シニアになったらペットは無理、なんてない。 ―おひとりさまの終活。最後までペットと暮らすことを目指して―

定年後の生活費や、もしもの時の保険に入っていても、“他人”には何もできない──。

ファイナンシャルプランナー(以下、FP)として30年。顧客の人生設計に伴走してきた大和泰子(やまと・やすこ)さんはある時、単身で家族がいない顧客の「もしもの時」に何もできないという現実に直面した。その経験から、おひとりさまの人生の後半戦をサポートする「一般社団法人包括あんしん協会」を立ち上げた。さらに自身が母親を見送った時の気づきから、最後までペットと安心して暮らすことにも支援の手を広げている。

「終活は死ぬ準備ではなく、生きる備え」と語る大和さんに、果たして人にもペットにも幸せな備えは可能なのかを聞いた。

大和泰子さん

大和さんが代表を務める「一般社団法人包括あんしん協会」では、晩年を迎えて体が不自由になったり、事故や病気によって一人では生活がままならなくなったりした場合に備えて、元気なうちから単身高齢者を基本対象に、万が一の時に必要な書類や法的手続きなどをサポートしている。

「会員になっていただいて、もしもの時がきたらすぐに私たちが動けるよう、公正証書を作って契約を結びます。例えば、入院することになったら身元保証人になり、介護が必要になったら介護申請を出し、認知症になってしまった時は後見人として動けるよう準備するんです。亡くなられてしまった後も、ご葬儀や埋葬、遺産整理など、最後まで全てをサポートしています」

厚生労働省の調査によると、65歳以上の人口約4,033万人のうち、一人暮らし(単独世帯)は903万人、22.4%にのぼる。また、年齢を問わず単独世帯は1,899万5千世帯のため、65歳以上の割合は47.6%。つまり日本における一人暮らしのおよそ半数近くが高齢者ということになる。
※厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」

家族のかたちも多様になった現代。子どもはいるが遠方に住んでいるので一人暮らしという人もいれば、配偶者との離婚や死別を経て、子どもがいないので一人暮らしという人もいる。当然ながら、60年以上の人生は十人十色であり、老後の蓄えに関する価値観もさまざまだ。

中高年と接する機会が多い大和さんは、「何かあったら国や行政がどうにかしてくれると思っている人が多い」と感じることがあると話す。しかし残念ながら現在の法律では、まだ多くの手続きが本人またはその家族が行うことを前提としている。

おひとりで亡くなられる方を見てきて、家族に代わって一生涯サポートすることが絶対に必要だと思いました。他人の私には、死亡届すら出せないんです。

大和さんたちのような「終身サポート事業」の存在はまだ広く知られておらず、十分に届いているとは言い難い。年々その必要性は高まっているものの、国の法整備が追いつかず、事業者たちが下支えしているのが現実だ。大和さんのところには、支援を求める単身高齢者と繋ぐために、ケアマネジャー(介護支援専門員)や行政からの連絡が入ることもある。

「ただ、もしその時すでに認知能力や判断能力が下がってしまっていると、公正証書を作れないので、私たちにも何もできなくなってしまうんです。お元気なうちから準備することを勧めているのは、そういう理由でもあります」

大和泰子さん

「ペットと高齢者」を意識した、2つのできごと

2024年、単身高齢者が最後までペットと暮らすことを支援する「高齢者ペットサポートサービス」を新規サービスとして立ち上げた。幼少期には犬と暮らしていたという大和さんが「ペットと高齢者」を意識したきっかけは、大きく2つある。

「ひとつは、包括あんしん協会の最初の会員さんだった男性がガンになり、愛犬を里親に出したことです。手放した後も“寂しくてたまらない”と言って、亡くなるまで毎日泣いていました」

余命を宣告され、家族として過ごしていた存在を残す不安も大きいが、ずっと一緒にいたい思いを断ち切るのは、どれほどつらいことだろう。大和さんたちは「私たちが里親を探すので、最後の時まで一緒に暮らしたらいい」と勧めたが、愛犬が無事に次の家族と出会うのを見届けたい、と男性自身が決断したことだった。そして、ふたつめのきっかけが約1年後に起こる。

「犬の里親探しがどれほど難しいか、身をもって体験しました」

床で寄り添う犬と猫

ふたつめのきっかけは、大和さんの母親が急逝したことだった。高速道路を使っても片道2時間の距離にある母親の家に、12歳の中型犬だけが残された。室内で飼っていたが、母親以外にはなつかない。威嚇されてしまい、触ることもできなかった。

近所に住んでいる人の協力はあったものの、ご飯を置いて帰る日々が続く。仕事を抱え、車で4時間を行き来するうちに、大和さんの心労は蓄積した。

「自分で引き取りたかったんですけど、家族の事情もあってうちでは飼えないので、保護団体に引き取ってもらおうとしたんです。それが本当に大変でした」

30ほどの団体に連絡するも、返信があったのは2件のみ。それも断りの連絡だった。ある団体からは「基本的には保健所からの依頼でしか引き取らない。一般の人からの連絡で保護することはほとんどなく、あるとしたら赤ちゃん犬か、小型犬の場合のみ」と、はっきり言われてしまった。

他の手段を探るため、相談の連絡をした東京都の保健所からも、一般からは引き取らない、と告げられる。法律上、動物は「動産(物)」扱いとなり、相続財産に含まれるため、大和さん自身で引き取るよう勧められた。

「私が倒れるか、犬の具合が悪くなるか、どっちが先かというところまで追い詰められて。現実はこんなに厳しいんだというのがよく分かりました」

その頃、たまたま「保護犬を迎えた」と話す知人に、その団体を紹介してほしいと頼んだ。やはり断られたが、「一般家庭から保護すると、無責任に手放す人が増えてしまいかねない」という保護団体側の事情も理解できた。それでもコミュニケーションを続けた大和さんの熱意に押され、2か月後、特例的に引き取ってもらうことができた。

特筆すべきは、大和さんがただ粘って交渉しただけではない。この2つの経験から、「高齢の単身者が最後までペットと暮らせること」と「殺処分される動物を減らすこと」を目的に、「高齢者ペットサポートサービス」を立ち上げた。

保護団体は通常厳しい基準を設けており、一般的に60歳以上になると里親になることは難しい。しかし大和さんは母親の犬を保護してくれた団体の協力を得て、新たな「循環」づくりに取り組んだ。

高齢者の一人暮らしに“役割”をもたらす存在

「保護団体にも、保護できる頭数の限界があるんです。里親になれる年齢制限を超過していても、個別審査で大丈夫そうな方に里親になってもらうことで、団体はまた新しく保護できる。そういう循環を作らなきゃ、と思いました」

ペットショップではなく保護団体から引き取るメリットとして、人慣れするための躾(しつけ)がされていることがあり、里親としては飼いやすいことを挙げた。また大抵は成犬・成猫であるため、高齢者にとってもペットの終生を見届けられる可能性が高い。そして万が一、里親になった後で体調を崩したり逝去に至ることがあっても、ペットは再び保護されることが確約されている。ペットと高齢者、双方にとって希望のもてる循環が誕生した。

「高齢者ペットサポートサービス」の循環の図

このサービスを作った情熱の源は、大和さんが見てきた気づきにある。FPとしての30年、包括あんしん協会を始めて10年、多くの人生に伴走してきた大和さんは、力を込めてこう言った。

「ペットと暮らしている方は、お元気でいる時間が断然長いんですよ」

いつまでも愛するペットと一緒にいたい、あるいは、自分がいないとこの子は生きられない、と思うと自己管理がしっかりしてくる。特に犬の場合は散歩のために外出し、体を動かすだけでなく、生活リズムが整い、近隣にネットワークも広がっていく。役割を得ることで生きがいを得るのは、年齢を問わず人間の本質なのかもしれない。

「高齢者のお一人暮らしこそ、ペットがいると良いと思います」

大和泰子さん

「まだ大丈夫」では手遅れに?20代でもできる備え

将来、単身でもペットとの暮らしを諦めないでいるために、リタイア前から準備できることを訊ねると、「“エンディング”という名前があんまり良くないんですけどね」と前置きしながら教えてくれた。

「ペットのエンディングノートを書いておくことですね。動物はお話ししてくれませんので、もしも飼い主さんが急な入院や事故にあった場合など、ペットの名前すら誰にも分からないんです」

通っている動物病院や、ペットの性格、食べ物の好み、気をつけるべきことなど。また、いざという時には第三者でも情報を開示してくれるよう、動物病院側に伝えておくとより安心できる。

ペットの情報はすぐにまとめられそうだが、単身者自身のエンディングノートは何歳くらいから作るのが望ましいのだろうか。大和さんは再び、「ノートは違う名前でいいと思いますけどね」と前置きをし、なんと「ハタチからでも早過ぎない」と続けた。

「多くの方が、『自分はまだ大丈夫』『必要な時に書くわ』と言いますが、もしもの時がいつ来るかわからないのは、ハタチでも40歳でも80歳でも同じです。特に若い方は大事なことほどパソコンやスマホの中にありますよね。書類をペーパーレスにしていたら、どこの金融機関に口座をもっているのかすら、誰にもわかりません。以前40代で亡くなられた方の手続きの際、スマホのロック解除が本当に大変でした」

【9/16開催|イベントのご案内】

ペットとよりよく生きるための終活セミナーを開催します。大和さんにもご登壇いただきます。一緒にワークショップをしながら備えをしていきませんか?詳細はPeatixの募集ページをご確認ください。

ペットの情報も含めて、「もしもの時は誰に見てもらえそうか」と想定して、その人が見れるように準備することです。準備を終えている人は、もしもの時に取り乱しません。きっと不安要素がないからです。不安のまま現実を受け入れるのはご本人が一番つらいので、今から準備しておきましょう。
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取材・執筆:やなぎさわまどか
撮影:森本絢

大和泰子さん
Profile 大和 泰子

一般社団法人包括あんしん協会 代表理事、株式会社WishLane 代表取締役。大学卒業後、証券会社・大手生命保険会社・外資系生命保険会社の営業職を経て、2000年にFPとして独立。2006年、ライフプランサポート事業の株式会社WishLane設立。2016年には保険やお金の準備だけでは足りないサポートの実現を目指し、一般社団法人包括あんしん協会を設立。おひとりさま・おふたりさま・一人暮らし高齢者の安否確認から死後の手続きに至るまで、家族のように寄り添った支援を行っている。
https://anshins.or.jp/
https://wishlane.co.jp/

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