マキタスポーツの源流。別役実『人体カタログ』がくれた“世界をキラキラさせる視点”

「しなきゃ」と思って暮らしてた。~エンタメから学ぶ「しなきゃ、なんてない。」~

日常の中で何気なくやってしまっている「しなきゃ」を、映画・本・音楽などを通して見つめ直す。芸人、ミュージシャン、俳優、文筆家とあらゆる顔を持つマキタスポーツさんが「自分のセンスを決定づけてくれた」と語る作品とは。気づきを与えてくれた一節とともに解説いただく。

『別役実の人体カタログ』(‎平凡社)の概要

戦後の演劇界で、現代人の不条理さを切り取る作品を数多く発表し活躍した劇作家・別役実によるエッセイ。鼻・目・耳といった人体パーツを独自の視点で解説しまとめた一作。コミカルな発想に加え、現代社会を風刺的にかつ不条理に批評している。(※現在、版元品切れ)

※画像提供:株式会社 平凡社

“言ってみれば、鼻は「前衛」なのであり、未知なる世界に最初に繰り出される「斥候」であり「先兵」なのである。”

引用:別役実の人体カタログ

「常識」が常に正しい、なんてない。

ビートたけしさんやタモリさん世代の芸人さんが「古い価値観を壊していく」サマに価値観を揺さぶられた青春時代。彼らが次々と時代を変えていくのを目の当たりにする中、その言語化できない衝撃を言葉で整理整頓してくれたのが別役実さんのエッセイです。ぼんやりしたままだった「なんだこれは!」を「そういうことだったのか!」にしてくれた。今の自分の物の考え方やセンスの形成にすごく影響しています。

別役さんは人間が常識だと思い抱いている価値観を、ある意味全て疑うような視点を持っていらっしゃるんです。もっと言えば言葉そのものさえも怪しいと思っている。言葉によって物事は区別されるわけですけど、その言葉が与えられたのはたまたまかもしれない。言葉は世界を明確なものにする役割を持つ一方で、言葉で明確にした世界には裏があるかもしれないと疑う……。そうした感覚が身についたのは別役さんの作品に触れたことが大きいです。

この『人体カタログ』も、一見医学書のような堅い文体ながら「目や口は危険の際に閉じることができるが、鼻は閉じない。すなわち『先兵』である」みたいなすっとぼけたことが大真面目に書かれている。別役さんの視点を通して見る世界はすごくキラキラしていて、自分の頭の中の新しい扉を開いてくれました。

エッセイの中で「耳は顔なのか、頭なのか」を論じている章があって。顔とするか頭とするか、なんていうのは人間が勝手に決めていることで、そうやって決められた概念を疑ってもいいんじゃないか?といった話は、きっと人生のあらゆることに応用が利くんじゃないかって思います。

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取材・執筆:田中 春香

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