家庭を築くには異性同士じゃなきゃ、なんてない。
代理母出産で授かった息子と暮らす “ふたりぱぱ” のみっつんさん、リカさん。現在は親子3人、リカさんの故郷スウェーデンで暮らしている。「同性カップルでも子どもを持つ選択肢を諦めなくていいと知ってほしい」との思いから、普段の暮らしをYouTubeやブログで発信。世界中の人々が仲むつまじい家族の様子を見守っている。

2020年5月時点で、同性婚が法制化されている国は28カ国(※)。ふたりぱぱが暮らすスウェーデンでも、1995年に登録パートナーシップが、2009年には同性婚が法制化された。同性カップルが子どもを持つ権利を保護する各種法律の存在も後押しとなり、多くの同性愛者が家庭を築いている。実際に家庭を持ち、同性パートナーと子育てするふたりぱぱのみっつんさんに、子どもを持つに至った経緯や普段の暮らしの様子、家庭を築く上で大切にしている価値観について聞いた。
(※)出典:世界の同性婚(NPO法人EMA日本)
“パパが2人”でも、ごくありふれた家族。
セクシュアリティのことなんて
忘れてしまいます
2008年、東京で出会ったみっつんさんとリカさん。出会ってすぐに交際をスタートし、3年後の2011年に入籍した。
「結婚を決めたきっかけは、リカのロンドンへの転勤です。『転勤の辞令が出たけど、一緒に行く?』って聞かれて。すでに3年付き合っていたし、いつかは一生のパートナーを持ちたいと思っていたので、付いていくことにしました。
当時はすでにスウェーデンで同性婚が法制化された後。別れることは想像できなかったし、一生一緒にいるなら制度を利用しない手はないということで、同時に結婚を決めました」
ロンドンで結婚生活を送ること数年。リカさんの妹が出産したのを機に二人の間で「僕たちに子どもがいたらどうなんだろうね」という話をするようになる。最初は何気ない会話だったが、何度か話すうちに徐々に「子どもが欲しい」という気持ちが膨らんでいった。
「具体的にどうすればいいのかを調べてみると、自分たちも子どもを持てる可能性があるとわかって。すごくワクワクしました」
ゲイのカップルが子どもを持つには、レズビアンカップルやヘテロセクシュアルの友人などと協力して子どもを産み育てるコペアレンティング(共同養育)、血縁関係のない子どもを引き取る養子縁組など、いくつかの方法がある。ふたりぱぱが選んだのは、卵子提供を受け、片方の精子との受精卵を代理母に移植し産んでもらうサロガシー(代理母出産)だった。
「特に血のつながりにこだわっていたわけではないんですが、サロガシーを選んだのは、僕たち2人で子育てできる可能性が最も高いと思えたから。僕たちにとって大切なのは、血縁ではなく二人で子どもを育てる過程なので。
アメリカのエージェンシーを利用し、サロガシーが合法化されている州に住んでいる、公的な経済的保護を受けていない、自ら子どもを産み育てているなど、要件を満たした代理母さんを紹介していただき、実際にスカイプでお話ししました。『子どものいる生活を望んでもできない人のためになりたい』という思いを持っている方で、先方も僕たちに協力したいと言ってくださったんです。
その代理母さんが出産してくださって、子どもと初めて会えた時は、まさに天にも昇る思いでした。今でもいろんなシーンが目に焼き付いています。
子どもを迎えに行くまでの道のりで見た花の美しさ、真っ青な空、暖かさや芝生のいい匂い……。五感すべてが刺激されて、脳に刻み込まれた感覚がありました。無事に生まれてきてくれた安堵と喜びに包まれた、特別な日でしたね」
リカさんの1年の育休を機にスウェーデンに戻り、家族3人での暮らしがスタート。リカさんの両親や友人たちに囲まれながら、父親同士での子育てに奮闘している。
幸せを感じるのは、朝目覚めて子どもが隣にいる時
現在はみっつんさんがYouTube動画制作などを主に行うフリーランス、リカさんが会社員としてそれぞれ働きながら、協力して子育てと家事を行っている。両者ともに一通りの家事と子どもの世話をこなせるため、臨機応変に「その時できるほうができることをやる」がルールだ。
「今振り返れば、育児休暇を同時に取れたのがほんとに良かったなって。子育てを同時にスタートできたので、同じペースで親になっていくことができたんですよね。
子育てについては、代理母さんに薦められた育児書を読んだり、夫の両親やまわりの友達などいろんな人に聞いたりしながら勉強しました。早いもので、子どもはもう5歳。僕たちのことをそれぞれ『みつぱっぱ』『リカぱっぱ』と呼んでいます」
子育てで特に大変だと感じたのは、子どもの世話と仕事や家事の両立。いわゆる“イヤイヤ期”の対応にも非常に手を焼いた。それでも、朝起きて隣に子どもの姿が目に入るたび、子どもと過ごす毎日の幸せをかみ締めている。
「同性カップルだから特別ってことは何もなくて、他の夫婦やカップルと悩みも幸せも同じだと思います。子育てしていると、自分がゲイだってことは忘れてしまうくらいどうでもよくなりますね。
周りからも、同性カップルで子育てをしていることについて何か聞かれることはありません。例えば子どもの幼稚園に二人そろって面談に行っても、何も言われないくらい」
ふたりぱぱ一家が住むのは、人口約8万人の小さな町。それでも性的マイノリティのイベントであるプライドフェスティバルが毎年開催され、2019年の「子どもを持つ LGBTQ の会」には10家族ほどが参加していた。
「同性婚が法制化されたのは2009年ですが、同性カップルが養子を迎えられるようになったのは少し前の2003年。女性同士の同性カップルが不妊治療を受け、妊娠・出産するのに保険が適用されるようになったのは2005年です。この国では、どんな人でも子どもを持ちやすい制度が整っています」
そうした背景には、平等性と公平性という考え方がある。これは「ある人たちが受け取れていることは、そうでない人たちも受け取れて当然」というもの。スウェーデンでは、ものの見方・考え方の基本として幼少期から教えられることだという。
「家族の形」に正解はない。目指すのはそれぞれが自立した関係
日本では「男女の夫婦と子どもからなる家族が当たり前」という、伝統的な家族観に縛られている人がまだまだ多い。みっつんさん自身も「それが普通」「自分はゲイだから家庭を持つことはかなわない」と思い込んでいた時期があったそうだ。
「ただ、25歳ごろからは、一生添い遂げる約束をして信頼し合える人ができれば、それは家族だと思えるようになって。いい意味で開き直れたんだと思います。
でも、その時点ではまだ子どもを持つことまでは考えられなかったかな。海外のセレブリティがやることで、自分には関係ないって思い込みがありました。
転機は、ロンドンで子どもを連れた女性同士のカップルに出会った時。それまで当たり前だと思っていた家族観が一気に崩れたんですよね。『ああなんか、普通じゃん』って。それで、自分たちにもできるかもって思えるようになったんです」
いざ自分の家庭をつくるとなった時は、生まれ育った家庭の存在が大きな影響を与えてくれたという。それぞれが好きなように自分の人生を生きているが、誰かに困ったことがあれば必ず助け合えるような関係。自然と「自分もそんな家庭を築きたい」と思えた。
「だから、ふたりぱぱ一家のテーマは”independent(自立)”です。それぞれが独立した個人であることを忘れず、自分の時間を大切にして、互いの意見や思いに耳を傾けようって、リカともよく話し合っています。
『うちの家族はこうでないといけない』と子どもやパートナーに押し付けるのは、結局『家族とはこうあるべき』って社会の同調圧力と変わらない。家族も元々は個人の集まりだから、『こうしなきゃ』にとらわれず、意思を尊重し合える関係をつくれたらいいですね」
多様性を尊重する気持ちを「投票」という行動で示してほしい
多様性の重要性が叫ばれるようになったのはここ数年だが、実際には日本もすでに多様化が進んでいる。日本に住む外国人も、同性カップルも昔から確かに存在している。
にもかかわらず、マジョリティの側がそれを「見ないようにしていた」または「そういう人々は特別で自分たちの暮らしには関係ない」と思い込んでいた、とみっつんさんは指摘する。
「きちんと現実を見つめて、彼らの存在を可視化することが今まさに求められていると思います。確かに自分と違う人の意見を聞くのって労力がいるし、大変ですよね。だけどお互いを知り、意見が違っていても共存ができると理解し、意見をすり合わせることを続けていれば、社会はだんだん前に進んでいくはずです。
日本には『こうあるべき』という型にはまった考え方でいたほうがうまくいく、面倒なことがないんじゃないかという空気があるので、マイノリティは声を上げづらい環境にいます。なので『声を上げないってことは、いないっていうことでしょ』ではなく、社会の側からの働きかけが必要なんです」
確かに、国民一人一人の意識も変わりつつある。2019年の調査(※)では、同性婚への賛否を問う質問に対し、全体の64.8%が「賛成」「やや賛成」と回答。20〜30代では81%が賛成派となった。
しかし、実際には日本ではいまだ同性婚が法制化されていない。みっつんさんは、その背景に投票率の低さ、とりわけ若年層の政治への関心の薄さがあると考えている。
(※)出典:釜野さおり・石田仁・風間孝・平森大規・吉仲崇・河口和也
2020 『性的マイノリティについての意識:2019年(第2回)全国調査報告会配布資料』 JSPS科研費(18H03652)「セクシュアル・ マイノリティをめぐる意識の変容と施策に関する研究」(研究代表者 広島修道大学 河口和也)調査班編
「政治家は自分に投票してくれる層の意見を聞きます。若者がどれだけ多様性の尊重に前向きでも、それが投票につながらなければ政治や法律に反映されることはありません。
スウェーデンは全体の投票率も、若者の投票率も80%を超えています。だからこそ、こんなに社会が前進することができたんです。みんなが日本を変えたいと本気で思うなら、若者がもっと投票に足を運ぶしかないと思います」
マイノリティ支援に積極的でない政党が政権を握っても、若者の投票が増えればそちらに目を向けざるを得ない。「投票に行っても無駄」などと諦めてしまうのは早計だろう。
「社会は個人、学校、企業、政治などのいろんな要素で構成されています。当事者だけに責任を背負わせるのではなく、みんなが意識を変えて少しずつリフトアップしていかないといけません。まずは一人一人、自分の行動を変えるところから始めてほしいなと思います」

スウェーデン在住の1児の父。リカさん(写真左)とともに“ふたりぱぱ”として子育ての様子を発信しており、YouTubeの登録者数は13.6万人(2021年7月31日現在)に上る。YouTubeの動画制作のほか、一般企業や公的機関、教育機関へのオンラインでの講演、書籍の執筆、コラムの寄稿など活動内容は多岐にわたる。
◉YouTube
ふたりぱぱ FutariPapa
◉ブログ
ふたりぱぱ
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