【後編】増加する高齢者の孤独死とは? 1人暮らし高齢者が抱える課題の実態

日本では誰にも気付かれることなく1人で亡くなる「孤独死」が増えています。特に、高齢者の孤独死には日本社会が抱えるさまざまな問題が関係しています。

新型コロナウイルス感染症の拡大を要因とする外出自粛や失業などから、孤独や孤立の問題が浮き彫りになりました。これに対して政府は孤独・孤立は個人ではなく社会全体で対応すべき問題と捉え、2021年に孤独・孤立対策担当室を設置し、官民一体となった取り組みを進めています。孤独や孤立から生じる諸問題が深刻であることの裏返しであり、「孤独死」はその象徴ともいえるでしょう。

この記事では下記の4点を解説します。

前編

後編

孤独死の背景にある「社会的孤立」

先述したように、高齢者の孤独死の背景には社会的孤立が関係していることが浮き彫りになりました。しかし、社会的孤立に陥るのは高齢者に限りません。客観的に見て、家族や地域社会との交流が著しく乏しい状態である社会的孤立は、若年層や中年にも生じうる状態です。

淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授によれば、「中高年のひきこもりは『孤独死』予備軍の可能性」があるとのことです。「ひきこもり」の同居の親が亡くなればそのまま独居世帯となり、周囲の見守りを拒み、最終的に孤独死に至る可能性が考えられます。

※参考文献:社会的孤立の増加と自治体の対応~孤独死対策を考える~ | メールマガジン | JIAM 全国市町村国際文化研修所

内閣府の調査によると、40~64歳における「ひきこもり」の総計は約61万人と算出されています。

※出典:生活状況に関する調査 (平成30年度) – 内閣府

多様な家族の形とファミリーレス問題

女性問題や福祉、教育の分野で長年評論活動を続けている樋口恵子氏が使い始めた「ファミレス」という言葉があります。「ファミリーレストラン」のことではなく「ファミリーレス」、つまり少子高齢化や核家族化、生涯未婚率の増加、高齢者の1人暮らしの増加などを背景に、頼れる「ファミリー」がなくなった社会の様態を指します。

65歳以上の単身もしくは夫婦世帯の合計はかつて30%以下でしたが、2000年には46.8%になり、2005年には50%を超えました。介護保険制度が始まったのが2000年なので、かつて家族が担っていた介護をアウトソーシングできるようになったことが背景にあるとも考えられるでしょう。

さらに、結婚して家族をつくらない選択をする「選択的非婚者」も増えています。2040年には独身者が5割近くにもなるといわれる時代で、自分らしい生き方や幸せを模索することが始まっています。

独身研究家の荒川和久氏によると、「そもそも誰もが結婚している状態は歴史的には異常」とし、「結婚することが人生の幸せ」「結婚しないと不幸になる」という固定観念に疑問の声を上げています。荒川氏は、既婚・未婚に関わりなく、幸せを感じる秘訣(ひけつ)は置かれた環境の中でどう行動していくかだと語るのです。

孤独死を未然に防ぐための対策

ここでは、高齢者の孤立を防ぐ3つの方法について説明します。

1.自治体による高齢者支援サービス

自治体によってサービス内容はさまざまですが、例えば急に具合が悪くなった時などに民間の受信センターに通報できる「緊急通報装置」があります。他にも、おむつ代の助成やバリアフリーにリフォームした場合の住宅改修補助、食事宅配サービスなども、自治体によっては利用できるでしょう。

2.民間の訪問サービス

例えば、郵便局は、契約した高齢者の自宅を定期的に訪問し、状況を家族に報告するサービスを実施しています。また、警備会社が高齢者の通報を受け、24時間体制で駆け付けたり、電気・水道・ガスなどの使用量で高齢者の生活状況を見守ったりするサービスもあります。

3.見守りツール

IoTなどのテクノロジーを活用して、家電の使用状況をモニタリングし、別の場所に住んでいる家族に通知することができます。簡単に導入できるものとして、スマートフォンにもさまざまな見守りアプリが付帯しています。

以上のようなサービスやツールの活用に加えて何よりも大切なのは、高齢者が日常的に人と関わるための環境づくりです。家族や友人、隣人との交流も大切ですし、従来の家族という枠を超えたコミュニティも生まれ始めています。

藤代健介さんは、デザインコンサルティング会社prsm(プリズム)代表を務めるかたわら、多様性にあふれた人たちが共存できる場を求めて2017年に「Cift」をつくりました。Ciftのコンセプトは「結ばれること」、「利己的な自己愛を超え、社会的な愛を持てる人間になれるか」だと語ります。

一方で、孤独死を「誰にも看取られずに死ぬこと」と捉えて全面的に否定することが良いことなのかという論点もあります。自身で納得した上であれば、いつか迎える死の瞬間自体は多様であっても良いかもしれません。例えば、住み慣れた家に最後まで住み続けることができる方がその人にとって幸せな場合もあるでしょう。避けるべきは、本人が望まない形で死を迎え、それが長期間にわたって誰にも見つからない状況だといえます。

重要なことは本人が納得する形で社会とのつながりをつくり、孤独や孤立を仕組みで防ぐことになるといえるでしょう。

まとめ

日本社会のさまざまな問題の縮図ともいえるのが、孤独死です。高齢者の孤独死を少しでも減らすためには、年齢に関わりなく社会全体が人とのつながりについて考える必要があるかもしれません。

行政サービスやITツールの活用も有効ですが、あくまでも手段であり、問題の根本にアプローチするために、一人ひとりが家族を超えたコミュニティへの参加を考えてみるのもよいかもしれません。また、死そのものを一人ひとりが捉えなおし、望ましい死を考えることが求められているともいえるでしょう。

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監修者 神山 晃男

株式会社こころみ代表取締役社長。認定NPO法人カタリバ監事。株式会社テレノイドケア顧問。2013年6月、株式会社こころみを設立。高齢者向け会話型見守りサービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」などを展開。また「聞き上手」を軸にした事業展開を行い、企業向け業務改善支援等を実施している。「コミュニケーション」と「高齢者マーケティング」の専門家として数々のセミナーや勉強会に出演中。

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