【後編】対話とは? 多様性を理解するために必要な対話の質とコミュニケーション

前編

後編

多様性を理解するために必要な対話

創造的対話を学ぶ重要性について、3つのポイントを紹介します。

1つ目には、社会がますます多様化していることが挙げられます。現代社会は多種多様な人間が集まって、企業や地域社会、家族など大小さまざまなコミュニティーを形成しています。人種、年齢、性別、ジェンダー、宗教など、多様な価値観を互いに認め合って、誰もが生きやすい社会をつくるためには創造的対話が不可欠です。そうした対話により、お互いの価値に優劣をつけて批判し合うのではなく、平等に包含できるようになると言えるでしょう。

2つ目のポイントは、ビジネスにおいてイノベーションを創出するために対話がますます求められていることです。イノベーションは誰か優秀な人の頭の中から生まれるのではありません。異なったバックグラウンドや経験を持つ人材がぶつかり合うことで生み出されるのです。「ぶつかり合う」といってもお互いを批判し合うのではありません。多様な人材が問題の中に自分を「持ち込み」、合意に向けて対話を重ねることで新しいものがつくり出され、イノベーションが生まれるのです。

最後のポイントには、「正解を誰も持っていない問題」に取り組むために対話が必要だという点が挙げられます。現在のビジネス、あるいは社会は「VUCA」という造語で形容されます。「VUCA(ブーカ)」は「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を並べたものです。つまり、企業を取り巻く環境は不確実で、予測が困難だということです。そうした中では価値観や視点が異なる人材が、対話によってのみプロジェクトや組織づくりを進めなければなりません。「外側」に存在する制度やシステムに従って仕事を進めればうまくいく時代ではないのです。

 対話はこうあるべき、じゃなくてもいい

「創造的対話が重要だ」といっても、誰もがコミュニケーションを得意としているわけではないでしょう。大切なのは、「自分には対話は無理」「コミュニケーションは苦手」という思い込みを捨て、まずは踏み出してみることです。

哲学研究者の永井玲衣さんは、日本全国の学校や企業、社寺ど幅広い場所で数えきれないほど哲学対話の活動を重ねてきましたが、いまだに「対話は怖い」と語ります。それでも、人は誰かと対話することで自分が形成されていくと述べています。そして、対話で大切なこととして「皆でその場を『ケア』すること」を挙げています。そのためには「よくきく」「偉い人の言葉を使わない」「“人それぞれ”は無し」の3点が重要だと参加者に伝えるそうです。

玉城ちはるさんは、シンガーソングライターとして活動する傍ら、留学生のホストマザーとして文化や言葉が異なる外国人との対話を続けています。玉城さんは対話を重ねる中で、外国人であっても、日本人であっても育った環境が違い、価値観が異なる以上、「空気を読む」のではなく、言葉による対話が必要だと実感したそうです。同時に、どれだけテクノロジーが発達しても、本当の共生社会をつくるためには短時間でも「体温の伝わる距離間」でのコミュニケーションが大事だと訴えます。

まとめ

単なるおしゃべりや雑談と違って、難しそうに感じられる「対話」ですが、まずは肩肘を張らずに相手の言葉に耳を傾けることから始めてみましょう。相手のことを批判せずに、自分の言葉で語ることを続けていけば、自然と対話が「創造的」であることの意味が分かってくるかもしれません。

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監修者 伊藤 守

株式会社コーチ・エィ取締役・ファウンダー。日本人として初めて国際コーチング連盟(ICF)よりマスターコーチ認定を受けた日本のコーチング界における草分け。コーチングを日本に紹介し、1997年に、日本で最初のコーチ養成プログラムを開始。2001年には、エグゼクティブ・コーチング・ファームとして株式会社コーチ・エィを設立。著書は『3分間コーチ』『コーチング・マネジメント』『コミュニケーション 100の法則』『自由な人生のつくり方』(以上ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『もしもウサギにコーチがいたら』(大和書房)ほか多数。

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