合理的配慮とは?【後編】法改正と障害者雇用、サポート事例、垣根を無くす社会の実現

さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが集まる社会で、一人ひとりが生き生きと心地よく暮らすためには、互いにコミュニケーションを図り、垣根を無くしていく努力が欠かせません。

ここでは、健常者と障害者との垣根を無くすための鍵ともいえる「合理的配慮」について解説します。

この記事では以下の5点をレポートします。

前編

後編

合理的配慮の提供の具体例

車いすの男性

どのような「合理的配慮」を提供するかは障害当事者の個々の状況や希望、事業者の状況によっても異なります。障害者の「障害」の種類や程度によっても大きく異なるでしょう。

内閣府のリーフレット「合理的配慮」を知っていますか?」には、いくつかの事例が挙げられています。

  • 障害のある人の障害特性に応じて座席を決める
  • 障害のある人から、「自分で書き込むのが難しいので代わりに書いてほしい」と伝えられたとき、代わりに書くことに問題がない書類の場合は、その人の意思が十分に確認しながら代わりに書く
  • 意思を伝え合うために絵や写真のカードやタブレット端末などを使う
  • 段差がある場合に、スロープなどを使って補助する

また、内閣府は「合理的配慮等具体例データ集」を準備し、自治体や事業者の実施例を挙げて、個々の障害者に対してどのように配慮できるのかイメージできるようにしています。

例えば、「サービス(買物、飲食店など)」の項目をクリックすると、「合理的配慮の提供の例」として以下のような方法が挙げられています。

  • 段差がある場合に補助したり、高いところにある商品を取って渡したりする
  • メニューや商品表示をわかりやすく説明したり、写真を活用して説明したりする
  • ホワイドボードを活用する、盲ろう者の手のひらに書く(手書き文字)など、コミュニケーションにおいて工夫する 
  • 金額が分かるようにレジスターや電卓の表示板を見やすいように向けたり、紙等に書いたりして示すようにする
  • 本人の意思を十分に確認しながら書類の記入やタッチパネルの操作を代行する

     

障害のある人がいることが当たり前の環境が大事

法整備は重要ですが、私たち一人ひとりの意識が変わらない限り、障害者に対する垣根はなくなりません。障害者とのコミュニケーションでは、差別や偏見といった「見えない障害」を取り除くことが重要です。

アイドルグループ「仮面女子」メンバーの猪狩ともかさんは、歩道で不慮の事故に遭い、脊髄損傷による両下肢麻痺のため、車椅子生活を送ることになりました。彼女の理想は「車椅子の自分が当たり前にみんなの輪の中にいる構図」と話し、理想の実現のためには、ハード面より「心のバリアフリー」が大事だと発信しています。

重度の身体障害者として日常生活は全介助を受けながら、車椅子ユーザーや障害者のために活動を続ける織田友理子さんは、車椅子で行くことができるエリア・スポットが表示されるバリアフリーマップアプリ「WheeLog!」を手掛けています。目指しているのは「障害者が健常者と同様に『人生を謳歌できる』社会」です。

“ダウン症モデル”として活躍する齊藤菜桜さんは、ファッションショーや雑誌などで活躍し、障害があっても夢を叶えようとしている人の背中を温かく押しています。菜桜さんが幼稚園に入園した時、周りの子たちはお世話をしてあげようとしましたが、母親の由美さんはその子たちに菜桜さんの成長を妨げる可能性があることを伝えました。その結果、次第に周りには「菜桜ちゃんを応援しよう」という雰囲気が生まれていったそうです。

まとめ

笑顔の女性たち

合理的配慮が求められる場面は多様かつ個別性の高いものであるため、法律でありとあらゆる状況を列挙することは不可能です。そのため、障害者と事業者が建設的な対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされることが望ましいと言えるでしょう。

「できる」「できない」の二択にするのではなく、障害者と事業者との間で丁寧なコミュニケーションをとりながら、納得のいく対応策を見出していくことが大切です。

監修者 野口 晃菜

博士(障害科学)/一般社団法人UNIVA理事。小学校講師、障害のある方の教育と就労支援に取り組む企業の研究所長を経て、現在一般社団法人UNIVA理事として、学校、教育委員会、企業などと共にインクルージョンの実現を目指す。文部科学省「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」委員など。共著に「LD(ラーニングディファレンス)の子がみつけた勉強法-学び方はひとつじゃない!」(合同出版)「差別のない社会をつくるインクルーシブ教育」(学事出版)などがある。

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