いじめの当事者以外は口出しちゃいけない、なんてない。
ジャンルを問わず読書を楽しむ両親の影響で、マンガや絵本に囲まれて育ったという春名風花さん。“はるかぜちゃん”の愛称で知られる彼女は0歳から子役として活躍し、大好きな声優の仕事を経験して新たなステージへ向かっている。3歳から自分の携帯電話でブログを書き、9歳の頃にTwitterを始めた。昨年はネット上で誹謗(ひぼう)中傷した投稿者を相手取り、民事訴訟を起こし話題となった。デジタルネイティブ世代らしいエピソードに事欠かない彼女に、決して目を背けてはいけない「いじめ問題」について伺った。
文部科学省が令和2年に発表した調査によると、いじめの認知件数は過去最多の61万2496件。またいじめが原因で命を落としたり不登校を選んだりした児童がいる重大事態の発生件数は723件と、いずれも前年度の数を上回った。新型コロナウイルス感染拡大の陰でその深刻さを実感しきれていないが、いじめが生む不幸の連鎖も信じがたい勢いで増している。
9歳から始めたTwitterのフォロワー数は19万人以上と、デジタルネイティブの急先鋒とも言うべき春名さん。いじめを苦に自殺した女子中学生が自分のフォロワーだったことをのちに知った。手を差し伸べてあげられなかったことを悔やんで以来、いじめ問題に向き合ってきた。一般的にいじめの被害者がその境遇に同情・共感されて励まされる構図が多いが、加害者へ向けて訴えかける春名さんの鋭い洞察と的を射た言葉に多くの人が感銘を受けている。いじめ被害を受けた当事者ではない彼女が、発信し続ける理由とは?
※引用元:令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
いじめという「災害」から安全な場所へ避難することが最優先
芸能界入りのきっかけは、母が出産のため入院していた病院で、同室だった女性に「子どもが産まれたら子役にしようよ」と誘われたことだった。1歳でNHK の教育番組『いないいないばあ』に出演。その後、CMやドラマなど数多くの作品に携わる。5歳で「この仕事を続けたい」と決意し、役者の道を志す。その頃、ハマっていたのがアニメ作品「少女革命ウテナ」。お絵かき帳を主人公ウテナで埋め尽くすほど魅了され、いつしかキャラが使う一人称「ぼく」を使うようになった。
「小さい頃から芸能の世界に携わったおかげで、大人の社会で守るべきルールやマナー、立ち居振る舞いを覚えましたね。仕事場はとても楽しかったけど、学校にはなじめませんでした。同年代の子どもたちに心を許していなかったせいか、うまく付き合えなくて。大きな声で元気よく「おはようございます!」とあいさつするのは、ぼくにとってすごく気持ちが良いこと。でも、クラスの他の子は、「何、あの子?」という好奇な目で見ていた気がします。
学校が好きになれなかったのは、先生の指導に納得できないことがあったからです。例えば遅刻してしまったとき、『遅刻して一人で登校する場合は、危険なので保護者と一緒に登校する』というルールがあったのですが、親が弟の仕事の付き添いで不在だったので、仕方なく一人で登校したんです。そしたら、校門にいた先生に『帰って親を連れてきてくれ』と追い返されてしまって。『児童一人だと危ないから保護者同伴なのに、来ちゃった生徒を一人で帰らせるの?』と思いました(笑)。親が不在だからと説明しても、先生は『ルールだから』の一点張り。そのときから、先生はルールがある理由もわからないまま指導しているのかなと思い、信用できなくなってしまいました。“待ち時間は静かにしていないと収録が○分遅れてしまうから、騒がない”といった、子役として行く仕事現場でのルールのほうが、ぼくとしては納得しやすかったですね」
芸能界と学校、2つの世界を行き来する中で理不尽や不条理を体験し、「大人の世界で生きるってこういうことだ」と義務教育の6年間で理解したという。
いじめ問題に向き合う理由は?
9歳の頃からTwitterを始めた。いじめに関してつぶやいたら、朝日新聞の連載コラム「いじめている君へ」の取材が舞い込んだ。当時、小学6年生だった春名さんの掲載記事は反響を呼び、いじめに関する自身のつぶやきの内容を題材にした絵本が出版された。いじめ問題に向き合うきっかけになったのは、とあるフォロワーの死だった。
「ある日、フォロワーの方が自殺配信をして亡くなったということを知りました。当時、中学生だったその子のアカウントを開いたら、彼女のブログの管理サイトと“はるかぜちゃん”のアカウントしかフォローしていなかったんです……。過去のツイートには『春名風花になりたい。あこがれる』って書いてあって。
家にも学校にも居場所がなくて、ネット上で自分の苦しさを発散するしかなかったんだと思うと……。「ごめんね、見つけてあげられなくて。気付いてあげられなくて」とやるせない気持ちになりました。
ぼくは幸いにも、いじめられた経験がありません。当事者じゃないから、ネットでもいろいろ否定的な言葉が飛んできます。でも、当事者であろうがなかろうが、ぼくはいじめを黙認したくないし、ほっとけない。だから、慎重に言葉を選んでTwitterでつぶやくことを続けていました。そしたら新聞社や出版社の方からお声がかかり、インタビュー取材のお話をいただくことが増えたんです。当事者じゃないからこそできることもあると信じて、これからも発信していきたいと思っています」
いじめによって自殺した事件を取り上げた報道では、よく「いじめられる側・いじめる側の責任問題」について討論される。だが、彼女の視点は少し違う。
「どんな人にも“いじめたい” “支配したい”という悪い欲求は絶対にあると思っています。その欲求をコントロールできるかは、自分自身にかかっています。でも、いじめは複雑な問題なので、精神論では解決できません。いじめの被害者に『頑張れ』とか、いじめの加害者に『やめろ』と言っても何も変わらないと思います。
いじめの被害者は加害者と対峙(たいじ)させるより、クラスを替えたり、学校を替えたり、安全な場所に避難させてあげることが最優先だと思います。災害と同じですよね。被害者が避難している間、災害を起こしている加害者に大人が寄り添って、「なぜ、そういう行動に走るのか」を聞いてあげることが大事なんです。いじめは被害者側にはどうにもコントロールできないものだし、加害者側を頭ごなしに叱るだけでも解決はしない。だから、本人たちに乗り越えさせるのではなく、周りのサポートが必要です。
ぼくも学校は好きじゃなかったけれども、仕事場とSNSという世界がありました。SNS が炎上したとしても、家族や友達、現実世界で築いた人間関係があるから一人じゃなかった。でも世の中、特に未成年は家と学校の往復だけになりやすく、SNSも親に制限されたり悪い大人に狙われたりして自由に使いづらいため、人間関係が狭くなりやすいです。味方を見つけられていない子に「いじめに負けるな」とか「自分が変われ」というのは、とても酷な話です。
避難したくても、転校やフリースクール等はお金がかかるので、子どもだけでは決められません。経済的に苦しかったり、親の協力が得られなかったりする子でも逃げられるような、そんな気軽な場所をどのようにつくっていくのかを考えるのが、社会とぼくたち大人の課題だと思っています」
自分の子どもがいじめられていることを知った保護者は、まずどういう行動を取るべきなのだろうか。
「学校や加害者の親へ怒鳴り込みたい気持ちはわかりますが、それは逆効果かもしれません。被害者の中には『加害者に報復されるかもしれない』とおびえている子も多いです。いじめられている子どもにはまず、『あなたのことを愛している。世の中で一番大切に思っている。だから、あなたが傷つけられてすごく怒っているしとても悲しい』という気持ちを伝えてください。子どもに『親は味方でいてくれる』と感じてもらうことが大切なんです。その後、子ども自身がどうしたいのかをよく聞き、全力で、慎重に、サポートしてあげてほしいなと思います」
教育のあり方を変えるため、声に出すことの必要性
いじめ抑止対策として、学校での授業のあり方も変えるべきだと語る。
「いじめ問題を解決するためには、学校や教育システムを見直すことも重要だと考えています。ぼくが日本中を回って、個々の問題に対応することはできません。でも、根本的なシステムを変えれば、少しだけみんなが生きやすくなるかもしれません。発信し続けることで、いろんな方々に考えていただけたら嬉しいなと思います。」
例えば、ぼくはクラス制度とか担任制度とか、風通しが悪く、子どもを一律に管理するためだけのシステムはなくなったほうがいいと思っています。それに授業で教える内容も見直すべきです。人を思いやる気持ちや他人の個性を認める考え方など、人格育成に関わる学びも大事なんじゃないでしょうか。道徳の教科書を読んで感想文を書かせるだけじゃなく、コミュニケーションに重点を置いたテーマの授業や、感情的に湧き出す怒りをどう鎮めるのかというアンガーマネジメント教育がこれからの学校には必要だと思います」
いじめ問題への考え方、捉え方をどう広めていくかと考えたときに、 「誰も声を上げていない問題を取り上げてくれる人はいないから、やっぱり発信し続けていかなきゃいけない」と語る、はるかぜちゃん。売名でもポーズでもない。「いじめが嫌いだから、なくすために発信したい」というシンプルな動機が、彼女を突き動かしていた。被害者と加害者どちらにも寄り添い、親身になって受け止める。真っすぐな彼女の瞳から静かな闘志と温かさが垣間見えた。
2001年、神奈川県生まれ。“はるかぜちゃん”の愛称で知られている。0歳から赤ちゃんモデルとして芸能活動を開始。子役としてのキャリアを積み、「早泣き」でブレイクする。CM、ドラマ、映画出演、そして舞台と女優として活躍の場を広げる。子どもの頃に影響を受けたアニメがきっかけで、憧れていた声優の仕事にも携わる。9歳で開始したTwitterのフォロワーは19万人を超える。
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