インクルーシブアートとは?【後編】障がい者の文化芸術活動を通じた共生社会の実現と取り組み例
「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」をキーワードにして、さまざまな社会的ムーブメントが起きています。その一つに「インクルーシブアート」があります。2018年6月に成立した「障がい者による文化芸術活動」とも呼応し、官民一体で障がい者を含んだ芸術活動が活発化しています。
この記事では、以下の4点について解説します。
前編
後編
インクルーシブアートのイベント例
インクルーシブアートには以下のようなイベントがあります。
・ワークショップやアートクラス
参加者が主体的に参加する体験型の講座、グループ学習、研究会などを指します。障がい者や高齢者、子ども、外国人など普段はなかなか一緒に学んだり、作業したりすることがない属性の人たちが一堂に会して、創作を行うことでお互いの感じ方や考えを理解するきっかけ作りになります。
・展覧会
障がい者や、異なる文化的背景を持つ人、独学で美術を学んだ人の作品を鑑賞することで、自分では思いつかなかったような独創的な作品やみずみずしい感性に触れることができます。
・パブリックアートプロジェクト
パブリックアートプロジェクトは展覧会よりも公共性の高いイベントです。地域の住民や異なる背景を持つ人々が共同で公共空間にアートを創作するプロジェクトであり、地域活性化にも貢献します。
・アートフェスティバル
インクルーシブをテーマにしたアートフェスティバルには多様なアーティストやコミュニティが参加します。そうすることで、社会に対して広く多様性とインクルーシブのメッセージを伝えることができます。
インクルーシブアートの取り組み例
ここでは、インクルーシブアートをテーマにしたイベントや取り組みを紹介します。
都営バス渋谷営業所の壁面にインクルーシブアートの壁画を制作するプロジェクトです。障がいの有無、年齢、性別、国境を越えて、参加者200名が力を合わせてSDGsアイコンを示す17色を用いたアートを描きました。
国連が定めたカラーホイールを含むSDGsロゴと17のアイコンの使用ガイドラインは「持続可能な開発目標~カラーホイールを含むSDGsロゴと17のアイコンの使用ガイドライン」(国際連合広報局)を参考に。
インクルーシブ作品の貸し出しを行っている会社です。インクルーシブ作品を身近に置くことで多くの人に多様な価値観に触れあう機会を創出しています。また、利用料の25%を作者に還元することで障がい者の自立支援にもつながっています。
長野県立美術館が誰でも安心してアートと出合える場所になることを目指すプロジェクトです。
例えば、『場をひらくプログラム』では、障がい者のための特別鑑賞日を開催したり、ベビーカーツアーを企画したりすることで、多様な人々が鑑賞を楽しめる配慮がなされています。また、視覚に限定しないさまざまな感覚を楽しめる作品鑑賞ができる展示室を設けることで美術館の体験を問い直す『感覚をひらくプログラム』も実施しています。
- インクルーシブ・アートプログラム
六本木の街を舞台にした一夜限りのアートの饗宴「六本木アートナイト」内のプログラムです。年齢や性別、障がいの有無などさまざまな違いを超えた参加者とともにめぐる鑑賞ツアーで、参加者同士が対話を楽しみながらお互いの感覚をシェアすることができます。
2024年9月27~29日に、「六本木アートナイト2024」が開催されます。
まとめ
インクルーシブアートは、年齢や性別、障がい、文化的背景に関係なく、すべての人が芸術に参加し楽しむことができる環境を目指した取り組みです。バックグラウンドが異なる人たちがアートを通じて心を通わせることでお互いに対する理解と共感が深まり、共生社会の実現に貢献することができるに違いありません。
みんなが読んでいる記事
-
2021/04/23“美しいが善し”、なんてない。山﨑ケイ
「ちょうどいいブス」のキャッチフレーズで人気の芸人、相席スタートの山﨑ケイさん。小学生の頃から読んでいた少女漫画で繰り広げられるような恋愛に憧れるものの、現実はそうではなかったことから、「容姿」について意識し始めたのが中学生のときだったという。2018年には初のエッセイ集『ちょうどいいブスのススメ』を出版し、反響を呼んだ。ルックスをネタにすることが炎上すらする時代の中で、どう自分の立ち位置と向き合ってきたのか――。“美しいが善し”とされるルッキズムの価値観について、改めて考察する。
-
2023/12/20人と一緒に食事をするのは楽しいはず、なんてない。-会食恐怖症とは?克服方法とは?山口健太さんに聞いてみた-山口 健太
一般的に「食事=楽しい」と言うイメージがあるいま、中には人知れず食事に苦しんでいる人もいる。会食恐怖症は、人と一緒に食事を摂ることに不安や恐怖を感じる症状だ。会食恐怖症の当事者はなぜ、会食に不安や恐怖を感じてしまうのだろうか。会食恐怖症の経験者、また克服支援の第一人者として活躍する山口健太さんに話を伺った。
-
2021/09/30【前編】女性が活躍する社会を実現するには? 女性活躍は多様性を生かす試金石
女性活躍推進には、企業の風土改革や男性・女性問わず、社員一人ひとりの仕事・育児・出産に対する意識改革が求められています。性別にとらわれず自分らしく輝けるよう、経営陣や現場のメンバー含め、一丸となって取り組んでいく必要があります。
-
2024/02/15高齢者に向けられるエイジズムとは?高齢者への差別・偏見・問題点と世界の取り組み
エイジズムとは、年齢に基づいた偏見のことで、対象には若者も含みます。ただ、高齢者に向けられることが多く、実際の行動に表れてはいなくても、多くの人が無意識のうちに持ち続けていることが少なくありません。この記事では高齢者に向けられるエイジズムの克服方法について解説します。
-
2022/01/18LGBTQはカミングアウトするのが正解、なんてない。滝沢ななえ
元バレーボール選手で、パーソナルトレーナーとして活躍している滝沢ななえさん。現役時代に自身がレズビアンであることに気づき、競技引退後の2017年にメディアで自らのセクシュアリティを公表した。現在はSNSでパートナーとの日常をつづるなど、LGBTQのありのままの暮らしを発信し続けている。LGBTQという言葉が人々の日常に少しずつ浸透していく中、滝沢さんが理想とするのは「さまざまな選択肢がある世界」。カミングアウトを自由にすることも、公表せずに胸の内にとどめておくことも、人それぞれであっていいという。そう思ったきっかけは、スポーツ選手だった自身の現役時代の経験に基づいている。また、アスリートがLGBTQを公表する意義についても語ってもらった。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
「結婚しなきゃ」「都会に住まなきゃ」などの既成概念にとらわれず、「しなきゃ、なんてない。」の発想で自分らしく生きる人々のストーリー。
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」