exile_matsu
YouTube MATSUぼっち IN THE HOUSE
みんなが読んでいる記事
-
2021/06/03知的障害があるのはかわいそう、なんてない。松田 崇弥
2018年、双子の文登さんとともに株式会社ヘラルボニーを立ち上げた松田崇弥さん。障害のある人が描いたアートをデザインに落とし込み、プロダクト製作・販売や企業・自治体向けのライセンス事業を行っている。そんなヘラルボニーのミッションは「異彩を、放て。」障害のある人の特性を「異彩」と定義し、多様な異彩をさまざまな形で社会に送り届けることで、障害に対するイメージの変容を目指している。
-
2022/02/03性別を決めなきゃ、なんてない。聖秋流(せしる)
人気ジェンダーレスクリエイター。TwitterやTikTokでジェンダーレスについて発信し、現在SNS総合フォロワー95万人超え。昔から女友達が多く、中学時代に自分の性別へ違和感を持ち始めた。高校時代にはコンプレックス解消のためにメイクを研究しながら、自分や自分と同じ悩みを抱える人たちのためにSNSで発信を開始した。今では誰にでも堂々と自分らしさを表現でき、生きやすくなったと話す聖秋流さん。ジェンダーレスクリエイターになるまでのストーリーと自分らしく生きる秘訣(ひけつ)を伺った。
-
2022/09/13強い志がなきゃ地方創生に参加できない、なんてない。友近
大学在学中から地元テレビ局のレポーターとして順調に活動するも、26歳で仕事をすべて辞め、芸人となるべく再出発。今では強烈なキャラクターに扮(ふん)したコントや憑依(ひょうい)型のモノマネ、抜群の歌唱力を武器に、唯一無二の存在感を放つ友近さん。近年、再び地元・愛媛での活動に尽力し始めた背景には、絶対にブレない芸人としての信念があった。
-
2024/02/14年齢による差別「エイジズム」【前編】代表例や対策・取り組みを解説
総務省によると、2023年9月15日時点での総人口に占める高齢者の割合は29.1%と過去最高に達しました。日本の高齢者人口の割合は世界で最高と言われています。高齢者を含め、一人一人が生き生きと活躍するためには、高齢者に向けられるエイジズムの克服が求められます。この記事ではエイジズムについて解説します。
-
2024/03/14心理的安全性の高い職場にするには? アンコンシャスバイアスの具体例を紹介
アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)の具体例には、どんなものがあるのでしょうか。具体例を知り、自分自身や周りの人々のアンコンシャスバイアスに気付くことで、私たちは一人ひとりがイキイキと活躍できる社会を作っていくことができます。この記事ではとくに職場におけるアンコンシャスバイアスについて紹介します。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。